男子目線③
二人が駅のホームに降りた後、他の乗客が改札のある階段に向かう中、二人はホームに立ち尽くしていた。周囲にあらかた人がいなくなったタイミングで、創太は気不味い雰囲気を打破しようと、口を開く。
「あー、すまん。色々と言葉足らずだった。花巻が可愛いといったのは本心で、性格も花巻の外見にあっていて、ん?外見が性格に合っていて?あーまあどっちでもいいが、ともかく両方込みでいいと思った。ああでも告白とかいう気はなくて、なんとなく思った事が口から出たというか、そんな感じ?」
「プッ、アハハ、もー桂木君焦りすぎ。でも有難う。私もすごくうれしい。正直ドキッとしちゃった。一瞬人生初の告白かとおもって、びっくりしちゃったもん」
そう言って、少し顔を赤らめて笑顔を見せてくれる花巻が凄く可愛くて、むしろ創太の方が、ドキドキと胸が高鳴る。そして2人で会話もないまま、改札を出たところで、向かい合う。
「桂木君今日は、有難う。あっ、ライン交換しようよ。ライン」
「ああ、そうだな」
そう言って2人はラインIDを交換しだす。これで今後のやり取りもスムーズにできるし、今日は解散でいいはずだった。でもなんとなく創太の気持ちは不完全燃焼で、何やら気持ちの中で燻っていて、直ぐには離れがたい感情が湧いてくる。花巻も花巻で、それじゃの一言が出てきてもいいのに、少し俯きながら、むしろ創太からの言葉を待っているようだった。
「あー、花巻、やっぱ家の近くまで送るよ。迷惑でなければ、もう少し花巻と話たい」
「うん、私ももう少し一緒にいられたら、ってちょっと思ってた。でも帰り遅くなっちゃうけど、いいの?」
「ああ、まあ男子なんて、連絡だけ入れとけば、多少遅くなっても何も言われない。まあ妹が変な勘繰りを入れてこなければ、大丈夫だろ」
創太はそう言って、さばさばとした表情で、肩を竦める。すると花巻は嬉しそうな表情で笑顔を見せる。
「それならご同行、よろしくお願いします。あっ、でも荷物は持つよ?流石に悪いし」
「なら俺の鞄持ってくれ。こっちの方が軽いし、今日は辞書とかも入ってないしな」
そう言って創太は自分の鞄を花巻に預ける。花巻はその鞄を受け取って、2人は並んで歩き出す。北口側は、ロータリーの周辺に特段店もなく、少し行くと住宅街にもなる為、比較的静かだ。街灯はキチンと等間隔であるので、あまり暗さでの怖さはないが、女子1人で帰るには寂しさのある道だった。
「フフフッ、やっぱり桂木君に一緒に来てもらって、正解だったかも」
「まあ確かに、ちょっとこの道寂しいもんな。バンドの練習帰りだといつもこの時間なのか?」
「うーん、スタジオの借りれる時間次第なの。今日は7時から9時までの2時間しか借りれなくて、その前の時間が借りれれば、大丈夫なんだけど、こればっかりはタイミングだから」
そう言って花巻は考える素振りを見せる。確かに店の都合もあるし、場合によっては学校やメンバーの都合もある。こればっかりは確かにタイミングだ。
「ふーん、練習って曜日とかも決まっているのか?」
「うん、一応各自週末は色々あるだろうからって、毎週金曜日の放課後にしようって事になってる。ただスタジオ借りるのもタダじゃないから、週1回位で、それ以外は学校でやろうかって話になってる。私とかは楽器持ってるからいいけど、ドラムの子がねー。スタジオじゃないとできないから、本当はもう少しやりたいんだけど」
「ならもしまたこの時間に帰るようだったら、ラインくれよ。俺は毎週金曜日は予備校だから、タイミングが合えば、一緒に帰れるだろ?」
創太はそう言って、自分の考えを述べる。こうして花巻と話をして帰るのは楽しいし、大した手間でもない。タイミングも合いそうなので、花巻が嫌がらなければ、特段問題は無かった。
「えっ、いいの?もしそうしてくれるならすごく嬉しいけど」
花巻は少し意外そうな顔をして、声を上げる。創太としてはそこまで凄い事をしている気持ちはないので、平然と答える。
「喜んでくれるなら、全然問題ないぞ。まあ花巻と話しているのは楽しいし、俺には彼女とか居ないから、なんかそういう気分を味わえて嬉しいし」
「ふぇ、彼女?」
「あっ、いや、気分の話で、そこまで深い意味は無いんだけど。ただ花巻の彼氏になる奴は羨ましいとは思うけど」
創太はなんだか自分でも想定してないような言葉が、先ほどからポロポロ零れるので、思わず動揺する。まあ嘘はついていないし、本音が漏れているだけではあるのだが、むしろそれが問題だったりする。対する花巻は少し顔を赤らめ、創太を冗談交じりに睨んでくる。
「桂木君って、もしかしてそうやって気安く女子を口説いたりするタイプ?」
「なっ、いや、口説くとかそういうのじゃなくて、つい本音が零れたというか」
「プッ、アハハ、冗談、冗談よ。でも私の彼氏かー。でもそれなら桂木君の彼女になる子の方が、よっぽど羨ましいけどな。桂木君、優しいし、かっこいいし」
花巻の少し意地悪なツッコミに、創太は慌てふためきながら、弁明をすると、花巻はしてやったりの表情を見せて、声を上げて笑う。ただそれ以上に紡がれ言葉と花巻の自然な表情が創太をドキドキさせる。正直、今日ここに至るまで、まったく意識をしていなかった女子である。外見的に可愛いが創太の好みとは違う、あまり接点のないただの同級生。なのに今この瞬間は凄く魅力的な存在に見える。いや、違う、恐らくこれが元々の彼女の魅力で、創太はただ知らなかっただけなのだとなんとなく思った。
「はいはい、お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ。バレンタインのチョコも義理しか貰ったことのない俺に、そう言ってくれるのは、花巻くらいだな」
「もー、自己評価低すぎ。桂木君って。その義理チョコだって、ホントは本命だったりするんじゃない?そもそもモテない子は、義理すら貰えないし」
「いや、だってくれた時これは義理だからって念押しされたぞ。もし本命だったら義理だなんて念押ししないだろ?」
創太はそう言って、ないないとばかりに、それを否定する。そもそも義理チョコに夢を見るほど、強気にもなれないし、妄想癖もない。ただそれを花巻はあっさりと否定する。
「えっ、勇気出せなくて、ひよっちゃう子だっていると思うけど。私も男子に告白とかって、普通に無理だと思ってるし」
「ええっ?本当に?えー、あれって本命チョコの可能性あるのか。マジか」
創太は想定外の否定に思わず声を上げる。義理チョコなのに義理じゃない?全く意味が分からない。
「まあ、本気で義理の可能性もあるけどね。ちなみに誰からもらったの?」
「ん?ああ、ほら、去年同じクラスだった、白浜祐美。俺一時期、席が隣でさ。隣の席のよしみらしいぞ」
「ええーっ、祐美っ?祐美ってあの祐美でしょ?学年で一番男子に告白されて、悉く断ってるあの?」
そう言って花巻はビックリする。確かに白浜は可愛いし、学年ではそれなりに有名人だ。創太は余り意識したことがなかったが、元のクラスの男子からは、会話しているだけで、羨ましそうな目で見られる。いや、普通に今日の宿題やったかとかそんな話しかしていないのだが。
「おっ、おう。なんかモテるってのは聞いた事はあるけど。偶々隣の席になった時には、クラスの男子から、相当羨ましそうな顔で見られたけど。ただ流石に、白浜が実は俺の事本命とかはないだろ。2年になってクラスも別れて、今は余り接点もないし」
「えっ、っていうか、まだ接点あるの?」
「いや、接点って言っても廊下ですれ違ったら、挨拶したり、帰りがけ一緒になったら、途中まで一緒に帰ったりするくらいだぞ。そんなの多少仲の良い友達だったら、誰でもするだろう?」
創太にしてみれば、本当に他意はない。席が隣でそれなりに会話をした間柄だ。すれ違えば挨拶位はするし、帰りの方向が一緒なら、途中まで話をしたりは変に意識する事はない。ただ花巻の見解はどうやら違うらしい。
「ギルティね。本命の可能性、かなり高いと思うけど。あの子、男子は殆ど接点もたないようにしてるのよ。ほら、変に絡まれても嫌だからって事で。でもあの祐美が、へー、そうかー」
「まあ花巻はそういうけど、普通に義理だろ。流石に白浜に好かれる理由がわからん」
「ええー、可能性あると思うけどなー。でももし祐美に付き合ってって言われたら、どうするの?やっぱ祐美クラスの女子なら小躍りしちゃうでしょ」
花巻はそう言って、少しおどけた様な口調で、でもなんか少し寂しげな印象を与える笑顔を見せる。創太はなんだが、否定しないといけないような気分になって、それを素っ気なく否定する。
「まあ嬉しい、嬉しくないでいえば、嬉しいかもしれないけど、付き合うかどうかでいえば、ちょっと微妙かもな」
「えっ、何で。祐美なら文句ないでしょ?」
「あー、ほら、途中まで一緒に帰ったっていったろ?正直その時、あんま話が広がらなかったんだよな。正直、こうして花巻と話ている方が、楽しいし」
創太はそう言って、否定の意味を説明する。正直これも本心だ。別に白浜がどうこうではなく、今花巻との会話と比較して、自分が楽しめているのは花巻だと思ったのだ。
「フフフッ、そう言ってくれるのは嬉しいかも。まあ実際に祐美に告白されたわけでもないから、その時になってみないとわからないかもだけど」
「まあ、やっぱり俺はその線は無いとも思うしな。残念ながら17年間の人生で女子からモテた記憶がない。当然、女子と付き合ったこともな」
創太はそう言って、肩を竦める。まあ女友達的な奴は思い返せば何人かいるが、結局身内の誰かと付き合ったり、今では疎遠になったりと、そんなものだったりする。白浜にしても、今ではあまり接点すらないのだ。
「アハハ、それを言うなら私もだけどね。宮原君のをノーカンにすれば、告白されたこともないし。男子と付き合いたいと思ったこともないかも」
「ん?花巻って男子苦手とかそう言うタイプ?ってわけでもないよな?」
「うーんそうね。別に苦手ではないよ。あーでも2人きりってのはあんまないかも。周りに友達とかいてみんなでワイワイって感じで。だからこうして、桂木君と2人でいるのって少し新鮮かも」
花巻はそう言って、自然な笑みを零す。創太はそんな花巻を見て、またドキリとする。そう言う笑みは正直反則だ。こちらにも心の準備というものがある。だから返す言葉は少しだけ、焦ったものとなる。
「あっ、いや、そう言われるとテレる。まあでも俺も花巻とこうして話をしているのは、楽しいし、また、こうして話たいとも思う。まあ今日は偶然だったけど、また話そうぜ」
「うん、取りあえずは約束もしたしね。それとまた帰り道でも会いたいし。あ、それならお近づきのしるしに、名前で呼んでよ。私、あんまり苗字で呼ばれるの好きじゃないんだ」
「ん?花巻の下の名前って、楓だっけ?」
「うん、そう。楓」
「なら俺は創太でいいぞ。ダチはみんな創太だし。君もいらねー」
創太はそう言って、笑顔を見せる。確かに苗字で話をしているのは、少し他人行儀な気がしていた。まあ実際、創太を創太と呼ぶのは、男子のダチしかいないが、花巻のキャラなら違和感もない。すると花巻は少しテレた表情ながらも、はっきりとした声で言う。
「なら創太、これからもよろしくね」
「はいはい、楓もな。って言うかこうして改まって言うと、恥ずかしいな」
「ちょっ、そう言う事言わないでよ、私も我慢していたんだからーっ」
そう言って2人はじゃれ合いながら、会話を交わす。創太はなんとなく何かが始まる気がして、ワクワクした気持ちになるのであった。