女子目線②
今日中で完結まで行きます。
桂木君に不意に男っぽい事をされた私は、中々収まらない顔の赤みを早く引けと願って電車に乗り込んだ後、普通に話しかけてくる桂木君の声を聴いて思わず、動揺してしまう。
「花巻の家って、駅から近いのか?」
「ふえっ、い、家?えーと、歩いて15分位?」
「あー、結構遠いのな。ああ、まあ山側ならそんなもんか。帰りは誰か迎えに来てくれるのか?」
明らかに上ずった声出した私を少し怪しむような目で桂木君は見てくるが、そこにはあえて触れないで普通に会話を続けてくれる。私は内心ホッとしつつも、今度は普通の調子で言葉を返す。
「ううん、うち門限10時だし、お母さんにLINEも入れてあるから、この時間だったら、一人で帰るよ」
「うーん、とは言え、時間も時間だし、荷物も荷物だから、迷惑でなかったら送ろうか?」
「気を遣ってくれてありがとう。でも初めてじゃないし、道も明るいから大丈夫。桂木くん家、反対方向でしょ?それこそ帰りが遅くなっちゃう」
気を遣ってくれた桂木君の申し出は正直嬉しかったが、流石に彼の家とは反対側に連れまわすのは悪いと思い、角が立たないようにやんわりと断りを入れる。桂木君も無理してでもとまでは思っていなかったのか、あっさりと了承する。
「まあ、それならいいか。でも女子の家にしては、門限とか結構ゆるいのな」
「えー、そうかなー。バンドメンバーも同じ感じだし、こんなものじゃないの?」
「ああ、俺に中三の妹がいるんだけど、門限7時とか言ってたぞ。早すぎるって、散々文句言ってたし」
「んー、中三ならそんなものかな?うちも中三までは門限8時だったし。あ、ちなみに部活で遅くなる時があったから、その時間になったんだけどね」
門限は確かに少し面倒臭い。まあそれでも高校になって、夜10時までは親の了承ありであれば、OKを貰えたので、今は特段不満はない。彼氏持ちの子でもっと長く一緒にいたいといってた子もいるが、そっち方面は意外に奥手な楓にしてみれば、そこまでしたいとは思っていなかった。桂木君もまあそんなものかと言わんばかりの顔をして、ふんふんと頷い後、話題を変えてくる。
「へー、花巻は部活してたのか。何部?中学で軽音とかは流石にないだろ?」
「フフフッ、流石に軽音はなかった。中学の時は吹奏楽部。これで以外に音楽少女だったわけですよ。でも好きな音楽は、バンド系の奴で、友達と話してたらそっちやってみるって話になって、現在に至るわけです」
「ハハッ、確かに吹奏楽部は似合わないな。バンドの方が向いてるよ」
私はその言葉に苦笑する。私自身同じ意見なので、文句が言い辛い。音楽自体好きで、吹奏楽部でやっていたフルートも別に嫌いではない。大勢で一つの音楽を作り上げるのは、それはそれで別の楽しみがある。ただそれ以上に、今バンドでやっているギターは楽しく、やっぱ自分にはこっちの方がキャラなのだと思うのだ。でもちょっとだけ剥れた顔をして、わざとらしく文句を言う。
「えーえー、どうせお淑やかな吹奏楽部には向いてませんよ。桂木君は何か部活やってたの?」
「俺は、バスケ部。中学で辞めちゃったけどな」
「へー、バスケ部、なんか似合うかも。なんで辞めちゃったの?」
ちなみにこの情報も私は事前に知っている。彼の情報は友達とその彼女経由で聞いていた。でも実際に桂木君のバスケしている姿だったら、素直にかっこいいのにと想像できた。
「ああ、最初から高校に入ったら、部活はやめようと思ってたんだ。他にやりたい事があったしな」
「えーっ、もしかしてお勉強?」
「違う、違う。今、趣味で3on3のチームやってんだ。高校入って部活で汗水たらしてまでやる気にはならなかったけど、バスケは続けたいと思ってさ。それで中学の時の仲間とチーム作って、地域の大会とかに参加してるんだ」
ここで友人の情報と今話された内容が合致する。恐らく彼のチームメンバーに友人の彼氏がいるのだ。流石に3on3のチームを一緒にやっているとまでは聞いてなかったので、男同士でそんなに遊びに行くのかななどと思っていたのだ。ちなみに友人はその彼氏の浮気まで疑っていた。女子は嫉妬深いのだ。
「へー、面白そう。今度応援に行ってもいい?私も友達連れていくから」
「あー、俺のダチ、俺以外彼女持ちだからなー。むしろ友達と一緒だと不味いかも」
「フフフッ、確かにそれだと誤解招いちゃうかもね。なら私だけだったら?」
どっちにしろ、友達の彼女は私の友達なので、現地で種明かしも面白いし、それなら私だけ応援にいくという形でも特段問題は無かった。それに普通に桂木君がバスケをやっている姿を見てみたいという思いもわいていた。
「うん?来てくれるなら嬉しいけど、見ててそんな楽しいもんじゃないぞ?」
「いいの、いいの、その代り、私たちのバンドの応援にも来てほしいな。文化祭でやるの。演奏」
フムフム、確かに久しぶりに話をした女子が、いきなり積極的に応援に行きたいというのは、怪しいのか。なので、桂木君が納得しやすい理由考えてあげる必要があると思い、交換条件を提案する。
「ハハハッ、そんな交換条件でいいんなら、全然かまわないぞ。いや、正直、俺だけ彼女いないから、肩身が狭かったんだ。まあ彼女じゃないけど、女子が来てくれるなら、大歓迎だよ」
よしよし、交換条件作戦成功!帰ったら友達にライン送ろう。それにしても桂木君も彼女いないんだ。なら気兼ねなく私も応援できる。
「私もバンドの応援に来てくれるなら嬉しい。やっぱ、応援があるとやる気も違ってくるし。ほら、吹奏楽部とかって、応援とかないでしょ?」
「ん?でもコンクールとかって、観客いたりするんじゃないのか?」
「はは、流石にコンクールで、声援はおきないからね。私は声援を浴びて、演奏したいのです」
「なら文化祭では目一杯、声を出してやるよ。黄色い声援がいいか?それとも野太い奴?」
そこで私は思わず顔を引き攣らせる。冗談だとしても、桂木君が黄色い声援で声を出したら、確実に引いてしまう自分が想像できるし、野太い声だと、どこのアイドルだと思われて、逆に恥ずかしい。なので、真面目な顔を作って、お願いをする。
「普通のにして下さい、普通のに。でも楽しみになっちゃった。よろしくね、桂木君」
「ああ、こっちもな。とはいえ、学校ではほとんど、花巻とはしゃべらないからな。いきなり応援なんかしたら、何言われるか」
そう言って桂木君は少し困った顔を見せる。確かに少し位噂になるかもしれない。桂木君とは高2になって初めて話した位だ。でも桂木君は余り噂とかを気にするタイプだと思えず、コテンと首を横に倒す。
「あれ、桂木君ってそういうの気にするタイプ?言わせたい奴は言わせておけってタイプかと思ってた」
「ああ、俺はそれでいいんだけど、花巻が困るだろ?花巻モテるし」
「ええっ?私モテないよ?誰?そんな事言ってるの?彼氏いたことないし、告白されたことないし」
何やら桂木君が突拍子もないことを言い出した。振り返っても男子に告白とかされたことないし、自分がモテるとは全く思ってなかった。強いてあげれば、男友達というか、男子としゃべる機会は多いかもしれないが、それもむしろ女子と見られていないので、気安く話かけられるのだと思っていた。ただそんな私に桂木君が具体名を上げてくる。
「あれ?一年の時、宮原に告白されてなかったか?なんかアイツ、お前に振られた的な事言ってたぞ?」
「はあ?宮原君?あれ?私いつ告白されたの?彼ってなんかいつも冗談しか言わないから、本気なのか、冗談なのか、良くわからないのよね」
その宮原君は女子扱いしていない男子の一人で、確かにしゃべる機会は多い。あれ、そう言えばいつからか声を掛けられなくなったなと思いかえす。ただ自分を女子として扱わないような男子に話しかけられなくなったとしても、別にどっちでも良かったので、気にしていなかった。
「宮原かわいそうに、確実に冗談だと思われて流されたんだな。うんうん、良くわかった。花巻は罪作りな奴なんだな」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんなの知らないわよ。大体告白なら、時と場所を選びなさいよ。私だって、女子なんだから、告白に憧れ位あるんだから」
「はははっ、冗談、冗談だ。まあ宮原のキャラ考えたら、多分宮原が悪いんだろう。まあでも花巻がモテるのは事実だぞ。少なくても宮原以外で花巻の事可愛いっていってる奴多いしな」
流石に宮原君の事は、彼のキャラクターも知っているので、桂木君も変な風に思っていないようだ。ただそのあと彼は、嫌な事を言ってくる。ちなみに桂木君自体はむしろ褒め言葉として言ってくれているようなのだが、私にとっては、嬉しくない言葉だった。
「うーん、その情報あまり嬉しくないかも。別に外見だけ褒められても、だから何って感じだし。私の性格も含めて、好きになってくれるなら嬉しいけど。まあそれでも、付き合うとか付き合わないとかは、別だけど」
まあ正直それが本音だった。やっぱり外見だけで好きと言われても、嬉しくない。ちゃんと私の性格や私との接し方も考えて、その上で告白とかだったら、こっちも真剣に相手の事を考えられるが、そうでないのなら、むしろ気持ち悪さを感じるのだった。だから次の言葉を聞いた瞬間、私はドキッとして思わず頭が真っ白になる。
「なら俺は、その性格込みで、花巻の事、良いと思うぞ。うん、普通に可愛いと思う」
「ふぇ、それって、えっと告白?」
桂木君の言葉は、私の事を好きだと言っているように聞こえる。あれ、そういう意味で合ってるよね。私は自問自答するが、その答えを桂木君は慌てて否定してくる。
「い、いや、そういう事ではなくて、なんとなく素直に出た言葉っていうか」
プシューッ
「清水台~、清水台~」
彼が言い訳を始めようとしたところで、清水台の駅に着いた電車のドアが開き、私と桂木君は慌ててホームへと降り立つ。ただお互いに言いようのない気まずさを抱えていた。




