女子目線①
今度は女子目線。文字数見たら女子の方が文章が多い。セリフは同じなのに、こちらは一人称で感情表現が多いからか、などと変な感想が先に立つ作者です。
その日、バンドの練習が終わった後、私はバンドメンバーと一緒に喋りながら駅に向かう。このバンドは、文化祭での公演を目指して練習に励んでおり、今回はスタジオで初めての音合わせ。勿論、出来はまだまだだけど、すっごく楽しい時間だった。帰り道もメンバーみんなその余韻を楽しんでいた。ただ残念な事に、駅に着いたところで、メンバーとはお別れ。全員、同じ高校の同級生だが、私だけ乗る電車が違くて、少し寂しさを感じながら、駅のホームへとやってくる。
当然ながら、時間も大分遅い為、ホームには大人だらけだ。しかも女性は殆どおらず、背広を着たサラリーマンばかり。女子高生など自分1人で、正直軽く怖気ずく。だからだろう、ふと周囲を見回した時に、高校生男子、しかも自分と同じ高校の制服を見つけて、思わず安堵する。
『あれ、あれってもしかして』
見つけた男子は、どうやら自分の知っている男子らしく、間違いがないか近づいて確認する。
『やっぱ、桂木君だ』
桂木創太は、楓の高一の時の同級生だ。本人とは、あまり喋った事はないが、楓は友人から話を聞いていたので、実は良く知っている。彼は私の友達の彼氏の友達だ。彼の友達は違う高校に通っており、中学時代はよくつるんでいたらしい。今でもよく遊ぶらしく、私の友達は彼氏を取られたと憤慨している。私の彼に対する知識は、その彼女経由だったりする。中肉中背、背はそこそこ高く、でも180cmはないだろう。帰宅部の割に筋肉質で、決して陰湿なキャラクターではない。特に騒ぎたてるタイプでもないが、ちょっとだけ大人びた雰囲気を感じさせる同級生。見た目も普通に整っており、抜群のイケメンというわけではないが、好感度があるタイプだ。今はクラスも違う為、話す機会など全くないが、向こうも顔くらいは覚えてくれてるだろうと思うと、その手は彼の背中を叩いていた。パンッ、強く叩いた訳ではないが、意外にいい音がした。
「桂木君、こんな時間に何やってんの?デート帰り?デート帰りなの?」
思った以上に明るい声、ちょっとホームの雰囲気に気後れしていた分、はしゃいだ感じになってしまった。
「いや、そのセリフ、そっくりそのまま、花巻に返してやる。お前こそこんな時間にこんな場所で、何やってんだ?」
良かった。名前を覚えていてくれた。その事も嬉しくて、やはりはしゃいだ調子の声がでる。
「わたしー?私は、見ればわかるでしょ、これよこれ!」
ただそんな私の調子に、なかなか桂木君はのってこない。ありゃ、なんか不思議そうな顔してる。
「ギターケース?それが夜遊びとなんの関係があるんだ?」
「もう、桂木君、鈍いなー、鈍すぎる。ギターと言えばバンド。バンドと言えば、練習、練習と言えば、スタジオでしょ?」
内心、やや強引過ぎたかと反省するも、言ってしまったものは仕方がない。ここは堂々として押し切るとする。すると桂木君は少し動揺したように、それでも理解を示してくれる。どうやら言ったもん勝ちが成功したようだ。
「お、おう、ようはバンドの練習で、スタジオに行ってたと」
「オフコース!」
勢いにのった私は、その流れを維持する。すると今度は、桂木君が感心したような表情を見せる。
「へー、花巻ってバンドやってたんだ。まあ似合うちゃあ似合うか」
「フッフッフッ、一応、褒め言葉として受けとっておくわ、ありがとう。で、桂木君は何してんの?」
私は素直に褒められて、思わず笑みを零す。バンド活動は今、自分がしてて一番楽しい活動だ。それを似合ってると言われれば、やはり嬉しい。すると桂木君もつられたのか笑顔を見せて、質問に答えてくれる。少し笑った桂木君は、さっきより少しだけ柔らかい雰囲気になった。それもまた嬉しい。
「お礼に関しては、どういたしましてと言っておく。俺は予備校の帰りだ。9月から数学だけ受講しててな」
「へー、桂木君って、実はガリ勉君なの?しかもよりによって、数学って」
「ガリ勉じゃねーよ。まあ大学は理系志望だけどな。理系の大学って、学校の授業だけじゃ足らない気がするから、追加で受けてるんだ」
そう言って、彼は自分の頬をかく。私は正直数学が苦手だ。なのによりによって数学を追加で勉強とかと思っていると、大学受験の為だと桂木君はいう。正直、私は今が楽しければいいと思っている。大学受験自体はおろそかにするつもりはないが、まだ遠い未来の話だと思っている。なのに目の前の同級生男子は、その為に勉強をしているといって、なに食わない顔をしているので、思わず感心してしまう。
「桂木君って凄いね、ちゃんと大学の事も考えてるんだ。私なんて、そんなのまだ先の事だって、思ってたよ」
「えーい、やめろっ、たまたまだ、たまたま。それより花巻はどこまで行くんだ?」
あ、桂木君テレた。私はもう少し彼の大学受験の話を聞いてみたかったが、これ以上話をすると怒りそうだと思い、残念だがあきらめる。
「私は各駅停車で清水台まで。バンドメンバーは急行で天野原までだから、私1人なんだ」
「あれ、清水台なの?っていうことは、花巻は北中か?」
「そうそうって、それなら桂木君は南中?」
「ああ、俺も最寄りは清水台で、学校は南中。なんだ、案外近所だったんだな」
実は彼が、南中だということは知っていた。フフフッ、桂木君、個人情報ダダ漏れなんだよ。ただここでは桂木君に話を合わせて、知らない振りをする。
「えー、でも駅で会ったことないよね?」
「ああ、俺、普段はチャリ通学だから。台風でもない限り、電車は使わない。ただこれから金曜だけは、電車になるけどな」
「ああ、だからか、うちからだと高校遠いんだよね。何回か自転車チャレンジしたんだけど、挫折した。うち山側だから、帰りがきつくて」
「はは、うちだと坂ないし、学校も電車に乗るより早く着くしな。途中コンビニもあるから、休憩もできる」
「くっ、負けてない、負けてないからね!買い食いだったら、私だって、出来るんだから」
私は思わず、悔しくてなって、負けず嫌いを発揮する。まず桂木君が、自慢げに話すのがちょっと悔しかった。電車通学だとどうしても時間がかかるし、何より清水台から学校のある天野原までたった一駅なのだ。家が山側でなければ、自転車通学で行けるのにと思うと悔しさがわいてくるのだ。
「花巻、お前は何と戦っているんだ。ま、取り敢えず駅まで一緒か。なら、ほれ、それ貸せ」
「へ?何?」
「何じゃねー。その重たそうな荷物、持ってやるって言ってんだ。貸せ」
「ええっ、いいよ、そんなの。自分で持てるし」
「いいから、貸せ。2人でいて、女子の方が重そうなもの持ってんの、なんか居た堪れん」
そんな私の葛藤を気にもせずに、桂木君は変な事を言ってくる。えっ、なに?私の事女子扱いしてくれてる?私は、そんな事を思う。普段、どちらかというと、雑な扱いを受ける事が多い。性格的なものだと思うが、私は比較的オープンな性格だ。そういった意味で女子を意識させないタイプなのだと自分では思っている。だからだろう、こんな風に普通に女子として扱われる事に慣れていない。だから半ば強引にギターケースを取られて思わず、唖然としてしまうと同時に顔が赤くなるのがわかる。思わず俯いて、少しでも顔が見づらくなるようにする。
「か、桂木君、えっと、その、ありがと」
「まあ花巻の為ってより、自分の為だ。気にすんな」
良かった、何とかお礼を言えた。そして目線だけ少し桂木君の方に向けると、彼は優しく微笑んで自分がしたいようにしてるだけなどと言ってくる。ちょっと動揺している時に、その優しげな笑顔は反則だ。自分の為といいつつ、結局は私を気遣ってそうしてくれたのだ。そう思うと、顔の赤さが自然とましてきて、言葉が出なくなる。だから私は顔を上げる事が出来ず、顔の赤みが引くまで、しゃべれずにいた。