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男子目線①

男子目線と女子目線交互にお話を進める短編を予定しています。


特別な設定がある訳ではなく、ごくごく普通のやり取りでお互いが意識していく流れをかいているお話です。1日2話、3日で終了の文量です。こんなことねーよと思っても、あるかも知れないくらいに想像していただけるような作品だと嬉しいです。続きはホント考えていないので、短期間、楽しんでいただければと思います。

 桂木創太(かつらぎそうた)は、予備校帰りの駅のホームで帰りの電車を待っていた。時間は午後9時を回ったところ。創太は高校2年生。まだ受験の足音も遠くにしか聞こえない。夏休みを過ぎたこの時期に、あえて予備校へ通わなくてもいいのだが、数学だけは、学校の授業内容に不安を感じ、この9月から予備校のお世話になっていた。


 周囲は帰りの乗客でごった返しており、そこからさらに各駅で下る創太としては、やや辟易とした気分になる。今、耳にはスマホから流れる音楽を聴く為に、イヤホンをしており、周囲の音はあまり気にならないが、行き交う人の疲れた表情が少しだけ暗い気持ちを引き起こす。


 そんな時である。パンッと気持ち良く背中を叩かれ、びっくりして後ろを見ると、ギターケースを背負った女子高生が1人、そこでニヤニヤして立っていた。


「桂木君、こんな時間に何やってんの?デート帰り?デート帰りなの?」


 そう言って話しかけて来たのは、花巻楓(はなまきかえで)。創太の高一の時のクラスメイトだ。創太とは、それ程接点があった訳ではなく、顔と名前が一致し、近くにいたら、二言三言会話を交わす程度の仲だ。ショートカットの少し茶色がかった髪に、少しつりあがった大きい瞳。勝気という表現が似合うクラスでも可愛いに分類される女子だ。創太としては、もう少しお淑やかな感じの女子が好みなので、変に意識するような事もなく、むしろ面倒くさそうに言葉を返す。


「いや、そのセリフ、そっくりそのまま花巻に返してやる。お前こそこんな時間にこんな場所で、何やってんだ?」


 そう時間は夜の9時、男子の創太よりも、女子の花巻の方が、気をつけなければいけない時間だ。ただそんな言葉を意に介さないかのように、花巻はニヘラと笑う。


「わたしー?私は、見ればわかるでしょ、これよこれ!」


 花巻はそういうと、自分が背負うギターケースを創太に見せる。創太は、説明もなしにそんなものを見せつけられても、意味がわからず、思わず首を傾げる。


「ギターケース?それが夜遊びとなんの関係があるんだ?」


「もう、桂木君、鈍いなー、鈍すぎる。ギターと言えばバンド。バンドと言えば、練習、練習と言えば、スタジオでしょ?」


 花巻はそう言って、両手を脇に回して胸を張る。ちなみに彼女は制服姿の半袖で、ベストとかを着ておらず、形の良い胸が創太の前に現れる。


「お、おう、ようはバンドの練習で、スタジオに行ってたと」


「オフコース!」


 創太は思わず視界に現れた胸に気を取られつつも、なんとか気取られぬ事に成功する。


「へー、花巻ってバンドやってたんだ。まあ似合うちゃあ似合うか」


「フッフッフッ、一応、褒め言葉として受けとっておくわ、ありがとう。で、桂木君は何してんの?」


 花巻はそう言って満足気な表情を見せる。そんな楽し気な花巻にあてられたのか、創太も思わず笑みをこぼす。


「お礼に関しては、どういたしましてと言っておく。俺は予備校の帰りだ。9月から数学だけ受講しててな」


「へー、桂木君って、実はガリ勉君なの?しかもよりによって、数学って」


「ガリ勉じゃねーよ。まあ大学は理系志望だけどな。理系の大学って、学校の授業だけじゃ足らない気がするから、追加で受けてるんだ」


 花巻は感心したように、創太を見る。創太もつい口が滑ったかと、頬をかく。別にそこまで話すつもりは無かったのだ。


「桂木君って凄いね、ちゃんと大学の事も考えてるんだ。私なんて、そんなのまだ先の事だって、思ってたよ」


「えーい、やめろっ、たまたまだ、たまたま。それより花巻はどこまで行くんだ?」


 なんだか花巻に素直に感心され、なんだかテレくさくなった創太は、露骨に話をかえる。花巻はもう少し聞きたそうな表情を見せるが、あまり追求して来ずに、話を返してくる。


「私は各駅停車で清水台まで。バンドメンバーは急行で天野原までだから、私1人なんだ」


「あれ、清水台なの?っていうことは、花巻は北中か?」


「そうそうって、それなら桂木君は南中?」


「ああ、俺も最寄りは清水台で、学校は南中。なんだ、案外近所だったんだな」


 清水台は線路を挟んで中学校の学区が分かれており、同じ駅を使うなら、同じ中学か、反対の中学のどちらかだった。


「えー、でも駅で会ったことないよね?」


「ああ、俺、普段はチャリ通学だから。台風でもない限り、電車は使わない。ただこれから金曜だけは、電車になるけどな」


「ああ、だからか。うちからだと高校遠いんだよね。何回か自転車チャレンジしたんだけど、挫折した。うち山側だから、帰りがきつくて」


「はは、うちだと坂ないし、学校も電車に乗るより早く着くしな。途中コンビニもあるから、休憩もできる」


「くっ、負けてない、負けてないからね!買い食いだったら、私だって、出来るんだから」


 花巻は何故か謎の負けん気を見せて息巻く。創太は呆れの混じった表情になって、言葉を零す。


「花巻、お前は何と戦っているんだ。ま、取り敢えず駅まで一緒か。なら、ほれ、それ貸せ」


「へ?何?」


「何じゃねー。その重たそうな荷物、持ってやるって言ってんだ。貸せ」


「ええっ、いいよ、そんなの。自分で持てるし」


「いいから、貸せ。2人でいて、女子の方が重そうなもの持ってんの、なんか居た堪れん」


 創太はそう言うと、半ば強引に、花巻からギターケースを奪う。花巻は何故か少し俯きながらも、お礼を言ってくる。


「か、桂木君、えっと、その、ありがと」


「まあ花巻の為ってより、自分の為だ。気にすんな」


 創太は本心でそう思って、花巻に笑顔を見せる。その後電車が来るまで、花巻は俯き加減で黙っていた。


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