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神様の再就職~異世界にて最強冒険者にジョブチェンジします!~  作者: コウリン
第一章 仕事に疲れたなら、異世界へ
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第七話 夜鳴き鳥亭での宴会

 ギルドを出てから、一旦『暁の旅路』の拠点があるアパートに戻り、四人の着替えを済ませてから、改めて酒場へと向かう。

 そしてしばらく歩いた先の建物でロペスが足を止めた。


「ここだ! 夜鳴き鳥亭っていってな。ここの煮込み料理がめちゃくちゃ旨いし、酒にもピッタリなんだぜ」


 外は昼を過ぎ、そろそろ夕方に差しかかろうとしているとき。

 すでに中はたくさんの人で溢れかえっているようで、外まで喧騒が聞こえてきている。


「いらっしゃーい!」

 

 ロペスが扉を開けると、恰幅のいい女性がこちらを見て、騒がしい音にも負けない大きな声を張り上げた。


「おう! 女将さん! 五人分の席空いてるかい?」


「ちょいまっとくれよ……ほら、そこの三人! なに椅子を空けたままテーブル占拠してるんだい! とっとと、あっちの野郎どもと相席してきな! どいたどいた!」


 女将さんは有無を言わせぬ圧力で、チビチビ酒を飲んでいた三人をどかすと、テキパキとテーブルを片付けて案内してくれた。


「なんにするんだい?」


「とりあえずエールを五人分。 あとはいつものアレを頼むぜ」


「あいよ!」


 両手に空になった皿を持ったまま、女将さんは器用に客の間をすり抜けて厨房へと進んでいく。

 そしてしばらく待っていると、自分の顔くらいある木製ジョッキを両手に抱えて戻ってきた。


「ほらよ! エール五人分!」


「ありがとよ! 女将さん」


 ジョッキがそれぞれの前に置かれ、各自手に持つと、ロペスが声を張り上げる。


「それじゃ……俺たち四人が生き残れた記念と! 命の恩人であるクロウさんへの感謝を込めて……カンパーイ!」


「「「乾杯!」」」


「かっ乾杯!」


 こうやって大勢で食事をすることは今までなく、生まれて始めて見る乾杯の動作にとまどってしまう。

 そして、一斉にエールを飲み干していくのを見ながら、こちらも負けじとジョッキを傾けた。


 うーん! 少々生ぬるいが、若干の苦みと喉ごしの良さがたまらん!

 神界の酒も旨いっちゃ旨いが、こうやって豪快に飲むというよりはお上品にたしなむって感じだったからな。


「プハァ! やっぱ夜鳴き鳥亭のエールは最高だな!」


「依頼達成後にここで飲むのが一番だぜ!」


「生きてるって気がするわよね」


「本当……みんな生きてて良かった……ううっ」


「おっおぃ……ミーシャ泣くなよ……」


 帰ってきたという安心感が一気に涙腺を緩ませたのだろう。

 ミーシャが人目もはばからずに泣き始めてしまう。


「そうそう、そう言う時は泣けばいい。ため込んだものは吐き出してスッキリしないとな」


「そう……なんですか?」


「ああ、そういうものだよ。俺もそうやって溜まったものを爆発させた結果ここにいるんだから」

 

 ただし、俺は仕事を放り投げて異世界に来きちまったけどな。


「そういえば、クロウさんってどこから来たんですか?」


「そうそう! ラージャのあるギルダンからじゃないなら隣国のウォーデンから?」


「だが、向こうはこっちと絶賛戦争中で国境封鎖されてなかったっけ?」


「まさか、国境破りで逃げ出してきた? もしやウォーデンの高名な将軍、もしくはお抱え魔法使いとか!?」


「さあ、どうだろうな?」


 さすがに俺が神界から来ましたってのは言ったところで信じられないだろうし、信じてもらえないだろう。

 曖昧にしておくのが一番だ。


「それよりも一つ聞きたいことがあるんだが」


 ちょうど良い機会だと思い、気に掛かっていたことを尋ねてみることにした。


「なんです? クロウさん」


 レイナが聞き返してくる。


「スタンピードとはなんなんだ?」


「え? 知らないの?」

 

「ああ」


「ほんと、クロウさんって何者なの? あれだけの魔法を使えるかと思いきや、魔石もスタンピードも知らないなんて……」


 レイナが頭を抱える。


「えっと、スタンピードを説明するには色々と別のことも教えなきゃなんないんだけど……魔物のことは分かる?」


「あのでかい熊、デスベアーとかいうやつのことか?」


「そう、この世界には魔力の元である魔素によって普通の動物が異常な進化を遂げたり、全く別のナニかに生まれ変わったりすることがあるの。それが魔物」


「ふむ」


「それと世界のあちこちには魔素が溜まりやすい場所があって、それが一定以上溜まると地形を一変させて魔物を生み出す場所になる。そっちはダンジョンっていうの」


「ふむふむ」


「デスベアーは、A級の私たちでも全滅しかけるような強力な魔物なんだけど、普通はダンジョン内でしか生まれないし、外に出ることはない魔物なの」


「ああ、つまりダンジョンでしか生まれない強い魔物が、何らかの理由で外まで出てきている、もしくは外で生まれているということか」


「そう、ダンジョンに溜まる魔素が異常な量になった場合、中で産まれる魔物が多すぎて外にまで魔物が溢れ出す。そして今度は溢れた魔物が周辺の村や町を襲い出す。これをスタンピードって言うの」


「なるほど」


「魔物の好物は人間や動植物。その食欲も異常なくらい強いの。スタンピードが発生した結果、国ごと滅んだって事例だってあるんだから」


「聞けば聞くほど恐ろしいものだな、そのスタンピードというものは」


 あんなバカでかい熊なんかがゾロゾロ出てこられたら、確かに普通の人間だと危険だな。


「ええ、けれどまだ余裕はあると思う。今回スタンピードが発生しそうなのは、あなたと出会った森にある、導きの洞窟と呼ばれるダンジョン。私たちの調査の結果、外に出ていたのを確認できた魔物は今のところあのデスベアー一匹だけだった。洞窟内も通常よりは魔物も大量で強い個体も多かったけれどけれど、まだスタンピード発生というほどのものではなかったわ」


「そもそも、あのデスベアーにやられかけたのも、洞窟内の探索で体力と魔力をかなり使ってたうえに、入り口でばったり出くわしたせいでほとんど不意打ちに近い状態でレイナが倒れちまったのもあるからな。全員でかかれば一匹くらいならどうにかなったんだが、如何せん運が無かった」


 ロペスの言葉にみんながうなずく。


「まぁとにかく、スタンピードが発生する兆候を報告した事でゴッツも応援を呼んでくれるだろうし、あとは地道に洞窟内の魔物を掃除して魔素を消化していくだけでいい。そう言う意味でもクロウさんは俺たちだけじゃなくラージャの皆を助けてくれた命の恩人ってことだな」


「そうそう! クロウさんは命の恩人だ!」


 ジョセフは顔を真っ赤にしながら私の首に腕を回してくる。


「みなさんの助けになれたのなら、俺も嬉しいよ」


 本当にいいものだな……こうやって素直に感謝されるって。


 神界では味わったことのない心地よい騒がしさに酔いしれていると、女将さんが大きな鍋を両手に抱えて持ってきた。


「ほら! ご注文の豚肉のごっちゃ煮だよ!」


「きたきた!」


「待ってました!」


「これが……?」


 中身は盛り付けとか彩りなども関係なく、肉や野菜をぶち込んだだけのシンプルな煮込み鍋。だが、鍋からはかぐわしい香りが放たれ、否が応でも胃袋を刺激してくる。


「さあ、クロウさん! まずはあなたから!」


 ロペスに言われ、木製のボウルと大きなスプーンを持って鍋の中身をすくう。

 肉や野菜をスプーンいっぱいにすくい、何回かに分けてボウルに移し、隣のロペスにスプーンを渡してから、小さいスプーンに持ち替えた。


「いい匂いだ……肉も野菜もしっかり煮込まれていて柔らかそう……この野菜たちはなんて言うんだろ?」


「その赤くて丸く切ったのがニジーン、濃い緑のがネギー、白いのがハクサーですよ」


 ミーシャが一つ一つ指で示しながら教えてくれた。


「まぁクロウさん、毒なんて入ってねえから気にせず食っちまいましょうぜ!」


「そうだな、それじゃあさっそく!」


 全員鍋の中身を取り終えたところで、一斉に食べ始めた。


「おおぉ……すごい濃厚なスープ……しっかりと塩の味でも、煮てあるから野菜の甘みが出てきている! たまんねえ!」


 これほどまでに美味しい料理は、六百年生きてきて初めてかもしれん!


 あっという間にボウルは空っぽになり、全員で争うように鍋の中身を平らげていく。

 だが、まだまだ満足しない俺たちは、どんどん新しい注文を重ね、テーブルの上は空の鍋とジョッキで瞬く間に占拠されていった。


「クロウさん、全然顔が赤くならないねえ! お酒には強いのかい?」


「昔からこうなんだよ」


 これでも神様なもんで酒に酔うことはないが、みんなの陽気な姿を見ているとちょっぴりそれが残念に思えてしまうな。

 

「俺に気にせずどんどん飲んでくれよな」


「よおおし! みんな! クロウさんのお許しが出たぞ! 今日は俺たちの奢りだあああ!」


「「「「「イエエエエエエエイ!」」」」


 ジョセフの言葉に客全てが反応し、お店を揺らさんばかりの大歓声を上げる。


「おっおい! ジョセフ!」


 ロペスが慌てて止めようとしたが、面白そうなのでそれを制した。

 

「別にいいんだ。むしろこういう雰囲気は一度味わってみたかったんだよ」


「しかし……」


「言ったろ? あの魔石はあんたらの物なんだからどう扱おうと自由。つまりあれを売ったお金もそっちの物」


「クロウさん……すまねえ……」


「謝る必要はないよ。俺にとってはこのような経験をさせてくれることこそがなによりの報酬なんだ」


 酒のせいか涙もろくなっているロペスの肩を叩きつつ、自由な手でごっちゃ煮を味わい、エールを飲む。


「ああ、なんと楽しい時間か」


 あの時、偶然本棚から落ちてきた「ルーアン」の本。

 あれがもし、別の世界の本であったら?

 本が落ちてきても異世界へ行く決心がつかなかったら?

 そもそも本が落ちてこなかったら?

 果たしてここと同じような楽しさに巡り会えていたのだろうか。

 

「まっ! そんなこと気にしてもしょうがないよな! 今が楽しけりゃいいんだよ」


 小難しい考えは置いておいて、再びエールとごっちゃ煮の味を楽しむことにした。 

作品を閲覧いただきありがとうございます。


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