第五話 異世界で初めての街、ラージャ
「ファイアーボルト」
魔法を唱えると指先から炎の塊が飛び出す。
さっきのデスベアーを消し炭にしたほどではないが、それでも人の顔よりは大きい。
そして、襲ってきた大きな鹿の魔物、キラーディアというのが炎に包まれ、デスベアーと同じく一瞬で燃え尽きた。
「初級魔法ってこんな威力だっけ?」
ロペスが首をかしげる。
「そんなはずないですよ! 私の初級魔法とはあまりに違いすぎますって!」
ミーシャ首をぶんぶん振って否定した。
「そんなこと言ったってなあ……」
「実際に私たち、目の前で見てるのよ?」
ジョセフとレイナがお互い顔を見合わせている。
「ラージャの街ってのはこっちで合ってるのか?」
事態をうまく呑み込めていない四人を尻目に、いつの間にか自分が先頭に立って歩いている。
というのも、思いのほか魔物とやらの動きが活発で、かなりの頻度で襲ってくるためだ。
「ああ……そのはずだ……」
こちらの問いかけに、ロペスが首振り人形のように何度もうなずく。
「いやあ、地味に楽しみなんだよねこの世界の食べ物。俺のいたとこじゃ栄養第一とかいって味も見た目もへったくれもないやつばっかりだったからな」
「そっそうか……まぁそれよりクロウさん、すまねえな。俺たちの代わりに魔物と戦ってくれて」
「気にするなよ、ボロボロなあんたらを戦わせて俺は後ろでのんびりってのも性に合わないし、それに、毎回倒す魔物から魔石とやらがポロポロ出てくるから、それも拾っておきたいんでな」
さきほどのキラーディアから出た、濃い赤の魔石も空間魔法で出した異空間に放り込む。
この石がどういった成分で、どういう原理でできているのか気になるので、異空間の中で同時に解析もしておく。
「おかしい……絶対におかしいぞ」
「だよね……魔石ってあんなに簡単に出るものだっけ?」
「そんなわけないですよ……大型の魔物を何匹も倒して、やっと薄い青が一個出るくらい。私の杖の魔石だって、みんなでワイバーンを倒したときに出てきたやつですよ?」
「そうだったよなあ……」
自分が魔石を拾っている間、四人が後ろで顔を突き合わせて話し込む。
「なあ、実は俺たちもうすでに死んでいて、ここは女神様の導きで来たあの世なんてことはないよな?」
「頬でもつねってみる?」
「んじゃ遠慮なく」
ジョセフがすかさずレイナの右頬をつねる。
「痛たたたたっ! ちょっとジョセフ! なんでそこで私なのよ!」
「いや、だって一番死んでそうなのレイナじゃん」
「なんですって! 聞き捨てならないわね!」
お返しとばかりにレイナがジョセフの両頬をつまむ。
「痛ってえ! バカ! 止めろレイナ!」
「その軽い口ごと引き裂いてやりましょうか!」
「痛い痛い! 悪かった! 俺が悪かったからレイナ止めてくれ!」
まるで夫婦のような仲の良さ。
だが、そういうのはせめて街についてからにしてほしいものだ。
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「着いたぜクロウさん。ここがラージャだ」
あれからも何度か魔物に襲われたが、すべて返り討ちにして魔石に変えておいた。
そして森を抜け、平野へと出たところで、ロペスが指さす先には見上げるほど大きな石造りの城壁を構える街が見えてくる。
「これはすごい……」
城門はすべて鉄、かなりの硬さでそう易々とは崩せそうに無い。
周りには広い幅と深そうな堀に水もなみなみと張られており、まさに難攻不落を誇るような作りだ。
「へへっそうだろ? 俺たち自慢の街なんだ」
ロペスが誇らしげに胸を反らせる。
「とりあえず、まずは冒険者ギルドに状況を報告したい。クロウさんには申し訳ないんだが、さっきの魔石のこともあるし、一緒についてきてくれないか?」
「ああ、構わないよ」
「すまねえ、祝いの席は後で必ず開くからな」
「楽しみにしてるぜ」
ロペスが先導し、皆で冒険者ギルドのある場所へと向かう。
「それにしてもギルドか……報告書で何度も見た場所だけど、実際に生で見るのは初めてだなあ……」
転移・転生させた人たちも、大体は利用していたという場所だけに、どういうとこなのかと前から興味は少なからずあった。
「ここだ、クロウさんも一緒に来てくれ」
ロペスが足を止め、目の前の建物を指す。
色々と考えている内に、どうやらたどり着いたようだ。
「おお、なかなかの大きさ」
二階建ての大きな石造りの建物で、扉の上にはこの世界の言語で『冒険者ギルド:ラージャ支部』と看板が掛けられている。
そして開いた扉の先には大勢の人の姿。
皆何カ所かある窓口に大量に並んでおり、かなりの混雑模様であった。
「これがギルドか……」
ロペスたちと同じ冒険者なのだろう。
鎧や剣などを装備しているが、何より目を引いたのはその多彩ぶり。
男女を問わず、年齢もまだ少年というべき者から初老に入ったくらいの者まで。
頭から犬やウサギの耳のようなものを出している獣人や、耳の突き出たエルフと呼ばれる亜人種。
全身が緑色のリザードマンや背の小さいドワーフなどが、みな列をなして自分の順番を待っていた。
「こういう様々な人種を見るのは本当に久しぶりだ……」
多くの人々を見て感動していると、こちらに気づいた冒険者たちは一斉に後ろへ引き、波が引くように自分たちに奥への道を空けていく。
「ん? なんで道を開けてくれるんだ」
「ふふっ、私たち『暁の旅路』はラージャで一番上のA級冒険者のパーティーなんだけど、今回受けた依頼は緊急性が高くて、他の冒険者には私たちの行動を最優先にって通達してあるのよ。だからみんな先に通してくれるって訳」
「なるほど、分かりやすい説明をどうもレイナさん」
「どういたしまして」
デスベアーと戦っていたときの連携も確かに鮮やかだったし、相当な実力者だったんだな。
「すまねえ、ゴッツはいるか?」
ロペスは窓口に座る女性に話しかけた。
「しょっ少々お待ちください! すぐに呼んで参ります!」
四人の身なりを見た女性は慌てて席を立ち、奥の部屋へと入っていく。
そのすぐ後には、かなりの巨体である男性がロペスたちのところへとやって来た。
「ロペス、お前たちがそんなにボロボロっていうことは、やはり?」
「ああ、ここでは言いにくい。お前の部屋に通してくれないか?」
「それは構わないんだが……そこの人は?」
ゴッツと呼ばれた男性がいぶかしげにこちらを見る。
「この人は大丈夫……いや、いなけりゃ話にならん。身元は俺が保証するから頼む」
「お前が言うんなら……分かった、じゃあ一緒に入ってきてくれ」
受付の机をくぐり、自分たちはゴッツに連れられて先ほどの奥の部屋へと通された。
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