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神様の再就職~異世界にて最強冒険者にジョブチェンジします!~  作者: コウリン
第一章 仕事に疲れたなら、異世界へ
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第四話 「暁の旅路」との出会い

「今助けてやるからな」


 血が流れ続ける傷口に手を当てる。

 瞬く間に右手が真っ赤に染まるが気にしない。


「あっあんた……」


 鎧の男性が悲痛な顔でこちらを見ていたので、ニッコリと笑顔を返す。


 今のところ、ステータスに表示しておいた回復魔法で中級なのはこの魔法。

 だが力の込め具合がまだよく分かっていない以上、先ほどのファイアーボールみたいに過剰な力を注ぎこまないようギリギリまで力は抑えておく。


「ミドルヒール」


 手がまばゆく光り、女性の傷がみるみる塞がっていく。

 同時に、それを見た三人の顔にはどんどん喜びの色が満ちあふれていった。

 

「私……生きてる?」


「ああ! レイナ!」


 すっかり生気を取り戻した女性が上半身を起こす。

 私がスッと後ろに下がると、黒い服の女性が涙を流しながら抱きついた。 


「良かった……本当に良かった……レイナが死ななくて」


「私も……みんな無事で本当に良かった」


 レイナという女性と黒い服の女性は抱き合っていたが、ふと我に返ったレイナが自分の胸元を見る。


「あっ……きゃっ!」


 傷が消えたせいで、裂けた服から白い肌と胸があらわになってしまっており、慌てて女性は両手で隠し、黒い服の女性はつけていたマントを外して掛けていた。


 男性二人はその光景に笑いつつ、みんなで助かったことを喜んでいたが、しばらくすると自分の存在を思い出したようで、一斉にこちらを振り返った。


「なんとか助けられてよかったよ」


 四人を安心させるようにもう一度ニッコリと笑った。 


「あっあんた、回復魔法も使えたのか」

 

 鎧の男性がワナワナと震えている。


「一応は……ね」


「一体、あんたは何者なんだ?」


「さっきも言ったけど、俺はクロウ。通りすがりの旅の者だ。それ以上もそれ以下もないよ」


「本当は名のある魔法使いとかじゃないのか?」


 もう一人の男性が恐る恐る尋ねてくる。


「そんな大層な者じゃないさ」


 探りを入れてくるような言葉を、笑顔とともに爽やかにかわす。

 女性たちもこちらに対してなにかを言おうとしたが、鎧の男性が大きく息を吐きつつ手でその動きを制した。


「まぁなんにせよ、あんたのおかげで俺たちもレイナも助かったんだ、まずは礼を言わなきゃなんねえ。ありがとよ」


「助けてくれてありがとよ」


「ありがとうね」


「ありがとうございます。あなたと出会えたのも、女神ウルダのご加護があったにちがいありません」


 四人が一斉に頭を下げる。


「よしてくれよ。これは俺の自己満足のようなものだ。あんたらが助かって本当に良かったと思ってるよ」


 こうやって真摯にお礼を言われるのもなんだか久しぶりの感覚。

 仕事をしていた時は、感謝どころか舌打ちや不平不満ばかり聞かされていた気しかしない。


 四人からの感謝の言葉に胸を熱くしたが、同時に黒い服の女性から出た女神の名前に不安が沸き起こる。


 まずいな……ここの管理はウルダか。

 もしかしなくてもあいつだろうなあ……ウルダなんて名前は他に聞いたことないし。

 正直あいつ苦手だから、ますます見つからないよう気をつけないと。

 

「おっと自己紹介がまだだったな、俺はロペス。重戦士で、俺たち四人の冒険者パーティー『暁の旅路』のリーダーをやってる」


「俺はジョセフ。剣士だ」


「私はレイナ。槍術士よ」


「私はミーシャと言います。魔法使いで主に水属性を使います」


 四人の挨拶に対し、こちらも自己紹介で返す。


「改めてどうも、俺はクロウっていう名前で火属性と回復の魔法が使える」


「クロウさん、本当にあんたには助かった。なにかお礼をしたいんだが、実はさっきデスベアーに襲われた時に装備をほとんど失っちまったんだ」


 ロペスが申し訳なさそうに頭を下げる。


 確かに、四人ともボロボロの姿で誰もカバンや袋などの荷物は持っていない。

 それだけあのデスベアーという熊と激戦だったということだろう。

 

「俺たちが拠点にしている街に戻ればいくらか蓄えはある。だから無事戻れたときに……」


「別にお礼なんていらないよ」


 静かに首を振った


「え?」


 その言葉にロペスだけでなく、他の三人も思わずポカンと口を開けてしまっている。


「さっきも言ったけど俺は自己満足であんたらを助けただけ。決して見返りが欲しかったわけじゃない。あんたらが助かったことが、俺にとっての報酬さ」


「そっそんな!」


 言葉を返そうとしたロペスを、私は手で制した。


「いいんだよ、本当に」


 優しさと頑なな意志を込めつつ言葉を締めた。


 ロペスはそれ以上言っても無駄だと悟ったようで、再び大きく頭を下げた。


「すまない……本当にすまない」

 

 小さく身体を震わせ、涙を流すロペス。

 それからひとしきり泣いた後、涙を拭いてこちらを見た。


「それで、クロウさん。あんたはこの後どうするんだ?」


「そうだなあ……気ままな旅をしつつ、いいとこがあれば移住しようと思っていたから、特にどこに行くとかはまだ決めてない」


「それなら俺たちの拠点であるラージャに来てくれよ! お礼……いや、俺たち四人で生還祝いをするんで、せっかくだから知り合ったあんたにも是非一緒に祝ってくれると嬉しいんだが?」


 懇願するようなロペスの真剣な表情。


「そうだな……じゃあありがたくお邪魔させてもらうとしよう」


 まぁ、そこまで言ってくれるなら断るわけにはいかないよな。


 その言葉に四人はワッと歓声を上げた。

 

「それじゃあ早速戻るとしよう! ここからなら大体三時間ほどで着くはずだ!」


 ジョセフが喜び勇んで立ち上がり、他の三人も一斉に立ち上がる。


「ん? ……おっおい! あれ見ろよ!」


 そんな時、ジョセフが先ほどまでデスベアーが居た場所を指さす。

 その場所は魔法のおかげで草一本もなく、未だに煙がくすぶっており、キレイなすり鉢状に地面がえぐれている。 

 そしてその中心には黒く輝く、両手で抱えるくらいの巨大な石が一つ転がっていた。


「ありゃ……魔石だ! あんな黒くて大きなのを見たのは久しぶりだぜ!」


「すごい……あれくらいだといくらくらいになりそうなの? ミーシャ」


「正確には分かりませんが……おそらく白金貨百枚以上は確実かと」


 四人が一斉に色めき立つ。


「すまん……魔石ってなんだ?」


 本の内容をまだ完全には把握していなかったせいで、魔石がなんなのか分からないため仕方なく尋ねる。


「えっ! クロウさん、魔石を知らないのか!?」


「ああ、そういうものを見たことがない環境で育ったものでな」


「一体どういう環境なんだ? あんたの住んでいたところは……まぁいいや、魔石っていうのは手にした者の魔力を増幅させ、魔法の威力や使える回数を大幅に上げてくれるもんだ。ほら、ミーシャの杖の先にもあるやつだな」


 ロペスが言うと、ミーシャが杖を掲げた。

 見れば確かに、杖の先には薄い青色の魔石がはめ込まれている。


「そして、その効果も色が濃ければ濃いほど上がるものなんだ。透明から青、赤、紫と徐々に色が変わっていって、最高品質は黒色なんだよ」


 なるほど、つまりこの石は最も効果の高い魔石ということか。


「黒色でこんな巨大な魔石なんてずいぶん前に王都で見たとき以来だ。あん時は確かでかいドラゴンを倒したときに手に入れたとかで、王様がわざわざ手に持って掲げていたからな」


「多分、ラージャに持って行ったら大騒ぎになるぜ、きっと」


「それよりも、私たちカバンも落としてしまった以上、運ぶ手段がないわよ? まぁ持っていたとしてもこんな大きな魔石、カバンに入りきれるとは思えないけどね」


「でも、このまま置いて帰るのもまずいですよね……せっかくクロウさんが手に入れた物ですし」


 四人が頭を悩ませているのを見て、自分につけた魔法の一つを思い出す。


「ああ、だったら俺が持って行くよ」


「え?」


 不思議がる四人を尻目に、魔石に近づいて本で見た魔法を唱える。


「ストレージ」


 その瞬間、魔石は掲げた自分の手の前に現れた異空間へ吸い込まれていき、影も形も無くなっていた。


「えええぇぇぇぇ!?」


 四人は絶叫に近い驚きの声を上げた。


「あっあんた……空間魔法まで使えるのか?」


「ああ、そうだが?」


 そんなにすごい魔法なのか?

 神だったときも似たようなの使ってて、ゴミ箱代わりに要らないものをポイポイ投げ込んでいたから特に気にも留めずに選んじゃったけど。 


「一応はって……その魔法が使えるのは世界でも数人ほどってしか聞いてないんだが」


 げっ、それはまずい。

 やっぱり本の内容はしっかり把握しておくべきだな。


「あはは……これは秘密にしておいてくれ」

 

 わざとらしく指を口に当てる。


「ははっ……あんたが自分は魔王なんですって告白してきても、俺はもう驚かないぜ?」


 ジョセフが乾いた笑い声を出した。


「とにかくだ、このまま森の中にいても危険だし、早くラージャに戻ろう」


 ロペスは皆を促して足早に街への帰り道を急ぐ。


 ふう、ちょっと危ない場面もあったが、どうにかこの場は収まったか。

 街へ着いたらとっとと本の内容を頭に入れておかないとなあ。


 キレイな隊列を組んで歩く四人を後ろから見つつ、街に着いたらどうするかということをじっくりと考えることにした。


作品を閲覧いただきありがとうございます。


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