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第7話


「おい! 起きろ若造!!」


 微睡みの中にいる俺の耳へ、お爺さんの叫び声が聞こえてくる。

 俺が居る建物の外からだ。


「うぐぅ……。誰だよ…」


 ゴワゴワとした毛布を除けて俺は起きた。


 現在、俺がいるのは与えられた空き家である。1LKの平屋と言う感じの構造であるこの空き家には何もなく、据え置きの竈と流し台しかなかった。

 あとは塵のつもった床だけである。


 昨夜、そこへ俺はボロい毛布1枚と共に放り込まれ、心の中で待遇悪すぎだろと悪態を付きながらも、何やかんやで毛布に包まって気持ちよく眠っていたのだ。


 扉や窓の嵌め込む場所には、まだ何も無くポッカリと穴が空いているのだが、その扉のところから一人の爺さんが顔を覗かせている。

 寝ぼけ眼で見ながらも、コイツが騒音の犯人だと俺は理解した。


「お爺さん。なんの御用っすか? 徘徊してる訳じゃないっすよね」


「ワシは徘徊するほどボケてねぇ! お前の稽古をつけてやるためにワシはわざわざ来てやってんだぞ! 普通はそっちが出向く立場だろうに待ちくたびれてこっちから来ちまったわ!」


 何にも話を聞いていないので出向きようが無いのだが、どうやらこのお爺さんが俺の指南役であるらしかった。


 アルギュロスとは違ってかなりヨボヨボで、腰は少し猫背。

 顔はシワだらけで目は長く伸びた眉毛に隠れていた。

 

 ちなみにハゲである。


 なんにしても俺の師匠である。礼を尽くさなければ。


「あっ、それは失礼しました! 俺の名前はヤマザト リューマ! 宜しくお願いします!」


「そんなもん知っとるわバカタレ! さっさと稽古に行くぞ!」


 せっかちで短気そうな爺さんである。そっちの名前を知らないからこっちは名乗った訳なのだが…。

 だが、そんな事よりも気になる事がある。


「稽古の前に何か食べたいんですけど。俺、昨日から何も食べてないんですよ」


「そんなもんは移動しながら済ませろ! なんで飯を食うお前をワシが待たないといけねぇんだ!」


「いや、何にも食べるもの無いんすよ。なんかアルギュロスさんから聞いてません?」


「ん…? あぁ! 忘れてた! ほら、パンだ! それじゃ食いながら向かうぞ若造! ついてこい!」


 肩に担いでいる袋から爺さんはパンを2つ出して俺へ手渡すと、前へ進んでいった。

 いや、適当すぎない…?

 

 声のでかい爺さんに不安を覚えながらも、俺は後をついて行った。

 周りの住人の視線が痛い。




 ☆ ★ ☆ ★


 爺さんに連れられて来た場所は、町から少し外れた見晴らしの良い原っぱだった。

 俺が登ってきた岩の端っこのようで、200メートルほど先には崖が見える。忘れていたが、あの町はマチュピチュのように高い場所にびっしりと立ち並ぶ町なのであった。


「ほれ! これを持て若造!」


 爺さんから木刀を渡される。


「良いか! お前が今から学ぶ剣術は大きく分けて3つの要素からなる!」


 いきなりすぎてビックリしたが、どうやら稽古は始まっているらしい。

 俺は佇まいを正した。


「1つ目は【流】! 相手から自分への力を受け流す術だ!」


 おぉ、なんかそれっぽい講義が始まったぞ。

 俺は爺さんの話を必死に記憶しようと努めた。


「2つ目は【剛】! 破壊の力を相手へ上手く叩きつける術! そして3つ目は【気】! 【流】と【剛】をより高等なものへ昇華させる体内エネルギーの操作術! 【流】【剛】【気】! これら3つの要素からなるこの剣術こそが、あらゆる敵を打ち砕く最強剣術なのだ!」


 最強剣術!!!


 俺は目を輝かせる。

 メチャクチャそれっぽいじゃねぇか!


 目を輝かせる俺を他所に、爺さんは袋の中からもう一本木刀を出すと、こう言った。


「さっそく【剛】と【気】をワシが実践して見せてやる! 【流】は受け流す相手の力が無いと出来ないから後だ!」


 近くにあった手頃な岩へ歩いていく爺さん。


「何やっとるんだ若造! 近くに来て見ろ!」


「お、おす!」


 俺は爺さんと岩の近くへ小走りで向かった。


 近くへ俺が来ると、爺さんは講義を続行する。


「良いか! これが【剛】を使わない攻撃!」


 爺さんがスコン!と軽く木刀で岩を殴る。当たり前だが、岩には何も起こらなかった。


「そして! これが【剛】を使った攻撃だ!」


 先程と同じように爺さんはスコン!と軽く木刀で岩を殴った。

 すると、驚くべき事が起きた。


 ビシッ!と岩の半ばまで大きな亀裂が入ったのだ。


 こ…これが…【剛】の力……。


 年寄りがしたとすれば凄い…のか?


 うん…。すごいな…。たぶん…。


「驚くのはまだ早いぞ! ちょっと下がっとれ!」


 爺さんに言われた通り俺は岩から10メートルほど離れた。


「そしてこれが…【剛】と【気】を使った高等攻撃!」


 1回目や2回目と同じように爺さんは木刀を振り下ろしたのだが、今回はスコン!なんて可愛い音は響かなかった。

 木刀が岩へ叩きつけられた途端、岩が爆散したのだ。


 ボゴォン!と言う音ともに土煙が上がる。


「」


 あんまりな光景にニの句を告げず、唖然と立ち尽くす俺の周りへ小さな瓦礫がパラパラと降り注ぐ。


 土煙が晴れると、そこで木刀を振り切った姿勢の爺さんがコチラを見てニヤッと笑った。


「ずげぇだろ?」


 そんなクールな爺さんを見て俺は叫ぶ。


「すげぇぇぇえええぇぇぇ!!!」


「かっけぇだろ?」


「かっけぇぇぇえええぇぇぇ!!!」


「やべぇだろ?」


「やべぇぇぇえええぇぇぇ!!!」


 興奮しまくる俺へ気を良くしたように爺さんは、今のを俺へやるように手頃な岩を指差して促してくる。


「ほれ! 若造もやってみろ! ワシがお前くらいの時は挑戦して2、3回目くらいで出来た! なにせワシは天才だったからな! ガハハハハくっ…ゲホっゲホッ……うぐっ噎せたわ」


 爺さんの言っていることを半分聞き流しながら、俺は岩の前まで来て木刀をギュッと握りしめていた。


 よーし、やってみるか。

 俺には取得した剣術の才能スキルがあるだろうから、たぶん上手く行くだろう。

 というより上手く行ってくれ!


 俺は木刀を振り上げて、岩が爆散するのをイメージしながら木刀を振り下ろした。


「はあッ!!!」


 ボキンッ!


 岩へ叩きつけられた木刀はし折れて、俺が手に持つ柄の部分以外が木片を飛び散らせて飛んでいった。


 岩を見ると当たった所が少し削れたくらいで、大した変化はない。


「あれ?」


 おいおいスキルよ起動しろ。まさか不良品だった訳ではあるまいな。


「それは力いっぱい殴ってるだけだろうがバカタレ! 力なんていらん! もっと衝撃を岩へ浸透させる感じでやれ!」


「おす!」


 そう言って爺さんは持っていた木刀を俺へ手渡してくる。


 それを受け取りながら俺は今の爺さんの言葉を頭の中で反芻させた。


 衝撃を浸透させる感じ……衝撃を浸透させる感じ……。


 俺は再び岩へ向かって木刀を振り上げて、爺さんが岩を殴った時の様子を思い出しながら木刀を振り下ろした。

 木刀を圧し折らないように先程よりも力は抑えめだ。


 ボコンッ!


 岩へ木刀が当たると、まるでビスケットの塊を殴っているかのように岩を砕きながら木刀はめり込んで行った。


 気付くと岩は6つほどの塊へ砕けていた。


 お、おぉ……出来た。

 【気】を使っていないせいか、爺さんのように爆散とまではいかなかったが、充分な威力なのではなかろうか。


「出来ましたよ!」


 俺がにこやかに報告しながら振り向くと、爺さんは口をあんぐりと開け鼻水を垂らしながら、こちらを見ていた。


 え……いや、何なんだよ。そのリアクションは。

 アンタ若い頃は2、3回で成功させたんだろ。


「う、うむ……。さすがだ。ま、まぁ…ワシが教えたんだから当然の結果だろうがな。ガハハ…ガハ…」


「この後は【気】の修行すかね?」


 鼻水を垂らしながら、初めて静かに話す爺さんへ俺が質問すると2拍ほど空けて返事が返ってくる。


「い、いや……。ワシは急用を思い出したんで今日はこの辺にしておいてやろう」


「は、はぁ…」


「まぁ……適当に自分の家でも掃除しておけ」


 そう言って爺さんはスタスタと町の方へ帰っていった。


 なんだろうか……。まぁ、こう言う時はこう言っておこう。


「また俺なんかやっちゃいましたかね?」


 まだ中天にも登っていないお日様が眩しかった。

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