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第6話


 建物の中は石室の中のようで、昼間なのにランプに火が灯っていて少し薄暗かった。


 カルコスが奥の扉の向こうへ行ってからしばらくすると、一人の老人が出てきた。

 その後ろにはカルコスも居る。


「お主らが来訪者か」


 質素な服から覗く身体が骨ばった白髪の老人だ。齢は60を超えていそうである。


 しかしその姿は決してヨボヨボに衰えている訳では無い。

 背筋はピンと伸びていて、茶色い瞳から反射される眼光は鋭かった。

 全身からは気迫と威厳のようなものを感じられてしまい、思わずとも姿勢を正してしまう。


 そして腰には、ここまでに見た剣の一族と言われる彼等と同じく、一振りの剣が下げられていた。


「俺が族長である剣老だ。名はアルギュロスと言う」


 名乗ってきた剣老アルギュロスに、俺と少女も同時に名乗り返そうとするが、手で制される。


「いや、良い。お主らの名前はせがれから聞いている。男衆の方がリューマ。女衆の方がシュメラ。相違ないだろう?」


 俺と少女はコクリと同時に頷いた。

 さっきからコイツとは息があっているようなので癪である。


「ふむ…。なんでも、お主らはここへ用があるとか。倅からある程度の話は聞いたが、改めてお主らの口からその事を、この剣老アルギュロスへ聞かせて貰おう。なにぶん、一族全体の運命を委ねられている身だ。部外者は場合によっては追い出さねばならん」


 アルギュロスのその言葉に生唾を飲み込む。

 追い出すって、もしかしてあの森の中へ置き去りにされたりしてしまうのだろうか。流石にそれは困る。


 俺が緊張で口を引き結んでいると、隣に立つ少女が言葉を紡ぎ出す。


「私は…ここへ剣を学びに来ました。世界最高と伝承に名高い貴方達の剣術をぜひ私へご教授して下さい」


 ペコリと最後に少女は深々と頭を下げた。


 少女の後頭部を見下ろしながらアルギュロスは口を開いた。


「我ら剣の一族が人里離れたこの場所へ移り住んだ理由の1つには、殺人剣術ともなり得る我らの危険な技術を一族から漏らしてはならない、と言う考えもあってのことだ。つまり一族ではないお主には、我らの秘術は相伝できん」


 少女の握る拳にギリリと力がはいるのを俺は見た。


 アルギュロスは焦らすように一拍おいて続ける。


「しかし、そのような掟は長い時の間に形骸化してしまったのも事実。伝え聞く話によれば、過去に一族ではない者が我らの秘術を学んだ例もあるようだ」


「では……!!」


 少女がガバリと頭を上げる。

 その顔は喜色に染まっていた。


「いや、まだ話は終わっていない」


 そこへアルギュロスが水を差した。


「全てを決めるのはこの剣老アルギュロスだ。なぜ我らの秘術を相伝したいのか、それを聞きたい。その理由の如何によっては教えることは出来ん。俺は危険な者へそれを授けるほど愚かではない」


 少女を見つめるアルギュロスの鋭い瞳は、どのような嘘も見逃さないと強く語っていた。


 それを聞いた少女は少し困った表情で話し始める。


「私は…強くなりたい……。どこまでも、誰よりも…強くなりたい……。ただ、強くなりたい……。……それだけです…」


「最強を目指すというのか…? 理由などなく、ただ愚直にそれを目指しているだけだと言いたいのか…?」


 少女は合点がいった顔をして、コクリと頷く。


「最強……。そう…最強です…。強くなった先。ただひたすらに敵を打ち倒し続けた先が最強であるのなら……私は、最強になりたい」


 アルギュロスは「そうか……」と難しい顔をした。

 そしてしばらくした後、ゆっくりと口を開いた。


「幸いにもお主の願いは、この環境の中にあれば叶うものかもしれん。この森を超え、平原を超えた先にある巨大な山には、打ち倒せれば最強を名乗るに相応しい化物が何体か存在する。若者の無垢な願いを無碍にするのも酷だろう。よって、お主が我らの秘術を習得することを、俺は認めよう」


 少女の顔が文字通りパーッと明るくなる。


 正直、コイツが単純に最強になりたいなんて無垢な願いを抱いているとは俺には到底思えないが、ここのリーダーであるアルギュロスの決定だし俺は何も言わん。

 実は何か言いたいけど、怖いから何も言えんだけだけどな!


 コイツ俺のこと斬りつけてきたヤバイ奴なんで止めといたほうが良いっすよ。なんて中学生みたいな事、この空気では言えん!



「ありがとうございます!」


 再び、頭を深々と下げる少女にアルギュロスは続けた。


「ただしシュメラよ。お主は生涯、この森の外を抜けて人里へ降りることを禁ずる」


 ピクリと少女の身体が硬直する。


「強大な力を持った人間が、非力な人間達に紛れて生活をする。結末は不幸なものになる可能性が高いだろう。最強になるだけならば、不都合がある訳でもないと見てこの条件は飲んでもらう」


 しばらくの間が空き、少女は条件を受け入れた。


「……。……分かりました」


 少女の表情は頭を深く下げているため見えなかった。

 

 その様子を見て、俺はナイスだと思った。正直、この女が力を手に入れたら試し斬りとか言ってそこらへんの一般人を斬り殺したりしそうなものであるからだ。

 アルギュロスの決定は英断に違いない。


 一生をこの里で過ごすとかザマァ、とも思ってたりする。


 俺がそんな事を考えていると、アルギュロスの質問がこちらへ向く。


「して、リューマといったか。お主はこの里へどのような要件なんだ?」


 俺はアルギュロスの方へゆっくりと視線を向けた。

 後ろにいるカルコスと共にこちらをジッと見つめている。


 ドッと流れる冷や汗。


 やべぇ…! 少女の方に気を取られすぎて何も考えてなかったわ。

 下手なことを言えば追い出される未来しか見えない!


 俺は頭を真っ白にしながら見切り発車気味に理由を話した。


「いや…実は森で迷っちゃって帰り方が分からないんで。出来ればここに置いて貰えれば有り難い……的な? さらに言えば簡単なもので良いんで剣術を教えて頂ければ有り難い…みたいな。まぁ…うん…そんな感じです…ハイ…」


 シーンと辺りを包む静寂。

 

 いや、我ながら適当すぎんだろコレ。門外不出らしい剣術を扱う里にこんなんで置いて貰える訳ねぇ!


 少女の少し呆れたような視線を横目に感じ取りながら、俺はすでにこの静寂のなか、森をどう抜けるかと言う算段を立て始めていた。


 まずは干し肉とか貰って……そんでもってあと水……。 


 全てを悟った表情をしている俺をアルギュロスは爪先から頭の先まで一瞥したあと、適当な感じで一言。


「まぁ、良いだろう。リューマにも我らの秘術の相伝を認める」


 ですよね〜。これからどうす…ん?


 え? 認める? ファッ!?


 え!? なにがどうなってるん!?


 シュメラとか言う少女にはメッチャ恭しかったやん!


 一族ではないお主には、我らの秘術は相伝できん(キリッ)

 とか言ってたじゃん!


 まさかの展開に唖然とする俺。


「今日はもう遅い。剣の指南は明日からとしよう。空き家を与えるからそこで明日へ備えると良い。カルコス、適当な空き家へ案内してやってくれ」


「おう。了解した」


 あんまりな展開に少女が俺の方へ眼を剥いてくる。


 いや、賄賂なんて使ってませんよ。



Q:なんで主人公はステータス閲覧を使わないの?


A:適当アホだから忘れてます

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