第5話
勢いよく完結してしまいそうな自己紹介が終わり、俺とシュメラと名乗る少女は、剣老と呼ばれるこの集落の長の元へ案内して貰う事となった。
案内するのはもちろん、俺達を森からここまで連れてきたカルコスである。本人の自己紹介によれば、ここの町長的立ち位置である剣老の1人息子らしい。
そんな重要人物と異世界へ来て早々にファーストコンタクトを取れるとは俺も運が良い。
え? このシュメラとか言う赤毛の少女? コイツに限ってはノーカンだろ。
なにせ俺のことを何回も斬りつけて来た女だ。コミュニケーションの取れない野生動物と変わらん。
この少女に関しては異世界人とのコンタクトというよりダーウィンが来ただ。
今後、自分のことはモリゾーだと思ってこの野生動物のことを観察しながらケチを付けて行きたいと俺は思う。
そんな事を考えながら剣老の元まで向かう道中。
目につくのはこの石で出来た町並みだ。
石で出来た建築物はレンガなどを積み上げたような繋ぎ目がなく、また泥で固めたような跡も見えない。
だから恐らく、これらの建築物は俺が登ってきた岩を削って出来たのだろうと思った。
俺は案内してもらっている道中、これらの町並みについてカルコスに思わず尋ねた。
「なぁ、カルコス。この町はアンタらが作ったのか? 岩を削って出来てるみたいだけど、よく失敗しないで削りきったな」
「ん? あぁ、この町が物珍しいか? 確かに外界への見識がある俺から見ても狂ってるとしか思えない建築方式だもんな。いや、外界への見識がある俺だからそう感じるんだろう。まぁ、なんにせよ。ここについては俺達も殆ど何も知らない」
俺達、と。自分以外の里の人間も知らないことを臭わせるカルコス。
それはとても不思議なことであると俺は感じた。
「何も分からないのか? でも、ここが剣の里って言われてると言うことはカルコス達が建てたんだろ?」
「移住ですね?」
俺の疑問にカルコスが答える前に、シュメラとか言う横耳を立てていた少女が割って入ってくる。
俺の顔は今、大嫌いなパクチーを罰ゲームで食えと言われたかのような表情をしていることだろう。
いや、お前剣老のとこまで黙って歩けや。コイツが会話に入ってくる度に顔芸のようなこの表情を披露することになるのは流石に疲れるんだが。
俺のことなどよそに、そのまま少女は続ける。
「およそ400年前に剣の一族は今は亡き、とある亡国の辺境からここオズロ大樹海へと移り住んだと書物で読みました」
「まぁ、そんなとこだ。俺の爺さんが言うには、ここは元々大昔からあった遺跡らしく、そこへ俺達が勝手に住み着いたんだと。なんでここへ移り住んだのかは知らねぇがな」
少女の薀蓄をカルコスが肯定すると、少女は馬鹿にしたような顔で……と言うより、完全に馬鹿にした顔で俺の方を見た。
「つまり剣の一族の住む場所が剣の里。だからここを彼等が建てたとは限らない、と言うことよ。満足したかしら? 勉強になったわねリョーマ君」
え…!? なんなの!? めっさマウント取ってくるんですけどこの女!!
しかも馴れ馴れしく下の名前呼びで間違えてるし!!
俺の名前はリョーマじゃなくてリューマだし!!
薩長同盟の立役者みたいな名前じゃないし!!(怒)
俺は何か言い返そうとするものの、頭に血が登りすぎて何も思い浮かばない。
やばい。自分でも頬のあたりがプルプル震えてることが自覚できてしまう。
カルコスは、ホントに仲良いいなお前ら。みたいな事を言ってヘラヘラ笑っているが笑い事ではない。
殺人未遂の相手に挑発されてこちとら顔真っ赤である。
「あら? 癇に障ってしまったようね。でもその怒りはお角違いと言うものだわ。私へではなく無知だった自分へその感情はぶつけるべきよ」
顔真っ赤にしてプルプルと震える俺へ人を馬鹿にした済まし顔で、なおも追撃をかましてくる少女。
思わず俺は少女へ向かって指を指して言った。
「うっせー!!! ブス!!!」
ピクリと少女の眉が強張った。
それを無視して続ける。
「そもそもそんなこと言うなら俺へ何回も切りかかってきたお前の怒りもお角違いだろうがよ! 俺みたいな素人に何回も避けられたからって逆上しやがって! 当てられない自分へ怒れ!」
俺の言葉を聞いた少女が目尻を上げ、剣の柄に手をかけた。
「あの回避はまぐれだったと言うことを証明してあげるわ」
ピリピリとした雰囲気を少女は放出させる少女に俺も身構えるが、ここでカルコスが俺達へ止めに入る。
「お二人さん。仲が良すぎて戯れ合うのは構わないがあっちを見ろ。もう目的地は目の前だ」
カルコスが呆れた表情でヒョイヒョイと指を指す方向には大きな建物があった。
他の建造物と変わらず、それも岩を削って出来た建物であるらしいが、一際立派であることは違っている。
その建物はマヤのピラミッドのような形状をしていて、ちょっとした商業ビルくらいの大きさがあった。
もはやここまで来ると、この場所は世界遺産をリスペクトしているとしか思えない。