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第4話


「おいおい……これは…痴情のもつれってやつか? せっかく助けてやったんだから喧嘩するなよ」

 

 避けることに集中していたから全く気が付かなかった。

 いつの間にかそこに立っていた男は少しだけ眉を顰め、呆れたようにそう言った。


 歳は40は行っているだろうか。

 赤褐色の髪と瞳を持つ中年男は質素な服を着ていたが、それと非対称にゴテゴテとした不思議なデザインをした剣を腰に下げている。

 180センチは超えているだろう恵体に鍛えられている事が分かる引き締まった身体。

 無造作に伸ばした髪は後ろで結ばれ、顎には無精髭。

 そして顔立ちは整っていて、その風貌と相まってワイルドでダンディなオッサンと言う印象であった。


「痴情のもつれ…? よく見ろ。俺が一方的にやられてただろうが。これは殺人未遂だぞ」


 少女の方へ向けられていた男の視線がコチラを向く。


 気怠そうな瞳。

 しかしその視線から俺は男の底知れない強さを直感した。


 その時に理解する。

 間違いない。先程の気配の塊のような何かを飛ばしてきたのはこの男だ。

 よく見れば、男が立っている場所は俺と狼が視線を向けていた方向だった。


「言っておくが、痴情のもつれが殺人未遂に発展するのはよくある事だぜ?」


 いや、アンタ痴情のもつれ何度経験したんだよ。


 そんな言葉を俺は飲み込む。

 敵意は無いようだが、この男が先程の気配の塊の主である以上は油断は出来ない。


 俺が男を見つめて押し黙っていると、少女が口を開いた。


「貴方、何者…? コイツもそうだったけど何故こんな場所に人が居るのかしら」


 コイツって俺のことかよ。馴れ馴れしいなオイ。


「そりゃあ、俺がこの樹海の中にある集落に住んでるからだな。今は散歩兼食料調達の最中だった訳だが…」


 そう言った男が俺と少女へ一回ずつ視線を向ける。


「全く同じセリフを俺もお前らに投げかけたいぜ。集落以外の人間を見るのは10年ぶりだ」


 それを聞いた少女がハッと息を飲んだ。

 そして何かを理解した少女は口角を吊り上げる。


「そう…辿り着いたのね…。貴方が言う集落とは、剣の里と呼ばれる秘境里ではありませんか?」


 突然、畏まった口調を取る少女。お前そんな言葉使えたのな。

 少女の質問に男の瞳が何処か遠くを見つめた。


「懐かしいなその呼び名。俺達からすれば名の無い集落なんだが……確かに外からはそう呼ばれている。剣の里と」


 そしてフッ…と男は笑うと、少女へ背を向けた。


「剣の里へ用があるんだろ? 案内してやる。付いて来い」


 そのまま歩き出す男。

 少女が剣を収めて無言で付いて行ったので、俺も戸惑いながら男の背を追った。


 いや、なんなんだ。この海外ドラマにありそうな展開は……。


 それにしても剣の里…。少しだけ話には聞いていたが、少女の目的の場所である。

 分からない事だらけだが、どうせ行く宛も無いので剣の里とやらへ俺は向かうことにする。


 この少女と一緒と言う事に不安は尽きないのだが、選択肢はそれしか無かった。




 ☆ ★ ☆ ★


 30分は歩いただろうか。

 道中は三人とも無言だった。


 そうして森を歩いていると、森が開けて目の前に何かが見えた。


「登るぞ」


 およそ30分ぶりに口を開いたおっさん。


 目の前にあったのは巨大な岩だった。

 それはオーストラリアにあるエアーズロックのように堂々と鎮座していて、森の中にある事へ違和感すら覚える。


 所々から苔や草木が茂る巨大な岩。それを削って出来た階段をおっさんと少女が登って行くので、俺も置いて行かれないように登って行った。


 本当に人里があるのだろうか。そんなことを考えて10分ほどかけて登ると、畑が目に入った。

 岩を切り開いて作られた段々畑のようで、異世界特有の聞いたことも無いような野菜らしきものが栽培されている。


 この岩の上に人里があるのは本当だったようだ。


 こんなところに集落があるなんて流石異世界。略してさすいせ。


 やがて少しもしないうちに頂上へと到達した。頂上は平らで、地面は岩肌ではなく土だった。


 だが、驚くべきはそこでは無い。


「着いたぞ。ここがお前らの言うところの剣の里だ」


 目の前には石造りの町が広がっていた。

 恐らく元からあった岩肌を削って作られたであろう家々が俺達の前には並び立っている。


 そして、こちらへ好奇の視線を向けてくる数人の人間。

 手には何かの入った籠を持っていたりして、生活感の感じられる人々だ。


 そして彼等には共通点があった。

 まず、全員が腰に剣を下げている。年齢や性別に関係なく全員が装備しているのだ。女性や子供は小振りな剣であったりはするものの、そこに例外は無かった。


 さらには瞳の色や髪の色が茶色に近い。そう言えばおっさんも髪や瞳が赤褐色をしている。

 このクソ女が赤い髪色をしていることから、そう言う民族なのかも知れない。


 俺がジロジロと観察していると、一人の男が前に出てきた。


「カルコス。そいつ等は誰なんだ?」


 その男は好奇と言うより不審なものを見るような眼で俺と少女を見ていた。

 警戒心は高そうである。


「あぁ、なんでもここに用があるらしいから連れて来た。名前は……そう言えば聞いてなかった」


「名前も知らない奴を連れてきたってのかよ。なんて奴だお前は」

 

 そんなやり取りをしたおっさん…もといカルコスはこの場では部外者である俺と少女に名前を訪ねてきた。

 そう言えば、俺もこの少女の名前を知らない。


 そんな事を考えていると、少女がペコリと一礼する。

 そのお辞儀は意外にも様になっていて優雅に見えた。


「私の名前はシュメラ・ヴァンクリーフと言います。どうぞよろしくお願いします」


 少女の自己紹介が終わるとこちらへ視線が集中する。


 ほーん。この女の名前はシュメラ・ヴァンクリーフとか言うのか…。厨二くさ(笑)。とか考えていたのだから完全に不意打ちだった。


 視線の集中砲火に急かされた俺は慌てて自己紹介をする。


「っと…俺はヤマザト リューマ! ヤマザトは姓で名前はリューマです! よろしく!」


 まさか俺みたいな陰キャが俺は○○!よろしくな!、みたいな感じで自己紹介する羽目になるとは思わんかった。


 ちなみに、この言語を使う人達の姓がラストネームになっていると分かったのは全言語理解のお陰である。

 地味にチートスキルな全言語理解。


 なんにせよ、やっと異世界生活らしい第一歩だ。


 そう! ここから俺の冒険は始まる!!


 終


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