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第3話


 俺の足元を掬い上げるような剣筋が迫る。


 咄嗟にバックステップを踏んで俺は少女の剣筋を回避する。

 身体能力のお陰で後ろ向きでも3メートルは跳べた。強化スキルさまさまである。


 それにしても危なかった。一瞬でも気付くのが遅れていたら俺の足は胴体からさようならになっていたに違いない。


 俺は少女のことを睨み付ける。


「いったい何のつもりだ?」


 蹴り飛ばして来たことと言い、この女は明確に俺の敵だ。

 俺を剣の里へ連れて行く気になったのも、恐らく俺を遭遇したモンスターへの身代わりにする気だったのだろう。


「やはりここに居る時点で只者では無かったようね。私の不意打ちを見切るなんて普通じゃないわ」


「そんな事は質問していない! いい加減にブチ切れるぞ!」


 俺が叫んだ途端、狼が影から飛び掛かってくる。

 どうやら、仲間割れしたように見える俺達の様子を好機と踏んだらしい。


 俺は少女から距離を取りつつ、飛び掛かってくる狼を回避する。

 すると、今度は別の方向から違う狼が飛び掛かって来た。

 それを回避すると、また違う方向から別の狼が飛び掛かってくる。


 狼達は一斉に攻めてくるのではなく、時間差で一撃離脱する作戦を取ったらしい。

 獣の癖に知恵が回ることだ。


 実際、一斉に攻めて来てくれた方がドサクサに紛れて包囲を突破出来る可能性が高かったので、やり辛いことこの上ない。

 終わりの見えない狼達の攻撃にスタミナを消費させられ、1回でも回避に失敗すれば袋叩きにされてしまう現実が精神を摩耗する。


 少女の方を見れば、狼に俺と同じ戦法を取られているようで、顔に焦りを浮かべていた。

 地面には狼の死体が何体か転がっているが、流石に控えている全てを倒す自信はないようだ。


 この群れを撃退できないとなると、生存への道は逃げの1択しか無くなる。

 俺は一か八かで駆け出そうとするが、その瞬間に悍ましくて荒々しい気配の塊のような何かがこの戦場を駆け抜けていった。


 全身の肌が泡立ち、強い恐怖を感じる。

 こんな恐怖は異世界に来て以来…と言うよりも強化スキルを取得して以来始めて感じるものだった。


 俺が気配の塊のような何かが飛んで来た方向を向くと同時に、狼達も耳をピンと立ててそちらを一斉に見た。

 攻撃は止まっているが、全く安心は出来ない。


 新たな脅威……いや、狼以上の脅威がそこに存在しているのだ。


「何が起こったというの…?」


 狼からの猛攻が突然止まり、状況を掴めていない少女が辺りを見回している。

 狼と俺には分かったが、少女は何も感じなかったらしい。


「……向こうに何かヤバイのが居る」


「何かやばい……? もう少し語彙力を鍛える事を推奨するわ」


 狼に警戒しながらも少女は毒を吐いた。

 この女は筋金入りである。


「狼の群れよりもヤバそうなのは確かだ」


 俺がそう言っている間に、気配の塊を飛ばしてきた奴がコチラへ近づいて来る音が聞こえた。

 その音に狼達は耳をピクリと動かすと、1匹…また1匹と背を向けて駆け出し、最後の方には群れとなってこの場から逃げていった。


 その様子を見て俺も逃げ出そうとするが、少女に剣を向けられる。


「待ちなさい! 何処へ行くつもり!?」


「何処って…! 逃げるんだよ!!」


「そんなこと許す訳ないでしょう! 貴方は私の肉壁になってもらうわ!」


 少女が俺の同行を許したのは、やはりモンスターへの身代わりにするためだったらしい。

 さっき俺の脚を突然斬ろうとしたのも、俺を動けなくして狼達への生贄にするためだったのは想像に難くない。


「やっぱりそれが目的だったな! ふざけるな!アイツのヤバさが分からないのか!!」


 俺はそう叫んで、少女の横をフェイントを掛けつつ抜けようとするが、剣で斬られそうになり後ろへ下がる事となった。

 正面にはこの少女。後ろからはヤバイ奴。横へ逃げようにも少女が斬りかかってくる。見事に詰みだ。


「誰が相手でも私は斬り伏せる。今までも…これからも…。それはグリーンウルフの群れが尻尾を巻いて逃げ出すほどの相手でも例外ではないわ」


 少女が暗い笑みを浮かべながら臭いセリフを言った。

 本当に頭へ来るからやめて欲しい。


「知らねぇよ! 俺をお前の考えに巻き込むな!!」


「そう……。ならばここで死になさい!!」


 少女が俺へ上段から斬りかかって来る。


 凄い速度だ…! だが見える!!


 俺は半身になって少女の剣を紙一重で回避し、バックステップを踏んで剣の間合いから出た。

 俺の頬を玉のような汗が滴っていく。


 本当に速かった…! 人の…いや、生物の出せる剣速ではない。強化系のスキルを取っていなかったら俺は間違いなく縦に真っ二つになっていただろう。


「なぜ俺へ斬りかかる!? 殺すくらいなら逃げたって構わないだろうが!!」


「これで3回目ね…。貴方、素人の癖に私の剣を何回も躱して頭に来るの。いい加減に斬りつけないと私の気が収まらないわ」


 そう言ってまた斬りつけてくる少女。


 今度は素早い踏み込みからの横なぎ!


 俺はそれもしゃがんで回避し、少女の横を前転して通り抜けて行く。

 くそが!俺は某モンスターを狩るハンターじゃないんだぞ!


 そのまま立ち上がると身を翻し、バックステップ。

 既に振り返っている少女の剣が俺の顔面すれすれを通り過ぎていった。


 そのまま息をする間も無い程の少女の猛攻が始まる。


 右上段からの斬り下げ。フェイントの入った剣筋。3連発の突き。返す剣での跳ね上がるような斬りつけ。


 そのどれもを俺は危機一髪の紙一重で躱していった。


【回避術のスキルを取得しました】


 ピコン、と言う音と共に機械的な謎のメッセージが流れてきたが、今はそれどころでは無いので無視する。


 少女が苛立たしげに叫ぶ。


「貴方……いい加減にしなさいっ!」


「それは俺のセリフだ!!」


 目が慣れたせいか、余裕を持って少女の剣を回避できるようになった頃、何者かに声を掛けられた。


「おいおい……これは…痴情のもつれってやつか? せっかく助けてやったんだから喧嘩するなよ」


 第三者の声に少女の猛攻が止まる。


 俺は声のした方を向くと、そこには無精髭を生やした一人の男が居た。



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