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第2話


 相変わらず不気味な生物の鳴き声の響く森を俺は歩いて行く。


 背中に剣を突き付けられながら……。


「そこの木のところで右に行きなさい」


「………」


 俺は黙って少女に従って右に曲がった。


 かれこれ、こんな調子で1時間は歩き続けたのではなかろうか。

 強化系スキルのお陰か、肉体的にも精神的にもあまり疲れはないのだが、いい加減にして欲しかった。


「なぁ…普通に歩かないか? こんなことしてても移動速度も遅くなるし余計に疲れるし…」


「貴方は黙って従いなさい」


 道中、剣の里やこの森の詳細も聞けなかったし、この少女が何を考えているのかも、どんな名前なのかも不明である。

 ヒロイン第一号とか思ってごめんなさい。こんな女はこちらから願い下げだっつーの。


「剣の里とやらにはまだ着かないのか? 結構歩いたと思うが…」


 俺の質問に少女は剣とは違う手に持ったコンパスのような物を確認すると、簡素に答えた。


「もう少しだと思うわ……恐らく……」


 その言葉を聞いた俺はピタリと立ち止まる。

 すると少女が後ろから俺の首筋に剣先を突き付けた。


「歩き続けなさい。警告するけれど私の辞書に容赦と言う言葉は無いわよ」


「そんなことは知っとるっつの。そんな事よりも何かが凄い速度でこっちに向かって来てないか?」


 さっきからドタドタと何かが地面を蹴る音が聞こえてくるのだ。音源は後方から。

 かなりヤバそう。そんな予感が俺を襲っている。


 俺の言葉を聞いた少女も耳を澄ませ、辺りを見回した。

 

「後ろから……。貴方、私に背を向けたまま後ろへ周りなさい」


 俺は彼女の言うとおりに音のする方へ身体を向けながらも抗議する。


「こんなことしてる場合じゃないと思うんだがどう思う?」


「……。……」


 俺の言葉に無言で返す少女。なおも剣は向けてきたままだ。

 どうやら俺を壁に使う気らしい。俺を剣の里へ案内する気になったのも、これが目的だったのかも知れない。


 くそっ……いっそ隙を見つけて逃げ出すか?


 こんな状況であっても現実は無情なようで、危機はすぐそこまで迫ってきていた。


 現れたのは「グルルルル……」と言う唸り声を上げる狼だ。

 木々の影からこちらの隙を伺うように見つめてきている。


 狼なら死ぬ気でやれば対処できるかも知れない。

 考えようによっては犬と同じだし、少女は剣を持っていて俺はスキルで通常の25倍の身体能力だ。


 しかし、そんな考えは一発で吹き飛ばされた。


「こいつ…デカイな……」


 この狼。体毛が黒に近い深緑色なのだが、異世界的な特徴はそこだけでは無い。

 狼としては見たことがないデカさなのである。目測で馬や牛以上の大きさはあるだろう。

 噛みつかれれば身体の3分の1はバッサリと持っていかれてしまいそうだ。


 おかしい…異世界最初にエンカウントする敵はゴブリンと相場が決まっているはずなのだが、この少女と言い俺の異世界生活はテンプレートからはずれているのだろうか。


 やはり俺の異世界生活は間違っている。


「おい。マジでどうするんだ」


「グリーンウルフ……。判定は2級危険種…なのだけれど、この大きさからして準1級はいっていそうね」


 いや、そんな何級危険種だとか異世界の設定を急に持ち出されても分からんわ。

 単純に考えれば1級が頂点でコイツは上から1番目クラスの強さってことだろうか。

 なんにせよ、この危機をどうにか乗り越えなくては。


「分かった俺に考えがある。お前が右で俺が左。1、2の3でダッシュするぞ。もうこれしかない」


 俺はこの少女と別れられるし、狼も撒けるかもしれない。

 樹海を一人で彷徨うことになるが、この少女と一刻も早く別れることが最優先だ。

 剣の里も近いらしいしシラミつぶしで森を探索すれば何とかなると信じる。


「じゃ、いくぞ?1…2の3!」


 3!、と俺が叫んで左へダッシュしようとした瞬間、後ろから背中を何かに強く押される。

 俺は瞬時に理解した。


 この女……! 俺を狼の方へ蹴り飛ばしやがった!!


 俺は前方へたたらを踏んで蹴り出される。

 体制を崩した俺へ、好機とばかりに狼がその巨体で飛び掛かってきた。

 心臓が跳ね上がるように鼓動を刻んだ。


 飛びかかってきた狼に伸し掛かられ、地面へ背中を打ち付ける俺。

 しかし冷静にも俺は飛びかかられた瞬間に狼の首を掴み、噛み付かれる目前で止めることに成功していた。


 「ガグゥ!ガグゥ!」と目の前で開いたり閉じたりされる狼の口。

 覗かせる牙を見るに噛みつかれたら、ひとたまりもないことは明らかだ。

 俺の横っ面を狼の爪が引っかく。


 クソ…凄い力だ…! 気を抜いたら噛みつかれて死ぬ!!


「おい! クソあま! 蹴り飛ばした事は水に流してやるからコイツをその剣でどうにかしろ!」


「まさか寸での所で止めるとはね……。少し目を見張ってしまったわ」


「馬鹿! 冷静に分析するな! ガチで洒落にならねぇっつの!」


 俺の叫びに少女は狼の横っ腹の方へ移動すると、両手で剣を振り上げた。


「……。はぁっ…!!」


 少女の気合と共にサンっ…と言う音がすると、噛み付こうとする狼の力が一気に無くなった。

 足元が何かで濡れている事が分かる。


 冷や汗が今更ながらにドワっと全身から吹き出した。


「ふぅ……マジで死ぬかと思ったわ」


 俺は動かなくなった狼の巨体を横へと投げるようにしてどかす。

 ただし、動いたのは上半身だけだ。


 ボテボテと血にまみれた内臓が辺りに滑り落ちる。


 上体を上げて足元を見ると、狼の血で濡れたズボンと……鮮やかな断面を見せる取り残された下半身。

 狼の下半身からは内臓などか溢れているが、大きな胴体がパックリと両断されている事にはCGを見ているような違和感を覚えた。

 20にならない少女がこの光景を作り出すとは、流石すぎる異世界クオリティ。


「……もう少し綺麗に出来なかったのかよ。俺のズボンが赤黒く染色されてるんだが。これ一張羅なんだぞ」


 俺は立ち上がりながらそう言った。

 こんなグロい光景を見せつけられているのにヒエッ…くらいにしか思えなくて強化スキル凄えわ。

 

「貴方の言うとおり何とかしてあげたのだから文句を言わないでちょうだい」


 いや、そもそも貴方が俺を蹴り飛ばした事が原因なんですけどね。

 俺はその言葉を飲み込んだ。今はこの状況を何とかしなければならない。


 剣を振って血を弾いている少女に俺は警戒を促した。


「おい…。たぶんまだ終わりじゃないぞ?」


 俺がそう言うと周囲の木々の影からさっきと同じ狼がゾロゾロと出てきた。

 先程の狼は威力偵察といったところなのだろうか?


 360度。完璧に囲まれている。


 最初の足音から何匹かいる事は分かっていたが、まさかこれ程とは……。狼の数は50匹は下らないだろう。

 常識的に考えれば狼は群れるもの。それは異世界でも変わらないようだ。


「くっ…多いわね……」


 状況に気が付いた少女が忌々しげに表情を歪めた。


 全ては武器を所持しているこの少女に掛かっている。

 俺は希望を見るように少女へ目を向けると、少女は俺の足元を掬うように剣を振り切る所であった。


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