プロローグ
俺は現在、不可思議な体験に遭遇していた。
夢かと思い、すでにテンプレよろしく自分の頬を思いっきり抓ってやったが、めっちゃ痛いだけだった。
今もヒリヒリしている。
まさかこんな事に18歳で巻き込まれようとは思いもしない。
中学二年生くらいのときは思ったような気もするが、それは病気だから例外だ。
俺は頭の中で現実逃避をしながら周囲を見渡す。
俺が座っているのは見慣れない教室に配置されたイスで、周りには老若男女、多種多様な人間が俺と同じように困惑して座席に座っている。
席を立とうとしたり、何か喋ろうとすると、身体が硬直して何も出来ない。
何気にこの感覚に病みつきになり俺はさっきから何度もやっていた。
暇つぶしである。
何故、こんな事になっているか。
それを語るには余りにも情報が少なすぎるが、自分が出来る範囲で説明するとこうだ。
俺は朝の満員電車に乗っている通学途中、急に強い衝撃が車内を走ったと思ったら浮遊感を感じていて、気がついたらここにいた。
何を言っているか分からないと思うが、自分でも何を言っているか分からない。
まさか俺が、あの瞬間のポル〇レフに共感できる日がこようとは。
なんてくだらない事を考えているうちに、状況に変化が訪れる。
教室に備え付けられているスピーカーにカチリとスイッチが入ったのだ。
ビーとノイズの響く教室。
皆、いったいなんだ。とそちらの方に首を向けた。
「諸君らには異世界に行ってもらう」
抑揚の無いダンディなおっさんの声が聞こえる。
は? 異世界ってあの異世界?
突如とした衝撃的な宣告に俺は唖然とする。
マジか。受験勉強めっちゃ頑張ったのに意味ねーじゃん。
「質問は3つまで受け取る。疑問を念じろ」
カチリ。スピーカーのスイッチが切れる。
俺は直ちに言われた通りに念じる。
(異世界に剣と魔法とエルフは存在しますか)
質問って個人に付き三つまでなのだろうか。それとも教室全体で三つなのだろうか。
まぁ、考えても分かる事ではないけど……。
1分くらいして、カチリとスイッチが入る。
「異世界に剣と魔法とエルフが存在するか、と言う疑問の答えだが、剣と魔法はある。そしてエルフもいる」
お~。俺の疑問だ。
まさか一回目からとはすごい偶然もあるものだ。
この質問は適当に念じた訳だが、よくよく考えたら使える情報だな。
なぜなら、異世界が鉄と硝煙の世界なんて事もあるかも知れないからだ。
「次の二つ目の帰る手段はあるのか、と言う質問の答えだが、転移魔法を極めれば理論的には可能だとは言っておこう」
帰りたい奴がおるんか。真面目やなぁ……。
それはそうと、質問は早い者順で教室全体のようだな。
俺みたいに速攻で答えたアホがいるとは思えないから間違いない。
「そして、最後の何故自分達が行くのか、と言う質問の答えだが、諸君らが私にとって都合の良い時間帯、都合の良い空間座標にいたからである。また、異世界へ送る理由は定められた世界の運命を乱すためだと答えておく。以上だ」
運命……。まぁ、異世界の人からしたら俺達は本来ならばいない存在になる訳だから、定まってるんだとしたら、そりゃあ乱れる。
最も、コイツが乱したがる理由は分からないが。
「さて、諸君らには私から祝福を授けよう。時を圧縮しているとは言え、時間がない。三十分以内で選択して欲しい」
そう言うと、ピコンと机の上にフォログラムのように半透明の板が現れ、黒板には三十分のタイマーがどデカく浮かび上がった。
もう始まっているようで、刻一刻と時間は減っていた。
周りを見ると、板は浮かび上がっておらず、虚空を集中して見ている人もいる事から板は自分でしか見えない事が分かる。
祝福? チートの事か? まぁ、送ってもすぐに死なれたら運命があまり乱れなくて困るだろうし、普通そうするか。
それにしても時間がないと言いつつ選ばせてくれるのは中々太っ腹な奴だ。
俺はそう思いながら板を見た。
どうやらステータス式のようである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:山里竜馬
Lv: 1
-ステータス-
筋力:11
敏捷:10
耐久:8
器用:14
知能:9
知覚:10
生命:12
魔力:0
精神:32
運:15
-スキル一覧-
・ステータス閲覧:Lv-
残りスキルポイント:500
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
えぇ!? 低っ!! 魔力低くない!?
0って、どう考えても低い方だよね!?
てか、低いってよりか適正なしだよね!?
確かに魔法は使ったことないけど、これは酷すぎるだろ……。
異世界と言えば魔法!もしくは器用貧乏で最強!が俺には出来ないのか…。
それと、どうやらこのスキルポイントを消費してスキルを取得したりするらしい。
まぁ、取り敢えず取得できるスキルを見ていくか。
そうして俺はスキルの一覧を開いた。
スキルを選ぶことにした俺は、逸る心を押さえ込み魔法や武器系統のスキルより先に言語取得の欄を探し始めた。
見落としがちになるが、異世界で日本語が通じる道理は無い。
言葉が通じないがためにジェスチャーで異世界を渡り歩くはめになるのは勘弁だ。
発見した言語一覧という項目をタップする。
アルーヌ語、オルバス語、テキータ語、オルバス大陸ゴブリン語、セルロ語、ドイツ語、古代ヒルロ語……ate
うん。細分化されすぎだろ。
以下は多すぎて文字通り数え切れない程にあり、俺はちょっと眩暈がした。
オルバス大陸ゴブリン語? 古代ヒルロ語?
魔物の話す言葉の分布地域から言語の時系列まで分けてんのかよ。
しかもドイツ語が混じっているのを見るに、ひょっとしたらこれから行く世界には存在しない言語まで混じっているのかも知れなかった。
言語と言うものは武器の技能なんて比では無い程に深く広いようだ。
一応アルーヌ語とか言うのをタッチして詳細を読む。
アルーヌ語:レマーヌ暦124年ver。消費ステータスポイント1。第136番世界13-7-82座標に存在する第三種知的生命体活動圏で使用されている言語。使用種族第16892番。使用人口約350万人。総発声種類32種類。文字媒体表音式。時系1786-9016-12地点でヘルブス語から分岐。彼らの歴史的にはーー。
俺はそこで詳細を読むのを辞めた。
そして、一番上の方にあった『全言語理解』というスキルを無言で取得する。
消費ポイントは200であり、全ポイントの5分の2を持っていく大喰らい。衝動的に取得したが、言語の数からすればかなりお得だし、使う機会は多いはずだ。
俺はそう割り切る。
次は他のスキルを見ていく事にした。
スキルは魔法系統や武術系統などざっくばらんにカテゴリ分けされていて、各スキルは言語スキルのように細分化されているモノは少なかった。
テンプレ通りの剣術、風魔法みたいな感じに表示されている。
向こうにも色々な流派があるだろうに適当だと思うが、正直ホッとする。
流石に言語スキルのように全てが細分化されていたら困ってしまう。
さて。早速、何を取得するか考えていくこととするがその前に、自分がどう言う事が出来るようになりたいのか考えるとしよう。
スキルが細分化されていないとは言え、それでも多すぎて選びながら考えるには時間が足りなすぎる。
そう思った俺は成りたい自分がなんなのか考える。
すると、あっさりとイメージが浮かび上がる。
参考にするのは自分の身長がコンプレックスな国家錬金術師だ。
俺は手のひらをパンと勢い良く合わせ、何かを錬成する自分を思い浮かべる。
う〜ん。なかなか悪くないね。
そして、腕とか足が千切れてしまった時は「持ってかれた……!」の名言。
う〜ん。カッコイイけど痛いのはなぁ……。
やっぱり戦う錬金術師はなしで。
俺はその後も考え続け、自分のスタイルを華とロマンがある魔法使いにする事に決める。
しかし魔力の値がゼロだった事を思い出した俺は、魔力を取得するスキルを探し、その尽くが消費ポイントが高かったために魔法使いを諦める。
えーい。こうなったら適当にやってやる。
なるようになれだ。
そうしてスキルを選ぶのが面倒になってきた俺は、無難なスタンダード剣士をイメージしてスキルを取っていった。
ん?適当すぎないかって?
安心しろ。よく言われる。
以下が、俺が選んでいったスキルの要所だけを、分かりやすーく理解したものである。
ステータス閲覧:Lv- 消費ポイント0
最初から入っていたスキルであり、発動条件を満たせば相手の能力を数値化したものが見れる。恐らく教室のみんなが持っているスキル。ちなみにみんな大好き鑑定先生とは違い、生物のステータスしかみれない。それでも便利ではある。
全言語理解:Lv- 消費ポイント200
文字通りすべての言語が読み書き出来て、聞いて話す事ができるらしい。ただし『アルーヌ語』などの限定的な細分化されたスキルとは違い、熟語や表現の由来や、それに伴う言語を使用してる民族の歴史や文化などの知識は入って来ないと詳細にはある。しかし問題はないので特に欠点は無いスキルだ。
剣の才能:Lv- 消費ポイント100
説明はメッチャ簡素で「剣の扱いに絶大な才能を得る」としか書かれていない。適当オブ適当だが、それを選んだ俺も大概である。
身体強化:Lv25 消費ポイント25
文字通り身体が強化されるスキル。筋肉や骨だけではなく、脳を含んだ神経系や免疫力まで強化されるらしい。お得だねっ!
感覚強化:Lv25 消費ポイント25
ここで言う感覚とは第六感的なあれらしい。第六感的なあれが何かは分からないが、魔力なんてものが存在するファンタジー世界に行くんだからたぶん役立つだろう(適当)。
直感強化:Lv25 消費ポイント25
文字通り直感が強化されるスキル。場にある情報や経験から最適な答えへ瞬時に導かれるらしい。ようするに咄嗟の機転が効きやすくなる的な感じだと理解している。
精神強化:Lv25 消費ポイント25
精神力が上がる。不安や恐怖をコントロールしやすくなるようだ。戦闘にビビっていたら異世界生活は送れない。
目利き:Lv1 消費ポイント100
皆さん同じみである鑑定先生の下位互換。物質が纏うオーラの色や雰囲気が見えるようになり、その物の価値や危険性を判断できるらしい。
こんな感じで単純な脳筋剣士タイプになってしまったが、まぁ何とかなるだろうと俺は思っている。
何事もなるようになるのだ。
以下がスキルを取っていった関係で変化したステータスである。
ちなみに強化系スキルは1ポイントにつき1レベルだった。レベルの上限は不明だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:花澤竜馬
Lv: 1
-ステータス-
筋力:261(+250)
敏捷:260(+250)
耐久:258(+250)
器用:764(+250+500)
知能:9
知覚:760(+250+500)
生命:262(+250)
魔力:0
精神:782(+750)
運:15
-スキル一覧-
・ステータス閲覧:Lv-
・剣の才能:Lv-
・身体強化:Lv25
・感覚強化:Lv25
・直感強化:Lv25
・精神強化:Lv25
・目利き:Lv1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
う〜ん。このステータスは脳筋。
俺の筋力が成人男性の平均だとしたら、今の俺はその26倍の腕力を誇る事になってしまう。
こうなると知能と魔力がしょぼく見えてくる。
流石異世界クオリティ。
こうして比較的パッパと決めていったせいで俺には10分程の時間が余った。
その時間を使って椅子から立ち上がろうとすると身体が硬直してしまう感覚で俺が遊んでいると、カチリとスピーカーにスイッチが入る。
「諸君。時間だ」
俺が黒板に浮かび上がっていたタイマーを見ると、そこには動かない0の数字があった。