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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~新米女神としての生活と神界の神々~
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第88話

「……どうやら大輝たちが、このビルに入ってきたね」

「そうみたいだな」


私同様に気配を感じ取って、ロヴンが青い顔をする。

そこまで怯えなくても、別にソールに会いに行こうなんて言ってないんだけどなぁ。

それに、これはもっと怯えさせるかもしれないから言わないけど、おそらくソールは私たちの気配に気づいているはずだ。


あのソールが呑気にただただデートだけを楽しんでいるとは考えにくいし、何より大輝に害が及ばないかとか、そういう意味でも警戒をしているだろう。

私はなるべく気を付ける様にしていたが、ロヴンは呑気に人間界の食べ物に舌鼓を打っているし、漏れる神力に気づいていたとして何も不思議なことはない。


「何処行こうとしてるのかな」

「ただ暑いから涼しいところ、って思っただけってことは?」


朋美が言ったことは、可能性としてはゼロではないけど、限りなくゼロに近いだろう。

あの通りの生活をしているソールが、こんなにも動き回って疲れを感じないとは思えない。

もうじき空も暗くなってくる時間でもあるし、大輝は何か土産というか思い出になるものでも探しにきたのではないだろうか。


「それはないんじゃないかな。多分ソールって、毎日それなりに規則正しい生活してるだろうし、そろそろオネムの時間だったりするかもしれないから」

「ってことは……帰る準備してるってことか?」

「んー……まぁ、この後多分ソールは帰ると思うんだよね。普段あんまり動いてなさそうだし。愛しの息子に会ってはしゃいで、人間界で普段味わうことのない刺激を受けて……ってソールからしたら珍しいことばっかりだと思うし。疲れてても不思議じゃないでしょ」

「なるほど……ということは、何かお土産的なものでも持たせるつもりなのかしら」


さすがに明日香は鋭い。

みんなも明日香の言葉にそれはあり得る、と同調してやはり遠くからこっそりと見ていこう、ということになった。

私たちがいる喫茶店は割と上の階にあって、大輝たちは丁度一階と私たちのいる階の間程度の場所にいる様だった。


「……何か甘い匂いがするな」

「お前、さっきパフェ食べたばっかりだろ……」


ロヴンがその鋭い嗅覚をフルに発揮して、甘い匂いの元を嗅ぎ付ける。

しかしそれは食べ物とか飲み物の匂いなどではなく、香水の匂いであることが売り場からわかった。


「これは……?」

「香水か。確かに甘い匂いするな。テスターあるな」


こう見えて、というのは余計かもしれないが女子力高めの愛美さんは、普段それなりに化粧だってするし、たまに香水をつけてきたりする。

だからなのか、テスターの扱い方も特に戸惑ったりすることなくごくごく自然にその匂いを試していた。

一方和歌さんは一切化粧っ気のない美人さん。


これ、どうやるんだ?とか桜子に聞いてる時点でどうかとは思ったが、桜子は何故かちゃんと知っている様で丁寧に教えてあげていた。


「これ、飲み物じゃないのか?」

「……まぁ、飲んで飲めないことはないんじゃないか?」


愛美さんが先日の大輝の騒動の時の様な悪い顔をする。

なのに誰も止めないのは、やっぱり同じ様なことを考えているからなのだろう。


「ほらロヴン、口開けて」

「ん?こうか?」


あーん、とか言いながらロヴンが口を開けたところに、テスターを勢いよく噴射。

メガネから目が飛び出しそうな勢いで目を見開いたロヴンは、その場で床にゴロゴロと転がって口を押さえながらのたうち回った。

馬鹿め、安易に人を信用するからそうなるのだ……というのはさすがに性格悪すぎるな。


「うごおほほおおぉぉ……な、なんだこれは……は、鼻が……口の中が気持ち悪い……うおおおおぉぉ……」


みんなが一斉に吹き出して、やりすぎだよ、なんて言っているがどう見ても一人の女を全員でいじめている構図にしか見えない。

それに周りの迷惑になりそうなので、涙目で転がり回るロヴンを立たせることにした。


「スルーズ、貴様……」

「あー、悪かった悪かった。ほら、これでもう大丈夫だろ。あとこっちでは睦月。おーけい?」


どうにも哀れで見ていられないので、仕方なく神力で鼻と口の中を元通りにしてやることにする。

しかしこれはまた想像以上のリアクションだったな。


「貴様、本当に悪いと思ってるのか!?」


くわっと目を見開いて、ロヴンが掴みかかってきそうだったので、私はとっておきの一言を放つことにした。


「だーから悪かったって。あとでまた何か買ってやるよ」


まだ文句を言い足りない、という様子のロヴンだったが何か買ってやる、という一言に一瞬で機嫌を良くする。

さっきまで烈火のごとく怒り狂っていたくせに、現金な神もいたもんだ。


「あ、それより大輝くんたちの様子は?」

「おっと、そうだった」


ついつい面白いことをしてくれるもんだから、一瞬とは言え大輝のことを忘れてしまった。

幸いまだ大輝たちはビルの中にいる様だ。

まぁ見逃したからって死んじゃう、なんてこともないから本当なら慌てる様なことではないのだが、やはり気にはなる。



「ジュエリーショップ……?」


朋美が早くもヤキモチ全開の表情で二人を見る。

確かに食べ物じゃ食べたらなくなっちゃうし、形の残るものを、と考えるとわからなくはない。


「朋美、落ち着いて……別に結婚指輪選んでるわけでもないんだろうから」

「いや……何かソールがとんでもないこと言ってるけど」

「この母と婚姻を?とか言ってるな」

「はぁ!?実の親子でしょ、あの二人!」

「どうどう……大輝の方はそんなつもりなさそうにしか見えないだろ」


愛美さんが朋美の頭に手を置いて、年長者らしく宥めている。

私とロヴンが聞いた会話は、少なくとも普通の親子でする会話ではないと思う。

そして朋美にそれを話したら、何となく騒ぎになって大輝にもバレてしまいそうなので、詳しい内容は伏せておくことにしよう。


大輝とソールがあまりにも同じ顔すぎて、店員さんも何となく困惑している様に見える。

コピーかクローンかってくらい似ていれば、まぁそうなるよね。

ましてソールはあの見た目だし、大輝と親子になんかまず見えるはずがない。


ゲスいことを言うのであれば、双子が禁断の愛を育んでいる、みたいな感じに見られてもおかしくないかもしれない。

もちろんこんな考察も、朋美には言えないが。


結局気になったデザインのものを試着して、大輝はネックレスを買うことにした様だ。

それを見た朋美と明日香は、二人して悔しそうな顔をしている。


「……私たち、あんなのもらったことないわよね」

「……そうだね。いくら母親相手だからって、ちょっとずるいと思うんだけど」

「まぁまぁ落ち着いて……高校生の財力で、私たち全員にジュエリーとかさすがに厳しいと思うよ?」


桜子も思うところがないわけではないのだろうが、二人の様に悔しがったりはしていない。

一番小さいのに、案外しっかりしているんだなぁと思う。

もちろん私だって、ソールがちょっとだけ羨ましいとは思う。


しかし親などいない、と思い込んでいた大輝の、たった一人の肉親。

なのであれば、大輝のしていることは善意でしかないのだから、邪魔をする道理もないだろう。

二人を何とかみんなで宥めて、そんな様子をロヴンは不思議そうな顔で見ている。


「お前たちは、あの大輝とソールが怪しく見えるのか?」

「はぁ!?そんなわけないでしょ!さすがに大輝にだってちゃんとした倫理観はあるわよ!」

「私もさすがにそこまでのことを考えているわけではないけど……ただ、羨ましいって言うだけよ。見苦しいところを見せてしまってごめんなさい」

「いや……私が仕事をしているヴァナヘイムでは昔、近親間での……」

「あーロヴン、その話は今しちゃダメ。言いたいことはわかるけど、美味しい物食べたかったら黙ろうか」

「…………」


昔のヴァナヘイムの話なんかされたらそれこそ、朋美は発狂するに違いない。

そうなれば当然のごとく、この尾行自体がご破算になってしまう。


「あ、出てくるよ」


あくまでも冷静な姿勢を貫いている桜子が、二人の動きを敏感に察知する。

どうやら私の推測通り、これから帰ることになりそうだ。

二人は一階へ向かって歩いている。


「となると、尾行もこれで終了か?」


和歌さんが楽しかった、という満足気な顔で尋ねてくるが、きちんと最後まで見届けてこその尾行だと私は思う。

というわけで、私たちは駅ビルの中から二人の様子を見ることにした。

厳密には一階の入り口、内側から全員で貼り付いて。


「ああ、やっぱり帰るみたいだね。ソール、すごい寂しそうな顔してない?」

「どんだけ息子好きなんだよあの母親……もはや親子愛の範囲超えてんだろ」

「大輝は何となく戸惑ってるけど……まぁ一線超えたりはしないでしょ、さすがに」

「きっかけがあれば、人間なんて何をするかわからないものだけどね」


せっかくいい感じにまとめたつもりだったのに、明日香はまだ少しあの二人を疑わしく思っているのだろうか。

と思ったのだが、私も思わず脅威を感じる様なことを、大輝の口から聞いた。

来週、風呂で背中を流す……だと……?


「何だ、大輝はソールと……むぐっ!?」


またも余計なことを言おうとしたロヴンの口元を右手で力強く押さえ込んで、私は怒りにも似た嫉妬の感情を必死に堪える。

この私が必死で我慢しているんだ、台無しにしてもらっては困る……!


「ああ!ちょっと、大輝キスされてない!?」


朋美が小さく叫び、あくまでおでこに、ではあるが確かに全員それは見た。

ロヴンの顔色がちょっとおかしくなってきたのでとりあえず手を離してやって、深呼吸する。

未だ、ロヴンからすると何が不思議なのかわからない様だが、いずれまた人間界の倫理については教えてやった方がいいかもしれない。


「落ち着け朋美……あれはおでこにだろう?本番がしたかったらあとでいくらでもしてやればいいじゃないか。それにほら、もうソールいなくなってるぞ」


和歌さんが言った通り、大輝のおでこにキスをしたソールの姿はない。

一瞬ソールとはちらっと目が合ったし、そのままドヤ顔で神界へと帰って行ったのだろう。

そして大輝も一人帰るか、とか呟いて駅に向かって歩き出す。


「そうよね……ふふ、あとで……ふふふ」

「…………」


ダークなオーラに包まれた朋美を見て、さすがのロヴンも恐怖を感じたのか今日のところは帰ると言い出した。

また奢ってくれ、なんてちゃっかりと言い残して、それでも満足そうな顔をしていたから、お礼自体はそれなりに出来たのかもしれない。

しれないが……にしてもソールは来週親子で風呂とな……どうしてくれようか。


「そんじゃま……朋美も大輝を待ち構えたいだろうから、私たちも帰りますか」


朋美だけでなく、私の秘めた不穏な空気までも感じ取ったのか、朋美と私とを交互に見て、桜子が慌てた様に切り出す。

先回りしておきたいというのは確かにあるし、何よりも……お風呂。

来週ソールとお風呂、ということなら私も今週……寧ろ今日!


聞きたいことが沢山あるし、私も大輝を待ち構える為にみんなを一斉に私のマンションまでワープさせた。

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