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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~新米女神としての生活と神界の神々~
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第82話

「大輝、準備はいい?」

「ああ……ドキドキするな」


日中、私たちは井原さんから衝撃の事実を告げられた。

元々井原さんの家は小さな会社を経営していて、生活水準もそれなりのレベルだったという。

もちろん高校進学から大学進学に至るまで、費用等の心配もないと思われていた。


しかし何の前触れも兆候もなく、二か月ほど前に井原さんの父は倒れた。

血を吐いたりするのではなく、突然意識を失ってそれ以来今でも目を覚ましていない。

後日井原さんの父は、診断の結果脳卒中であることがわかった。


会社の社長を務めていた父が倒れたことで会社の経営が心配されたが、井原さんの母が社長付きの役員でもあったために会社の存続そのものの危機は回避されたという。

しかし、どんな会社にもクズみたいなことを考えるやつはいるらしく、井原さんの母はそのクズみたいなやつ……厳密には役員の一人の策略で追い込まれる羽目になった。

それというのも、井原さんの母は家事もある程度できる様にと社長である父から出退勤について融通を利かせてもらっていたという事実がある。


それ自体を面白く思わない人間は当然いて、それが今回の事件の首謀者と繋がっていた。

今年の春先に新入社員の歓迎会的な催しがあって、その催しには井原さんも参加していたらしい。

その時に、井原さんは一人の男に見初められてしまった。


その男というのが、日中井原さんに追い込みをかけていたうちの一人で、現社長の息子なのだという。

社長代理として父の不在にも頑張ってきた井原母だったが、役員会で解任動議が可決されてしまい、その座を追われてしまった。

理由としては、家事をしながらでは社長の代理など務まらず、いずれ会社を再び危機に陥れる懸念がある、というものだ。


もちろん働けなくなるのは困るだろうと、温情の様な感じで井原母は会社に残ることができたので、仕事そのものがなくなってしまったわけではないが、待遇としては以前までと比べ物にならないほど悪いものになってしまった。

そしてその後釜についたのが、先ほどの男の父親、ということになる。

ある日地元でその男に再会した井原さんは、熱烈にアプローチをかけられた。


もちろん彼氏持ちであることもあって、最初からまともに相手にしていなかったが、日を追うごとにアプローチは過熱して行って、とうとう日中の様なことになったという話だった。

それだけゲスい親子なら、何か叩けば埃が出るだろうということで、今私と大輝はその会社の屋上にやってきている。

時刻は夜の九時を回ったところだ。


「今回は神力講習中級ね。私がやり方見せるから、なるべく頭に記憶して」

「お、おう……って中級?まだ俺初心者も初心者なんだけど」


私たちがここでやることは大まかに二つ。

一つは社長及び代理の解任動議の会議資料や議事録そのものの抹消及び改ざん、そして新社長就任の記録や記憶の消去。

ひとまずはそれだけで十分だろうと考えた。


セキュリティのしっかりした大きな会社であっても、私が忍び込むに当たっては大した問題にはならない。

なのでこの規模の会社なら、まるで帰宅でもするかの様に忍び込めるということは容易に想像できた。


「まだ電気がついてるね」

「井原の話だと大分ホワイト企業だったらしいって話なのにな……やっぱ新社長ってのが欲かいて体制そのものを変えちまったのかね」


大体はそういうことなのだろう。

日本企業の体質として、利益を上げてなんぼというところはあるし、この程度で収まってたまるか、という様なある意味では向上心とも取れる考えを持つ様な人間が経営者になれば、そのしわ寄せは下の人間に行く。

聞いた話では遅くとも夜七時には完全退社を貫いていた会社だったらしいが、この時間でもいくつかの窓から明かりが漏れていたことが、大輝の発言の正しさを裏付けている様に思えた。


「では……と」


私は屋上の床をすり抜けて、非常階段に降り立った。

すり抜ける瞬間に大輝が驚いた顔をしていたが、この程度はすぐに出来る様になるだろう。


「お前な、予告なしでやるなよ……」

「ちゃんと追い付いてこられてるじゃない。あと、ここからはちょっと姿を消す必要あるから」


そう言って私は神力の膜で屈折率を調節して、人の目に私たちの姿が映らない様にした。

この膜によって私たちの声も、周りには全く聞こえなくなる。


「何で黙ってるの?」

「え?……いや、お前こそ何でそんなでかい声でしゃべってんだよ。さすがに声聞こえたらまずくないか?」

「大丈夫だからこの音量なんじゃん。私がそんなの対策しないで来てるとでも?」

「…………」


そんなことも出来るのか、と呟いて大輝は私の後をついて歩く。

気分としてはコソ泥みたいな感じなのだが、やっていることはあくまで堂々としている。

そんな私たちが最初に忍び込んだのは、社長室だ。


「あったあった」


当然経営者である自分は我先に退社しているだろうと考えていたが、確かに社長は不在だった。

そして議事録等の記録と……。


「ありゃりゃ……何でこんなもん会社のパソコンで保存するのかな」


私が見つけたのは隠しフォルダにある、愛人と思われる人物とのアレやコレの動画。

しかも相手は女だけでないという。


「うぇ……マジかよ。両刀とかレベル高すぎじゃないか?」

「最近その辺は敷居低くなってるとは聞くからね……とは言え、これはまずいでしょ。というわけで」


それぞれ相手の顔にモザイクを施して百枚ずつプリントアウト。

そして私が力を込めると、そのプリントされたえぐい写真たちはひらひらと飛んでいき、会社の壁や床、天井と至るところに貼り付き始めた。


「……何だありゃ……あんなことまでできんの?」

「慣れれば簡単簡単。あとは……」


隠しフォルダの中身を、その社長のパソコンから社内のメールアドレス全部に一斉送信してやった。

これでまずこの男は死んだも同然だ。


「お前……よくそんなこと思いつくな……」

「正義マンの大輝には思いつかないよね、確かに」

「……正義マンって……」


納得いかない、と言う様子だったが、私が移動すると大輝もぶつぶつ言いながらついてくる。

サーバー室は幸いにも社内にあって、私はそこも攻めることにした。

あの社長就任のデータが保存されてしまっているのであれば、根こそぎ改ざんが必要になるからだ。


「なぁ、ここまでしちゃって大丈夫なのか?」

「あの新社長が就任したとか、井原さんのお父さんが失脚したって事実ごと消してやればいいと思うんだよ。まぁ、最後に仕上げは必要だけどね」

「仕上げ?」

「……ねね、あれ見て」


サーバー室を出て、少し歩くと明かりの漏れている部署があった。

外からもいくつか明かりが漏れているのは確認できたが、その中に見覚えのある顔があった。


「あれ、井原のお母さんか。そっくりだな」

「鼻の下伸びてる。本当、人妻好きだよね」

「ご、誤解だ。綺麗な人だとは思うけど……」


大輝の言う、その綺麗な人の目元には光るものが見えた。

おそらく仕事を押し付けられたりだとか、そういう事情なんだろうか。

どの道辛い思いをしてきているのだろうということが、その顔から窺えた。


「許せないな、あんな綺麗な人泣かすなんて……」

「…………」


気持ちとしてはよくわかる。

だから、私はこの後の仕上げで全てを元通りにしてやるつもりでいるのだ。

憤る大輝を何とか宥めて、私は会社の社員通用口に行く。


「今度は何をするんだ?」

「まぁ見ててよ」


そう言って私は入口そのものに神力をまぶしていく。

人間の目には見えないが、これがされることによって、ここをくぐった人間の意識を丸ごと変えて、その記憶までも改ざんすることができる。


「裏口はやらなくていいのか?」

「そうだね、やっておこうか」


というわけで、裏口に回って同じことをした後で私たちは、会社の非常口に至るまで、入口という入口に仕掛けを施した。


「でも、井原のお母さんが通ったら珍妙なことになったりしないか?」

「うん、だから効き目が表れるのは明日の朝からなんだ。試しに通ってみたらわかるよ」

「……本当だ。何もないや」


入口を何度か往復して、大輝はしきりに感心している。

ある意味で私だから思いつく使い方かもしれないが、大輝にもこれくらいなら出来る様になるだろう。


「あともう一か所、寄っていきたいんだけど、いい?」


こうして井原さん父の会社での用事が終わったことを確認した私は、大輝を連れて夜の街に消えていった。



「圭織が物凄い感謝してたよ。直接お礼言いたいって」


翌日の昼過ぎ、朋美が私の部屋で井原さんから連絡があったことを知らせてきた。

大輝はすっとぼけた顔をしているが、全くもってとぼけきれていない。


「大したことはしてないよ。それに暑いしさ、お礼とかいいって言っといて。あと、お父さんにお大事にってね」


あの後私たちは、井原さんの父親が入院している病院の病室へ行った。

早い話が、大輝にも力を借りて井原さん父の体の悪いところを手あたり次第全部治してやったのだ。

仕上げ段階であるこれがなければ、会社の経営者が不在ということになってしまうことには変わりがないので、元の木阿弥になってしまう懸念があった。


実際井原さん父の体には異常一つなくなっているはずだから、早ければ今日明日の退院も可能だろうと思われる。

筋力も少しだけ元に戻してあるし、リハビリなども必要ないはずだ。


「そんな風にすっとぼけてるけど……大輝連れてってまたとんでもないことしてきたんでしょ?」


朋美も大分私の性格を掴んでいるのか、何をしてきたとかは明言しなかったがある程度は理解している様に見える。


「ただの神力講習だよ。ねぇ大輝?」

「え、あ、おう、そうだな」

「ふーん?まぁいいけど……また圭織とも会うことはあるだろうしね、そう伝えとく」


朋美の言っていた感じだと、多分会社は元通り井原さん父の手に戻ったことだろう。

そして新……いや元社長は最悪の場合警察の厄介になっていると思われる。

ちなみにあの通用口の仕掛けは、元社長にのみかからない様にしておいた。


何故なら……その方が面白いから。

自分が社長であると信じて疑わない人間が堂々と社長室に入って行って、訳もわからない内に他の社員から糾弾されまくるという構図を想像しただけで笑えてくる。

井原さん父に関しては、長らく不在だった理由を長期出張ということにしておいたので、多少の混乱はあるかもしれないが何とかなるだろう。


「さて大輝、じゃあまた今日も特訓しないとね」

「……ああ、そうだな」


昨夜の私の力を目の当たりにして感化されたのか、大輝は俄然やる気だ。

これなら今後の伸びには期待できるだろう。

大輝がこれからどんな風に成長していくのか、私はとても楽しみだ。

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