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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~新米女神としての生活と神界の神々~
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第81話

「悪い、俺行ってくる」

「え?何処に?てかまだ体……」

「大丈夫、良平がピンチなんだよ」


大輝はそう言って意識を集中して、直後に姿を消した。


「…………」

「い、今のって……」

「何度か睦月にやってもらったわね……この短時間で出来る様になったってこと?」


確かにワープだ。

良平くんに場所は何処だ、とか必死で聞いていたから、てっきり電車か何かで行くのかと思っていたが、まさかいきなりこんなところで力を使うとは思ってもみなかった。

そして見事に成功しているからびっくりだ。


やはり大輝は状況的に追い込まれていると、とんでもない力を発揮するタイプなのだ。


「睦月ちゃん、追いかけなくていいの?」

「うーん……一応、人間界にいるんであれば、大輝がやばいって時はわかる様にしてあるんだけどね」

「それはそれですごいわね……心で繋がってる、って感じがして妬ましいわ」


心配ではあるが、大輝が救出に向かった相手が良平くんということは、何か血生臭いことの可能性もある。

大輝がどこまで出来るのか、というのを見ておきたいという気持ちもあって、私は自発的に行くことはしないでおこうと思っていた。

便りがこなければ、それはそれで大輝自身で何とか出来ているということでもあるかもしれないのだから。


(……助けてムツえもーん……)

(…………)


そう思った矢先にこれか。

どんな状況かはわからないが、ある程度の力を使える様になっている大輝があの様に情けない救援要請を出してくるというのは、それなりに切迫した状況であると推測された。

そして今回はさすがに人間の女の子を巻き込むのに気が引けて、私は二人に留守番を頼むことにした。


「まぁ……人間が相手なら睦月だけで何とかなるでしょうしね」

「わかったよ、留守は任せて」



大輝の気配を探って、彼の地元にいることを突き止めた私は、すぐさまワープする。

どんな状況かわからないから少し離れたところに、と思ったがどうもほとんど目の前に大輝と良平くんが見える位置に転移してしまった様だ。

そして施設の裏手から少し進んだ場所であることがわかって、男が五人いることも判明する。


この男どもに見覚えはなく、その男どもに囲まれている女性が一人。

井原さんだ。

いや、久しぶりだなぁ、なんて思うがそんな呑気なことを言っていられる状況ではなさそうだ。


一人がナイフを井原さんに突きつけているのがチラっと見える。

元々この辺は人気が少ない場所でもあることから、騒ぎになっている様子はない。

大輝も良平くんも、井原さんを人質に取られた状況で手が出せない、ということか。


私が転移したのはちょうど大輝たちの背後側で、このままだと助けに向かうのは難しい。

なのでもう一度ワープして、今度は男どもの後ろに回り込む。

そしてナイフを持っている男から順番に軽く小突いて昏倒させて、井原さんを解放した。


「お、おお……睦月……助かったよ」

「どういう状況だったの、これ」

「あれ、春海ちゃん……じゃないのか?」

「朋美から聞いてるけど……本当にいきなり背後に現れたわね」


井原さんはどうやら私のことを朋美から聞いて知っている様だったが、良平くんは知らないのか、まだ私を春海だと思っている。

ざっと見る限り井原さんに怪我はないらしく、良平くんや大輝にも怪我はない様に見えた。


「えっと、色々聞きたいことはあると思うんだけど、まずは事情の説明からお願いしていい?」

「そ、それもそうだよな。とにかく助けてくれてありがとう」


そう言って頭を下げた良平くんが事情の説明を始める。

大輝はその説明を聞きながら男どもを電柱に縛り付けている様だった。

男どもは、私たちと変わらないくらいの年齢に見える。


「まぁ、簡単に言うと今日デートでさ……圭織がこっちに迎えに来てくれてたんだけど」


要約すると、今日デートの予定だった良平くんは、施設まで迎えに来てくれるという井原さんを待っていた。

携帯が見当たらなくて、出るのが五分程度遅れてしまった良平くんが施設の外で見たのは、ナンパされている井原さんの姿だったという。

……こんなとこで?


もちろん彼氏として見過ごせるわけもなく、良平くんは割って入って、自然に井原さんを連れ出そうとしたらしいのだが……。


「追いかけてきたのよ、こいつら」


なるほど。

そして逃げ回っている間でこいつらは分散して二人を追い込むことにしたのか、危うく捕まる、というところで良平くんは大輝に助けを求めた、ということらしい。

それにしても大輝がマンションにいたって言うのに、こっちまで一瞬で来られると思っていたのだろうか。


「実は朋美から春海ちゃん……じゃなくて睦月ちゃんなんだよね?の話を聞いてて、でも連絡先がわからないから宇堂に連絡する様に良平に言ったんだ」


なるほど、なのに大輝が先走ってワープして飛んできた、と。

大輝は最初カッコよく登場して、割といい感じで撃退できそうだったらしいが、二手に分かれていたことを知らなかった大輝の油断がそこにはあった。

早い話、もう一方からきたやつらに、井原さんを人質にされて手が出せなくなってしまった、ということだ。


しかしこの話には腑に落ちない点がいくつかある。

まず、こんなところでナンパとかするだろうか。

やるならもっと人が多い……言い方は悪いけど的に出来そうな女が沢山歩いている駅前なんかでやるものだと思う。

そしてナンパが彼氏登場で失敗したからと言って、そんなに執拗に追いかけてくるというのもどうも引っかかる。


良平くんはありのままを話してくれた様だが、井原さんは何か隠しているのではないか、と思った。


「じゃあ、こいつらとりあえず警察にでも引き渡す?」


私はカマをかけてみることにした。

これですんなり応じる様であれば、特に隠し事や疚しいこともないのだろうということになる。

逆に慌てたり反対するのであれば、やはり何かを隠しているという確率が高まる。


「そ、それはやめとかない?だって、ただのナンパだったし」

「…………」


井原さんはそう言ったが、ただのナンパでナイフを出す様なやつは、そうそういないんじゃないかと思う。

そして、こんなところでナンパに興じるというのもやはりおかしい。

井原さんに最初から的が絞られていたと考えるのが自然だろう。


ということは、おそらくだが以前から井原さんはこの男ども、もしくはこの中の誰かに狙われていたということになる。


「井原さん、何か隠してることない?」

「…………」

「そうなのか、圭織」

「おい待てよ、睦月も良平も……井原は別に……」

「大輝の頭は本当に平和だね……友達だったら全部丸ごと信用するなんて、そんなんじゃ足元すくわれるよ?」

「ぐ……」


まぁ、こんな大輝だからみんなついてきてるんだとは思うが、危なっかしくて仕方ない。

そして私の言葉に井原さんは顔色を悪くしている。


「とりあえず暑いし、色々説明したいし聞きたいし。移動しようか」


そう言って男どもを放置して、私たちは駅前まで歩くことにした。

朋美をハーレムに迎えた時に利用したファミレスが今でもまだあるはずだ。



「とりあえず払いは任せて。お腹空いたりしてない?」

「お、俺は大丈夫」

「私も……」

「大輝は?」

「あー……じゃあ頂こうかな」


考えてみれば昼食も食べないで特訓に明け暮れていたのだから、腹が減っても仕方ないだろう。

どうやら大輝はいつもよりも食欲があるらしく、パスタにピザにサンドイッチと一人で注文していて、井原さんと良平くんは目を丸くしてその様子を見ていた。

二人はドリンクバーだけでいい、と言っていたがそれはそれで可哀想な気がしたので、追加でそれぞれケーキを注文してあげた。


「で……話を戻そうか。あ、大輝はそのまま食べちゃって」


頷きながら最初に運ばれてきたパスタを物凄い勢いで食べる大輝は、口の中がパンパンになっていて何だかリスみたいで可愛かった。


「井原さん、何か隠してるよね?」

「……私、別にあの男のことなんか知らないよ。今日初めて会ったんだし」


語るに落ちる、とはこういうことを言うのだろう。

何故なら男は五人いた。

もちろん大輝や良平くんも男だけど、あの、なんてつけたりしないだろう。


ということはあの中の特定の男一人を指した、ということになる。


「うん、そっか。で、どの男?あの男って」

「……っ!!」

「圭織、お前……」


どうやら良平くんにもわかったらしい。

井原さんも自分の失態に気づいたのか、顔を伏せた。


「話しにくいなら私の考察をちょっと話しておこうかな」


誰しも言いにくいこととか、本当なら大切な人には聞かれたくなかった、なんてことはあったっておかしくない。

なのであの状況と聞いた話から判断した、私の考察を聞かせることにした。


「まず、あの中に井原さんの知り合いもしくは顔見知りの男がいる。そしてその男が井原さんにモーションかけてくるのはきっと、初めてじゃない。もちろん、井原さんには良平くんがいるから、断ってきている。どう?」

「…………」

「……続けるね。断っていると言っても、何か事情があって……たとえば親の会社の繋がりとかで強く出られない様な相手だったり、ってことなんじゃないかなって思うんだよね。あの男どもの中の四人は、その取り巻きでおそらく金でももらって井原さんに追い込みかけるのを手伝ってた、ってとこじゃないかと思うんだけど」


最初は固い表情で聞いていた井原さんだったが、次第にその表情が驚愕の表情に変わっていく。

どうやら概ね当たっている様だ。


「本当に、とんでもない相手に隠し事してたんだね、私……」


諦めた様な顔になって、井原さんが呟く。

良平くんは少し、悲しそうに見えた。


「まぁ浮気してたとかそういうことではなさそうだし、もしかしたら解決も可能かもしれないから、良かったら事情話してくれない?」


私がそう言って微笑んで見せると、井原さんは一瞬考えて、決意した様な顔になる。

そして井原さんから語られた内容は、高校生には少し重たい、決して良平くん一人でどうにかなる様な内容ではなかった。

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