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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~新米女神としての生活と神界の神々~
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第79話

「なぁ睦月、悪いよさすがに……愛美さんも」

「ああ?いいんだって。あたしたちが買ってやりたいから買ってやるの」

「そういうこと」


家電コーナーの悲劇を何とか乗り切ってみんな疲弊しきった顔をしていたが、この時点でやっとお昼ちょい前という時間。

結局大輝にはエロ動画でも何でも見てくれ、ということで大輝が熱心に見ていた端末を買ってあげることにした。

私と愛美さんとでお金を出し合って、他のメンバーもいくらか出すと言っていたのだが高校生から金をとる気はない、という愛美さんの漢気おとこぎ溢れるセリフで封殺、そして和歌さんも当然出すと言っていたのだが、いいからお前は早くスマホに替えろ、と一言で撃沈させられていて少し哀れだった。


「それよりお昼、どうする?何か食べたいものある人」


一応提案してみる。

ここでも私はうっかりしてやらかしてしまった、ということにすぐに気づくことになる。


「あれだな、漫画肉って言うの?あの巨大な骨付き肉。食えるとこないかな」


あー……。

大輝の言葉のすぐあとで、目の前にあったイタリア料理店の中からシェフらしき人が出てきて、立て看板を設置しているのが見える。


『本日限定!憧れの漫画肉食べられます!』


さすがにこれはいくら大輝でも気づいちゃうんじゃないか、と私は危惧したし、みんなも同じ思いだった様だ。


「あ、す、すごいな……本当に漫画肉食べられるのか……」


和歌さんが引きつった笑顔で、しかし興味はあるのか看板に釘付けになっている。

まぁ、確かに憧れたことがないとは言わない、私も。


「ていうか何でイタリア料理店なんだろう」


桜子の疑問はもっともだと思うが、問題はそこじゃないと思う。


「…………」


大輝だけは、その看板を見て固まっている。

ああ、これはバレたか……なんて思っていた。


「マジかよ!行こうぜ!こんなとこで夢が叶うなんて思ってもみなかったわ!うっひょーぅ!!」


端末を買ってあげた時よりもハイテンションになった大輝が、我先にと店に入って行くのを、みんながため息をついて見つめる。

まさかここまで鈍い奴だったなんて、誰も思ってなかったんだろう。

何しろ私だってさすがにこれは、って思ったくらいなんだから。



「お待たせしました、漫画肉のお客様」


入店から二十分ほどして店員さんが三人がかりで、巨大な皿に乗せられてホカホカと湯気をあげる漫画肉をテーブルに持ってくる。

その大きさたるや、誰も想像していなかったほどの大きさ。

何の肉でどの部位を持ってくればこんな巨大なものになるのか。


焼いてあるのに縮んだりしてないんだろうか、等々数々の疑問が頭に浮かんでくるが、もう考えたらキリがないと思い直す。


「どうした大輝、かぶりつかないのか?」

「いや、さすがに一人で食いきれる量じゃないですし……俺がかぶりついたのをみんなに食わせるなんて、さすがにマナー悪いかなって」

「つまらないことを気にするのね。大輝くんの唾液なんて、何度味わってきてると思ってるの?」

「お、お前な……何でこんなとこでそんなこと言うんだよ……」


まぁ、確かに明日香の言う通りでもあるのだが、大輝の言うこともわからなくはない。

五十センチ四方くらいの大きさのその肉は、確かに一人で食べるには量が多いし、何より途中で胃がもたれて飽きそうだ。

現にあまり油ものが元々得意でない朋美は、見ただけでお腹いっぱいになりそう、なんて言っていたくらいだ。

そして明日香は先ほど恥をかかされたお返しと思って言ったのかもしれないが、それは私たちをも巻き込む自爆行為になっているということに気づいていない様だった。


しかしこの漫画肉、これだけ巨大だしさぞかしいいお値段するんだろうな、と思ったら二千五百円とリーズナブル。

どう考えても焼く手間とか運ぶ手間とか、原材料費を考えたら大赤字なんじゃないかと思う。

まぁ今日限定って書いてあったから、これが元で店が潰れるなんてことはないと思うけど……ないよね?


「ほら大輝、あーんして」

「お、おう……」


朋美も先ほどの雪辱でも果たしたいのか、大輝が公共の場でやりたがらないことを率先してやっている。

朋美は朋美で明太子のパスタを注文していて、フォークに巻いて大輝に食べさせていた。

お昼時と言う、時間が時間なだけあって店内は割と混みあっている。


当然ながらメンツと漫画肉の存在感から私たちは悪目立ちしていた。


「あそこの人たち、すごい勢いであの肉食べてるわよ……」

「ていうかあの中に男一人って……」

「何だあれ、ハーレムかよ羨ましい……あーんとかしやがって、爆ぜろ!」


等々声が聞こえる。

主に肉を物凄い勢いで食べているのは和歌さんで、大輝は早くもお腹いっぱいになりつつある様だ。

暴食の効果は二度現れないということだろうか。



「ああ、普段より大分食べたな……こないだの和歌さんとの勝負を思い出したわ」

「ていうか……あの巨大な肉の七割くらい和歌さんが食べてたよね」


イタリア料理店を出て、ここは私が払うから、と和歌さんが会計を引き受けていた。

肉込みでも一万円行かないくらいで済んでいて、正直本当にこの店大丈夫か?なんて思ってしまう。

そして和歌さんは本当、一体何処に入るのだろうか、と疑問になるくらいの量食べていた。


私は私でピザとパスタを別で注文していたけど、それでも肉は二割程度しか食べていない。

あの肉はまぁまぁ柔らかかったし、味付けも悪くなかった。

腹も膨れたことだし、食材の買い物をするには丁度いいだろうということで、みんなで地下街へ行くことにする。


空腹時の食材の買い物は無駄買いをする原因になったりするとよく言うから。


「あ、このお菓子もう食べた?私まだなんだ!買ってもいい?」


と思っていたのにみんな割とお菓子なんかを買い込んでいる。

CMで見たりすると確かにちょっと気になったりするし、美味しそうだと思えば私は時間など気にせずコンビニに駆け込むこともあるので、わからなくはない。

わいわいと騒がしく食材を買い物籠に放り込んで行き、大輝がふとした売り場で足を止めた。


「……どうしたの?何かほしいものでも、あった?」


ついつい先ほどまでの出来事があるからと、警戒した口調になってしまうが、大輝は気にも留めていない様子だ。


「いや、これ……」


牛乳と混ぜるだけ、というお手軽さとそこそこの味で昔から支持を得ているインスタントのデザート。

一体これがどうかしたのだろうか。

確かに私もたまにこれが食べたい、と思うことくらいはあるけど大輝はそもそも牛乳嫌いじゃなかったっけ。


「昔良平と二人でさ、納豆味とかキムチ味とかあったら面白いよな、なんて言ってたの思い出して」

「…………」

「…………」


うん、そろそろ黙ってもらいたくなってきた。

そして当然のごとく、目の前で店員がすみませーん、とか言いながらそのデザートの陳列を変え始める。


「……え!マジで!?」

「うわぁ……」

「絶対美味しくないでしょ、これ……」


何と、納豆味とキムチ味が目の前の棚に陳列されてしまい、イチゴ味とかキウイ味と言ったポピュラーなものは隅に追いやられてしまった。


「食ってみたかったんだろ?買って帰れば?」


愛美さんがニヤニヤしながら大輝の肩を組んで、そのパッケージを手に取る。

本当、いい性格してるな愛美さん……この中では一番人間らしい人かもしれない。

大輝は実際に納豆とかキムチが写真に写り込んだパッケージを見て、青い顔をしていた。


「買うのはいいと思うけど……誰が食べるの?」

「期間限定ってあるからな……それに食べてみたら案外旨いかもしれないぞ」


和歌さん、いくら何でもチャレンジャーすぎると思う。

期間限定に弱いとか、典型的な日本人だなぁ……。

牛乳と納豆とかキムチが合うとは、いくら変わり者の私でも思えなかった。


結局すったもんだの末、一個ずつ買ってみようということになってそのゲテモノたちは買い物かごに放り込まれることになった。

みんなで一口ずつ食べて、どうしても受け付けなかったらナイナイの神様、ということにでもしよう、と桜子が言っていて、それなら俺が全部食うよ、と大輝がムキになっていた。


「会計って言えばさ」

「…………」


もう少しで帰れる、というところなのに今度は何を言いだすんだ、大輝よ……。

もうそろそろそろ黙らないか?

みんなでのお出かけ、楽しいのはわかるし盛り上げようって言うその気持ちは嬉しいけど。


「マジックテープの財布開けながら、ここの払いは任せろ!みたいな人って見たことないよな。一回でいいから、見てみたいわ」

「…………」

「…………」


そうきたか……。


「あら、いいわよあなた!ここの払いは私に任せて頂戴!」

「お、お前そんな財布使ってたか!?」


隣のレジでバリバリバリ!と小気味いい音をたてながら、お上品そうな奥様がマジックテープの財布を勢いよく開け、旦那さんも店員も固まっている。

みんなも唖然としながらその光景を見つめていた。

私たち以外が注目の的になるケースまであるなんて、さすがに想定していなかった。


「い、いるんだな、本当に……」


ここまできて、この状態がおかしいと思わない大輝の頭の具合が、私は本気で心配になってきた。

多分みんなも同じ思いではあるんだと思う。

これは本当に、訓練が必要だなと思いながら会計を済ませ、私たちは帰宅の途についた。


翌日になったら大輝の能力の暴走はなくなっていて、昨日の件についてはひとまず私たち女子組だけの秘密ということで箝口令を敷いたが、いずれ話してやるのもいいだろう。

落ち着いた頃に話すのであれば、大輝も特にふてくされたりもせずに笑って聞ける様な内容だとは思うから。

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