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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~新米女神としての生活と神界の神々~
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第78話

「しっかし今日もいい天気だな……雨が降らないだけマシなのか?」


大輝が何を口走るかわからない、という恐怖から既に私は警戒を強めている。

私の顔が強張っているのを見た桜子が、睦月ちゃん顔が怖いよ、なんて言っていたがそんなことに構ってはいられない。

駅前まできて、私たちは駅ビルのデパ地下で買い物をしよう、という話をしていた。


もちろん大輝が家電を見たい、ということも言っていたので、それも先に済ませるつもりではある。

しかし大輝の言動が気になって気になって、それどころじゃないという。


「まぁ、こんな天気でもいきなり雨降ったりするからね、この時期。長崎なんかも結構暑いし、そういうの結構あるわよ」

「へぇ……そういえば朋美って真面目にバイトしてたんだっけ?長崎のファーストフードって変わったメニューとかあるのか?」

「今でもしてるわよ。東京と違うメニューって言えばそうね、ちゃんぽん味のポテトとかあるわよ」


これはまずい予感がする。

そんなものが食べてみたい、なんて言われたらどうしようもない。


「あ、大輝!喉渇かない!?私、コーラ奢ってあげちゃう!」


すかさず私が口を挟んで、会話を中断させる。

何だ?という顔をしているが、これ以上あの会話を続けさせるのは危険だと判断して、私は近くにあった自販機でペットボトルのコーラを買ってみんなに渡した。

これでひとまずは、会話の中断をさせることには成功したと言えるだろう。


「そういえば朋美って、昔から割と真面目だったよな。明日香にも同じことが言えるけど」

「そうかしら。というか、真面目で悪いことなんてないでしょう?確かに真面目に生きたらバカを見る、なんて言う人もいるけど……」

「まぁ明日香とか朋美みたいな真面目な人間がいて、あたしみたいなちゃらんぽらんな人間がいるから世の中成り立ってるとは思うけどな」


確かに愛美さんが言う様に、みんな同じ価値観や概念で動いていたらもう、それは人間が生きているとは言えない気がする。

そういう個性をも潰してしまいそうな政策ばかりになっているから、日本は生きにくいなんて話も出るんだろうと思うが。


「ただ、たまに思うんだよな。真面目な人間がはっちゃける時ほど、面白いよなって」

「はぁ?バカじゃないの?真面目に生きてきたからこそ、そういうのわからないんじゃないのよ」

「同感ね。人には役割があって、それに従って生きる方がストレスは少ないものなのよ」

「まぁ、言いたいことはわかるな。だけど……」


あ、これあかんやつや。

大輝がとんでもないことを言い出そうとしてと予感しているのに、私には止める術がない。


「お前らさ、何かちょっと芸でもしてみてくれよ。笑っちゃえる自信あるから」


ああ……発言を許してしまった……。

ごめん、朋美、明日香……今日だけは尊い犠牲になって……。


「何言ってるわけ?そんなの出来るわけないじゃない。何が芸よ。今からコーラ一気飲みして、山手線全駅ゲップしないで言ってみせるからちゃんと見てなさいよ」

「全く下品極まりないわね、大輝くん。私たちの生き様、見てなさい」

「…………」

「…………」


言ってることとやってることが早くも矛盾してきて、みんなどうしたのか、と朋美と明日香を見守る。

二人は宣言通り、目を白黒させながらコーラを一気飲みしていた。


「うぷ……い、行くわよ……東京かんごヴぁあぁぁ……」


なるほど、朋美は山手線と言えばやはり東京からなんだ。

長崎に行ってもその辺は忘れてないんだなと思った。


「ぐぶ……負けない……原宿しヴぉおぉぉ……」


一方明日香は原宿から攻める辺り、やっぱり変わった子だと思う。

人と同じであることをあまり好まない性格故なのだろうか。


「ぶは!!」


明日香と朋美が同時にゲップをして、みんな爆笑する。

大輝なんかは腹の皮がよじれんばかりの勢いで笑って、酸欠で顔が紫になりかけていた。

和歌さんも、明日香に対して悪いと思ってはいるのだろうが、笑いを堪えることが出来ないでいる様だ。


それにしても、年頃の女の子にさせることじゃない気がするんだけど……。

いや、これはコーラなんか買って渡した私の失態でもあるな……。

せめてお茶とかにしとくんだった。


「…………」

「…………」

「…………」

「わ、私死ぬわ……こんな公共の場で、あんなに盛大にゲップなんて……」

「母に知られたらどの道殺されてしまうわ、こんなの……だったらここから飛び降りた方が……」


そう言って明日香も朋美も、虚ろな目をして陸橋の上から飛び降りようとするのを全員で必死に止める。

大輝が泣きそうになりながらやめてくれ、と言うと一瞬でやめるわ、と言って元に戻るのを見て、桜子が何か気づいた様だった。


「ねぇ、睦月ちゃんもしかして……」

「ああ、気づいちゃった?多分あれ全部大輝の仕業だよ。ノルンが言ってたことの意味が漸くわかった」

「滅茶苦茶厄介だね……」

「もしかして朝のあれも、大輝の仕業ってことか」


こそっと、愛美さんも話に入ってくる。

これはどうも、女子メンバーには教えておいた方がいいかもしれない。

明日香と朋美は我に返った瞬間にまた顔を赤くして、涙目になっているし。


問題はどうやって大輝以外に伝えるか、ということだが……。


「バリア張ったりできないの?あれが神力の効果なんだったら、同じ力で相殺できたりしないかなって」

「あ!さすが桜子、よく気づいたね」


そんなわけで私はまず大輝の目に見えない様、薄い神力の膜を女子メンバーの前に展開させた。

これで少なくとも、私たちに被害が及ぶことはなくなるだろう。



「ちょっと俺、トイレ行ってくるわ」


駅ビルに入ったところで大輝がタイミング良くトイレに消えてくれたので、私はみんなに事情を説明することにした。


「……そんなの、もっと早く言いなさいよ……あんな恥ずかしいこと……」

「全くだわ……末代までの恥じゃない、あんなの……」


一通り説明してみせると、案の定一番被害の大きかった朋美と明日香が文句を言った。

出来れば私としてもそうしたかったところではあったが、対策を考える方にばかり頭が行ってしまって、それどころじゃなかったというのが本音だ。


「ま、まぁ私たちは誰にも言ったりしないから……」

「大輝だって、そんなの言いふらす様なやつじゃないですし……」

「まぁ、それはそれとして……あいつに変なこと口走らせない様にしないとじゃねぇの?」


そう、問題はそこだ。

先ほども考えたことだが、大輝が何か口走ってしまうことで、通常ではありえない様なことが次々に実現してしまうのだ。

そしてその恐ろしさを、身をもって体感した朋美と明日香の顔色は悪い。


「まぁ、正直朋美と明日香のは珍しいもん見れたし、死ぬかと思うほど笑っちまったんだけどさ」

「…………」

「愛美さん、もうやめてあげて……確かに私も笑っちゃったけど」

「……桜子、あんたね……」

「まぁまぁまぁ!今はそんなことで喧嘩してる場合じゃないんだって。気持ちはわかるけど、ここはまず対策を……」

「お待たせ、どうかしたのか?」


対策を、と思った瞬間に戻ってくる間の悪い男。

そんな大輝を、朋美と明日香は物凄い形相で睨みつけていた。


「な、何だよ……さっきのまだ気にしてるのか?面白かったぞ、お前ら。あんな芸隠し持ってたんだな」

「隠し持ってたんじゃなくて、テレビで見たことがあるだけよバカ!!」

「大輝……さすがにもう忘れてやってくれないか?あれはお嬢にとっても朋美にとっても、さすがに恥ずかしいと思うんだ」


またしても喧嘩になりそうなのを、今度は和歌さんが止める。

何かほしいものがあるなら買ってやるから、と和歌さんが大人らしい宥め方をして、桜子が私にも買って!なんて喚いていた。

だけど和歌さん、大輝との勝負の時盛大にゲップしてたけどあれは恥ずかしくなかったのかな。



そしてやってきた家電売り場。

色とりどり、より取り見取りの家電が所せましと並べられていて、ボーナス後でもあることからボーナス商戦真っ只中なのだろう。

お買い得家電は確かに安いな、と思える値段で店頭に陳列されている。


「何が見たかったんだ?」

「んー、パソコンとかタブレットですかね。あとスマホも」

「大輝って以外とガジェット好きだよな。よし、私もボーナス出たからな。そこまで高いもんじゃなかったら買ってやるぞ?」

「いや、さすがにそれは悪いですよ……まぁ、今日は見るだけでもいいと思ってるんで」


大輝が言っているのは所謂ウィンドウショッピングというやつだが、それもデートと言えば定番ではある。

もちろん私も一資産家みたいなものではあるので、大輝が欲しがる程度のものだったら何でも買い与えてやれるが、大輝はそういうのを望まないということを私は知っている。


「そういえば……」


大輝がぼそっと呟く。

私が言うのも何だが、また何かロクでもないことを言い出しそうな予感がする。

しかし、私たちには今や鉄壁とも言えるバリアが張ってあるし、たとえ銃弾が飛んで来ようと今の私たちには傷一つつけることは出来ないはずだ。


ここは下手に口を挟んだりする必要もないだろう。


「こういう店頭のディスプレイで無修正のエロ動画とか流してたら面白いのにな」


みんなが、あっ!!と言う顔をするが、もう遅い。

見る見る間に店頭どころか店内中のネットに繋がったパソコンやタブレット、スマホに至るまで全ての機器が喘ぎ声を発しながら、無修正のエロ動画をその画面に映し出した。

当然ディスプレイを見ていた人たちは固まり、商品案内をしていた店員までもが固まっている。


「お、おいこれはやばくないか?」

「……油断してた。被害は私たちだけにとどまらないんだね……」


店内の至る所で悲鳴が上がり、一瞬ではあるが阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がった。


「な、何だったんだあれ……声に反応するシステムとかあんのかな、最近のスマホとかって」

「…………」

「…………」


店員さんが駆けまわって私も神力を使ったりして、どうにか動画を元のものに戻して一息ついた頃。

呑気なことを言い出す大輝を、みんな恨みのこもる目で見ていた。


「だとしても、あんな発想ができる大輝って本当、天然のスケベね」

「最低だわ。真昼間からあんなもの見せられるなんて」

「い、いや俺悪くないよな?」

「悪いかどうかって言うより、昼間からあんな言葉が出てくることが問題だと思うけど」


私個人としては自覚がないから仕方ない、と思う一方でそういうのが見たいなら、専用のガジェットは与えてもいいかもしれない、と思う。

そして愛美さんと桜子以外は大輝に半分軽蔑の眼差しを向けていて、大輝はまたも泣きそうな顔をしている。


「まぁほら……思春期の男の子ってそういうの大好きな子多いから……大輝もそういう意味じゃ健全なんだって」

「そうだぞ?まぁ無修正はさすがにどうかと思うけど……でもああいうの見たがらないんだったら、あたしたちだって要らなくなっちゃうだろ?」


私と愛美さんとで何とかしてみんなを宥めると、それもそうかとみんなは不承不承ではあるが納得をする。

そして大輝も漸く顔色を戻して家電を眺めていた。


「もう、四六時中胸でも触らせてた方がいいのかしら」


私たちの説得を受けた明日香がとんでもないことを言い出し、それなら私が代わります、とか和歌さんは言っている。

どっちでも大輝は喜ぶかもしれないけど、それはそれで飽きられる懸念もあると思うので、私はやんわりと止めておいた。


「ふむ……もう少し安くならないかな、これ。性能的にはこれでいいんだけどな」

「ほう、具体的にはどれくらい安くなったらいいと思う?」


悪い顔をした愛美さんが、大輝にこっそりと言っているのが聞こえる。

私にはそんな愛美さんの魂胆がわかってしまった。


「愛美さん?ダメだよ?」

「ちぇ……」


桜子にもわかっていたらしく、大輝が口を開こうとしたのを手で押さえる。

大輝にいくら安くなれば、とか言わせて値引きさせようというのだろう。

それにしてもまさか買い物一つでこれほど疲れることになるなんて。


もっと早く手を打っておくんだったと、激しく後悔した。

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