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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
ハーレム時々バイオレンス~七つの試練~
72/212

第72話

「……それが、大輝だって言うのか?」


ロキの話を粗方聞き終わった時、部屋には何とも言えない微妙な空気が流れていた。

とてもじゃないが鵜呑みに出来る様な話ではない。


「大輝くんが、神様の子どもってこと?」

「それどころか、父親は古代人ってことなの?」

「マゾだとは思ってたけど、父親の影響ってことかよ……」


等々様々な感想が飛び交っている。

私としてもちょっと突拍子もない話で頭がついていかない。

あのソールの息子……?


大輝のあの魂の輝きはソールから受け継いだものだと、そういうことなのか?


「君たちが信じるも信じないも、好きにしたらいい。ただ、僕は真実を話したに過ぎないのだから」

「…………」


仮にロキが言ったことが真実だとして……なら大輝を攫った理由がわからない。

どうしてソールの息子だからって、攫われなければならなかった?

この大輝の魂の輝きが、ロキにとっても魅力的だった?


「ロキ、お前まさか……」


私の言葉にロキはニヤケ顔を更に歪める。


「女に縁がないからって、大輝に手を!?」

「……え?」

「嘘……ロキって男色の神だったの!?」

「なるほど……確かに大輝、可愛い顔してるもんな……」

「ええ……?」


ロキが、呆気に取られてみんなを見た。

あのロキの、こんな間抜け面とかかつて見たことがあっただろうか。


「おい、クソ野郎。お前ふざけんなよ?いくら大輝が可愛いからってな、そういう用途で攫ったんだったらさすがに黙ってねぇぞ」

「い、いやそういうアレじゃ……」

「アレって何よ、そこの女の人に何させてるわけ?答えなさいよ」

「いや、だから……」

「あ、そうか!大輝くんが男のままじゃ困るから、性転換させてるとか!」

「いや……桜子、それはないでしょ……」


朋美がげんなりした顔で桜子を見る。

私としても、さすがにそれはないと思う。

もう桜子の大好きなBLの域を超えた話になってんじゃん。


「えっと……理由はどうあれ、今野口桜子が言ったこと半分当たっているよ。驚いたな、ははは……」


今度は私を含めたみんなが呆気にとられる。

大輝を、女に?

こいつは一体何を言っている?


「あと一個気になったんだけど……話に出てきたフードの女は誰だ?女神であるのはわかったが」

「さぁね?まぁ彼女が何者であっても、宇堂大輝を女にするというのは決まったことなんだ。先ほども言っているがこれは宇堂大輝の意志でもあって、邪魔者は君たちの方なんだよ」

「あなた……本気で気持ち悪いわ……」


明日香が自分の体を抱きすくめて、青い顔をしながらロキを軽蔑の眼差しで見る。

桜子は、適当に言ったことが当たってしまってどうしよう、と言う顔だ。

そして心なしかロキは蔑まれて心地よさそうに見えて、普段の何倍も気持ち悪く見える。


「おいロキ……お前何恍惚としてんだよ……マジでキモいな……」

「……ま、まぁ君たちが言った様な理由ではないけど、何にせよ宇堂大輝を女にしようというのは間違っていないよ」

「女にするって……お前がタチかよ……」

「いや、そうじゃないから、本当……そういう趣味は持ち合わせてない。第一、さっきの話と何の関係もなくなっちゃうじゃないか。……もう少し真剣に考えた方がいいと思うけどね、僕は」


そう言ってロキがフレイヤを振り返ると、フレイヤも首肯で応える。

一体何の合図だ?

まさか、もう女になっちゃった、なんてことは……。


「お、おいお前……まさか……フレイヤ、答えろ。大輝はもう……」

「フレイヤって……あの女だよな。あいつは一体何者なんだ?物凄い美人だな」


愛美さんはフレイヤが気になって仕方ないみたいだ。

確かにあんな綺麗な金髪してて、何となく淫靡な雰囲気を持っている女は人間界にそうそういないだろう。

大体何であんな水着みたいなカッコで術かけてんだ……。


しばらく会ってなかったけど、あの痴女っぷりは相変わらずみたいだ。

大輝に変なことしてないだろうな……。


「あいつは美と……何だっけ、エロの女神だったかな。フレイヤって言って、今回ロキに呼ばれたのは多分……」

「そう、彼に施している処置が今回の計画の肝だからさ。そしてそれが出来るのは、僕の知る限り彼女だけ、ということだね。いや、もちろん君も同じことができるのは知っているよ、スルーズ。だけど君は絶対に協力なんかしてはくれなかっただろう?」

「…………」


愛美さんを始めとするメンバーは、信じられないと言った顔だ。

私にも確かに同じことは出来る。

実際、私が睦月の体に転生する際に男だったら女にしてしまえ、なんて思っていたくらいだから。


ただ、ロキは決定的なことを語っていない。

その術の精度は、正直私とフレイヤとでは比べるまでもないほどに違う。

私のはいつでも元通りに出来るが、おそらくフレイヤのは一度完全に性別が変わってしまえば、元に戻すなんてことは出来なくなってしまうだろう。


フレイヤを始末すれば、もしかしたら大輝を救出することは可能だったりするのかもしれないが、直に行こうにもロキが呑気そうなツラをしてそれを許さないと雰囲気で語っている。

ならばやはり先にロキを片付けるしかないみたいだ。


「心配しなくても、まだよ。だけどもうすぐね。段階的には八割弱と言ったところかしら」


少し疲れの滲む声で、フレイヤが答える。

ここへきて初めて口を開いたフレイヤから、思いもよらない言葉を聞いた。

八割って……思ったよりも時間がない。


あいつ、真面目にやったらこんなに出来るやつだったのかよ。


「ロキ、そこをどけ……大輝を女に、なんてふざけた真似は許さない」

「何故かな?これも宇堂大輝が望んだことだ。彼の意志を、全て無視するということでいいのかな?そうなると、仮に君たちが僕らを止めることに成功したとして、宇堂大輝はどう思うだろうね?」

「……だからって!!」

「はぁ……君は何もわかっていないんだな。さっきの話を聞いて、思うことはなかったのかな」


やれやれとロキがため息をつく。

そして冷めた茶を飲みながら、私たちを一瞥する。


「宇堂大輝が求めたのは、無限の可能性だよ。彼はその出自からわかるとおり、人間と女神のハーフだ。奇しくも男として生まれたからか現段階で彼は神の力を持ってはいない。それは君の目にもわかったことだと思うが」

「……それがどうした」

「ふむ、ここまで話してもわからないとはね。頭に血が上りすぎて冷静な分析が出来なくなっているのかな?まぁいい、続きを話そうか。人間に限らず、男は昔から強い者に憧れるものだ。それは数々の歴史が物語っていることでもある」

「まさか、大輝は神の力を欲したと言うのか?」

「まぁ、君が神であることを知ってからはそうだろうね。それまでは漠然と、強くなりたいって言う気持ちを抱えていたみたいだけど。君たちはそんな彼の気持ちに気づかなかったのかい?」


気付かなかったと言うよりは、私が守るという気持ちがあったから自然と無視する結果になっていた、という方が正しい。

大輝が努力家であることは知っているし、必要があれば朋美の父との戦いの時の様な研鑽を惜しんだりもしないということは見てきている。

だけど大輝は人間だ、そう思っていた。


だから私は、彼にも限界があるものだと決めつけていた。

強くなれる伸びしろはまだあるにせよ、限界は必ず訪れるのだと。


「彼の力を目覚めさせる鍵は、彼を正しい姿に導くことだ。そう、彼は女として生まれるべきだった。もちろん、男として生まれてしまった場合の対策も講じてあるから、今回の作戦が動いているということになるんだけどね」

「ふざけないで!!」


金切り声が響いて、ロキもフレイヤも、私も他のみんなも明日香を見る。

普段怒鳴ったりしないからなのか、肩で息をしながら明日香はロキを睨んでいた。


「大輝くんは、私たちの共通の彼氏よ。女なんかにされたら私たちがいる意味はなくなってしまう」

「宮本明日香、君は面白いね。言いたいことはわかるよ。だけどそれは君たちのエゴだ。もちろん、宇堂大輝が願いを叶えたいということも彼のエゴであることに違いはない。そして君たちの生きる世界では多数決が基本だということも、理解しているよ。ただ、今回に関してだけは多数決で決めていいものではない。仮に君たちハーレムのメンバー全員が反対をしたとしても、彼の意志は尊重されるべきだ」

「何よそれ……勝手なことばっかり……」


朋美も肩を震わせながらロキを睨んでいる。


「大輝は出会った頃からずっと男だったのよ!それをあんたたちの都合で女になんて……!」

「じゃあ聞こう。君が好きになったのは、男の宇堂大輝だと。そういうことかい?」

「どういう意味よ!」

「彼が仮に女になってしまったら、君は宇堂大輝への興味を失うのか、という意味さ」

「っ……!!」


嫌な聞き方をしてくる。

本当に、人の神経を逆撫でさせたら右に出る者はいないとさえ思える。

もちろん褒めているわけではないが、ロキがこういう言い方をするということは、大輝に対して思うところもあるのだろう。


ロキはおそらく大輝の境遇を全て知って、その上であの発言をした。

ロキは自分と大輝を重ねたのかもしれない。

ただ大輝とロキとで大きく違うのは、その素直さや人望にあると私は思うが。


「彼は今回のことが上手く行く様であれば、無限の可能性を手にするだろう。そして僕は、人間を神にすることができたということで、神界での評価も鰻上り。悪いことではないだろ?」

「…………」


神界での評価……こいつはそんなものを気にするやつだったか?

ロキの発言に、私は違和感を覚える。

しかし、人も神も何がきっかけで変わってしまうかわからないものではある。


ロキが突然心変わりして、名声などを追い求めたとしても不思議ではない。

不自然だ、とは思うが。

しかし散々嫌われておいて、今更誰かに好かれたい、などと考える様には到底思えない。


「もう一度言うぞ、ロキ……そこをどけ。どかないなら、今度は力づくでどいてもらう」

「へぇ、今の君にそれができると?」


先ほど確かに無様を晒した私ではあるが、ただただ大人しく話を聞いていたわけではない。

第三段階を開放するための時間を、力を蓄えさせてもらっていた。

そして先ほど、それが完了するのを知らせる様に、私の中で何かがカチリと嵌る様な音がした。


こっちはいつでも戦闘準備OKということだ。

もっとも予想以上にフレイヤの作業が思っていたよりも早いせいで、こっちももうそんなに時間をかけてはいられないわけだが。


「この私が、何の策も持たずにただただお前の与太話を聞いていただけだと思っているんだったら……お前の負けだ!!」


溜まった神力を放出して、一気にロキへの距離を詰める。

ロキは油断していたのか、先ほどと同じ様に私を避けようと立ち上がった。


「……遅い!!」


立ち上がったロキの顔面を掴むと、勢いそのままに後頭部を床に叩きつけた。


「がっ……!」

「まだ終わりじゃないぞ……さっき散々舐めたことを言ってくれた罰、受けてもらおう」


突然のことに対処できないロキが、虚空を見つめる視線を私に戻す。

そして私はその視線を受けて無数の拳を繰り出した。

私の拳を受けてロキの顔が見る見るその形を変えていく。


「ぐ……」

「そうなっちゃもう、余計な口も叩けないだろ。けどな、お前には以前言ったよな」


呻きながら立ち上がるロキをみんなが見て、憐れみの目を向ける。


「時間がない。約束の時だ、吹き飛べ!!」


溜めていた神力を連続で浴びせられるだけ浴びせることで、ロキの体は跡形もなく消滅した。

さすがに怒りを感じていた相手でもあそこまでやられると冷静になるのか、みんなは呆気に取られている様だ。


「こ、殺したの?」

「……神は死なないんだよ。ほっとけば消滅した肉体も自然と修復される。今回くらいまでやっちゃうと、相当な年数かかるけどね」

「そ、そうか……今のお前に近づいても大丈夫か?」

「まだだよ。あいつが残ってる」


朋美や愛美さんは何となく私に恐怖の様な感情を覚えている様だが、まだ終わったわけじゃない。

フレイヤを止めなければ、大輝は本当に女になってしまう。

私はゆっくりと、フレイヤに近づいて行った。


「次はお前だ。覚悟はいいか?」

「やられてしまうわけにはいかないわね。私たちはその名にかけて彼を必ず神にすると決めているのだから。それにロキが倒れた今、この洞窟は彼の保護がない状態なの。そんなところであなたみたいなゴリラが暴れたら、どうなると思う?」


こいつはこいつで、嫌なやつだと思う。

私をゴリラというやつは……月に代わってお仕置きだ。


「そんなもん知るか!!食らえエロ女神!!」


ゴリラと言われながらも拳に溜めていた神力を、パンチと共にフレイヤの顔に直撃させる。

私の拳を受けた彼女の美しい顔は、大きく歪んでパンチの勢いで体ごと洞窟の壁にめり込んだ。

そして私はめり込んだフレイヤを追撃する。


「く……まだ途中なのに……今止めたらどんな弊害があるか……」

「グダグダとやかましい。お前の都合なんぞ知ったことか」


ロキにしたのと同じ様に、フレイヤのその歪んだ顔を掴む。

私の手を離そうと懸命にもがいている様だが、当然フレイヤの力で離れるわけがない。


「言い残したことがあれば、聞いてやるよ」

「後悔、するわよ……今私の作業をやめさせたこと……」

「言いたいことはそれだけか?この状況で自分のことよりも大輝の心配をするなんて、お前も少しは変わったってことか」

「な、なぁ睦月……」


フレイヤをこれから更に痛めつけようと思ったところで、愛美さんから声がかかる。

一体何だと言うのだろうか。


「本当に、そいつの作業止めちゃって大丈夫なのか?」

「どういうこと?」

「いや……もう八割くらい作業終わってるって言ってたから」

「…………」


フレイヤの顔を掴んだまま、愛美さんに言われたことを考えてみる。

八割というのは、精神的な部分だったりしないだろうか……いやないだろう。

肉体的な部分での進捗を示すのだとしたら、確かにまずい気はしないでもない。


「う……」


そんなことを考えていた時、大輝が呻く声が聞こえてみんなが大輝に駆け寄る。

私もフレイヤを別の方向に投げ捨てて大輝に駆け寄った。


「大輝!!おい聞こえるか!!」

「しっかりしろ!!」

「大輝、助けに来たよ!!わかる!?」


それぞれ声をかけるが、反応はない。

それどころか、体が発光し始めてその表情は苦しそうに見える。


「うあああ……ああああぁぁっ!!」


大輝の体が突如浮き上がり、光は先ほどよりもその存在をより確かなものにしていく。

私たちは、その大輝の様子をただ茫然と眺めているしかなかった。

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