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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
ハーレム時々バイオレンス~七つの試練~
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第70話

「こりゃまた、大層な結界だなぁ……」


階段を降り切った先で、また部屋に出る。

しかし先ほどまでと違って、奥に続く穴はもうない。

代わりにあるのは、仰々しい扉とその扉にかけられた結界だけだった。


結界は黒い様な茶色い様な、お世辞にも趣味がいいとは言えない配色だ。

オーディンが冥界に行く為に作ったゲートに酷似したオーラの様なものが縁取っている。


中から数人の気配……おそらくはロキと大輝、そしてフレイヤ。

しかし、その三人の気配とは別に感じるこの熱いものは一体何だろうか。

中で何が行われているというのか。


この結界が呪術の類だとさすがに私は門外漢というやつだが……付け焼刃程度のものであれば私の力で打ち破ることも出来るだろう。

多少の消耗は避けられないが、試してみる価値はあるかもしれない。


「結界って、どうするんだ?」

「私の魔法とかで解除できたりするの?」


またも桜子が呑気なことを言い出す。

しかしさすがに今回は桜子の力じゃどうにもならないだろう。

魔獣やらの時とは力の入れ具合が違う様に見えるし。


「多分無理かな。それよりみんな、消耗してない?厳しそうなら今のうちに補給しておいた方がいいよ」

「ねぇ、気になってたんだけど……」


私が補給を促すのと同時に、朋美が躊躇いがちに口を開く。

その顔から、何となく朋美が何を言いたいのか、わかってしまった。


「大丈夫だよ、朋美。私は神なんだよ?人間であるみんなの方が脆いんだから」

「そ、そうだけど……」

「ま、今ちょちょいっとこの結界破るからさ。離れてて。あと、耳も塞いでた方がいいかもしれない」


朋美はきっと私が休んでいないことを心配してくれている。

確かに大輝とのデートで早起きしたし、そこから誘拐されてここにきて半日。

正直精神的な部分も体力的な部分も若干きついと思わなくもない。


だけど目の前に大輝がいるってわかっている以上、私はこんなところでヘタレていられないのだ。

みんなが離れたのを見届けて、私は剣を鞘に納めて拳に神力を集中させた。

私の光る拳を見て、みんなが息を呑む。


「おっらあああぁぁぁぁ!!」


渾身の力を込めて、扉に向かって拳を繰り出す。

私の神力と結界の力とがぶつかり合って、凄まじい衝撃波と不協和音が部屋中を飛び交う。


「ぐ……何だこの音……」

「力のぶつかり合いによる余波ってやつか……」


耳をふさぐ程度でどうにかなるとは思えなかったが、それでもそうしてもらっていることである程度鼓膜を保護できるだろう。

しかし、私は手がふさがっているので耳をふさぐことができない。

予想出来た結果ではあるが、耳の奥がキンキンして目眩がしそうだった。


正直ちょっと、舐めてかかったかもしれない。

思っていたよりもずっと、結界は強靭だった。

このままじゃジリ貧だ……どうしたものか。


「負けないで、睦月!!」

「そうだよ!!睦月ちゃんだけが頼りなんだから!!」


朋美と桜子の声が聞こえる。

私が挫けそうに見えたのか、二人の鼓舞する声の後、他のみんなも私に向かって何やら叫んでいる様だった。


「くっそ……なめんなあああぁぁぁぁ!!」


割と限界近いと思っていたが、私はもう出し惜しみをするのを辞めることにした。

仮に私がここで倒れたとしても、きっとみんなは何とかしてくれるんじゃないか、ってそう思えたから。

私が更に力を込めると、結界にヒビが入って行く様な音が聞こえてきた。


もう少し……もう少しだけ……!


「睦月ちゃん!!」


声がした方を横目で見ると、桜子が全員を連れて私の周りに集まっていた。

そして、ポケットから小瓶を取り出して天にかざす。


「……離れてろって、言ったのに」

「仲間なんだから、見捨てられないよ!それよりほら、やっちゃって!!」


桜子に回復してもらった神力を爆発させて、目の前の結界にぶつける。

すると先ほど入れたヒビがどんどん広がっていくのが見えた。


「力で押し切れるんだったら、私たちだって!!」


そう言って和歌さんと愛美さんがそれぞれ武器を結界に叩きつける。

ヒビは更に広がった様だが、もう少し……。


「みんな、離れて!!」


明日香の声が聞こえて、大きな力を感じた私たちは扉から飛んで離れる。

その瞬間、無数の矢と特大の火球が飛来して、目の前の結界はガラスの割れる様な音と共に霧散した。


「……やったのか……?」

「愛美さん、それ死亡フラグだから……でも、今回はやったっぽいけど」


今回はみんなの力で、結界を打ち破った。

本当なら私一人で片づけたかったところだけど、ちょっと調子に乗り過ぎていたかもしれない。


「さっきまでの禍々しい感じはもうないわね。普通に開けても大丈夫そうに見えるわ」

「そうだね。だけど、この気配……間違いなくロキはそこにいる。私が先に行くから……」


そう言って一歩踏み出して、私は目眩を覚えて思わず膝をついてしまった。

くそ、こんな時に……!


「ちょ、ちょっと睦月!?」

「……大丈夫だって」

「どう見ても大丈夫じゃないでしょ……少し休んだ方が……」

「いや……もう結界壊れてるから、ほっといても向こうから扉開けてくると思う。行くよ」


頭を振って立ち上がり、私は剣を抜いた。

想定していたよりも消耗は激しかった様だ。

先ほどの桜子の回復がなかったら、正直やばかったかもしれない。


休みたいと体は言っているが、ここに大輝がいる以上休んでなんていられない。

先頭に立って、何があっても対処できる様剣を脇に構えながらドアを開ける。


「やぁ、早いお着きだったね」


ドアを開けると、中は質素な作りながらも最低限机と椅子、ベッドなどが置かれている。

広さは約三十畳程度と言ったところか。

奥の方で、繭の様なハンモックに寝かされた大輝が見えて、脇でフレイヤが何やら力を注いでいる様だ。


大輝は意識がないのか、私たちが入っても反応しなかった。

そして目の前のクソは優雅に茶を飲みながら座って私たちを迎えた。


「当たり前だろ。大輝に何かしたら殺す、って前にも言ったはずだ。その約束、今果たしてやるよ」

「できるのかな?そんな酷い顔色をしていて。知っているよ、ここを割り出す為に君が休まずに散策を続けていたことを。そしてその間、呑気にもそこの人間どもは休息をとっていたってこともね」

「…………」

「おいやめろ。それ以上言ったら殺す」

「確かに人間と神とじゃそのポテンシャルに多大な違いがある。だけど君たちは、スルーズに頼り切りだった。それで今の状態さ。わかるかい?君たちがスルーズをそこまで消耗させたも同然だってことだよ」

「言うなって言ってんだろ!!」


みんなにそんな気を遣わせるわけにはいかない。

だから私はロキの言葉に激昂した。

そして、気づいたら私はロキに殴りかかっていた。


「……悲しいなぁ。今の君だったら非戦闘タイプのノルンでも簡単に倒せそうだよ」

「……!!」


いつの間にかロキは私の背後に回り込んでいて、軽く突き飛ばされた。


「睦月!?」

「一つ誤解を解いておこうか。ここに宇堂大輝がいるのは、半分彼の意志でもあるんだ。攫ったのは確かに無理やりだったんだけど……訳をきちんと話したら彼はちゃんと理解して、その上でここで僕らの施しを受けることを承諾したんだ。君たちとしては助けにきたつもりなんだろうけど、言うなれば彼にとって邪魔者は僕らではなく君たちの方だってことになる」

「たわ言を……!」


ロキの言葉が信じられない、と言った様子のメンバーだったが、すぐに武器を構えてロキを見る。

着々と戦闘の心得が身に刻まれてきている様で、私としては嬉しい限りだが……さすがにロキを相手に勝てるとは思えない。

それに、大輝が自ら望んでここにいるだって?


本当に何を言っているんだ、この男は。

そんな与太話を、誰が信じるって言うのか。

とは言え、全くの嘘を言っている様には見えないし、聞かないといけないことが一つ増えたな。


「下がってて、みんな……」

「ダメだよ……そんな状態で何ができるの……」

「…………」


みんなにはまだ話していないし、神界でも知ってるやつの方が少ないことではあるが、私の全力は面倒なことに段階式だ。

先ほどの結界の時ので第二段階。

そして私の全力はあと二段階残っている。


ただ、厄介なことにこれを発揮するにはちょっと時間が必要な上に、段階と段階の間で消耗が激しいので、今の様にフラフラになってしまう。

ロキがそれに気づいているかはわからないが、どの道第三段階が開放できるまではもう少し時間が必要だ。


「おいロキ……さっきも言ったけどな、今大輝を開放するなら少しボコるだけで許してやるよ。だけど抵抗するって言うなら、ただじゃおかない」

「いやいやスルーズ……お仲間の言うことはもっともだと思うよ。そんな状態で何ができるって言うんだい?」

「…………」


何もかも見透かした様な、あのツラ。

思い切りぶん殴ってやりたい。


「一つ、ここまで来れたご褒美に昔話をしてあげようじゃないか」

「……は?」


何を言いだすのかと思ったら、昔話だと?

何処までも舐めた様なやつだ。


「そんなもん聞くつもりはないぞ。どうしても話したいんだったら、それがお前の遺言になる覚悟で話すんだな」

「まぁ、そう言うなよ。君もお疲れの様だしね、僕はこう見えて親切なんだ。話を聞きながら体を休めないか?」

「…………」

「罠よね、どう考えても……」

「宮本明日香……だったかな。君の言いたいことはわかるよ。だけどね、じゃあ仮にこれが罠だったとして……君たちはその罠の為にまたスルーズに無理をさせるつもりかな?」

「…………」


本当に、人の心をよくわかっている。

もちろん嫌な方向で、だけど。

逆手に取る様なやり方が本当に気に入らない。


「みんな、こんなやつの言うこと聞かなくていいから。私なら大丈夫なんだし」

「……そこのクソ野郎の言うことを聞くのは、確かに癪だな。だけど、大事な仲間をここで失うわけにはいかねぇ。睦月、ここは話を聞こうぜ」

「愛美さん……」

「賢明な判断だよ、柏木愛美。君は情熱的に見えて狡猾だ。生き方というのをよく理解した生き物で、非常に興味深いよ」

「気持ち悪いからあたしに話しかけんな。あたしはただ睦月が心配なだけだ」

「クク……嫌われたものだなぁ……まぁいいや。話自体は君たちにも関連したことになると思うし、損はしないはずだよ」

「……どういう意味だ?」


ロキはいつもの様に前髪をふぁさっとやって、私を見た。

みんなはその仕草を見て、相当引いた顔をしている。


「君も、気になっていたんじゃないかな。宇堂大輝が人間の身でありながら何故、あれほどの輝きを持つ魂を宿しているのか、とかね。それに、この話は宇堂大輝が僕らの施しを受けるに至った話でもあるんだから」

「……お前、何を知っているんだ?」

「だから、それをこれから話そうと言うのさ。もちろん聞かないで戦う、というなら相手にはなるけどね。ただしその場合は知る機会を永遠に失ってしまうかもしれないね」

「…………」


確かに私は大輝の魂の輝きに引き寄せられて、二万回以上に及ぶやり直しをしたりもした。

しかし、その輝きの理由までは考えたことがなかったし、理由があるということは、少なくとも私と出会う前からその理由は存在していたということになる。

一体どういう理由があるのかはわからないが、少しでも休ませてくれるというなら、癪ではあるが話を聞いてもいいかもしれない。


念のためみんなを見ると、皆一様に頷いて応えた。


「いいだろう、聞かせてもらおうか。ただしくだらない内容だったら、お前の命はここで終わることになるからな。あそこから大輝を連れ出したいし、さっさと話せ」


私がそう言うと、ロキは再度座り直して、茶を口に含む。

どんな話がされるのかはわからないが、つまらない話でないことを祈るばかりだ。

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