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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
ハーレム時々バイオレンス~七つの試練~
57/212

第57話

愛美さんのお母さんがやってくる当日。

俺はスーツを着せられて、既に愛美さん宅で待機中だ。

見た目が整ったことに対して心の中は全然整っていなくて、正直このまま中止にならないかな、なんてヘタレたことを考えていた。


「そういえば、お母さんどんな人なんですか?綺麗な人ですか?」


俺は愛美さんに気になったことを聞いておくことにした。

ある程度イメージがあれば、俺としても驚きが少なくて済むかもしれないし。


「お前……女なら何でもいいの?というか人妻とか熟女好きだよな」

「は!?ち、違いますよ!単純な好奇心というか……」

「だってお前、明日香のカーチャンの時もそんな質問したって聞いたぞ?」

「…………」


一体誰だ……この人に、こんな余計なことを……。


「あと睦月のカーチャンのことも昔から好きだったらしいじゃん。睦月がゲラゲラ笑いながら話してくれたぞ」

「あいつめ、本当に余計なことを……」


多分小学校の頃に秀美さんを見て言った感想のことだろう。

確かに俺はあいつに、秀美さん綺麗で優しい人だし俺結構好きだな、みたいなことを言った記憶はある。

今思えば、あれはおそらく母親への憧れみたいなもので、異性としてどうこうっていうのとはちょっと違うと思う。


それにしても睦月のやつ、そんなことまで言いふらさなくてもいいだろうに……。

そんなことを考えていると玄関のチャイムが鳴るのが聞こえて、俺が出ようとしたが愛美さんに止められ、座っている様言われた。

……とうとうやってきた様だ。


ドアが開けられて、こんにちはーと言いながら入ってきた女性は、愛美さんにそっくりだった。

だがどう見ても愛美さんの妹にしか見えない。

まず身長が小さいのだ。


桜子といい勝負なんじゃないだろうか。

だけど胸が……結構でかい。

そして顔に皺とか全然ない様に見えるんだけど……。


正直な話、言われなかったらお母さんだとはまず思わない。

一体何歳なんだろう……物凄く気になる。

もちろん聞けるわけないんだけど。


そして極め付き。

何これ、クローン技術ってもう二十年以上前から確立されてたの?

って言いたくなるほどそっくり。


「あ、君が大輝くんだね?初めまして、愛美の母の香苗かなえです。娘がお世話になってるみたいで……」


入ってきたお母さんに礼儀正しくお辞儀などされて、俺も恐縮しながら一度立って頭を下げる。

いや全く想定外で、何処から突っ込めばいいのか……。

立ち話してても何だから、と愛美さんが先にリビングに入ってきて、お母さんも続く。


色々と思考が追い付かないという状況ではあるが、ひとまず落ち着かなくては。

そんな俺の心境を察したのか愛美さんは俺に座る様言って、お茶を淹れてくれた。


「まぁ、気持ちはわかるよ大輝」

「は、はぁ」

「何何?愛美ちゃんのお姉ちゃんに見える?」

「い、いえ……どっちかっていうと愛美さんの方がおね……ぶふぉ……」


愛美さんの容赦ない肘が俺の腹に突き刺さり、先ほど食べたものが出てきてしまうんじゃないかと思われたが、何とかこれはセーフ。


「死にたいのか?お前いい度胸してんな。いや実際よく言われるけど、まさかお前まで言ってくるとは思わなかったわ」

「す、すみません……」

「ダメだよぉ愛美ちゃん!すぐ暴力に訴えるんだから」

「ほざけババァ。間違いなくあんたの影響だから安心しろ」


うわ、口の悪さ全開だぁ、なんて思った瞬間、お母さんの目が鋭くなったのが見える。


「……あん?もっぺん言ってみろや」

「見たか大輝、これが母の本性だ」

「…………」

「……あっ。やだなぁもう~!愛美ちゃんったら意地悪なんだから!」


確かに今、俺は愛美さん出生のルーツを見た気がする。

なるほど、愛美さんはもう九割くらいお母さん似なわけだ。


「意地悪ってか……まずそのぶりっ子マジで気持ち悪いからやめた方がいいよ。なぁ大輝?」


何故そこで俺に振った……そうですね、ともそんなことありませんよ、とも答えにくいだろうに……。

ちなみにどっちかって言うと素でいてもらう方がやりやすい。


「ちなみにこれ、余所行きぶりっ子だから。年甲斐もなく恥ずかしいよなぁ本当……」

「ちょっと愛美ちゃんひどいよぉ」

「……えっと、あれですね……お、俺に気なんか遣わなくていいですよ?疲れるんじゃないかと思いますから……それにほら、遠くからはるばる来てもらってるみたいですしね」


我ながら上手いこと言った気がする。

自分で自分を褒めてあげたい!って古いか。


「あら、そう?じゃあ遠慮なく……君のことは愛美も大輝って呼んでるみたいだから、私も呼び捨てでいいよね?まぁ異論とか認めないけど」

「…………」


え、早速こんなん?

いきなり俺たち親子なの?


「で……早速だけど愛美と付き合ってんだっけ?」

「あ……はい、はいそうです。お付き合いさせてもらってます」


俺がそう答えた時、お母さんが鬼の形相になった。

あまりのことに、つい言葉が詰まってしまう。


「……はいは一回だろうが!!この三下コラァ!!」


甲高い叫び声、そしてどぎつい言葉と共にぶちかまされる、テーブルへのかかと落とし。

テーブルが割れたりこそしなかったものの、お茶が少し零れたりして何より俺がびっくりした。


「……母さん。大輝をビビらせるのやめてくれる?すっかり縮み上がってんじゃん」

「おっと、ごめんねぇ。ついつい頭に血が上っちゃって」

「い、いえ……」


血は争えない。

この言葉の意味を今日、俺は身をもって理解した。


「その若さでこんな阿婆擦れと付き合うって、ある意味で凄いけどさ。本当にいいわけ?もっとちゃんと相手探した方がよくない?」

「おい、阿婆擦れって……」

「今は私が大輝と話してんの。そうだよね?」

「そ、そうですね……」


やりにくい人だなぁ……。

愛美さんももしかして苦手としてるのかな、と思う様な人だ。


「愛美さんは……俺が死ぬほど凹んでる時に助けてもらったと言いますか……愛美さんがいなかったら今の俺もないですから。感謝してますし、とても魅力的な人ですよ」

「まぁ、顔は私に似たからね。美人なのは認めるけど。だけど愛美、お前あのこと言ってないんだろ、どうせ」

「……っ!」


あのことって何だ?

元々過去のこととか詮索しなかったからっていうのもあるけど、やっぱり言いにくいこととかあるんだろうか。


「言いにくいなら私から説明してやってもいいけど」

「やめろ!……あのことは……あたしからちゃんと言うから。言わないといけないことだから」

「ふーん?なら別にいいけど。とまぁ、こんな感じで人に言えない様なことも結構ある様な子だよ?」

「そういうもんじゃないですか?人間なんだし。誰だって人に言えないこととか言いたくないことなんて一つや二つあるでしょ」

「ほう?」


あれ、また何かミスった?


「大輝、多分お前が思ってるよりもずっと重たい話だけど、それでも愛美を見る目を変えずにやっていけるって、そういう意味か?」

「見る目が変わるって言う基準によるんじゃないかと……屁理屈って言われたらそれまでですけど」

「まぁ、確かに屁理屈ではあるよ。マイナスに変わるかプラスに変わるか、ってことを言いたいんだろうけどな」

「母さん、もういいから……」

「黙ってな。お前が信じた男なんだろ?」

「…………」


二人の間に火花が散って見える気がする。

確かに愛美さんのことなら何でも知っていて不思議がない人だし、重たい話になってもおかしくはないんだろうと思う。

そしてこの人の言葉から見えるのは、もう愛美さんに傷ついてほしくないという気持ち。


そして俺が愛美さんをこれからも変わらずに愛していけるのか、みたいな試そうという意志。

生きていれば人間は誰しも大なり小なり傷つくことくらいあるだろう。

しかし、俺にその傷つく度合いを最小限に留めろ、とお母さんは言っているのではないかと思った。


「俺は……まだガキだから難しいこととかわからないし、どんな行動をしたら愛美さんが傷つくのか、とかよくわからないです。だけど、喜ばせる方法ならある程度は学んでいるつもりですよ。俺だって、この人の泣き顔とか見たくないですもん」

「それは何だ、おばさんの泣き顔とか無様だから、とかそういう意味か?」

「へ……?い、いや、違いますよ!大体俺、愛美さんをおばさんなんて思ってませんから」


だって、俺だって生きてればそのうちおじさんになる日は来るんだから。

なのに相手が傷つくのをわかっててそんな言葉を投げつけるのは、もう彼氏云々じゃなくて人として違うと思う。


「じゃあ、何があっても愛美を見捨てない、ってことか?」

「見捨てません。誰も見捨てないことが、俺のジャスティスです」

「何だそりゃ。誰も、ってまるで他にも女がいるみたいな言い回しに聞こえるぞ?」

「ほえ!?……あ、あのほら……あれですよ、あれ……」


どうしよう、不意を突かれてついついキョドってしまったでござる。

そして愛美さんが余計なことを言うな、って顔で俺を見ている。

しかしもう後の祭りというやつで、言ってしまったことは取り返しがつかない。


「おいコラ。マジで言ってたのかお前……他に誤魔化し様あっただろ……」

「え、えっと……」

「母さん、これは先に説明しなかったあたしも悪い。だからあたしから話すよ」

「大輝がそれでいいんなら、口を挟んでいいよ。どうする?」


一瞬愛美さんが説明してくれるのか、やったー!なんて思った自分が恥ずかしい。

そうだ、こういうことは男である俺から説明するべきだ。


「大丈夫です、愛美さん。こういう時くらい俺にもいいカッコさせてくださいよ」

「……全く。頼んだからな」


ため息をつきながら愛美さんが微笑みかけてくる。

俺を信じて任せてもらったのだから、もうやらないという選択肢はなく、後には退けないわけだ。


「じ、実はですね……」


決死の覚悟で俺は口を開く。

俺に出来るのは、正面突破だけだ!



「いやぁ、愛美よかったな。貰い手がちゃんと見つかって」


俺の話を聞いたお母さんが心底嬉しそうにしながらお茶を飲み、俺の肩をバンバンと叩く。

割と力が強くて、肩を叩かれているはずなのに何故かむせて咳き込みそうになった。


「いや、正直驚いたけどね。でも全員が納得して仲良くやってるんだったら、それが一番だわ」


ハーレムの話をした時、お母さんは最初物凄い顔をしていた。

あ、これ殺されるかも、なんて思ったけどもうここまできたら全部喋ってしまえ、ということで俺も覚悟を決めた。

俺の方針として、誰かを特別扱いはしない、というものがあり、それを語ったところでお母さんの顔が穏やかに戻っていくのが確認できて、何となく大丈夫なのかな、と思った。


「まぁ、中途半端な覚悟だったらぶっ殺してやろうかと思ってたけど」

「…………」

「…………」

「大輝、お前の覚悟は見せてもらった。そして実は私からも言わないといけないことがある」

「え?」


お母さんが今度は心底申し訳なさそうな顔になって、愛美さんを見る。


「実は、見合いの話は一昨日流れたんだわ」

「……は?」

「いや、実は同僚の息子が相手だったんだけど……お前のこと色々話したら顔色変えてな……簡単に言うと逃げられたっつーか……」


色々って、どれくらい色々話したんだろうか。

見合い相手が逃げるって、相当だと思うんだけど。

何か俺も後々で愛美さんから話を聞くのが怖くなってくる。


「だからね、どうしようかなーって思ってたんだけどさぁ。いや、大輝がちゃんと一緒にいてくれるなら安心だわ。寧ろこっちからお願いしたい。じゃじゃ馬だし遊び人だしでもう……」

「言うなっつってんだろババァ!!」

「ああ!?この程度でオタオタすんなガキが!!」


やめて!!こんなところで争わないで!!

二人ともなまじ見た目が綺麗だから迫力が半端ない。

まだ愛美さんの話とか聞かないといけないかな、って思ってるのにもう帰りたい気分だ。


「まぁ大輝の知ってる通りの人間でもあることは保証するよ。何だかんだ優しいところもあるからな。お願いできるか?」

「……言われるまでもないですよ。たとえ流れてなかったとしても、俺は絶対阻止するんだって気持ちでいましたから」

「母さん、あんま大輝をビビらせんなよ……声震えてんじゃねーか」

「そのうち慣れんだろ。しかしお前可愛いよなぁ。おばさんとも一晩どうだ?」

「てめババァ!!大輝に指一本でも触れたら、今日から寝るところは墓の下にしてやんよ!!」

「あ、いやまぁ……そんなことになったらお父さんに申し訳立たないですし……。お気持ちだけありがたく」

「お父さん?」


お母さんが不思議そうな顔をしている。


「お前、その程度のことも話してなかったのかよ」

「いや、聞かれなかったからってだけだよ。それにそのことも含めて話そうと思ってたから」


あ、俺言っちゃいけないこと言った予感。

家庭環境から何から、正直ほとんど何も知らなかった。

お母さんがどういう人かはわかったけど……。


「まぁ、この程度なら言っちゃってもいいだろ。私は片親なんだよ。最初の旦那はまぁ……私も若かったからね。体の相性はばっちりだったんだけどさ。でもやっぱ人間が合わなかったみたいで別れたんだ。まぁ愛美が高校入ってからだったから、割と持った方だよな」


うわぁ……体の相性の話とか別に聞きたくなかったなぁ。

ん?でも最初の旦那って言ったよな、今。

ってことは何回か離婚を繰り返してるってことになるんだろうか。


「まぁ、その先は愛美から聞くんだね。さっきも言ったけど割と重たい話でもあるしな」


それから少し雑談をして、愛美さんのお母さんは帰って行った。

愛美さんは泊まっていけば?って言っていたけど、お母さんは若い二人の邪魔をする気はない、と言ってまだ電車間に合う時間だからと足早に部屋を出た。

出る直前にお土産を渡すと、耳を貸せと言われる。


その通りにすると、またお母さんらしい発言が飛び出した。


「愛美と喧嘩するか、飽きたら連絡してきなよ。おばさんが相手してやっから」


どんな反応を返したらいいのかわからなくて苦笑いで済ませてしまったが、そんな機会がやってこないことを祈るばかりだ。

嵐の様なお母さんが去って静かになった部屋で俺は愛美さんの話を待つが、愛美さんはとても言いにくそうにしている。


「……母も帰ったし、睦月のマンションに戻ろうか。報告もしたいし」


こう言ったということは、きっと愛美さんはみんなに話すつもりでいるのかもしれない、と考えた俺は服を着替えてスーツを愛美さんの部屋のクローゼットに入れさせてもらうことにした。


そして二人で出かけた先で、俺は確かに愛美さんの過去に触れることになる。

しかし俺はまだ、そのことに気づく術もなかった。

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