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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
ハーレム時々バイオレンス~七つの試練~
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第46話

正直なことを言おう。

寿司って好きな量食べるから美味しいんだってことを。

声を大にして言いたい。


決してこんなにも無理して食べるものではないのだと。


「どうした……箸が止まっていないか?」

「な、なんの……まだまだ……」


明日香たちの前では取り繕っていたはずの望月さんが、俺と二人きりの時の口調に戻っている。

それだけ彼女にも余裕がなくなってきているということなのだろう。

望月さんとの勝負が始まって早くも二十分が経過していた。


俺は現在、漸く七つめの桶を空に出来たところ。

これでも既に普段の数倍食べている状態で、簡単に言ってしまえばとっくにキャパオーバー。

胃酸って食べてる最中にはそこまで出てくれないんだな、ということを身をもって体験している。


対する望月さんは十一個目の桶を空にしている。

何という化け物……この細身の体のどこにそんなに入るんだよ……食った分の質量は何処行っちゃってるわけ?

いや、よく見るとお腹が少しぽっこりと出てきている様に見える。


「わ、私はまだまだ食べられるぞ。普段は十五人前は食べるからな」


それはさっき明日香からも聞いたけどね……。

そしてそんな強気なセリフとは裏腹に時折呻く様な声が聞こえる気がするが、聞いてるとこっちまで気持ち悪くなりそうだから聞こえないことにする。

きっとこの寿司は名のある、美味しい寿司屋の高級な寿司なんだろう。


現に普通の量食べている明日香や桜子、睦月は美味しい美味しい言いながらのんびりと食べているのだから。

くそ、忌々しいな……俺がこんなに苦労しているときにこいつら……。

さっきカッコつけてあんなことを言ったことを早くも後悔していた。


「大輝くんも食べる?海鮮丼、美味しいよ!」


桜子が気を遣って言ってくれているのだろうが、今の俺には嫌がらせにしか見えない。

普段なら、そうかじゃあ頂くわ、あーんとかほざいてるんだろうが今そんなことしたら悲惨な結果しか見えない。

しかし箸を一分以上止めたら負けという明確なルールがある以上、どれだけ苦しかろうと自分の分に関しては食べないという選択肢はないのだが。


ここで負けることは、即望月さんの要求にお応えするということに繋がる。

正直この人色んな意味でおっかないし、俺としては手に負える気がしない。

よって、俺はこの勝負に負けるわけにはいかないのだ。


いかないのだが……どうにもこれ以上食べられる気がしない。

箸を止めない、というのが手で弄んでいればOK、みたいな屁理屈で済まされるならどんなに楽だろう。

というかそんな屁理屈こねたら、反則負けとか取られて俺の人生終わっちゃう気がする。


はぁ……しばらく寿司見たくない。

それくらい、寿司で俺の腹は占領されている。


「少しだけ、応援してもいいですか?」


声がした方向を見ると、睦月が律儀に挙手などしているではないか。


「よろしいですよ。宇堂さんも苦しい様ですから」


げっぷをしながら望月さんが答える。

美人からげっぷとか……まぁどれだけ美人だろうと人間だからな……。


睦月が俺のところへきて、手を頭に当てる。

何をしようと言うのだろうか。

まさかここでチートでも使うつもりか?


「お、おい……」


箸を進めながら睦月を見ると、目で任せて、と言っている様だった。

しかしここで反則するなんて……いや、望月さんにはわからないかもしれないが、それでも何となく気が引ける。

彼女は身一つで戦っている。


歳の差があるとは言っても、俺は男だ。

ここで甘えてしまっていいのか?

望月さんは寿司を食べながら不思議そうな顔で俺を見ている。


何だよこの人、食べてるときの顔可愛いな。

食べるの好きなのかな。

口いっぱいに寿司を頬張ってるときの顔とか、リスみたいだ。


――とは言え、やはり俺は、ここで負けてしまう訳には行かない!!

強く念じた……だけのはずなのだが。

俺の思いに体が応えたのか、今までの俺にはなかった異常な力が湧いてくるのを感じる。


そして――。



気付いたら周りがカオスなことになっていた。

状況が全く見えない。


「え、えっと……」

「勝負は大輝の勝ち、だね」


睦月の言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。

勝った、つまり俺は勝利した。

一体どうやって勝ったのか、全く記憶がない。


どうなっているんだ、これは。

泣きじゃくる望月さんと、それを宥める明日香。

そして俺は椅子に縛り付けられている。


どう見ても勝者に対する待遇とも思えないこの仕打ち。

というか、一体何がどうなってこうなったんだ?


「大輝くん、途中からキャラ変わりすぎて怖かったよ……というかやりすぎだから」


桜子が心底恐怖を感じた、という顔で俺を見る。

どういうことだ?

気付いたら寿司桶が全部空になっていて、望月さんが泣いているというこの現状。


「お、お前何かしたのか?」


睦月が何か力を使ったのか、と思い聞いてみる。

しかし睦月は軽く首を振った。


「いや、実はしようとしたんだけど……」

「だけど、何だ?してないの?」

「……結果から言うと、してない。途中から大輝がキレたみたいな感じになって、瞬く間に寿司桶を空にしてったんだよ」

「は?」


確かに負けるわけにはいかない、とか意気込んだ辺りからの記憶がない。

ということは何だ?

望月さんは負けて悔しくて泣いてるのか?


「こ、このケダモノ……」

「……はい?」


望月さんの口から発せられた、俺にとってあまりにも不名誉な一言。


「よ、汚された!!しかもお嬢もお友達も見ている前で!!まだ明確に付き合おうとか言われてないのに……う、こ、怖かった……うわあああああぁん……」

「え!?えええぇ!?」


あの望月さんが、取り繕うこともなく震えながら泣いている。

汚されたって……何だ?

ゲロでもかけたのか、俺。


「大輝くん……いきなりベロチューとかどうかと思うなぁ……」

「は?お前何言ってんだ、俺がそんなことするわけ……」

「でも大輝……さっき、望月さんの分まで平らげて、その後いきなり望月さんにむしゃぶりついたんだよ?」


桜子と睦月に言われ、俺は呆気にとられる。

いや、きれいな人だな、とか割と妄想膨らませてたことは認める。

しかしいきなりベロチューとかするほどぶっ壊れた思考はしてないつもりだ。


しかも相手はあの望月さんだぞ?

俺からしたら、恐怖でしかなかった相手にベロチューって……。

本当、どうなってるんだ……?


睦月は何となく心配そうに俺を見る。

しかし、睦月にも何が起こったのかが理解できていない様に見えるのは気のせいだろうか。

珍しいこともあるもんだな……。


頼りの彼女がこの調子なんじゃ、俺がいくら考えても答えが出る気がしない。

気になるのは間違いないが、とりあえず望月さんのことを何とかしなくてはならない。


「お嬢……すみません、もう大丈夫ですから」

「でも……」

「私には、やらなければならないことがありますから」


ふと声が聞こえてそちらを見ると、望月さんが明日香の制止を振り切って俺の元へと歩いてくる。

やばい、これもしかして殺される流れか?

たかがベロチュー、されどベロチューということなのか?


「しょ、勝負には負けたけどな……お前には、責任を取ってもらうからな!!」


真っ赤な顔をして望月さんが俺を指さして睨む。

まぁ男性経験ない人に、記憶がないとは言ってもみんなが見てる前でベロチューまでしたら……そう言われるのも仕方ない。

とは言っても、俺まだ十六にもなってないしな……。


仮に責任とって結婚しろ、とか言われたら困っちゃうな。


「わ、私は……お前の物になる。お前のハーレムに入る。だから、お前は私を精いっぱい幸せにするんだ」

「はぁ!?」

「え!?」

「ちょ、ちょっと!?」

「…………」


桜子と明日香は明らかにびっくりしている。

俺だってびっくりだ。

というか出来るなら今からでもお断りしたい。


「……今までの望月からは考えられない様な、大胆な告白ね」


明日香がため息をつきながら、しかし笑顔で呟く。

どういうことだ?

まさか明日香も知ってたってことなのか?


睦月は別のことに気が向いているのか、特に変化が見られない。

明日香からも衝撃の事実が告げられたと言うのに……。

何かあったのだろうか。


寿司が口に合わなかったとか?

いや、あいつも旨い旨い言いながら食ってたのは見た。


「お嬢……すみません、私は……」

「望月……」

「え、どういうこと?何が起こってるの?」


桜子は更に混乱している様だ。

俺だって、混乱しているんだ。

何が何だかわからないうちに勝っていて、しかも勝ったのに責任取ってハーレムに入れろとか……。


「実はね、大輝くん……私もいつかは望月を頼もうと思っていたの。だって、望月はこんなに綺麗なのに青春時代の大半を私の世話と仕事に費やしてしまっていたから……そのせいで楽しみとか趣味が食べることだけになってしまって……」


何と、明日香が信じられないことを言い出す。

望月さんは複雑そうな顔で明日香を見ていた。

自分で望んだことなのにそんな顔されると、こっちとしてはかなり複雑なんですけど……。


「その……いいのでしょうか、お嬢。私がお嬢と同じ土俵に立つなんてこと……」


さっきあんだけ俺のことを脅かしておいて、結局自分で説得しちゃってんじゃねぇかこの人……。

もしもトラウマになって、後でおねしょとかしたらどう責任取ってくれるんだ、この人は。


「いいも悪いもないわ。正直望月がいいのであれば、大輝くん以外に望月を任せられる人間はいないと思うから。一緒に大輝くんを共有しましょう」

「お嬢……」


いい話風になっているが、ハーレムに一人新メンバーが増えますよ、という割と下世話なお話だ。

そして俺はここへきて、一つの懸念事項があることを思い出した。

それは……そう、朋美のことだ。


何でこんな恐ろしいことを忘れていたのか。

もちろん望月さんという人間も相当恐ろしい。

これからどんな顔して付き合って行けと言うのか……。


マジでどう説明しよう……。

いや、どう説明しても殺される未来しか見えない気がする。

そして本当に俺は望月さんと付き合わないといけないのか……。


「大輝くん、実は結構望月さん好みでしょ」


桜子がいきなり訳のわからないことを言い出す。

こいつが見ている箇所は……胸か。

確かに桜子にはないものを、望月さんは持っている。


身長も確かに高めだ。

だって俺より高かったし。

見た目だけは確かに好みであることは認める。


だがな、桜子……みんな違ってみんないい、という感動的な詩だってあるんだ。

俺はお前もちゃんと大事に思っているぞ!


「いいじゃん、ハーレムなんだから。女が何人増えても大変になるのは大輝だしね」

「お、お前な……それより朋美に何て説明しよう。愛美さんはあの通りの人だから普通に話しても大丈夫だろうけど……朋美だけはどうにも無事に乗り切れる気がしないんだよ、俺。いや、確かに結果として俺自身で増やしたメンバーだけど、何かいい案ないか?なぁ、助けてくれよ!」

「まぁ、その辺はもう……なる様にしかならないよね」


そう言って睦月は別のことを考えている様だった。

何か他に気になることがあるのだろうか。

何にしても頼りにしていた彼女から、一瞬で切り捨てられてしまったでござる。


自分で何とかしろ、ということか……。

今更ながら俺は、迂闊にも望月さんとの勝負に乗ってしまったことを後悔していた。


「宇堂さん」


呼ばれて振り返ると、望月さんが真剣な顔で俺を見ている。

明日香も望月さんを傍で応援している様だ。


「その……」

「望月、頑張って」

「は、はい……」


一体何だと言うのか。

初めてできた男を相手に萎縮しているのか、望月さんは何か言いたそうにしている様だが一歩踏み出せないと言った様子だ。


「あ、そういう……大輝、耳貸して」

「え?」


睦月が望月さんを見て何か気づいた様で、俺に耳打ちしてくる。

……なるほど、そういうことか。

確かに俺から言ってやるべきだな。


俺、一つも悪くないはずなのに……。


「えーと……望月さん。お詫びと言っては何ですが明日、デートしましょうか。空いてますよね?というか空いてなかったら空けてほしいんですけど」


睦月から聞いた通りに俺が提案すると、望月さんが顔を赤らめて俺から目を逸らす。

やべぇ、ちょっと萌えるかもしれない、この人。

いや落ち着け……この人は割とガチの異常者の類だぞ……。


「望月……ほら、大輝くんがこう言ってくれたんだから答えてあげないと」

「で、ですが……」


何だろう、こういう光景中学校くらいの頃によく見た気がする。

主に良平に群がる女子のだけどな。


「わ、わかった……ば、場所や時間は追って知らせるから……」

「わかりました、じゃあその辺はお任せしますので」


全くもって不本意なまま、望月さんの加入はあれよあれよという間に決まってしまった。


「うわぁ!!お姉ちゃんが増えたよ!!」


桜子……愛美さんだって、まだお姉さんなんだぞ?

それともお前は愛美さんのことおばさんとか思ってるんじゃ……その考えは危険だからすぐに捨てるんだ。


「良かったわね、望月。大輝くんならきっと、望月のお願い叶えてくれるわ」

「ありがとうございます、お嬢……感謝します」


どう考えてもハメられたとしか思えないこの状況だが、明日香も喜んでいる。

望月さんは言わずもがな。


「…………」


しかし何処か他のことが気になっている様子の睦月。

全く、どうしちゃったのこの子。

ともあれここに新メンバーを迎えて……非常に不本意だが、新たなハーレムは始動する。


本当、俺どうなっちゃうんだろう……。

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