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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~女神の第二の高校生活と再会~
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第42話

「これが……」

「魔導書……」


緑色……少し深みのある緑色の、ハードカバー。

カビなんかは生えていない様だが、馴染みのない紙の質感。

やや埃っぽいか?


俺の手はちょっと小さくて、明日香や睦月に大きさで負けるのだが……俺の手だと片手でやっと掴めるかどうかくらい、分厚い。

そして重量感が凄い。


「一応聞くけど、これ……封印状態なんだよな?」

「そうだよ。何?封印解いてほしいの?」

「や、やめろ!!恐ろしいことをさらっと言うんじゃない!!」

「冗談だって。まぁ、解くにしてもある程度は準備しないとね。一般人多めだし」

「いや、多めってかお前以外は紛れもなく一般人だよ……」


何て言うか、俺みたいな凡人にはこの本がただただ古い、歴史あるものだってことくらいしかわからない。

多分桜子にも明日香にも愛美さんにもわからないんだとは思うが。


「これ、色んな国の言葉が混在しているわね」


俺の手から魔導書を奪い取り、明日香が中をパラパラとめくって言う。

そんなことまでわかるのか……俺には英語ですら危ういというのに。


「まぁ、北欧の言語だからね。ドイツ語とか英語とか、色々な地方から来た人たちが記したらしいって聞いてるよ。もちろん、普通の人間が読めない様に、北欧の言語をベースにして暗号みたいな感じになってるみたいだけど。それにしても、よくわかったね明日香」

「まぁ……ある程度は勉強してるから。とは言っても読めるレベルじゃないみたいだけど」


ある程度勉強してても読めないレベルの言語とか、俺に読めるわけもない。

桜子もページを見ながら首をひねっている様だった。


「で、どうするんだよそれ。もう戻さないか?あんまりいい予感がしないんだけど」

「どうって……せっかく取り寄せたんだから、封印も解いてみようよ」

「いやいやいやいや!!マジでやめないか?お前、大勢の彼女の前でお漏らしする彼氏とか見たいか?」


これが今の俺にできる最大限の、身を挺した脅しッ……!!

到底通じるとも思えないが、とりあえずは言わずにいられないッ!!


「何言ってるの、大輝。大輝が寝たきりになったら、私が大輝のシモの世話とかするつもりでいるんだよ?お漏らしくらいどうってことないよ」


気持ちいいくらいのドヤ顔で睦月が言う。

確かに老後の懸念とかあるけどさ……だけど……。


「うわぁ……ありがたいけどその発言は何となく引くよ……」

「はぁ?何でよ。超献身的な彼女でしょ?なのに引くなんて……もういい、やっぱり封印解除だね、これは」


今日の睦月は何となく俺をからかうことに命を賭けている節がある。

まぁ、賭けてるのは俺の命なんだけどな。


「そ、そんなぁ……」

「大輝、もう覚悟決めろ。あたしはもう決めた」


俺が逡巡していると、愛美さんが正面から俺の肩に手を置く。

何でこんな男らしいんだろう、この人。


そんなこと言われたって、俺は昔から怖い話とか大の苦手なんだ……。

あんなのを嬉々として話せる様なやつとか、商売にしてるやつまでいるって言うじゃないか。

俺には正気の沙汰とも思えない。


そんな俺の願いも虚しく、睦月は何やら本に手をかざしてぶつぶつと言っている。

何を言っているのかまではわからないが、おそらくこれが封印解除に必要な呪文なのだろう。

はぁ、頑張ってその時を引き延ばしてきたつもりなのに……。


「できた。出てくるよ、魔力」

「え、もう?」


桜子が驚きの声をあげる。

ぶっちゃけ、魔力だろうが何だろうが、神の前には無力なんじゃないか、という希望の様なものはある。

というかそうであってほしい……いや、そうであってもらわないと困る。


ここであえなく全滅、地球は滅亡しました、なんてシャレにならないからな。

なんて考えていると、本から黒い煙……いや違うな、靄か?

どう見ても平和的だったり友好的だったりって感じには見えない。


「何だこの黒いの……これが、魔力……?」


目の前に現れた黒いもやの様なものを見て、愛美さんが声を漏らす。

明日香と桜子は言葉を失っている様だ。

かく言う俺も、言葉にならない。


「何だ、せっかくいい気分で寝てたのに……誰だ、我の眠りを……げえっ!?お、お前はスルーズ!!」

「え、喋るの!?靄なのに!?」

「声帯とかあるのかしら……」

「お、驚くとこそこか?」


桜子と明日香が驚きの声を漏らすが、案外冷静に見えるのは俺だけか?

低い様な高い様な、くぐもった声が聞こえた刹那、その声が驚愕の色に染まって魔力が揺れた。


「おいおい、誰にタメ口利いてんだ?またみんなのお願い叶えちゃうぞツアーやらされたいのか?」


睦月から発せられたとは思えない様な声音と口調に、俺は思わず戦慄する。

というかキャラ変わりすぎじゃね?

普段から怖いとは思ってたけど、マジでおっかない。


危うくちびっちゃうところだった。

そういえば神様として神界とやらにいるときの姿は今とは大分違うって聞いた様な……。

魔導書は一発で中身がスルーズであることを見抜いたみたいだけど、どうやって判別したんだろう。


中身でわかったりなんてことがあるのか。

そしてみんなのお願い叶えちゃうぞツアーって何だ?


「そ、それは勘弁を……」

「迷惑なオーラまき散らすんじゃないよ。ここは人間界で、今ここにいるのはほとんどが人間なんだ。一人でも体調不良を訴える人間が出たら、お仕置きだからな」

「す、すみません!!」


そう言うのと同時に、魔力が見る見る収縮していく。

一体何がどうなってるんだ……。

俺が心の底からビビってたのは、一体何だったって言うんだ?


「あの、睦月……これは?」


明日香がやっとの思いで恐る恐る声をかける。


「ああ、こいつはね……昔、愚かにも私を手にかけようとして、力づくで支配された魔力なんだよ。それ以来一切頭が上がらないってわけ。逆らえばまた、色々と大変な目に遭わされるからね」

「…………」


力づくって……。

確かに力の女神とか言ってたけど、そこまでの力を持ってるってことか?

とんでもない女が味方についたもんだな、俺……。


というか魔力そのものが意志を持つって、俺程度の想像力だと相当強力な魔力なんじゃないかって思っちゃうんだけど……。


「おい、お前を今日呼び出したのは他でもない。私の言う通りに動け。そんで用事が済んだらとっとと本の中に戻れ。以上だ」

「あ、相変わらずの傍若無人ぶり……」


魔力が口答えをした瞬間、睦月の目が鋭くなる。

これが俺に向けられてなくてよかったと心から思った。


「何か言ったか?」

「い、いえ……何なりと……」


禍々しい見た目に反して、目の前の睦月に一切頭が上がらない魔力。

ビビッて損した、なんて考えてしまうが仮にここに睦月がいなかったら、俺たちは瘴気だけで死んでたりするんだろうか。


これは俺の予想だが、こうなってくるともう魔力もさっさと本に戻りたい、なんて願っているんじゃないかと思う。

だって、どう見ても理不尽だし。


「さて、じゃあまずはそうだな……この部屋の片づけをしてもらおう。私たちにとって必要なものまでしまったら、お仕置きだ。ちゃんと私の意志をくみ取れなかったらお前は痛い目を見ることになる」

「くっ……わ、わかりました」


何となく哀れになってくる。

俺も将来、こんな風にしてこき使われたりする日がくるのだろうか。

そんなことを考えていると、見る見る内に部屋の中のものがひとりでに動き出して、整頓されていく。


一見するとポルターガイスト現象か何かかと思ってしまうが、物凄く丁寧に片づけがされている様だった。

これはプロのハウスキーパーも真っ青の片づけっぷり……。


「ね、ねぇ……これが本当に魔力なのかな……」

「桜子……言いたいことはわかる。どう見ても睦月の奴隷だからな。だが言ってやるな……俺も何となく可哀想になってきているんだ」

「将来の自分を予見したみたいな気分なのよね、わかるわ大輝くん」

「…………」

「お前、今のまま行ったらマジで将来ああなっちゃうんじゃね?」


愛美さんまで……。

くそ、みんな言いたい放題言いやがって。

だけど何一つ否定できる要素がないから困る。


「さて、片づけが終わったら茶を入れてもらおうか。お前のその薄汚い瘴気を欠片でも入れたら……わかってるな?」

「は、はい……」


ただの靄だし、体力の概念とかなさそうだけど、何となく疲れて見えるのは俺だけだろうか。

段々と可哀想という気持ちが大きくなってきているのはきっと、明日香たちの言う通り俺の未来を見ている気分になるからなのだろう。


「な、なぁ睦月……そろそろ……」

「何?将来の自分を見ている様だって?私が大輝をそんな風に扱うって思ってるの?」


いつになく辛辣だなぁ、こいつ……。


「いや、そうじゃない……こともないかもしれないけど、それより何となく可哀想かなって」

「何言ってるのかな、こいつは自ら私に奴隷として仕えることを誓ったんだよ?だったら私にこき使われて本望なんじゃないかなって思うんだけど」

「まぁ、言いたいことはわかるよ。だけど……一応感情はあるみたいだし、もう少しこう優しく……ついでに俺にも優しくしてくれると……」


俺の言葉に、睦月が何やら思いついた様だ。

どうせロクでもないこと何だろうとは思うが……。


「大輝、魔導書の持ち主になってみたくない?」

「…………」


ほらやっぱり。

何をどうしたらこういう流れになるのか。

いや、確かに俺は魔力が可哀想、みたいなことを考えたし、もう少し優しくしようぜ、と進言もした。


だけどそれは、俺が魔導書の持ち主になりますよ、なんて意味ではないし、そもそも俺が持ってどうするって話になってくる。

宝の持ち腐れとか言う言葉があるが、俺が魔導書なんて持つのはまさしくそれだろう。


「まぁ、大輝くんは使い道も思いつかなかったみたいだからねぇ」


桜子が漫画を読みながらのんびりしている。

魔導書の魔力が、睦月の命令とは言ってもそこらを闊歩しているというのに、何でこいつらこんなくつろいでるんだろう。

さっきまでの緊張感どうした?


「まぁでも、持ち主にならなくても魔力って呼び方が何かこう、不自然だよな」


愛美さんはせんべいなどかじっている。

割と日常から相当かけ離れた話をしているはずなのに、すっかりとリラックスされていらっしゃる。

俺がおかしいのか?


「じゃあ、名前をつけたりとか?」

「それはダメだよ、明日香。無闇なことをしたらいけない」

「どうして?」


明日香の問いに、睦月がいつになく険しい顔をする。

珍しいな、こんな顔するなんて。


「名前をつけることは主従契約の成立を意味するの。つまり、あの魔力に名前をつけると……その名付け親がまんま主人ってことになっちゃう。それとも明日香は魔法少女になりたい願望でもあったの?」

「な、ないわよ……だったら正式な名前はダメね……」


ちょっとがっかりした様な顔で明日香が俯く。

そんなに名前つけたかったのか。

少し恥ずかしそうに見えるのはきっと、昔魔法少女に憧れたとか夢見たみたいな過去があるからなんだろうと勝手に思うことにした。


だって、普段真面目一辺倒の明日香がそんな魔法少女とか……萌えるじゃないか。


「あだ名は?あだ名なら契約にならないんじゃない?」


桜子が明日香を気遣ってかフォローを入れる。

確かに盲点だった。

あだ名か……それなら名前とは似て非なるもの、と考えることはできるかもしれない。


とは言ってもこの靄に、どんなあだ名をつけるつもりなんだろうか。

そして当の本人は、そんな会話が為されていることも知らずに茶葉を用意したりしている様だ。

桜子のことだからぶっ飛んだあだ名とかつけられてもおかしくないってのに、呑気なもんだな。


「まぁ、あだ名だったら大丈夫……だと思う。確証はないから、聞いてみないとだけど」


そう言って睦月が魔力を呼び寄せる。

何だかやっぱり可哀想に見えるな……けど口挟むとまた主人になれとか言われそうだから黙っておこう。


「さっきの話、聞いていたか?正式名ではなく、あくまで一時的なあだ名であれば契約には至らないのか、という話だけど」

「ええ……あだ名なら特に主従契約にはなりません。ですが我は仮にも魔力……」

「うっさい。私たちが呼びにくいからあだ名をつけてやると言っているんだ。甘んじて受けろ」

「…………」


うん、やっぱり理不尽な気がする。

見ろ、何となく落胆した様にお茶を淹れに戻っちゃったじゃないか。

いや、実際に落ち込んでいるのかは俺にもわからないけどさ。


しかしそんなことは意にも介さず、睦月を始めとするメンバーはあだ名談義に花を咲かせている。

同情するなら金をくれ、なんて言ってるドラマがあったが、同情するなら(ちゃんとした)名前をくれ、って感じに見えるのはきっと気のせいに違いない。

用事が特にないんであれば、早く本に戻してやればいいのに、と思いながら俺はその光景を見つめていた。

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