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第4話

見た目も小さくて、正直可愛くて仕方ない大輝が、汗びっしょりになって私を攻撃しようとしてくる。

どれも何度も見ているが故に私には当たらないが、彼は私を驚かせようとでもしたのか、私の攻撃を避けて口元をニヤリと歪めて上体を沈める。

――来る、浴びせ蹴りが。


空振りによる体力の限界を感じたのもあるのだろうが、大輝はここで決めようと考える。

そして私はそれを完璧なタイミングでいなし、彼を気絶させるのだ。


タイミング、力加減等々そのどれもが寸分違たがわず完璧だった。

ドドッ、という音と共に大輝は床に落下して、気を失う。

見事な気絶っぷりだ。


――完璧。


「あっ……」


ギャラリーから声が漏れた。

私は白々しくも大輝を気遣う様に駆け寄る。


「動かしてはダメだ、頭を打っている」


館長が近づいてきた。

ここで治してしまうこともできなくはないけど、さすがにそれをやると面倒なことになる。

館長が大輝の体をあれこれまさぐって……くそ、羨ましい!!


毎度毎度思うけど本当、その役目私に代わってくれたらいいのに!!


脳震盪のうしんとうだな。直に目が覚めるだろう」


しかし、なんだろう……寝顔が天使の様だ、とか赤ちゃんを表現することがあるが、今の大輝はまさにそれだ。



「宇堂くん?」


本当なら、宇堂くん、なんて他人行儀な呼び方じゃなくて大輝ぃぃぃぃ!!と叫びたい。

そう、あの某筋肉で売ってる芸人の様に。

そんな思いを隠して、大輝の体をゆする。


これくらいじゃ目が覚めないのも、わかってる。


「宇堂くんってば」


我慢だ我慢。

焦るな、まだこれからなんだから。

もう少しゆすって、大輝の手が少し動いたのを確認する。


そして大輝の手がズボンにかかる。

本当ならこのまま眺めていたいのだが、これからのことを考えるとそういうわけにもいかず、私は再度心を鬼にして、大輝の顔にビンタを食らわせた。


「ちょっと!!起きなさいってば!!」


以前クラスメートに食らわせたデコピンと同じくらいの威力の……いや割と高威力よねあれ。

ビンタのあとで、再び肩を掴んで大輝をゆすった。

大輝の体がびくっとして、大輝が飛び起きた。


混乱した様子でキョロキョロと周りを見ている。

小動物みたいで、本当に可愛い。


「お、おお?」


どうやら事態が飲み込めたらしく、大輝が私を見て身構えた。

今度は大人の第二ラウンドでも始めてみる?


「あ!目が覚めた!館長!!」

「ふむ……まだぼーっとしてるみたいだが……どうやら心配はなさそうだな」


再び館長が私を見てニヤついている。

懲りないお人だ、またああいうのを聞きたいんだろうか。


「あれ、大根の女の子は……?」


寝ぼけ眼の大輝が私を見て、大根の女の子と言った。

最初は私が大根足だと言われてるのだと勘違いしたものだが、どうやらそうではないということはすぐにわかった。

しかし、ここで少し恐怖を与えないと、私の望む未来にはならない。


「……は?あんたまさか、私のこと大根足とか言いたいわけ?」


敢えての怒りオーラ。

もう何万回も聞いているし、ぶっちゃけ大輝にだったら何言われてもいいって思ってるし。

こんなショタ大輝に罵られたら、嬉ションとかしちゃいそうな気がする。


「あ、ああ、いや、そうじゃないんだ!夢だよ夢!!」


それはもう必死に、慌てて否定する大輝はちょっと涙目になって見えて可愛い。

敢えて何度でも言おう。

もう食べてしまいたいと。


それから、私は大輝に何があったのかを簡単に説明してあげた。

聞いてる間に見せた、あの羞恥心にまみれた表情だけでご飯三杯はいける。


「浴びせ蹴りみたいな大技、あんなところで使ってくるとはね」


少し煽る様に、わざとやれやれとポーズをつけて言ってあげると、大輝は悔しそうな顔を見せた。

仮に変顔とかしてても、きっと大輝なら可愛いに違いない。

今度ちゃんと先に進めたらやってもらおう。


「くっ……お前本当に女かよ……ゴリラかっつーの……」


男の子ってゴリラが好きなのかな。

排泄物投げてきたりすることもあるらしいけど、そういうのがお好みなの?

それとも、大輝の理想の女性像はゴリラ!みたいな感じなのだろうか。


「女の子にゴリラ……?言って良いことと悪いことがあるって、教わってないのかな……?」


そんなことを考えながら、私は大輝に恐怖を与えるべく冷気を発する。

そう、これが私の長きに渡るアニメ鑑賞の成果、絶対冷域だ。

道場の中の温度が冗談抜きで下がって行って、周りも困惑し始めている。


「いや……その……」


恐怖と寒さで大輝の口が回らなくなってきたのを確認する。

ここまでくれば、あとはもう仕上げの段階だ。

おいしくなぁ~れ!モエモエキュン!


なんてことを考えながら拳を振り上げると、大輝は反射的に目を閉じた。

歯を食いしばり、衝撃に備えている様だ。

……計画通り……!

しかし私の振り上げた手は、大輝を殴ることはせずに大輝の顎を掴む。


そして、そのまま私が大輝の唇に吸い付く。

周りが一気にざわっとした瞬間だった。

そう、これだよ、これを待ってた……うおおおおおおおお!!!


ああああ!あま!!あまいいいぃぃぃぃいい!!!


「あー……何だ、ここはデートスポットじゃないからな。続きは帰ってからにしろ。あと宇堂、明日になっても頭が痛む様なら病院行け。以上、今日はこれで解散!」


館長がいいところで再度水を差してきた。

ここからがいいところなのに、なんて思うがここでこれ以上のことはさすがにまずい。

大輝はまだ何が起きたのかよくわかっていない様だったけど、やがて理解したのか、トマトみたいな顔色になって着替えもしないでそのまま逃げる様にして帰って行った。


何はともあれとりあえず、任務第一弾は終了。

ここまでは何事もなく良好だ。

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