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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~女神の第二の高校生活と再会~
39/212

第39話

時間は少しだけ遡る。

これは私が椎名睦月として生きることを決め、そして事故による入院を知って目覚めてから少し経った頃……つまりは退院してすぐの話になる。

あの日、病院を出てすぐに私は大輝と再会した。


同時に桜子や明日香との再会も果たすわけだが、その後割とすぐに朋美とも再会した。

親の都合で長崎へ引っ越すことになって、離れ離れになっていた悲運の少女、桜井朋美。

私がまだ春海だった頃のハーレムメンバーだ。


彼女は一時的に……とは言っても私が病に臥せってからだから、期間にするとそこそこの長さ大輝から放置されていた。

当の大輝は朋美の存在などすっかりと忘れて、私の生死に葛藤し、それでも腐ることなく学校とバイトと病院の往復という毎日だったはずだ。

その間で他の女の子のことなんか考えている余裕が、大輝にあったとは考えにくい。


正当性はそれなりにあるものの、大輝は春海が死んだ後、施設で一本だけメールを送ったんだそうだ。


『しばらく連絡できなくて悪かった。春海が死んだよ』


これだけ。

まぁ、これだけ見たら何言ってんだ突然、となるのは必定と言える。

そして、他に言うことはないのかこの野郎、と。


そして大輝はその後から死んだ様な生活を送り、春海の葬儀からも逃げたと言っていた。

明日香や桜子、井原さんが迎えに来ようと殴られようと、立ち上がることはなく一週間近くも飲まず食わずのまま過ごしたらしい。

その間も朋美はマメに、大輝への連絡を入れていたらしいが大輝は一貫して朋美からの連絡を無視した。


誰かと話すのが辛かったんだ、という様なことを言っていたが、朋美からしてみたら気になることだらけで怒りが募るのも納得できる。

結果、奇しくも私が睦月の体で退院する当日……もちろんそんな事情は誰も知らなかったと思うけど、朋美はバイトで稼いだ貯金をはたいてこちらに来ることにした。

元々朋美のバイトは高校を出てこっちで生活をしたい、大輝の近くにいたい、という理由から始めたものだったらしいが、思わぬところで散財する羽目になって、それについても怒っている様だった。


ああ、これは殺されても文句言えないかな、なんて思ったがもちろん殺させてしまうわけにはいかない。


「た、頼む助けてくれ……」

「…………」


朋美襲来のおよそ五分前。

昔から変わらない、情けない顔。

ダメな男は可愛いものなんだと誰かが言っていたが、それは間違いないのだな、とも同時に思ったものだった。


だからと言って私は大輝を見捨てたりしないし、宮本さんや野口さんにしてもその辺は同意の様だ。

いくつか確認しなければならないこともあるし、こちらから話さなければならないこともある。

しかし時間がない。


大体の事情は把握できたが、朋美がどれだけのことをしてくるかというのが想像できなかったので、私としては事前準備なしに朋美襲来を迎えることになった。

全く、あれほど連絡しろって言ってたのに……私が死ぬってことが前もってわかってれば、こんなことにはなってないだろうに。


「場所は?この辺までくるって言ってたの?」

「ああ……学校の位置は大体わかるから、って」

「そっかぁ……骨は拾ってあげるからね」

「そんな!!」


今の大輝に冗談は通じないらしく、とりあえず朋美を宥める方向で行こうと私は考えた。


「しかし……こうして待っていると何となく恐怖が……トイレとか行っといた方がいいかな……」

「あら、オムツでもつけておいたらどう?久しぶり、大輝」


背後からかかった声に、大輝が飛び上がり野口さんは青い顔をした。

そして宮本さんは、この人が朋美さん……と呟いている。

既に剣呑な雰囲気の朋美だったが、さすがにいきなり殴ったりは……。


「ふん!!」


なんて思った私が甘かった。

大輝の顔面に全力のパンチが入り、大輝は一瞬で物言わぬ抜け殻に……とまでは行かなかったがどうやら気を失った様だった。


「何よ……春海が死んだとか物騒なこと言うから来てみたら、ちゃんと生きてるじゃない」

「いや、それなんだけど……」

「久しぶりね、春海。少し雰囲気変わった?」

「えっと、まぁ……何て言うか……私春海じゃないんだけど」

「え?いや、雰囲気違うけど春海でしょ?髪型とか違うけど……」

「うーん」


何でこう、話を聞かない子って存在するんだろう。

きいてもらえれば即解決しそうなのに。


「と、朋美あのね」

「あらあら桜子、久しぶり。大輝と同じ学校なんだっけ?そちらは?」


朋美が見たのは宮本さんだ。

攻撃でもされると思っているのか、宮本さんはやや身構えて朋美の視線を受ける。

そんな宮本さんを見て、野口さんが庇う様にして前に出て朋美に説明した。


「えっと、同じ学校の宮本明日香ちゃん。大輝くんとは……」


しかし野口さんはうっかりしていたのか、朋美の視線が鋭くなるのが見えた。

すぐに野口さんも朋美の視線には気づいた様だが、時すでに遅しというやつだ。


「大輝くん?桜子って宇堂くんって呼んでなかったっけ?」

「あ、えっとその……」


これは悪手かもしれない。

墓穴を掘っているなんて……大輝みたいな間違いを犯すことなんかあるんだなぁ。


いよいよまずいことになってきた、と思ったが、徐々に周囲の目が痛くなりつつある。

この場を離れるのが先だと言うことで、私は再会早々に力を使うことにした。

いい場所が思い当たらない……。


「まぁ朋美、まずは落ち着こう。場所変えようよ。大輝は私が抱えるから」


そう言って私は大輝を抱えて、朋美と野口さん、宮本さんも一緒にワープした。



「……え?ここってあの時の……?さっきまで全然違うとこにいたよね?しばらくこっちにいなかった私でもそれはわかるよ」


そう、ここは大輝とタコ坊主が決闘に使った場所だ。

あの時と違って、空地の近くでは子連れの姿が見えたりする。

その他の面々も同様に多少の驚きはあった様だが、それよりも事情の説明を、と朋美がせっついてきた。


「この場所知ってるってことは、やっぱり春海なんじゃない。何で嘘つくの?」

「いや、それについては今説明するから……まずは大輝を起こさないと」

「どういうこと?意味が分からないんだけど」


徐々に不信感の募る朋美を尻目に、私は大輝に喝を入れて意識を呼び起こした。

大輝はすぐに目を覚ましたが、記憶が混乱しているのか辺りをキョロキョロと見回している。


「こ、ここは……」

「ちょっと人目があったからね。移動することにしたの。おはよう大輝」

「あ、ああ……って……とも……み……」

「何呑気に寝てんのよ……まずそこに正座だから」

「あ、はい……」


言われた通り大輝は朋美の前に正座する。

正直私としても、詳しい事情をまだ知らないからまずは大輝に説明してもらいたいところではある。

なんだけど、当の大輝がすっかりとビビッて萎縮してしまっているので、お話にならない。


女の子の口からハーレムの経緯語らせるつもりなんだろうか、大輝は。


「大輝、まず事情の説明しないと」

「あ、ああ……けど……」

「その前に言うこと、ないの?さっきからビビってるだけで大輝からは何も誠意が見えないんだけど」


なんてその辺のチンピラみたいなことを言い出す。

そういえば朋美、少し胸大きくなった様に見えるなぁ。

胸のせいもあってか迫力が以前とは違う様な……。


「まぁまぁ、朋美……まずは話聞いてあげよう?大輝がダメな子だなんてこと、前からわかってたじゃない」

「まぁ、そうだけど……私だって、そこが可愛いって思ってたんだけど……なんかこう……放置されて……突然きたメールがあんなんだったから……」

「…………」

「わ、私飲み物買ってくるわ」


宮本さんが立ち上がって、野口さんも一緒に行くことにしたらしく二人で連れ立って近くの自販機まで歩いているのが見えた。

まぁ、逃げたんだろうな。

確かに今の朋美はおっかないし。


「大輝……もしかしてあの二人もなの?」


二人が立ち去ったところで、いきなり朋美が核心に触れる。

そんなに慌てなくても……と思ったがまぁ、気になるよね。

私と朋美だけでハーレムやってた頃は他の女子とか一緒にいたことなかったんだし。


そして大輝は朋美の言葉に苦笑いの表情で答えた。

今の朋美にそれは火に油ってもんだと思うんだけど……。


「何がおかしいのよ?私のこと、バカにしてんの?」

「ち、違うから!断じて!決して!!」

「朋美、まぁ落ち着いてよ……」


朋美はおそらく気づいているのだろうが、同時にハーレムは大輝を中心にして動いているのだということも理解はしている様だ。

大輝からの説明を求めるということは、大輝がちゃんと納得してこうなっているのかどうか、というのを確かめたいという気持ちもあってのことなのだろうと思う。

とは言ってもこのままじゃ話にならない。


おそらくさっき場を離れた二人は朋美が落ち着くまで戻ってこないつもりなんだろうし、何とかしないと。


「大輝、気持ちはわかるけど話さないと前に進まないから」


ひとまず大輝からの説明は必要だろうと考えた私は、軽く背中を押す。

大輝の説明の仕方によっては朋美が暴れるかもしれないが、その時は私の出番だ。

ある程度落ち着いて聞いてくれると信じて私は大輝を送り出す。


「じゃあ、話すから……ただ、聞いててぶん殴りたいとか思っても、そうするのは聞き終わってからにしてくれ。じゃないと話が終わらないからさ」

「……まぁ、いいわよ。さぁ、早く!」


浮気を疑われる恐妻家の様な顔になった大輝が、ぼそぼそと話しだす。

率先して言いたくないのかもしれないが、あんまり朋美を刺激しないでもらえると助かるんだけどな……。


「何よそれ。じゃあ結局、春海が死んだって言うのは本当だったってこと?」


ある程度聞いたところで、朋美が信じられないと言った様子で私を見た。

普通に生きてたら確かに信じられない話が混ざっているから致し方ないとは思うが、あの二人のことより私のことの方が気になるということか。

愛されてるなぁ、私。


「まぁ、そうだな。春海が死んだ時、俺も明日香も桜子もその場にいたんだ。春喜さんも秀美さんもな。あの二人は葬儀にも参加してる。……俺は逃げたんだけど」

「はぁ……そんな大事な時にまで逃げるなんてね……本当、信じられない」

「返す言葉もないな……」


きっと大輝の中で春海が死んだなんて言う事実を、信じたくなくてそういう行動に出ちゃったんだろうな。

ただ第三者として見るなら確かにありえない行動だと思うし、朋美の言いたいこともわかる気がする。


「じゃあ、ここにいるのは誰なのよ?どう見たって春海なんだけど」

「それは……」

「あー……大輝、もういいよ。ここからは私が説明するから」

「いいのか?」

「その方が朋美としても納得しやすいかと思うし。朋美もそれでいい?」


少し考えて朋美が頷く。

詳しい事情はある程度話してあると言っても、色々証拠を示しながら説明する方が朋美としても納得しやすいだろう。

そう考えて私は説明を引き継ぐことにした。

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