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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~女神の第二の高校生活と再会~
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第38話

「俺はね、簡単に言えば若い頃、調子に乗ってたんだろうと思う。まだ世の中ってものが見えてなかったんだろうな」


そう切り出したパパは、昔のことを懐かしむ様に天井を見上げていた。

ママはそんなパパを心配そうに見ている。


「父から……つまり春海や睦月のおじいちゃんに当たる人間だね。俺は大学を出てから会社を継いで、天狗になっていた部分があったんだと思う。今ほど法律なんかも厳しくなかったし、何をしててもバレなければ大丈夫って気持ちもあったんだろう」


若いって言うのは体も精神も、真逆の方向を向いてしまうことがある、なんて言うけど……そういうものなのかもしれない。

そう考えると大輝って案外真っすぐなままな気がするけど……曲がるならここらで一旦ひん曲がってもらってもいいかなって思う。

先のことを考えるとね。


「当時の……今はもう辞めてしまって会社にはいない部下のちょっとしたミスで、うちの会社は倒産の危機にあったんだ」

「その頃は春海と睦月が生まれたばっかりだったわね。懐かしいわ」


二人が目を細める。

パパは申し訳なさそうな、そしてママは何処か寂しそうな、そんな印象を受ける顔だった。


「相手方に支払わなければならない賠償額が、当時のうちの資産を上回ったものだったんだよね。高校生の君たちにこんな話を聞かせるのもどうかとは思うんだが」

「過去の話なんですよね?だったら俺は、聞きたいです」


みんなも大輝と同様の意見だったのを確認して、パパは頷いて続けた。


「さっき秀美が言った通り、春海も睦月も生まれたばっかりでね。先に言っておくと椎名さんと俺は、大学の先輩後輩に当たるんだ。彼の家は当時、うちの何倍も資産を持っている資産家だったんだ」


ここまで聞くと、何となく話がわかる様な気がしてくる。

だけど、本人が話すと言っているのだから私たちには聞く義務があるだろう。


「会社がいよいよやばい、って言う段階になって、椎名さんは援助を申し出てくれたんだ。当時途方もない賠償額の前に為す術もなかった俺たちだったんだけど、その額をぽんと融資してくれた。その上で、椎名さんが出してきた条件が一つあった」


それが、二人のどちらかを養子にくれ、というものだった。


「当時椎名さん夫妻は子宝に恵まれなくて、それでもどうしても子どもはほしかったんだそうだ。それこそ養子でも迎えて、なんて考えているところだったと言っていたよ。そして、俺に融資の話を持ち掛けて……」

「パパ、辛そうだね。大体の予想はつくから、言わなくてもいいよ?」

「……ありがとう。だけどこれは、俺のけじめでもある。そして俺たち夫婦が長年苦しんでいたことでもあるんだ」


そう言ってパパは続ける。

要約すると、椎名家に迎えられることになったのが睦月だった。

ママは最後の最後まで反対していたらしい。


当然と言えば当然か。

実はママは、睦月が椎名家に養子に出されるまでは割と気性の荒い女の人だったらしい。

それを聞いた時の大輝のあの絶望した様な顔は忘れられない。


睦月が養子に出されてママは人が変わってしまった。

現代医学に照らし合わせるのであれば、精神病を患ってしまったと言えるかもしれない。

しかしある程度春海が育ってくると、ママの精神は落ち着きを取り戻したらしい。


それでも性格までは戻らなかった。

実は一瞬だけ、戻った瞬間があったらしいということも言っていた。

それは、春海が大熱で死にかけた時。


「やっぱり睦月を養子になんか出すべきじゃなかった」


そう言ってママは荒れたとのことだった。

どうしてだろう、何をどうしてもあのママが荒れているとか気性が荒いっていうのが全く想像ができない。

大輝は何となく覚えがありそうな表情だ。


もしかして私が知らないところで展開されていた何かがあったということだろうか。

隠れて不倫とかそういうのではなさそうだから別にいいけど……ちょっと見て見たかったかもしれない。


「秀美の猛反対はあったけど、当時の俺には家族と社員を守る義務があった。どうしても家族を失いたくなかった。だから、俺は睦月を養子に出すことを決断したんだ。今となっては、どうかしていたと思わなくもない」

「…………」

「贖罪になるのかはわからないが、会社の経営が持ち直して少ししてから、俺はあの時出してもらった分の金と、そこに少し上乗せした金額を持って椎名さんの元へ行ったことがあるんだよ」

「それは、睦月を取り戻そうって考えたからですか?」


大輝が口を開く。

パパは深く頷いて、手元を弄ぶ。

それを見たママが立ち上がって、タバコと灰皿を持ってきた。


「すまないね、話の途中で。こういう真面目な話をしていると、タバコが吸いたくなるんだ。構わないかな?」


桜子と明日香に向けて言っている様だ。


「私は問題ありません。父もよく吸っていますので。少し控えてほしいと思う時もありますけど」

「私も大丈夫ですよ。父も母も吸いませんけど、別にタバコが嫌いということもないですから」

「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて」


そう言ってパパがタバコに火をつける。

この光景も久しぶりに見た気がする。

相変わらず、吸い方がカッコいい。


「当時、椎名さんの家には長男が……つまり実の子どもが生まれたばかりだったんだよ。睦月がもしかしたら、酷い扱いを受けるんじゃないかと思って、俺も気が気でなかった。確か弟くんは幸一くんと言ったかな」

「そうだね。とは言っても私は面識ないんだけど」

「そうだったな。まぁ、結果は散々なもので、金は突き返された挙句、もう二度と関わってこない様に言われたよ。恩を仇で返す様な真似を、なんて言っていたかな、確か」

「それって、もしかして……」

「うん……俺も人を使って色々調べさせていたんだ。その調査結果によると、あの人は親類縁者から友人に至るまで他人との関わりを徹底して排除していた様だった。そして、その方針を子どもたちに押し付けていた節があったんだよ」


なるほど、それで誰も見舞いやら葬儀やらに現れなかったってことか。

他人との関わりはロクな結果を生まない、という思い込み。

それが睦月を更に孤立させていたということに繋がるのかもしれない。


「あの事故があった日は、親戚への縁切りを宣言しに行った帰りだと聞いている。他人との関わりを絶つことを望んで、それが成就された直後に亡くなるなんて、皮肉すぎる話だよな」


パパは椎名父から色々言われたみたいだったが、それでも椎名父を恨んでいたりしたわけではない様だった。


「パパ、調べてた中で睦月がどういう子だったか、とか知ってることがあったら教えてほしいかも」

「睦月か……確か、何かの拍子に幸一くんを泣かせてしまったことがあったとかで、その時に椎名さんの奥さんから何やら酷いことを言われたと聞いている」

「酷いこと?」

「確か……せっかく拾ってきた子がいい子だと思ったら、何で私たちの実の子どもをいじめて泣かす様なことをするのか、みたいなことだったかな」

「何よそれ、ひどすぎる……」


明日香が憤っている。

私としても、少し酷いなとは思った。

大輝も唇を噛んでいるのが見えた。


「それから、睦月は自分で自分の素性を調べるに至ったみたいだったよ。拾ってきた、なんて言われたら当然のことではあるかもしれないな。衣食住に関しては特に苦労することもなかったみたいだけど、それでも家族内の格差っていうのか……扱いは居候に近いものだったみたいだ」

「誰が悪いとも言えない話な気がするね。少なくとも私は、パパも椎名父も、睦月も、誰も悪くなくてただただ色んなタイミングが悪かった、としか思えない」

「そうかもしれないな。謄本なんかを取り寄せて睦月は自分が養子であることを知って、それが確か小学校高学年くらいの頃だったかな。その頃から徐々に、親の気持ちを引こうとしたのか奇抜なファッションや言動なんかをする様になったとか聞いたけど……」


なるほど、中二病になった原因はそういうものだったのか……。

重すぎる事情だな……。

笑ったりして悪かったなと少し思った。


私も、あのバカ二人のことを言えないかもしれない。


「事故のことがあって、それから俺は睦月をこっちで引き取れないかって考えていたんだけど……その矢先に君たちはやってきた、というわけだ」


パパは語らなかったが、おそらくは睦月の分まで春海を愛してやろうと考えて、あれだけの溺愛をしてきたのだろうと私は思った。

逆に睦月がどれだけみじめで不安な日々を過ごしてきたのか、と考えると……何となく私の中ではらわたが煮えくり返る様な、そんな感覚を覚える。


それから歓談をしながら私たちはママの作った夕飯をご馳走になって、姫沢家を出ることにした。

やっぱりあの味は、ママだけのものなのかな、と思っていたところでママは、レシピを持ってきてくれた。


「あなたが以前、言っていたのを思い出して……これ、良かったら持って行って?」


覚えていてくれたのか……そう思うと嬉しくなって、ママに抱き着いてしまった。


「今度上手にできたら、私たちにも食べさせてね。娘の成長っていうのは親として、やっぱり嬉しいものだから」


そう言ったママの顔は、先ほど全てを打ち明けた時の様な憂いはなく、晴れ晴れとしたものだった。


それから私たちはみんなで週末を過ごして、週明けにはまた学校へ行く。

ここまで何もない風に過ごしてきた私だったが、姫沢家での話し合いの中で聞いた睦月の境遇について、釈然としない思いを抱えていた。

もちろんみんなに心配をかけても仕方ないので、そんなことはおくびにも出さなかったが。


ここまできてこんなことを言うのも何だが、私は睦月の無念は晴れてなんかいないと思っている。

学校にも家にも居場所のなかった睦月。

本当だったら、高校に入ればまた違った生活が、とか希望を持っていたかもしれない。


今となってはそれも知る術はないが、私個人が睦月の話を聞いて無念を晴らしたいと思った。

――まぁ、簡単に言っちゃえば聞いてて何かムカついたから、やっぱあいつらにはお仕置きしてやろうって思っただけなんだけど。

こういう汚れ仕事は、私だけでやればいい。


「ちょっと付き合ってくれる?どうせ暇でしょ?」


教室に入るなり私は、バカ二人に声をかけて無理やり屋上まで引きずって行った。

戸惑いながらも逆らわない姿勢だけは評価できる。


「わ、私ら……何かしたかよ?」

「いや?最近は大人しかったよ。最近は、だけどね」

「だ、だったら……」


地面に転がされて、混乱しながら恨めしそうな表情を浮かべる二人。

この時点で、いい気味だと思わなくもない。

だが甘い。


「今日はね、君たちが大人しくしていたご褒美に、君たちを可愛くしてあげようと思って」

「は?」


二人はきょとんとして顔を見合わせる。

黙ってればまぁまぁそこそこ……でもうちのメンバーに比べたらカスみたいなもんだけど、悪くはない。

というわけで、この子たちには個性というものを与えることにした。


「な、何するつもりなんだよ」

「大丈夫、痛くしたりはしないから」


精神的には痛いことになるかもしれないけどね。

あと、周りの視線も痛くなるかも。


「ま、見てなよ」


例によって私は指をパチンと鳴らす。

二人は色々思い出して恐怖に顔を歪めたが、痛みなどが特にないとわかると安堵して胸を撫で下ろしていた。


「どう?別に痛くないでしょ?」

「あ、ああ……大丈夫ニャ」

「す、杉本どの……?」

「ブッハァ!!」


早くも私は吹き出してしまった。

我慢しなきゃ、って思ってたのに……これは破壊力高いわ。


「お、お前!ニャにしたんだニャ!!」

「何だこの言葉遣い……ありえないでゴザルぞ……」


ゴリゴリのギャルから発せられる痛い言葉遣い。

これは教室に戻るのが楽しみだ。


「くく……い、いいもんでしょ、その言葉遣い。ぶふっ……私からのプレゼントだから。これを機に、コスプレでもしてみたら?」

「ふ、ふざけんニャ!!」


暴力には訴えていないはずなのに、杉本が逆上して私に襲い掛かってくる。

雰囲気だけが怒りに燃えていて、言葉を発すると途端に間抜けになるから滑稽で面白い。

ちなみに杉本は「な」という発音が出来なくしてある。


「な」は全部「ニャ」になる。

語尾には必ず「ニャ」がつく様にしてやった。

そして藤原は所謂オタク口調。

誰かを呼ぶ時はどの、がつき、語尾に必ずゴザルが付く。


本当は邪気眼とかにしてやるのも面白いかな、と思ったんだけど、より滑稽に見える方がいいだろうと私は考えた。

杉本の攻撃をひらりとかわして、私は二人を教室にワープさせる。

教室にあの二人の異変が浸透するまで少しの時間がかかると見て、私は歩いて教室へ向かった。


「て、てめぇしいニャ!!ニャにしやがったニャ!!」


し、しいニャ……。

これはあかん……。

腹筋が崩壊する、なんて言うことがあるが、今日がまさにその瞬間かもしれない。


「椎名どの!!何のつもりでゴザルか!?これはあんまりでゴザル!!」


本人たちは真っ赤な顔で羞恥に呻いているが、周りからはどうしたんだ、とかキモいとか可愛いとか、賛否両論な声が飛び交っている。


「何だよお前ら、その路線で行くことにしたの?椎名のこと言えないじゃん」

「ち、違うんだニャ!これはしいニャが……」

「はぁ?椎名が何だよ?」

「く、クッソニャ!!」


ニャのつけ方違う気がするんだけど、まぁそれはいいか。

久々にこんなに笑ったかもしれない、というほど笑わせてもらった。

二人は散々クラスメートからいじられて、ふてくされてすっかり黙り込んでいる。


まぁ、痛い言葉遣いから始まったいじめの復讐ならこんなもんでいいだろう。

これなら睦月も、笑って見ていてくれるんじゃないかと思う。

私が転校するまでの間……短い間だけど、日替わりで言葉遣いを変えさせてやることにして、私の憂さ晴らしは終わることになった。

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