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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~女神の第二の高校生活と再会~
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第37話

「えっと……はい、そうですね……わかりました、じゃあ午後に。ええ、すみません突然……失礼します」


大輝が電話を終えて、私たちを見る。

何と大輝は事前に連絡を取っていなかったらしく、このギリギリのタイミングでアポイントを取っていた。

たまにこういうことをやらかすのも、相変わらずだ。


「大輝くん……その顔で何となく大丈夫そうなのはわかったからよかったけど……ダメだったらどうするつもりだったのよ」

「う、すまん……」


結果としてパパは姫沢家に今日一日いるということがわかった。

もしかしたら夫婦水入らずで、なんて思っていたかもしれないと思うと少しだけ悪いことしたな、なんて考える。


「いや、一つだけ言い訳をさせてください」

「どうぞ」


明日香が呆れた様な顔をしているが、心底怒っているという風でもない。

何だかんだ言って明日香も大輝には甘いのだ。

やれ忙しかっただの、色々と言い訳を述べているのを見て私は大輝が目の前にいるんだという、まぁ世間からしたら離れていた期間なんかそこまでじゃなかったはずだけど……それでももう離れなくていいんだという幸せをかみしめていた。


ちなみに愛美さんは今日、会社から急遽呼び出しを受けて文句を言いながら仕事に行っている。


ひとまず、手土産をと言うことで姫沢家の最寄り駅のすぐ近くにある、団子屋に行くことになった。

あの団子屋の団子はパパとママも好きだったはずだ。

大輝が一人で行ってくると言うので、私たちは外で待つことにした。


集団でぞろぞろ入って行くというのも、何となく行儀が悪い。


「そういえば、桜子と明日香は最近きたばっかりなんだっけ?」

「ええ……まぁ……」

「そうだねぇ……」


二人とも何となく気恥しそうな、そんな顔だ。

三人できて、その帰りにハーレム加入を果たしたと聞いているので、きっとその時のことでも思い出しているのだろう。

私としては再会した時さすがにびっくりはしたけど、今となってはもう仲間だと思っている。


だから、二人にそんな顔をされてしまうとこちらとしても申し訳ない様な気持ちになってしまう。

それに、あの時は会ってすぐ朋美とも再会したし……いや再会なんていう生易しいものじゃなかったけど。

それはさておいて、二人にも変に遠慮とかしてほしくなかった。


「……?」

「どうしたの、睦月ちゃん」

「いや……」


一瞬、人間ではない何かの気配を感じた気がする。

僅かな残り香も感じられないほどの一瞬の気配――。

人間ではありえない。


あり得ないんだけど、だとしたら何の用事で?というのが正直な感想だった。

なので気のせいだろうということでこの時は片づけてしまう。

これから姫沢家に赴くというのに、暗い顔でというのも何となく気が引ける。


「悪い、待たせたか?」


大量の団子を持って大輝が店から出てくる。

そんなに沢山、誰が食べるのか……と思ったがノルンにお仕置きで餅を詰め込んだ時はあの半分くらいで音を上げてたし……まぁ、こんだけ人数いれば大丈夫か、と思い直す。


「何かあったの?随分長かった様だけど」

「ああ、ちょっと視線を感じた気がしてさ。気のせいだったっぽいんだけど」

「あー、私が覗き込んだりしてたからかな?」

「行儀悪いわよ、桜子……」


視線……?

いや、桜子は確かに覗き込んでたけど……そんな違和感を覚えるほどのものじゃないだろう。

となると、さっきの気配は無関係とは言えなくなってくる。


「とりあえず向かおう。あんまり待たせても悪いし」


そう言って大輝が歩き出したので、私もこのことは一旦忘れることにした。

用心に越したことはないだろうけど……。


姫沢家までの道すがら、明日香がふと尋ねてくる。


「そういえば……本当のことがわかったら、睦月はどうするつもりでいるのかしら」

「んー……どうってのは特に考えてないんだよね、実は。この前も言ったけど私としては養子だろうと関係ないって思ってるから」

「それは、悲観してるとかそういうのではなさそうね」

「まぁね。何て言うのかな……情が移ったって言うのが一番近いかもしれない。二万回以上のやり直しそのものは大輝の為だったけど、その中であの二人の立場が両親であることには違いなかったわけで。もちろん向こうは記憶なんかあるはずないんだけど……だから私にとって、紛れもなく両親なんだよね、もう」

「前に話聞いた時から思ってたけど、スケールがおかしいよね。途方もないって言うか……本当に神様なんだな、って思い知らされる。私が同じ立場だったら頭おかしくなってると思うし」


桜子が軽く頭を抱えながら笑う。

確かに普通の人間が出来る範囲のことではないし、頭がおかしくなるというか精神が崩壊するかもしれない。


「そうね、常軌を逸している……だけど、そのおかげで今大輝くんはここにいる。だから私は……異常だとは思うけど、ちゃんと感謝もしているのよ」

「はは、ありがとう。……まぁ、だから別にどうしたいってのは私にはないんだ。要求があるとしたら、寧ろ向こうな気がするし」


私の言葉に大輝が心配そうな顔をしてこちらを見つめてくる。


「それは……また一緒に暮らそう、とか?」

「あり得るとは思ってる。多分私は断るんだけどね」

「え?何で?もったいない。ご飯だって美味しいし、いい暮らしは出来ると思うんだけど」


桜子が意外という顔で私を見る。

私としても確かに魅力的ではある。

あの姫沢家での暮らしは幸せな日々だった。


だけど、今の現状で色々相続も済ませてしまっているということや、これからのハーレムのことを考えるなら、私はあのマンションにいる方が何かと都合がいい。

だから私はきっと、そういう話になったらやんわりと断るだろう。

この先どんなことがあっても、もう大輝をこのハーレムから離れさせてしまうことなどあってはならないのだ。


雑談をしながら歩いていると、懐かしい建物が見えてくる。

元我が家。

元ってのも何か変な話ではあるが、今はもう少なくとも私の家ではない。


だから別に間違っているとも思わない。


「今日は大輝くんの顔色、いいね」

「まぁ、あの時とは状況が違うからな……とは言っても穏やかな心境っていうわけにもいかないんだけどさ」

「話の内容が内容だからね。とは言っても大輝は直接何かしなきゃいけないわけでもないし、ドンと構えててもらっていいよ」

「睦月……大輝くんがそんなことできると思ってるの?」

「ん?思ってるわけないじゃん」

「お前……何気にひどいな」


門の前に到着して、私は躊躇いもなくチャイムを押す。

少ししてママが出てくるのが見えた。


「!?あ、あなたは……」

「こんにちは……いや、お久しぶり、の方が合ってるかな」

「すみません、突然……これ、土産です」


大輝が先ほど購入した団子を渡して、私たちは中へと入る様促される。

ママの顔色は良くない。

二つの意味で動揺しているんだと思う。


一つめは、春海と見間違えてあり得ないと思い直した顔。

もう一つは、睦月のことをやはり知っているという顔。

おそらくどっちも正解なのだろう。


玄関に入ると今度はパパが出迎えてくれる。

相変わらずの様で少し安心した。


「ご無沙汰しています、春喜さん……先日はとんでもないご迷惑を……」

「久しぶりだね、大輝くん……それに、君は……睦月か。大きくなったな」

「じゃあ、やっぱり……」


応接間に通されて、私たちはママの淹れてくれたお茶を飲みながら話し合いを始める。


「大輝くん、どうやって知り合った?面識も接点もなかったはずじゃないかと思うんだけど」

「仰る通りです。ですけど……これは、到底信じられる類の話じゃないと思うんで、何言ってんだこいつ、って思われても仕方ないことなんですけど……」


私が説明しようと思っていたことを、大輝が説明してくれる。

私が以前大輝に説明した内容をなぞっているに過ぎないが、それでも説明としては間違っていない。

聞いているうちにパパもママも、何とも言えない顔になっていた。


「っていうことは……春海はあの大熱を出した時に既に死んでいたってことになるのか?」

「まぁ、大体合ってる。厳密には私の魂が入り込むことで体が生き永らえたって言えるんだけど」

「魂……か……突拍子もない話だな……」

「先日の大きな事故で、この体も瀕死の重症だったんだけど……それが私の最後のチャンスだった。もちろん協力者がいたから、この体に入り込めたんだけどね」


何か証拠の様なものが見せられれば、と考えてやはり能力を発揮するのが手っ取り早いという結論に至る。

明日香と桜子の位置を一瞬で入れ替えたり、目の前のお茶を沸騰させたりと姫沢家に被害の出ない範囲で色々やって見せると二人とも信じられないものを見るかの表情で私を見た。


「手品じゃ……ないんだな?」

「手品で液体が沸騰するなんて、私は聞いたことないかな。何なら今すぐ雷雨を降らせたりとか、そういうこともできなくはないよ。世界規模の変革だからあんまり推奨はしないけど」

「そ、そうか……何て言うか……うん……」


二人ともどういうリアクションをしたら良いのかわからなくて、黙り込んでしまった。

こんな顔をさせるつもりはなかったんだけどな……。

やっぱり私に平和なんて、夢見過ぎな話だったのかな。


「えーとね……私、パパとママを騙してたことになるよね、ごめんなさい」


私がそう言うと、パパとママは顔を見合わせた。

何だか驚いている様だ。


「俺たちのことを、まだパパママと呼んでくれるのか?」

「私にとっては、パパもママも両親であることに変わりはないよ。こればっかりは他の誰にも務まらないから」

「そうか……ありがとう、睦月。だったら俺たちは、君に感謝しないといけないんだと思う」

「どういうこと?」

「何しろ俺たちは、死んでしまうはずだった娘を二回も救ってもらってるんだから。そうだろう?」

「確かに、結果としてはそうかもしれないけど……この睦月だって、いずれは二回目の死を迎えるんだよ?」

「だけど、それは今すぐ必要なものじゃないんだろう?春海のことは確かに……今でも辛いという気持ちもあるよ。だけど、それがあって大輝くんが生かされているということなら、俺としては大輝くんと一緒に人生を全うしてもらいたい」

「私も似た様な認識でいるわ。それに……中身が違っていたとしても、春海は春海だったし。睦月に春海が乗り移ったのだと考えているの。厳密には違うんだろうけど……どちらにしても私たちの娘であることに変わりはないわ」


二人の慈愛に満ちた目。

これは確かに、娘に向ける視線だと思った。

この二人はいつでも、私をこうして見てくれていた。


私が何か言って困らせちゃうかな、って思った時も、仕方ないなぁって。

やっぱり私にとってこの二人は……父と母なのだ。


「えっと……本当にそれで、いいの?」

「いいも悪いもないよ。君のその体には間違いなく、俺たちの血が流れているんだから」

「そうよ。私たちの娘であることに、変わりはないもの」


答えはもう得られたも同然だった。

そして二人は、私が望むのであればまた一緒に暮らすことだって、と言ってくれた。

これについてはもちろん断ったわけだが。


「少し早いかもしれないけど、一人立ちしたんだと思ってくれたらありがたいかな。今の私は抱えてるものが沢山あるから。だけどパパとママが許してくれるんだったら、たまにこうして里帰りみたいな感じで帰ってきたいって、私は思ってる」


そう言った後で、理由については簡単に説明した。

何で明日香と桜子もここにいるのか、とか。

実はもう一人、朋美の他にここにはいないけど大輝を慕う人間もメンバーとして傍にいるから、等々。


大輝はそのことまで言っちゃうのか、と青ざめた顔をして聞いていたが、それを聞いたパパも同様に青い顔をしていた。


「大輝くん、君というやつは……いや、そうしなければ死んでしまう運命だった、というのはわかっている……わかっているけども……」

「は、はぁ……実感のないことではあるんですけど……」

「わかった。だけどね、これだけは言っておく。君がどう考えているかはわからないが、子どもだけは睦月と最初に作るんだ。そして俺たちに見せにきてくれ。そうじゃなかったら、睦月はどんな汚い手を使ってでも姫沢家に迎える」


これは大輝、大変なことになったな、と思った。

もちろん、私としてもそうしてもらうつもりではいたんだけど……まさかパパまでもが味方についてくれるというのは想定外だったからだ。

私もそれなりの資産を相続しているし、その気になれば一資産家としてやっていけるのだが、姫沢家は多分今や規模がけた違いのはずだ。


「でも、孫ってまだ先の話だしどうなるか……」

「大輝くん……君はうちの娘と別れるつもりで付き合ってる、ということなのかな?」


娘か……パパもそう言ってくれるんだったら、私は紛れもなく娘だ。

万一拒絶されたら、なんて考えなかったわけじゃないけど、こうして認めてもらえたことは嬉しい。


「ま、まさか!そんな、滅相もない!!」

「だったら、別に問題なんか何一つないじゃないか。何だったらこの後すぐに作ってくれてもいいくらいなんだ」

「そ、それはさすがに……」

「あなた……さすがに急かすのはダメですよ」


ママの助け舟に、青くなっていた大輝が漸く生気を取り戻す。

話も盛り上がって、張りつめた雰囲気から始まったとは思えない様な雰囲気だったが、それも徐々に静まって行って応接間は再び沈黙に包まれた。

そう、確かに話さなくてはならないことがまだある。


春海とそっくりなこの睦月が姫沢家に現れたその瞬間から、パパもママも昔のことを話さなくてはならないということには気づいていたはずだ。

そして私たちは二人が切り出すのを待つ必要があった。

睦月と春海についての真実を。


「まぁ、それは冗談として……」


割と本気の顔だったパパがこほん、と話を切って私を見た。


「こうなったら、全部語っておこうか……俺の過ちを」


これからやっと明かされる、睦月と春海の出生の秘密。

どんなことがあったのか、私たちはやっと真実を知ることができるのだ。

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