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やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記  作者: スカーレット
間章~女神の第二の高校生活と再会~
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第36話

一つ言えるのは、まずあのバカ二人は急激に静かになった。

あれだけやってやったからなのか、漸く自分たちの身の程というものを知ったらしく、私に話しかけてくる様な変わり者はこの学校では高橋さんと教師陣のみとなったのだ。

それでも高橋さんが私に近づけば高橋さんの身に危険が、ということがあり得ないわけではないので、私は極力用事は校外で、と言ってある。


私の意図を汲んでくれたのか、高橋さんは私に校内では最低限の接触しかしなくなった。

お昼を食べたりとか、その程度ならと言うことで一緒したりはするが、それ以外は至って静かなものだ。


そして今日は、気合いを入れて自宅の遺品の整理をしようと思っている。

何故なら、姫沢家と睦月の関係を明らかにしておきたいからだ。

面倒だ、という気持ちがないわけでもないが、私よりも大輝や明日香、桜子が気になって仕方ないという様子だった。


確かにこのまま放置というのも何となく後味悪いし……それに姫沢家の両親には正直恩義を感じてもいるのだ。

ここいらでその恩を返せる様なら返しておくのも悪くない、と私は考えた。


「睦月ちゃーん、いるよね?」


マンションのチャイムが鳴って、インターホンから桜子の元気な声が聞こえる。

私たちはあの日……恐怖や憤りを共有した日から名前で呼び合っている。

宮本さんは明日香、野口さんは桜子、そして柏木さんは愛美さん。


苗字で呼び合うって、何か他人行儀だし。

後ろから騒がないでよ、という明日香の声が聞こえて何となく微笑ましい。

二人がここへ来たのも、予定通りだ。


前々から、遺品整理をしようなんて現役女子高生らしからぬことを二人は言っていて、大輝もその辺は賛成していた。

しかし今日大輝はまたバイトがあるから、ということで来られず、女子三人で遺品の整理をすることになった。


「ふわぁ……いっぱいあるねぇ」

「まぁね……何してた人なんだかはわからないけど、忙しい人だったっぽいし……資産家だったみたいだから」


まず睦月の父親の部屋は書類が山の様にあった。

これらを、必要なものとそうじゃないものに分けないといけないわけだが……面倒だし大変な作業だと思うのでこれらを私は引き受けることにした。

明日香には弟の部屋を。


桜子には私の補助的なことをしてもらうことにした。

二人が手を合わせてそれぞれの部屋に入り、作業を開始する。

作業を開始して、すぐ……五分くらいか。


桜子は何かに気づいた様だった。


「ねぇ、睦月ちゃんこれ……」

「ん?」


桜子が手にしていたのは、写真立てに入った家族写真だった。

睦月の背格好などから、そこまで昔のものでもない様に見える。

しかし、その佇まいがどこかぎこちない様に見えるのは、私だけだろうか。


「これ……睦月ちゃんだけハブられてない?」

「やっぱりそう見える?気のせいとは思えないんだけど」


そう見えるポイントはいくつかあって、まず睦月と家族の距離。

睦月だけが違和感たっぷりに家族と距離を取っている様に見えた。

そして、弟は両親に挟まれて肩を抱かれている様だ。


もちろん単純に睦月が反抗期だったとか、そういうことも考えられる。

年齢的に考えて不思議なことではない。

ただそれにしては、睦月の表情が暗い気がするが。


「まぁ、まだ決定的な証拠とは言い難いね。これだけじゃ家族仲があまり良くなかった、程度のものでしかないから」

「そうだよねぇ……」


落胆した様子の桜子だったが、私はその後割とすぐに別の証拠を発見する。


「姫沢春喜……って……」


一枚の、乱暴に書かれたパパの連絡先。

さすがにこれは見間違え様がなかった。


「春海ちゃんの、お父さんだったよね確か」

「うん、ってことは、睦月の父親とパパは知り合いだった、ってことになる」


そういえば……この間私の身元を明らかにする様な何かを見た様な気がするんだけど……。


「そうだ、思い出した!ごめん桜子、ちょっとやっててもらっていい?」

「うん、わかった」


私は何でこんな簡単なことを失念していたのだろうか。

あれを見たら一発だったって言うのに、ただの手続き書類として扱ってしまっていた。


「やっぱり……」


自室で机の中から発見したのは、携帯の名義変更と家族分の解約に使った、戸籍謄本。

叔父さんは思わぬところで役に立ってくれた。

その戸籍謄本に記されていたのは、睦月の欄にある養子という文字。


これだ、決定的な証拠。

睦月の父が残したメモ紙と、この戸籍謄本。

ここから導き出される答えは一つ。


睦月は何らかの事情で姫沢家からこの椎名家に養子に出されたということ。

ということは春海と睦月は双子だった?

パパやママからは一人っ子だと聞かされていたけど……。


そしてこれはおそらくだが、睦月本人は養子だったということを知っていたのではないだろうか。

春海の存在までも知っていたのかどうかは微妙だが、決して幸せな人生を歩んでいたとは考えられなかった。

そう考えるとあの写真の微妙な立ち位置も少しだけ納得ができないこともない。


だけど……わかってくるにつれて睦月は私が入り込む前、どんな思いで人生を過ごしていたのだろうか、と少し悲しくなる気持ちもあった。

学校ではあんなクソみたいな連中にいじめられ、家では自分の居場所は、という様なことを考えていたんじゃないかって思う。

どれも推論でしかないが、とりあえず姫沢家と椎名家については、これだけの証拠が揃えばあとはパパかママが語ってくれることだろう。



「ここまで揃ったら、しらばっくれるなんてこともできないでしょうね」


睦月の弟の部屋の片づけをしていた明日香も呼んで、三人で休憩することにした。

リビングで、私の淹れたお茶を飲みながら、睦月と春海の関係について想像してみる。

パパとママのことだし、しらばっくれる様なことはしないと思うが、かと言って内容的に嬉々として語ってくれるとも思えない。


もしかしたら、何か辛い事情があったかもしれないんだし。


「まぁ……こっちも騙してた様なものだからね。それを考えると、一概にパパやママを責めたりはできないかな。というか、薄情な言い方だけど私からしたら養子でも何でも関係ないわけだし」


とは言ってもこちらとしても、素性を明かす必要はあるだろう。

何で春海のことを知っているのか、等々説明ができない部分だらけで腹を割って話そう、というのもなかなか難しい話になる。


「そういえば、弟さんの部屋で妙なことに気づいたんだけど……」


弟の部屋を片付けていた明日香から、報告を受ける。

一体どんなことだろう……エロ本でも出てきたのかな。

大輝だって小学生の頃からエロ本隠してたみたいだから、別に不思議はないと思うんだけど。


「妙なこと?」

「ええ……どうも弟さん……友達がいた形跡がないのよね。いじめられてるって様子でもなかったみたいだけど」


確かに、睦月やその弟、そして両親に至るまでこうなってしまっているのに、今まで誰一人訪ねてこなかった。

その時点から、考えてみたら変だとは思う。

私は自分の都合で考えてしまっていたからか、寧ろ誰もこないのは好都合だ、なんて思っていたくらいだから気づかなくても不思議はない。


ということは、椎名家は何か原因があって世間と関わらずに過ごしていたということになるのだろうか。

それはそれで凄いことだけど……。

極端な人だったのかな、睦月父は。


もし私が今考えていることが……辿り着いた答えが正解なんだとしたら、パパはある程度睦月についても調べていそうな気がする。

家族についてもある程度知っている可能性は高い。


ひとまず必要なものはこちらとしては用意できた、ということでその日は解散して、あとは日程の調整のみとなるわけだが、ここからは大輝にも協力してもらう必要が出てくる。

何しろパパは忙しい人だから、いきなり会いに行ってもいないという可能性が非常に高い。

会えなければ何の意味もないし、大輝にはアポイントを取ってもらうという大事な役目があるのだ。


とりあえず簡単に連絡を入れて、今日の遺品整理は成果があったことを伝える。

明日香や桜子も当然行きたがるだろうし、全員が都合の良い日程を考える必要があるだろう。



「じゃあ今日、彼氏さんとデートなんだ?」

「うん、まぁね。久しぶりなんだけど」

「へぇ、いいなぁ……どれくらい付き合ってるの?」


翌日のお昼の高橋さんとの会話。

あのバカ二人がちょっかいかけてくることがなくなってから、高橋さんが私の席に来ても騒ぐやつはいなくなった。

大輝はこの学校にいないけど、こういう学生生活も悪くはないかもしれない。


とは言っても大輝成分が不足しがちな私としては、早く編入試験を受けて転校したい、という思いを捨ててはいないし資料も既に取り寄せてはあるのだ。

簡単に私と大輝の馴れ初めを語ると、高橋さんは興味津々の様子だった。


「いいなぁ……私も彼氏ほしいけど……こんなちんちくりんだし……」

「何言ってるの?低身長なのは男子からしたら可愛いポイントの一つだから。しかも巨乳って……すぐ彼氏なんかできるでしょ」

「そうかなぁ?私、別に可愛くはないと思うんだけど」

「はぁ?可愛いから。超可愛いから。何なら私が男になって彼女に欲しいくらいだから」

「そ、そう?」


あまりにぐいぐい行ったものだから高橋さんはやや引き気味で顔を赤らめる。

いい子だし、可愛いし……この子にも幸せになってもらいたいと思う。



「へぇ、睦月がねぇ……友達とか作るの、珍しいな」

「それはまぁ……だって、私にとっては大輝以外別にどうでも良かったし」


放課後に大輝と会って、二人で歩きながらの会話。

高橋さんと仲良くなったことなんかを話すと大輝は意外そうな顔をする。

そして私がさらっと答えると大輝は照れた様にそっぽを向いた。


こういうところ、昔から変わってないなと思う。

他校の生徒と一緒に歩いている、というのが何となく学生デートっぽくて私としては非常に楽しい。

大輝も似た様なことを考えているっぽいけど、私としては早くもマンションに連れ込んでしまいたいという気持ちで頭がいっぱいだった。


「大輝にも紹介してあげたいけどね。でもあの子可愛いからなぁ……私ほっぽらかされちゃうかもしれない」

「んなわけないだろ。俺がどんだけお前に会いたかったか、お前はわかってないんだな」


素直に言われてついつい戸惑ってしまうが、これは大輝の本音なのだろうということがすぐにわかる。

それにしてもいい顔する様になったなと思う。

明日香や桜子、愛美さんとの関係を築いたことも大輝にとっては無駄ではなかったのかもしれない、そう思うと私のしてきたことも無駄じゃなかった、って思える。


「それより、睦月は春喜さんとか秀美さんに会いに行くの、いつでも大丈夫なのか?俺は今週末バイトがたまたま休みだったんだけどさ」

「私は別にいつでも大丈夫だよ。プライベートでまで高橋さんと会ったりってこと、今のところないしね」

「なら今週の土曜ってことで考えておくか。いなければそれはそれで仕方ないしな」

「そうだねぇ。あの後、パパたちには会ったんだっけ?」

「いや……あの日会ったのは秀美さんだけなんだ。春喜さんは仕事でいなかった」

「ああ、そうだったっけ」


あの日、というのは明日香や桜子がハーレム加入した日のことだ。

大輝は私……というか春海?の死と向き合う為に明日香と桜子を伴って姫沢家を訪問した。

正直私としては、大輝がそこまで出来る男だと思ってなかったから、これについてはかなり驚いた。


吐きそうになりながらも姫沢家を訪問して、過去の清算をしに行くなんてこと……正直私の知る大輝からは想像もできないことだった。

明日香たちとの関係は、大輝を少しずつでも成長させてくれたのかもしれない、と思う。


そして迎えた週末。

春海と睦月がそっくりであることの謎を解き明かす為、真実の追及が今始まるのだ。

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