表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/212

第210話

大輝が留守番をしてくれている間……。

私は宣言通り神界へとやってきていた。

あの子を連れてこなかった理由は、大きく分けて二つ。


私が今回頼ろうとしているノルンの闇を、明らかにしない為。

もう一つはそのノルンに頼むに当たっての切り札として考えているソールが、大輝に釘付けになってしまっては困るというもの。

どうせ大輝がお願いした段階で、玲央を連れてまた来てくれとか言ってるんだろうから、その願いは後々叶えてやればいい。


私としては今回、ソールの力を借りたいと言っているが何もソールに暴れてもらおうとか、そんな物騒なことを考えているわけではない。

ただ、今回の試練も当然大輝が関わっているし、大輝に万一のことがあればソールだって黙ってはいない。

それを、目の前で表明してもらおうとそれだけのつもりだ。


だからソールからしたら外に出るのが怠いとか、そういう事情はあるかもしれないが後で息子も孫も好きなだけ可愛がってくれていいという条件はつけようと考えている。


「久しぶり、ソール。ちょっとだけ付き合ってほしいんだ。大輝から連絡はもらってるよね?」

「スルーズ、来たのですね。この私に頼みとは?大輝と結婚したい、ということならまだ少しあの子には早い気がしますが……」


そういうボケはいらないんだけどね。

まぁでもソールらしいと言えばソールらしい。

手短に用件を伝え、考えていたことを口にするとソールの表情がややギラついた様に見える。


「それは、本当ですか?」

「ああ、一日くらいなら好きなだけ、親子ともども水入らずで過ごすがいいさ。これからのことを考えたら、私にしてみれば些事だからね」


いや、本音を言えば正直この母親は息子への偏った愛情を向けすぎているから、最悪一線超えたりしないだろうか、っていう心配がないわけじゃない。

しかし孫まで連れてきている息子を孫の前で襲ったりなんて……しないよな?

私の考えは、甘いだろうか。


「久しぶり、ヘイムダル。ノルンは中にいる?」

「久しいな、スルーズ。ソールもいるのか、珍しい顔ぶれだな。中にいるはずだぞ。今日は出かけるとも何とも言っていなかったからな」


何はともあれソールを説得してヴァルハラの前まで連れてくる。

絶賛掃除中のヘイムダルの案内もあって、私はヴァルハラへと足を踏み入れる。

そしてヘイムダルの言った通り、ノルンはエントランスで呑気に茶を飲んでいた。


「やぁノルン。久しぶり」

「あ、スルーズ……ソールも?何か頼みごとの予感?」


わかってるくせにそんな返しをしてくるなんて、本当にいい性格してると思う。

多分ノルンはある程度の未来を知っているし、私がこれから切り出そうとしていることについてだって、予測は立っているはずだ。


「ま、ちょっとね。早急にいくつか教えてもらいたいことがあるんだけど……その前に一つ言っとくことがある」

「ええ?どうしたの、改まって」


これがすっとぼけてるんだとしたら、大した演技力だと思う。

まぁノルンだって仕事があるわけだし、大輝のことにばっかり気を回してもいられないんだろうとは思うけど……。


「これから話すことについて、出来る限り明確に教えてほしい。断るなら神界全体の危機ってこともありえる」

「えっと、どういうこと?」

「大輝の試練が、始まったということですね、スルーズ」

「話が早くて助かる。そしてこれは絶対に失敗するわけにはいかない。何しろ触媒が私であることと、大輝に万一のことがあれば、ソールは神界ごと吹っ飛ばしてもおかしくないからね」

「…………」


これは決して脅しの範疇で済む話ではない。

事実として、大輝に何かあればソールは怒り狂って暴れ出すだろう。

そして私なんかが全力で止めに入ったところで、きっと力及ばず、という結果に終わる。


それはノルンの顔色を見ていても明らかだ。


「ノルン、わかってる範囲で構わない。これから何が起こる?」

「えっと……」


毎度のことではあるが、ノルンは仕事の中身を晒すことを嫌う。

悪用されることや、誰が聞いているかわからないということもあるのだろうが、公私の区別はノルンなりにつけているということなのだろう。

いいことだと思うし、私もそれ自体を否定する気持ちはない。


しかし、今回はちょっとばかり事情が込み入り過ぎていて、そんな呑気なことを言っていられる状況でもない。

だから脅しみたいな形にはなってしまっているが、こうして詰め寄らざるを得ないのだ。


「じゃあ、言い方を変える。明日香が巻き込まれた。これから先、他のメンバーが巻き込まれる可能性は?」

「…………」


苦い顔をして、言っていいのか迷っている様子のノルン。

気持ちとしてはわからなくはない。

ノルンがその仕事の特性上未来を知る権利を持っているからと言って、それを親友である私に告げることはかなりのグレーであることを、彼女の顔が物語っている。


「ノルン、私からもお願いします。ここで失敗なんてことがあっては……私もどういう暴挙に出てしまうか、わかりませんから」


顔色一つ変えずに、普段の通りニコニコした表情のままでソールは淡々と告げる。

それが多少なりとも効いたのか、ノルンはその重い口を開くことにした様だった。


「わかった。そうまで言われたら、私も神界なくなっちゃうのは困っちゃうし……でも、なるべく仲間内だけで済ませてくれるとありがたいかな」

「それができるなら、もちろんそうするよ。だけど、場合によっては神界からも力を借りないといけなくなる。それは理解してほしい」


私の言葉にノルンは少し表情を暗くする。

いつぞやのヘル襲撃の時のことを思い出しているんだろうか。


「何にしても大輝を万一の目に遭わせるわけには行かないし、この通り、頼むよ」


一応の誠意、ということで私はノルンに頭を下げる。

ちょっとやめてよ、なんて言って狼狽しているが、ここまできて断ることもないだろう。

言わばダメ押しの一手というやつだ。


「じゃあ、話すけど……驚かないでね」

「驚く?」


おかしなことを言うもんだ、と思った。

私が驚く様な内容……まぁ今までも沢山あったっちゃあったんだけどね。


「今回、ハーレムの全員が対象になってる」

「……ん?」

「いや、だから……明日香が巻き込まれたよね?次は愛美か朋美のどっちか。これは大輝の行動次第だから、どっちっていうのはちょっと確定じゃない。そんな感じで桜子も和歌もヘル……あいもあとイヴも。全員が巻き込まれる形で、今回の試練は進んでいくよ」

「…………」


予想もしてなかった答えだ。

全員って……明日香が第一段階なのか、それとも全員で第一段階なのか。

それによっても大分違う気がする。


「ついでに言うと、霊体になってる葵。あの子も対象だから」

「はぁ……?」


最近ちょいちょい色んな体拝借していたずらまではしてないにしても、巨乳気分だの貧乳気分だのって現世を謳歌してるあの子が?


「全員のエピソード……って言い方で合ってるのかわからないけど、クリアしないと終わらないよ」

「マジかよ……」

「ノルン、それは外部の者が手伝うことも可能なのですか?」

「え、それって……」

「大輝一人で、というのはいささか荷が重すぎます。私や他の神の力を用いても問題ないか、という確認です」


確かに大輝の試練だからとは言っても、あの人数の試練をいっぺんに、というのはちょっときつすぎる。

もちろん連続で来ると決まったわけじゃないし、だからって大輝に全部背負わせるというのは違う気がする。

そういう意味ではソールの言い分はよくわかった気がした。


「大丈夫、と思う。だけど決定的なところで大輝が不在だと、何の意味もなくなっちゃうから……大輝を連れて行かないっていう選択肢はなくなるね」

「なるほど、そうですか。それだけ聞ければ、私は十分です。次はあの年長の猫か最近人間になった猫ですね」

「ちょっとソール……まぁいいけど」


本人がいたら軽くもめてそうな言い方だ、とは思ったが私が黙っていれば問題ないだろう。

聴きたいことは粗方聞けたと思うし、ひとまずソールにはその時が来たら大輝から連絡させるから、と解散することにした。

まだ何も起きていない現状、出来ることなどほとんどない。


ならその時に備えてある程度みんなの体なり心なりを休めることが先決だ。

私はノルンに礼を言い、また来るよ、と言って人間界に戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ