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第207話

「何よそれ……私のこと、バカにしてるの?」

「くっ……」


明日香の攻撃をかわしながら、最低限に被害を留めるべく立ち回る。

相手を気遣いながらの戦いがこんなにも面倒で大変だなんて、思ってもみなかった。

あっという間にこっちはジリ貧。


朋美を救った時と違い、今は戦力も限られている。

マリーアがある程度の攻撃を捌いてくれてはいるが、これだっていつまでもつかわからない。


「本気で来なさいよ!!それとも私なんか眼中にないから、本気で相手をするに足りないって!!そういうこと!?」

「…………」


正直なことを言うと、ただただ俺の中のこだわりで明日香に手を上げるということを俺は拒んでいる。

そのうち飽きて、もしくは見限って攻撃をやめてくれるんじゃないか、なんて淡い期待を何処かで抱いているんだということも、否定はできない。


『主、明日香嬢の思いに応えてあげなくていいのですか?』

「……黙ってろよ。俺が本気であいつに手を上げたらどうなるか、想像もできないんだ。この世界だけの出来事に収まるのか。それとも現実に影響を及ぼすのか。前者ならまだいい。けど、後者だったら俺はどうしたらいいんだ?」

『主……』


昔から睦月の強さに憧れて、俺一人でも誰かを守れるほどの力を、って欲してきた。

それがこんな形で使うことを迫られる日がくるなんて、想像していたわけがない。


『しかし……ここで主が倒れることを、誰が望むのでしょうか』

「…………」


仲間を傷つけて倒してしまうのであれば、そうなってしまうくらいなら、俺が倒れる方がマシだ。

そう考えていた。

だって理論上俺は死ぬことなんかあり得ないし、傷ついてもすぐに修復できるんだから。


けど相手は人間。

特別な力だってイヴの指輪頼りの、ただの女の子だ。

ポテンシャルの部分で大いに違いがあるのに、そこで俺が本気を出すなんて、どうしてできる?


そんなことを考えている間に、明日香は次々猛攻を仕掛けてくる。

そこに慈悲や容赦と言ったものは存在しない。


「あいつ、気配探ったりとかできるのかな……」

『どうでしょう……目が見えるとどうしても、そちらに頼るのが人間というものかもしれませんが……』


マリーアがそう言った通り、明日香が仕掛けた攻撃によって、地面からは土煙が立ち上り、視界は相当悪くなっている。

俺たちがそこに紛れ込むと、明日香はきょろきょろと辺りを見回して俺たちを探している様に見えた。


「なるほどな……気配を探ったりなんて真似はさすがに出来ないか。いや、ここが明日香の世界なら、それだって時間の問題か」


いつまでも逃げ回ってはいられないし、何より時間をそんなにかけていられる気がしない。


「こっちの世界でも、気絶とかするのかな」

『意識を刈り取る、という意味でなら気絶させることは可能ではないでしょうか。もしかしたら、それが現実での目覚めに繋がったりするかもしれません』


なるほど、こっちの接続が切れたから強制的に現実に戻される、という様なことがあり得るということか。

なら試してみる価値はありそうだ。


「おい明日香、こっちだ!!」


そう叫んで俺は光弾を明日香に向って放つ。

そしてそのまま、一気に明日香の背後にワープする。

俺の光弾に気を取られた明日香が、背後の俺に対応できるはずもなく……。


「やる気あるの?大輝くん」

「へ?」


その言葉を残し、明日香の姿が掻き消える。

もちろん明日香めがけて飛来した光弾は……。


「ぐが!?」


当然のごとく俺に命中して、俺が地面に落とされる羽目になった。

なかなかの威力を持っていて、同時にこれが明日香に当たらなくて良かった、と心から安堵する。


「作戦は悪くなかったわね。けど、私もただただ空中で漂っていたわけじゃないのよ」

「くっそ……」


元々明日香は頭がいい。

回転もさることながら、頭が固いわけではないし、それなりに柔軟な発想を生み出すこともできる。

そして自分の目的の為には努力を惜しまないタイプでもある。


それを失念していたことが、敗因と言えるだろう。

しかし、盛大に自爆した俺と違い、一発も被弾していないはずの明日香の顔色が徐々に悪くなってきていることに気付く。


『ここが明日香嬢の世界とは言っても、全てが無限、というわけにはいかない様ですね』

「そのことに明日香が気づいてるかどうか、だな。気づかせてしまったらやぶれかぶれになって、更に攻撃が激化するかもしれんけど……」


ただ、限界はどうしても訪れる。

それが人間であるという証だ。

時間切れを狙って挑めば、勝機はあるだろう。


しかし、明日香がそれを望んでいるだろうか。

俺に打倒されることを望む明日香が、そんな結末を?

いや、言い方に語弊はあるが、さっきの明日香の物言いだとそんな感じに取れる。


自分の力を試したい、というのと同時に倒されるなら俺に、という思いがこもっている様に思えた。


『どうするんですか?』

「……やるっきゃないだろ。現実にはそこまで影響がないことを祈ってな」


そう言って俺は意識を集中し、この世界で出せるだけの力を振り絞る。

俺の推測が正しければ、こっちで最悪消滅させてしまったとしてもあいつはきちんと現実で目覚めることができる様になるはずだ。

夢の世界から強制的に排除された意識が何処へ行くのかはわからないが、おそらく睦月が何とかしてくれる。


というかしてもらわにゃ困る。

そしてイヴもそういう事情がわかって協力していたんじゃないか、と思ったからだ。


「明日香!!」


一瞬で姿を消して身を潜めていた明日香に呼びかけ、奇襲に備えて身構える。

しかし俺の予想に反して明日香は悠然とその姿を現した。


「漸く、覚悟が出来たかしら」

「ああ、俺が間違ってたよ。お前の思いに、正面から向き合ってなかった。お前が飽きたり、力尽きるのを狙うなんて卑怯だよな。だから……全力で行く。トラウマになっちまったら、責任とってやるよ」

「そう……嬉しい」


そう言って翼を広げる明日香。

ここが現実でなくて良かった。

改めてそう思わされる力だ。


ただの人間がこんな力を用いた場合に、反動でどうなるのかわからない。

俺は明日香が現実でただの人間に戻ってくれるんだったら、自分の意地くらいいくらでも曲げてやろうと思った。


「おおおおおおおおおっ!!」


恐らく先の神界襲撃の時にも出さなかった、俺の意識できる中での全力。

その力を見た明日香が、心底嬉しそうに子どもの様な無邪気な笑みを浮かべた。

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