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第206話

「あら、大輝くん……見て、私の力よ……凄いでしょ?」

「あ、ああ……何て言うか禍々しいな。けどお前、現実じゃもうだいぶ時間経っててみんな心配してるぞ?」


俺がそう言うと、明日香はふふ、と笑って空に浮遊する。

意識の中、夢の中に近いこの世界じゃほとんど明日香の思うままというわけなんだろうが、この力の出処はおそらく倒されていない、ただ一人の敵によるものだろう。


「私……現実じゃこんなことできないもの」

「そうだな。だけど俺たちは、お前の手助けをすることはできる。現状に不満や不安があるなら、それこそ……」

「それじゃダメなのよ!!」


先ほどまで高らかに笑っていた人間と同一人物とは思えないほどに落胆した表情で、明日香は俺を見た。

知り合ってからはそこまで長い付き合いじゃないにしても、明日香が人に甘えたり頼ったりということを良しとしない人間であることはわかっているつもりだ。

だけど、人にはそれぞれの限界があって、それを許容して生きていかなければならない。


それを受け入れられない現状があるから、明日香はこうして自分の意識へ逃げ込んだ、ということになるのだろうか。


「お前の言いたいことは、何となくわかるよ。だけどさ、このままじゃお前、マジで意識だけの存在になっちまうかもしれないんだぞ?いや、それならまだいいかもしれない。意識すら残らない可能性だってある。どうなるかなんて、誰にもわからないんだから」

「…………」


無理やりにでも連れて帰りたいところだが……その手段が取れるのは現実世界だけの話だろう。

何しろここは明日香の国、みたいなもので……しかし裏で操っている奴はいる。

こいつを先に何とかすれば……。


「ところで大輝くん、その女は誰?」

「え?あーっと……マリーアはだな……」

「とうとう外人にまで手を出したのね」

「は?いや、マリーアはそういうんじゃなくてだな……」


お前一応一回本の状態の時に手にも取ってるんだぞ!?

そう言おうとした瞬間、明日香の背中の羽が震えてトゲの様なものをいくつも射出してきた。


「うっお!?あ、あぶね!!お前何だよいきなり!!話聞けっての!」

「いいじゃない、その女とイチャイチャしてれば……私なんか、別にいてもいなくても変わらないんだから」

「待てっつの!そういうのは朋美の役目でお前のキャラじゃねーだろ!!」


飛来するトゲを何とかかわしながら、必死で弁明してみせるが明日香は一切聞く耳を持たない。

思い込みの激しいタイプであることは何となくわかっていたが、まさかここまでとは……。

こういうところを突かれたのか、はたまた自分から求めたのか……いずれにしても何とかしなければ明日香の現実の体がもたない。


「主、明日香嬢は私が相手をしますので、主はあの黒幕らしき者を叩いてください」

「は?大丈夫なのかよ?俺がこう言うのも何だけど……かなり手ごわいと思うぞ」

「大丈夫です。要は私がやられる前に、主があれを片付けてしまえばいいのですから」


簡単に言ってくれる、全く……。

こういう時睦月ならもっと上手くやっているんだろうか。

それともあいつは力押しで片づけてしまったり……十分ありえる。


「迷ってる暇はありません、行きます!!」

「あ、おい!!」


明日香の体及び精神への影響がどの程度なのかは未知数。

ただ、あのレベルの高熱が続いていることを考えると、楽観はできない。

幸いなことに明日香が常識人であることから、意識の中にも太陽らしきものが出ているし、やれる気はする。


「仕方ない……行くぞ!!」


俺も意識を集中して、ほとんど顔の見えない相手に肉薄する。

誰だか知らないが、ここで俺たちが倒れるわけにはいかない。

そんなわけで、一気に決めさせてもらうことにする。


明日香の攻撃の悉くを受け、しかし無傷だったこいつに俺の力がどれだけ通じるのか。

わからないことだらけだが考えている暇はない。

マリーアだってどれだけ戦えるかはわからないのだから。


「っらぁ!!」


灼熱の神力で対象を包み込み、逃げ場をふさぐ。

そしてそのまま一気に力を込めると、手ごたえはあった気がした。


「……はぁ!?」


しかし俺は、力を受けてその姿を現した人物を見て、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

灼熱の神力の中で不気味に笑っているのは、つい先日まで一緒に行動していた――。


「イヴ……何でお前が……?」

「まさかこんなに早く辿り着いちゃうなんてね。やっぱお姉ちゃんもお兄ちゃんも、侮れないなぁ」


睦月の真の故郷でもある魔界の現在の王である、イヴリース。


「大体お兄ちゃんが想像している通りだと思うよ」

「俺が想像できてるのなんか、たかが知れてるよ。お前が持ち掛けたのか、それとも明日香が自ら望んだのか……どっちもあり得るから判断がついてないだけだけどな」

「どっちも正解。明日香が望んで、私が持ち掛けたの。あのまま放置してたら、明日香の心は壊れてしまっていたかもしれないから。そうなったら、お兄ちゃんは……お姉ちゃんたちも、どうなっていたと思う?」


いつも見せていた、天真爛漫な感じのイヴであることには違いない。

なのにどうしたことか、その雰囲気からは普段の様な呑気な感じも、みんなを思って指輪を送った時とも違う、真剣な様子が伝わってくる。


「じゃあ何か?お前は結果として明日香を助けたんだって、そう言いたいのか?」

「事実、明日香は生きがいの様なものを手にすることが出来た。もちろん私がこうして力を貸さないと、それを為すことはできないんだけどね。私も当然、この世界に来ることの危険性なんかは伝えたし、自制できないならお勧めしないっていうことは説明した。選んだのは明日香なの」


イヴの言うことに嘘はない。

俺には少なくともそう感じられた。

しかし……このままというわけにもいかないだろう。


「なぁ、イヴ。何で相談してくれなかったんだ?」

「お姉ちゃんは、もっと平和的に解決しようとしてたみたいだけどね。でも、それは十分に時間があってこその方法だと思った。そして明日香の心が壊れてしまってからじゃ、遅いと思ったから。その点に関しては、謝るよ」

「今から戻ることは、出来るのか?」

「出来ないことはないよ。だけど一旦、明日香の心を折らないとね。今の明日香は現実に戻らなくても自分はやっていけるんだ、って思ってしまってる。私が唆した、って思われるかもしれないけど、そうじゃないよ?この力はこの世界の限定的なものなんだってことは何度も説明した。けど、人は思い込みに弱い……それに明日香はその思い込みの部分が人よりも強かったから」


明日香は確かに俺にも助けを求めていた。

しかし漠然としすぎていたのと、そこまでひっ迫していたとは思えなくて、楽観してしまっていた。

そんな俺にも責任はある。


「……どうすればいい?あいつの心を折るって……」

「あのマリーアって……魔導書かな、元は。更に大元は人間だったみたいだけど……もうジリ貧だね。お兄ちゃんが相手してあげなよ」

「……やっぱそれしかないのか……。けど、さすがにそれは」

「というか、それしかないよ。だって明日香の願いは……」


イヴがそこまで言った時だった。

マリーアが明日香の攻撃で吹き飛ばされて、俺たちのところまで飛んできた。


「お、おい大丈夫か?」

「大したことはありません。ありませんが……この世界においての明日香嬢はほぼ無敵と言えるかもしれません。私の力では及ばない様です。それよりその方は、お知り合いだったので?」

「睦月の妹だ。もっともスルーズの、ということになるんだが」

「何と……」

「下がっててくれ、マリーア。とりあえず俺が行くしかない様だ。イヴ、俺が明日香と戦うことで明日香は救われるんだな?」

「んー……まぁ、そうなんだけど……これは言葉で説明しても多分お兄ちゃんには理解できないと思うから。あとマリーアはお兄ちゃんを補助してあげたほうがいい。私はこれ以上力の供給をしないつもりだから、勝つことは簡単なはずだよ」


イヴの言い方に何か引っかかるものを感じる。

勝利することは簡単。

しかし……それで明日香が救われるのではない、という様な意味が含まれている?


「来ます、主!!」

「くそっ!!考えてる暇はないか……」


とても気が進まない。

春海が死んだときも、俺を奮い立たせてくれた明日香。

たった一度の我儘だったけど、その我儘の中でも自分を見失わなかった明日香。


いつだって自分のことよりも和歌さんのことや他のみんなのことを考えていた明日香。

お前は、優しすぎたんだ。


「ああ、もう!!」


目の前に障壁を展開して、明日香から発せられた攻撃の悉くを弾いてみせる。

すると明日香は口元を歪めて笑う。


「そうよ、それでいいのよ。私の力が、神にすら通じるのか……私は確かめてみたい!!」

「そうかよ……ならいいぜ、来いよ!!全力で、ありたっけの力で!!いくぞマリーア、ついてこい!!」


叫んで俺は力を開放する。

お互いの流す血の中にしか答えがないというのであれば……俺はその中に答えを見つけてみせる。

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