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第204話

「さて……いるよな、出てきてくれる?」

「あ、はい……」


最近出番がなかったせいか、すっかりと忘れていた存在であるところの、魔導書。

自らの意志を持ち、元は人間だったという……それでいて、膨大な魔力を内包した恐ろしい代物だ。

そんな魔導書だが、主を持たなければ力を十パーセントも行使できないという可哀想な奴で、確か生前は婚約者に裏切られて、みたいな背景があったんだったと思う。


「明日香を覚えてるよな?あの子が今大変なんだ」

「大変っていうのは?」

「さすがにそれだけでわかるとは思えないから補足すると、原因不明の高熱に精神の剥離。これに神力が関与できないって言う、おかしなことになってるんだ」


俺がそこまで説明すると、この魔導書には以前明日香も接した経験があるからかすぐに明日香のデータを呼び出すことが出来た様だ。


「宮本明日香嬢ですね。しかし、一体何故?」

「それを探る為に、お前の力を借りたい。神力が関与できないとなると、他の強大な力が働いてると考えた方が自然だからな。その中の候補の一つとして挙がったのが魔力。つまりお前の出番なんだよ」

「ですが、私には主がおりませんので……」


まぁ、そうなるよな。

そして俺が主になってやるよ、なんて言ったらどんな反応を示すんだろうか。


「そのことなんだけど……とりあえず適正があるかはわからないけど、ここに神と人間のハイブリッドがいる。私たちも散々候補を探ってはみたけど、やっぱり大輝が一番の適任だという結論に行きついた」

「大輝さん、本当ですか?本当にいいんですか?」


何だろう、人間の姿は見えないのに、その声音は多少弾んで聞こえた気がする。

一体何年、この魔導書は主なしでいたのか。

それを考えると、確かに嬉しくなっても不思議はないのかもしれない、なんて思えてきた。


「まぁ、普通の人間に扱わせるのは不安ではあるし、その点俺なら何かあっても死ぬことはまずないからな。とは言っても、適正があるのかはまた別の話なのかもしれないけどさ」

「それはすぐにわかることですよ、大輝さん。私に手を乗せてください」


以前、この魔導書を手にした時。

その時はまだ、俺に神の力は宿っていなかった。

だから純粋に人間だったと言ってもいい時期で、間違いなく扱うことは可能だったと考えられる。


しかし神の力を持つに至った今、俺の力はどうなっているんだろう。

神の力で魔導書ごと打ち消しちゃったりとか、そんな結果はさすがに笑えない。


「これは……いけそうな気がします」

「本当か?」

「やってみるまで確定的なことは言えませんが、大輝さんが私に名前を付けてくださって、それが私の中に浸透する様であれば、成功と言えるでしょう」

「じゃあ、俺の中の神の力は干渉しないってことか?」

「そうですね……というより、同居するイメージです。そして多分それは大輝さん特有の体質みたいなものだと考えてくださればわかりやすいかと」


魔力と神力が、同居?

でも魔力扱う時って、この本持ってないといけないんじゃ……。

いや、それはそれでカッコいいかなとは思うけど……何となくの中二臭さは否定できない。


「魔導書の主になれば、何も本の形に拘る必要はなくなるよ。それこそ持ち歩きやすい形、戦闘に扱いやすい形、って具合に大輝の意のままに形も大きさも変化させられる」

「そりゃすげぇなぁ……じゃあ、名前を……って、どんな名前がいい?」

「…………」


俺は生前のこいつの名前を知らない。

そして死ぬ前まではちゃんと大人として育っているわけで……死んだ後に新しい名前をもらうって、どういう感覚なんだろうな。


「円楽さん、とか……」

「その心は?」


心無しか、魔導書から聞こえる声が冷ややかになった様に思う。

そして睦月は俺の言葉を聞いて盛大に吹き出し、つられた桜子と和歌さんも堪えてプルプルしているのが見えた。

まぁ、そうなるよな。


こればっかりは俺が悪い。

認めないわけにはいかないな。


「えっと、ごめん、何となく……あ、頭良さそうだし」

「真面目に、やってもらえませんかねぇ……」

「はい、すみません……」


つったって俺のネーミングセンスなんて、皆無に等しい。

何しろ玲央が生まれた時だって、かなり悩んだんだから。


「呼びやすい名前がいいと思うよ。使う時は必ず名前呼ばないといけなくなるから」

「え、マジで?」

「名前を呼んで、その呼び声で大輝の意志を感じ取って、形を変えたり魔力を放出したりするから」


昔使っていた人間でも見てきたのか、睦月はやたら詳しい。

私もやってみたかったなぁ、とか桜子が恐ろしいことを言っているが、お前にはイヴの指輪があるだろ、と思う。

しかし呼びやすい名前か……。


「マリーア」

「え?」

「うん、元は女だったんだろ?ならこれでいいかなって。だからお前は今日からマリーアだ」

「何でそれにしたの?」


睦月がワクワクした顔してる。

多分同じことを連想しているんだろう。

俺も睦月も大好きだった漫画で、魔術を使う女の人がこんな名前だった。


そして、九十九歳だったという情報もある。

まぁ、こいつはそんな若くないはずだけど、生前は若い女性だった、ということもあるしぴったりだと思った。


「いい……名前ですね」

「由来を知らないって幸せなことだよね」

「こら、睦月!……まぁ、気に入ってもらえたか?どうだ、馴染みそうか?」

「私の中に、大輝さんの力が流れ込んでくるのを感じます。私の力を、感じますか?」


確かに感じる。

涼やかでいて、熱い流れを。

そして更に……生前のマリーアの記憶。


いや、当時そんな名前ではなかった様だが、それでもどれだけの壮絶な人生を駆け抜けたのか……それが俺の中に流れ込んでくる。

俺の想像していたよりも、遥かに過酷だったその人生。

これからが楽しいと思える様に……俺に出来るだろうか。


「お前……苦労したんだな」

「いえ……こうしてまた主に巡り合えましたから」

「今度は絶対死なない主だぞ。気分はどう?」

「最高の気分です。このマリーア、あなたの為に力の全てを捧げます」


とても嬉しそうで何よりだ。

しかし気になるのは、俺が神になった時こいつの力はどうなるのか、ということだ。

同居する、とは言ったが具体的なイメージがつかめない。


同居するって言うのは、どういうことなんだろうか。

神になった時でも、俺の体には人間の力が残っている、と言うことになるのか?

漠然としすぎててイマイチ感覚がわからん。


「とにかく、これでもしかしたら明日香の精神を捕えているものの正体が掴めるかもしれない。期待してるからな」

「あーあ、これで大輝のものになっちゃったから、自分で部屋の掃除しないとだよね。ねぇ、たまにでいいから掃除だけでもしにきてくんない?」


割とガチで残念そうに見えるのは、俺の気のせいか?

そもそもそう言う用途で使うもんでもなかったはずなんだが……。


「えっと……主、どうしたら……」

「真面目に考えなくていいから……。それより早く行こうぜ。どれだけ時間が残ってるかもわからないんだから。大体お前、神力で何でもやってきてただろうが」

「大輝が冷たい。これが片付いたら、お仕置きだね」

「…………」


苦笑いを浮かべる桜子に和歌さん。

そして睦月とマリーアを連れて、俺は再び宮本家へ。

お仕置きを回避する方法も、マリーアが考えてくれると嬉しいんだけどな……。

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