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第203話

「はぁ?何だってそんなことに?」


文化祭が終わって数日。

俺が知らせを受けたのは、それが起きてから数時間も後のことで俺や睦月の力が及ばないということがわかったのも丁度そのタイミング。

折れや睦月でどうにもならないことは当然あいにもどうにもならず……とは言っても、単純に力が足りないとかそういうことではない様だ。


「明日香が昏睡状態って……」


その知らせを最初に受けたのは睦月。

異変に気付いたのは和歌さんだ。

そもそも睦月の力で明日香を始めとする人間のメンバーは、言わば監視下にあると言っても過言ではない状況のはずで、異変を感じ取れなかったというのもおかしな話だ。


「どうもおかしいんだよね。神力を一切受け付けない状況みたいで」

「熱が下がらないんだ。睦月も割と限界まで頑張ってくれたんだが……」


悔しそうに歯噛みする和歌さん。

俺たちにどうにもならないという問題が、人間である和歌さんにどうにか出来るとは考えにくい。


「単純に風邪を引いたとか、そういうことじゃないんだな?」

「風邪らしい症状はないこともないんだけど、どうももっと根本の奥深い部分の問題っぽいというか……」

「どういう意味だ?」

「神力が受け付けないんだけど、明日香の体に巣くってるのは神力じゃない。最初私はまたあのクソが余計なことしたのかと思ったんだけど、そうじゃないみたいで」


クソ……ロキのことか。

あいつが関係ないとなると、ますますわからない。

しかし女の子が熱に浮かされて眠っているという現場に赴いてもいいものなのか、という純粋な疑問。


明日香みたいなタイプは、俺に弱みを見せたくないとか考えたりするんじゃないだろうか。

そんな余計なことを考えて、睦月に軽く睨まれる。


「大体考えてることはわかるけど、半分正解。だけど明日香だって誰だって、弱ってたら傍にいてほしい、って思うんじゃない?」

「…………」


文化祭の時の、明日香の言葉が呼び起こされる。


『睦月は既に気づいているからよ。そして私に気づかれないうちに片付けようとしてくれている』


ってことは……。


「睦月、お前……」

「明日香から何か聞いてたんだよね?でも、私じゃどうにもならなかった」

「仕方ない。オーディン様だって言ってたろ、神って言っても万能じゃないんだって。ひとまず俺たちを明日香のところへ連れて行ってくれますか?」


和歌さんに頼んで車に乗せてもらい、俺たちは宮本家へ。

久しぶりに訪れた明日香の家は、以前よりも慌ただしく騒がしい雰囲気が漂っている。


「みんな、お嬢が心配なんだ。姐さんもおやっさんも、昨夜まともに寝ていないくらいにな」

「……そんなにか……」


そう言った和歌さんも、顔には若干の疲れと隈が出来ているのが見える。

多少の化粧で誤魔化そうとしている様だが、隠しきれるものではない様だ。


「来てたのか、桜子」

「うん……四十度近くも熱があるって聞いたから」

「私が呼んだんだ。朋美と愛美さんは……」

「わかってます、仕事があるなら仕方ないですよ。あいはもうすぐ来ると思いますけど」


桜子も宮本家の両親を手伝って額に乗せるタオルを替えたりしている。

聞いていたよりも具合が悪そうには見えない。

というより……熱だけが上がって、本人が息苦しそうな様子が全く見えない。


「お前もおかしいと思うか、大輝」

「ええ、正直……これって体と精神が別の場所にあるって考えた方がいい様な」

「体と精神……私みたいな感じ?」

「そうだ。今明日香の体が苦しみを感じてないのは、おそらくだけど精神がほとんど切り離された状態……たとえば夢の中に引きずられていて、そっちで何かあった影響が熱になってる、とか」

「でも、熱出して悪夢に苦しむってよくあるよね。私も春海の体で何度か経験したけど」

「それを、完全に切り離してしまう力が働くことがあると、そういうことか」


通常の人間の体では、まずそんなこと起こりえないだろう。

しかしもうここまでびっくり人間やら神やらが集う組織でもあることを考えると、何が起こっても不思議はないんじゃないか、と思える。

寧ろ考えられることは全て可能性として考慮しておいた方が、不測の事態にも対処できそうな気がしてくる。


神力ではない何かが働いているとして……それは一体どこからやってきたのか。

そして二週間以上も同じ夢を見続けていたと言った明日香。

それはこの現象を予感していた、と考える方が自然なのかもしれない。


いや……予感させるために誰かが見せていた夢、ということか。

では一体誰がそんな夢を?

何故明日香を選んだ?


ただの偶然……とは考えにくい。

何か決定的なものがあって、明日香を選んだと考える方が自然だろう。

何かしら理由はある。


「仮にだけど……もし明日香の精神が夢に囚われてるとして。どうやったら助けられると思う?」

「この力の正体がわからない以上、迂闊なことは出来ないかなって考えてる。もっとも、迂闊なことの悉くが弾かれてる今となっては、正直打つ手がないのが現状だけどな」


きっと雷蔵さんも、明日香のお母さんも俺たちなら何とかしてくれると信じているんだろう。

それだけに何も出来ない現状の歯がゆさは、言葉で言い表すことが出来ない。

明日香が少しも苦しそうでないところだけが、救いと言える。


「なぁ、もしその力の出処……もしくは正体が明らかに出来るとしたら?」

「どういう意味ですか、和歌さん」

「神の力が通じない、弾かれてしまう力。今のところ正体不明だけど、それを突き止めることが出来れば、糸口くらいは見つかるかもしれない、ってことだよね、和歌さん」


今この場で明日香をどうにかして助けられないか、という事ばかりに気を取られていた俺としては、和歌さんと睦月の言葉は目から鱗と言ってもいいかもしれない。

力の解析。

そんなことが出来るのかはわからないが、明日香の精神を捕えている何か。


解析が上手く行くのであれば、もしかしたら出処も掴めたりするかもしれない。


「けど……誰がその解析するんだ?」

「ノルンかロヴン辺りに頼めれば、とは思うけど。ロヴンはこないだの文化祭で食べたものを纏めるとか言って最近見かけないって聞いたんだよね」

「ノルンさんは?」

「……まぁ、聞いてみるよ」

「?」


一体何なんだろ、ノルンさん辺り適任な気がするのは俺だけなんだろうか。

寧ろ他にできそうな人物に心当たりとか……。

って思う俺とは対照的に、睦月も和歌さんも桜子も苦い顔をしている。


この辺よくわからないんだが、俺の知ってはいけない何かがある気がしないでもない。

追及してみてもいいんだが、さすがに睦月たちがあんまりいい顔しなそうなのがなぁ……。


「ねぇ睦月ちゃん。これって魔力でどうにか出来たりしないのかな」

「魔力?」

「あっ!魔導書か!そんなのあったわそういえば。よく覚えてたね」

「大輝がビビりまくって朋美にメールしてたっていう、あの?」

「……和歌さん、そんなのよく覚えてますね」


忘れるわけないじゃん、とか睦月も言っていたが、正直俺は忘れていた。

魔導書だからまどちゃん?いや違う、何だっけ……不遇の運命だからふぐちゃんだったか。


「あの魔導書、そういえばどうしてるんだ?」

「あれね、たまに散歩に連れてったりしてるよ」

「……散歩?」


俺の脳裏に浮かんだのは、睦月があの魔導書にリードを付けて、魔導書が大喜びで先駆けて走り回る……いや飛び回る絵だ。

たまに睦月が引っ張られて、待ても出来ないの!?とか怒ってたり。

相当カオスな構図だな、これまた。


「睦月ちゃんの家で保管してるんだ?」

「うん、結局うちに居ついてる。まぁ食費とかかからないし、それでいて家事はある程度やっといてくれるから。食事は私が自分で作るけどね」

「まぁ、魔導書の在り処はわかった。けど、それ誰が使うんだよ?」


みんながあっ、という顔で俺を見る。

正直神には使えない、ということもあって人間の誰かを選出しなければならないわけだが、副作用的なものがないとは言えない以上、迂闊にじゃあお願い、ってわけにもいかないだろう。


「私が使ってもいい」

「いやいやいや、待ってください。そんな簡単な話じゃないでしょ」


和歌さんならそう言うだろうことは想像していたが、やはりというべきか。

いや、明日香の護衛として魔力を……なんて明日香がもっと嫉妬する結果にしかならんだろ。

そうなれば和歌さんだって今度は自分を責める結果になるかもしれないし、どうあってもめでたしめでたしとはならない気がする。


「けど、悩んでる時間はあんまりない気がする。はっきりしたことはわからないけど、明日香だって人間だからね。そこまで長時間耐えられるかどうか……」

「うーん……」

「私でいいなら、私が使うよ」


桜子も和歌さん同様に名乗り出るが、即座に止められる。


「そういえば睦月は?今は人間の体じゃんか」

「私の場合は精神が神として結びついちゃってるからね。結局ぶつかり合って打ち消しちゃう結果にしかならないんだよ」

「……大輝、お前はどうなんだ?」

「え?俺?」


俺も神になったということがあるから自然と候補から排除してしまっていたが、どうなんだろうか。

睦月の理屈で行くと、俺は神力を使うことが出来るが半分は人間なんだよな。


「人間と神のハイブリッド……」

「カッコいい言い方してくれてありがとよ。けど、確かに半分人間ってことは使える可能性はあるのか。それに、試したところで俺が死ぬことはまずない。……やってみるか?」


何だ、こんな簡単で安全な作戦があるじゃないか。

なんて楽観的に考えていたのに、睦月はどうも浮かない顔をしている。


「でも……やっぱり危険な気がするんだけど」

「手段を選んでられる状況じゃないからなぁ……それにフレイヤの例もあるからな。あいつは神なのに魔女を同居させて、魔力も扱えるだろ?」

「あれは極めて特殊なケースだからね。突然変異的な。同居というかなんというか……」

「大輝ならきっと、扱えるんじゃないかな」


背後から聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは玲央を抱いたあいがいた。

洗濯に時間がかかった、ということだった様だが俺たちの話はある程度伝わっている様だ。

現状で取れる手段が限られている、ということならそれに縋るしかない。


残された時間はどう見てもそこまで多くないのだから。

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