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第202話

「どう?少しは気分晴れた?」

「何でもわかるのね、やっぱり」


喧嘩になりそう、という様な剣呑な雰囲気こそないが、明日香はやっぱり不満そうだった。

一方朋美や桜子と言ったメンバーは明日香も気になるが、せっかく一緒にいるんだからと校内の散策を提案してくる。


「行ってきたら?」

「何言ってるの?みんなで行くんだよ?」


明日香が俺を送り出そうとするのに対して、桜子も朋美も明日香が何を言ってるのか、といった顔で笑う。

まぁこいつらはそう言うだろうと思っていたけど、俺としてもそうしようって提案することを考えていたから丁度いい。


「でも、私はさっきまで……」

「そんなの関係ないでしょ。それとも明日香は私たちと一緒じゃ嫌なの?」

「そ、そうじゃないけど……」

「お嬢、私ももちろん賛成ですし、せっかくこうして揃っていることですから」


和歌さんが言った様に、愛美さんやロヴンさんもここにはいる。

ってあれ?

あいと玲央の姿が見えないけど。


「ああ、あいと玲央ならクレープの屋台のとこ行ったみたい」

「クレープって校庭だっけ?大丈夫かな」


睦月があいから行ってくると言われているらしく、玲央にクレープ食べさせたいとのことだった。

虫歯になったりしなきゃ別にいいけど……生えてきたばっかの歯が痛んで夜泣きとかは勘弁してもらいたい。


「大輝って割と親バカよね。普段あんまりそういう素振り見せないのに、かなり玲央のこと可愛がってるでしょ」

「そりゃ、一応俺の血も入ってるわけだし……何よりあの顔、疑い様がないだろ……ってああああ!!」

「……?」


みんなが訝しげに俺を見るが、俺はすっかりと忘れていた。

ここが学校であること、そして玲央が俺そっくりな子であること。

そしてその子を抱いているのが、学校ではまず見かけない女の子であること。


「えっと……どうしよ」

「どうしたの?」


桜子が心配そうな顔で俺を見る。

愛美さん辺りは何となく察したのか、校庭行くか?なんて言っているが正直行っていいものか迷う。

あいもそこまでお馬鹿さんじゃないだろうし、俺が困るってのはわかるだろうから、うっかり話しかけられたりする様なミスはしないと思いたいところではある。


「そういうことか、まぁ……行かない方が賢明かもね。玲央、人見知りしないから誰相手でも大体懐いちゃうし、今頃人気者になってるかもだし」

「やっぱりか……」

「自分の子どもが可愛いって自覚はあるんだね、大輝くん」

「いや、世間的に見てそうかはわからんけど……いや可愛いと思うよ。ただ俺が行って、話題の赤ん坊に燃料投下とかはまずいよな」


そんなわけであいには程々のところで切り上げて合流する様に連絡だけ入れて、俺たちは最上階から攻めていくことにした。



「ねね、さっきの赤ちゃんに似てない?あの子」

「あ、本当だ」

「…………」

「……ぶふっ」

「何がおかしいんですか、和歌さん」

「い、いや……?」


すれ違った上級生に指さされ、あなた方の言ってることは正しいですよ、とも言えないで黙っている俺を見て、和歌さんが吹き出す。

そしてそれにつられて大半のメンバーが笑いだすもんだからたまらない。


「言ってやったらいいじゃんか、俺の子なんです、って」

「言えるわけないでしょ……」

「でもこのままだと、バレるの時間の問題じゃない?」

「……その時はもう、一応作戦は考えてある」


使えるものは何でも使う。

俺の力でもあいの力でも睦月の力でもいいから、学校の連中には玲央に関する記憶を根こそぎ奪わせていただく他ないだろう。

俺は俺の平穏を守る為……ひいてはみんなの平和の為であれば、チートを行使することすら、躊躇わない。


「まー、どうせすぐ忘れてるでしょ。それよりロヴンがまだ食べたりないみたいだから、他回ろう」


睦月がそう言うのでロヴンさんを見ると、もう何て言うかエサを待ち詫びたヒナみたいな顔をしている。

さっきまで何か食ってるのを見た様な気がするんだけど……そしてグルメ特集的なものを作るというのが建前なのではないかと、ちょっと思い始める。


「次何食べます?おでんとかもあるみたいですけど」

「おでんか……ふふ」

「おい睦月、よくテレビで見るネタ的なことはしてやるなよ?人間界更に怖くなっちゃうかもしれないから」

「さすがにわかるか、残念」


ガチで残念そうな顔をする睦月。

そんなことしたら人間界怖いにプラスされておでん怖いとか、ピンポイントなトラウマが植え付けられるに違いない。


「あれ、宇堂くんだ」

「お……西乃森さんか。矢口は一緒じゃないのか?」


声をかけられ、そちらを見ると西乃森さんが一人でいる。

こないだカップル成立したばっかなのに、こんな絶好のデートチャンスに一人ってのはちょっと変だと思うのは、俺だけか?


「うん、何かトイレ行くって言ってたから。あいさんの姿が見えないけど、何かあったの?」

「…………」


忘れてねぇじゃんか、睦月の嘘つき。

これは危険だとただちに判断した俺は、とりあえず西乃森さんからあいと玲央の記憶を根こそぎ奪う。

有言実行、素晴らしいだろ?


「あれ?あいさんって……あいさん?誰のことだっけ。私、何言ってるんだろ」

「ちょっと、大輝くん……?」


明日香はさすがに勘がいいらしく、俺が何をしたのか気づいている。

一方睦月も絶対気づいているだろうが、特に何も言ってはこない。


「まぁ今日もちょっと暑いしな、水分はちゃんと取った方がいいぞ。熱中症の危険はまだ潜んでるんだから。じゃ、またな」


俺にしては珍しくすっとぼけて西乃森さんに別れを告げ、みんなを促し歩き出す。

さすがにあれ以上突っ込まれてまた注目浴びるとか、勘弁してもらいたいしな。


「随分強引な手を使ったね」

「俺はまだこっちで暮らす予定がてんこ盛りだからな。平穏にやっていくには致し方なかったんだ」

「あれで記憶障害とかになっちゃったらどうするの?」

「そんなときの為の睦月やあいだろ。今日なんか特別ゲストのロヴンさんまでいるんだからどうにでもなるなる」


かなり無責任なことを言ったはずだが、頼りにされていると思ったのか、睦月は少し嬉しそうだ。

それにしてもあいと玲央は大丈夫なんだろうか。

いや、何かあってもあいつなら普通に対処するんだろうが……全校生徒の記憶までどうにかしろとか言われたらさすがに俺一人じゃ、どうにもならんのだが。


「そういえばこの学校って後夜祭でキャンプファイヤーやるんでしょ?」

「やるわよ。何とも古めかしい風習だけどこれだけは伝統だから、って毎年やっているそうね」

「社交ダンスとかはきっと中止だろうけどね。大輝くんが出ることになったら面白かったのに」

「どういう意味だ、桜子」

「だって私たち全員と踊ることになってたと思うよ?そしたらまた嫉妬と羨望の的になってるじゃん」


そう言われて想像してみると、さすがに穏やかでは済まない気がする。

睦月なんかは転校してきたばっかで俺の彼女宣言しやがったし、黙ってれば普通に人気者だったはずだろうに俺に全部押し付けてニタニタしてたからな。

そういう意味ではさっきの騒動はグッジョブ!と言ってやりたくなってくる。


「今日と明日とでこの祭りはやっているんだったよな。明日はまた違うものが食べられるのか?」

「ロヴンお前……もう全部網羅したんじゃなかった?違うものなんか販売してないから二週目突入するしかないよ?」

「そ、そうなのか……まぁどれも魅力的だったからな。うん、明日も同じものを食べよう」


そう言ったロヴンさんをジト目で見つめる睦月。

まぁ、気に入ってもらえたなら何よりだけど。

こうして今年の文化祭は一瞬の騒動を除いて、平和に終わっていくのだった。

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