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第20話

時は流れた。

春海と朋美、二人を選んでから早くも一年以上が経過して、俺たちは中三になっていた。

もちろん色々あったし、俺の誕生日にクリスマス、年越しにバレンタイン、朋美の誕生日、春海の誕生日……とこんな具合にイベントは盛沢山だった。


そのどれもが楽しく過ごせて、いい思い出になったのではあるが、俺の誕生日を過ごして少ししたくらいから、どうにも朋美の様子がおかしいということに気づく。

何処がどう、と聞かれるとさすがにこれ、と断定はできないのだが、一言で言えば元気がない。


もしかしたら体調が悪かったり、ってことも考えられるし、何より朋美だって俺にとっては大事だ。

もうすぐクリスマスというこの時期。

やはり楽しくやっておきたい、という思いもあって俺は春海にも相談してみることにした。


「俺たちにも言えない様なことがあるんだろうか」

「うーん……確かに様子がおかしいってのは思うことあるけど……単に調子悪いってだけってことはないのかな」


とまぁこんな感じで、春海に聞いてもわからない。

春海にわからないことが何で俺にわかるのか、と開き直りたくなるが、さすがにそういうわけにもいかない。

春海ができないことでも、もしかしたら俺にできることがあったりするかもしれない。


そう考えた俺は、少しずつでも朋美を何とか元気づけられればと注意深く観察することにした。



「ねぇ、大輝あのね……」

「ん?どした」


もういくつ寝るとクリスマス、というある日。

一緒に歩いていて、朋美がいつになく神妙な面持ちで俺を呼んだ。


「あ……やっぱり、何でもない。ごめん」

「は?」


言いかけてやめるなんて、何とも朋美らしくない。

今まであれだけズケズケ言ってきた女がいきなりこんな風になったら、誰だって戸惑うに決まってる。

そう、俺だって大いに戸惑った。


やっぱりこのままってわけにはいかなそうだ、と俺は考え直して、春海にメールすることにした。


『そっかそっか、とうとうパパって呼ばれる日が来るんだね、大輝。できれば子どもは私が先の方が良かったな』


春海からの返信がこれだ。

正直これが事実だったらシャレにならないんだけど。

いや、パパになりたくないってことじゃなくて……どうやって養うのかとか色々……ね?


『いや……そういう感じには見えないけどな』


あくまで動揺を隠しつつ対応する。

動揺してるのが知れれば、あいつは一体どんな暴挙に出るかわからない。

そうなればまた俺の精神はゴリゴリと削られていく……。


『うん、違うだろうね。毎月ちゃんときてるみたいだし』


何故知っている?

そして何故知っていながら俺を揺さぶった?


『私もちゃんと毎月きてるから、安心していいよ。あ、でも未来のパパって呼んでもいいよね?』


前半で安心させて後半で突き落とすスタイルか……こいつ無駄に難易度高いことしやがって。


『でもこのままだと確かに、クリスマスがお通夜みたいにならないとも限らないね。大輝にできるかわからないけど、明日辺り朋美を尾行してみてくれないかな』


本格的な調査に乗り出すというわけか。

そしてその調査は何故か俺……まぁこっちまでいちいちきて調査、ってなると大変だろうし……。

消去法で考えると俺しか適任がいないという。


『でも、尾行とかバレないか?俺やったことないんだけど』


そう、一番心配なのはここだ。


『バレたらその時はその時だよ。正直にお前が気になって仕方ないんだ、とか何とか言えばいいじゃない。大輝、得意でしょ?』


俺にそんな特技があったなんてこと、俺本人が初めて知ったんだけどそれ、何処情報?

そんな歯が浮く様なセリフ、そこまで乱発した覚えないぞ?

とは言え、動かないことには何も始まらない。


なので俺は渋々朋美の尾行を了承し、明日の帰りにでも決行しようと考えた。



「今日俺ちょっと用事あるから、帰り一人になっちゃうけど、大丈夫か?」


昼休み、俺がそう言うと朋美は何となく安堵した顔で首肯する。

会話も何となく進まず、気まずい雰囲気が流れるも、井原と野口が朋美を呼びにきて何となく救われた気分になる。

それにしても安心までされるって、俺何かしたっけか。


正直ちょっとだけ、傷ついたよ。


そして放課後。

俺は朋美が帰るタイミングを見計らって、ちょっと遅れて教室を出る。

ちょっと先を朋美が歩いているが、どうやら朋美は幸いなことに俺に気づいていない様だ。


朋美は俺が尾行しているなんてきっと、夢にも思っていないだろう。


信用を逆手に取るみたいで少し良心が痛む思いだが、俺たちの明るい未来の為なんだ、許せ……。

少し歩くと、住宅街に出る。

一軒家もあればマンションや団地、少ないがアパートもあるみたいだ。


朋美はその中にいくつかある団地の中に入って行った。

どうやらここに朋美の家がある様だ。

割と長い付き合いなのに住処を知らないというのも変かもしれないが、春海の家と比較してしまって萎縮していたという話を聞いた覚えがある。


階層で言うと十四階建てか。

最上階とかじゃないといいな……。

そんなことを考えながら尾行を続けると、エントランスでエレベーターのボタンを押している朋美が見えた。


隠れて見ているつもりだが、こっちを向かれたらアウトだ。

朋美がエレベーターに乗り込んで、ドアが閉まったところで俺もエントランスに滑り込む。

エレベーターは八階で止まった様だ。


エントランスにある集合の郵便受けを見ると八二三号室に桜井という名前を見つけた。


『朋美の家の位置を確認。これから前まで行ってみる』


春海に簡潔に報告をすると俺もエレベーターに乗って、八階まで移動した。

エレベーターホールを挟んで両脇に通路があり、その通路沿いに部屋が並んでいる。


ちょっと高いところだし怖い、という気持ちを抑えながら足を一歩踏み出して、八二三……とか思いながら進むと、突如部屋の一つからドォン!と凄まじい音が聞こえた。


俺が目指す方向、八二三からの音の様な気がして、嫌な予感が更に増す。

一体どんなとこに住んでんだ、朋美……。

とりあえず足早に八二三号室のちょっと手前まで来ると、叫び声と怒号が聞こえた。


これ、やばくないか?

何かあってもこんなとこで戦ったりできると思えないんだけど……。

だが、ビビっている場合でもないと自分を奮い立たせて、呼び鈴を押そうとしたら突如ドアが開いて中から人が飛び出してきた。


「うおお!?」

「え!?た、大輝!?何でここにいるのよ!?」

「えっとだな……いや、話は後だ!何があったんだ?」

「ええっと……」


お互いに言うことがまとまっていなくて話にならない。

そしてまごまごしている間に、もう一人朋美の家から人が飛び出してきた。

咄嗟に身構えてはみたものの、飛び出してきた人影はこの薄暗い中にあってもやたらでかい男であることがわかる。


頭髪はつるつるに剃り上げられていて、どう見てもあっちの人にしか見えない。


「誰だお前」


野太い声で、その男が問いかける。

やばい、何て言うか百戦錬磨感が半端ない。


「お、俺は……」

「大輝、逃げて!!」

「は?」


何が何だかわからない。

そんなことを考えているうちに、相手はもう眼前に迫っていた。


「がっ!?」


そして訳もわからない内に俺は左頬に衝撃を受け、吹っ飛ばされた。

人の話も聞かないでいきなり暴力か、このおっさん……。


「てめぇか、朋美の彼氏とか言うのは」

「ってぇ……」

「何するのよお父さん!!」


お父さんね……ある程度は予想してたけど、やっぱそうなのか。

春喜さんとは正反対な親父だな。

見た目もスマートさとはかけ離れたタコ坊主な感じだし。


「何度も説明したでしょ!?何で聞いてくれないの!?」


普段の朋美らしからぬヒステリックな声音。

何度もってことは、割と長いことこの話でもめてたってことか?


「こっちこそ何度も言ってるだろうが!!今の卒業と同時に九州に引っ越すってな!!お前一人でどうやって生きてくつもりだ!!」


九州って……明太子とかちゃんぽんが美味しいっていう、あの?


「どうも旅行ってわけじゃなさそうな話だな……」


口の中が血の味で、あのパンチをモロに食らった左頬はズキズキ痛むけど、何とか話に意識を向けられるくらいには回復した。

やべ、つい口挟んじゃったせいでタコ坊主がこっち見てる……。


「小僧は引っ込んでクソして寝てろ」

「勝手なことばっか言いやがって……」

「んだと?」


おお、迫力が半端ない。

どう見てもヤクザとかにしか見えないんだが……。


「朋美をあんたの操り人形か何かと勘違いしてないか?」

「扶養してんだ、ある程度は言うこと聞いてもらう必要はあるだろ。それがどうした」

「朋美だってあんたを選んで親になったんじゃねぇだろ。生きてりゃ思い出だって出来るんだ」

「ならその思い出がお前らに何してくれるんだ?それで飯が食えるか?記憶だけで何が出来る。必要なのは経済力なんだよ」

「金にならないから今すぐ捨てろってか。とても親の言うこととは思えないな」


話していると何となく、俺の中で怒りが湧き上がってくる。

こいつには、死んでも屈したくない。


「思い出はまた作れる。だけどな、親だったらそれだけじゃダメだってことを教えるのも義務ってもんだ」

「あんたにゃそういうものがないってのか。つまらなそうな人生だな」

「ガキが……まぁ、そのうちわかるときは来るだろうよ。とにかくガキの出る幕じゃねぇ!!」


何とも言葉足らずな感じが否めないが、俺の中でこの男を許すなという声が聞こえる気がする。


「義務だって言うなら、納得できる様に説明したらいいだろ。朋美はまだ一つも納得してないじゃないか。そのまま連れてくって言うんだったら、俺も全力で手向かいさせてもらうぜ」


もうここまできたらどうにでもなれ、だ。

俺だって一応男だし、ここで引き下がるなんてことはできない。


「ダメだって、大輝……勝てるわけないよ……」


んなことわかってら……。

だけどここで屈したら、俺は大事なものを失ってしまう。


「いいから……お前は下がってろよ」

「ほう、やるつもりか。いい根性してんな、相手してやるよ」


あーあ、こんなバケモンみたいなおっさんに火ぃつけて何やってんだ俺……。

でももっとバケモンみたいな女が、ここで引き下がったら俺を許さないだろうからな……。

前門の虎、後門の狼ってこういうことを言うのか、もしかして……。


しかし男には、勝てないとわかっていても挑まなければならない時がある!!


そう心の中で叫んで、タコ坊主の懐に飛び込んで放つ渾身の一撃。

だが……。


「いってぇ!!何だこの腹!!鉄か何かで出来てんのか!?」


痛みに呻きながら慌てて距離を取ったが、反撃をしてくる様子はない。

金属でも殴ったかの様な痛みが拳を襲う。

当然ながら少しも効いている様子がなくて、がっかり感が半端ない。


「何だ、今のは?準備運動か?」

「お、おい朋美……お前の父ちゃん何者なんだ……?」

「あ、言ってなかったっけ……あれでもただの土建屋の社長なんだけど……昔よくケンカして鍛えられてたとは言ってたけど……」

「何だよそれ……反則くせぇな……」


どう見ても、『ただの』じゃないだろ……。

色んな部分で差がありすぎて、勝負にすらなってないんだが……。

殺すつもりで行ったとしても、多分こっちが殺されるのがオチだろ……。


「おい小僧」

「小僧言うな。何だよ?」

「お前くらいの若い頃はな、負けん気が強いのもいいことだと思うぞ。だがな、相手を見極めて引くのも強さなんじゃないのか?」

「……言われるまでもねぇよ。正直逃げたいって気持ちだってないわけじゃねぇし……でもな、男には引けない場面ってのがあんだよ!!」

「なるほど、それも若さってわけだな。よく言った」


気持ち悪いくらいの優しい目をしたタコ坊主が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

俺はまだ戦意を失ってなどいない。

人間、誰しも鍛えることのできない部分はいくつか存在する。


それが急所だ。

けど目だの股間狙ったりっていうのは、何となく俺の中のプライドが許さない。

だから。


「くっそ!!これでもくらえ!!」


最後の悪あがき。

どうせダメなら最大限足掻いてみせる。


「ほう……?」


春海には一瞬で破られたけど、こいつにならもしかしたら……と浴びせ蹴りを、タコ坊主の首めがけて放つ。

首なら、そこまで鍛えられて……。


「お前、バカだろ」

「え?」


いる様だった。

足が車のタイヤか何かに当たった様な衝撃があって、俺の足がいとも簡単に跳ね返される。


「とりあえず寝てろ、お前」


俺が最後に見たのは、拳を振り上げるタコ坊主の姿。

腹部への重い衝撃の直後、俺は意識を失ったのだった。



「ぐ……いてて……」


見知らぬ天井が見えて、左頬と腹部の強烈な痛みと共に意識が覚醒した。

何処だここは……。


「あ、大輝……やっと目が覚めた……」

「何だ……?あ、ここお前の家か」

「そうだよ……四時間くらい、眠ったままだったんだから……」


そう言われて外を見ると、確かに外は暗い。

そんなに眠ってたのか、俺……てかよく生きてたな。


「目が覚めたか。死んだんじゃねぇかって朋美が騒いで大変だったんだからな」


あんたがやったことだろうが、と思ってタコ坊主を睨みつけるが、明るいところで見るとめちゃくちゃごつい……。

腕とか俺の倍くらい太いんだけど……。


「一時間ほど外してやるから、その間に朋美とちゃんと話とけ。俺がいねぇからって変なことしたら殺すからな」

「するかよ!とっとと行け!!」

「ふん……」


一言余計なタコ坊主が消えて、俺としてもまだ興奮冷めやらぬところではあったが今は朋美と話さなければ。


「えっと……もう決まってることなのか?どうにもならないのか?」


俺や春海にできることがあるんだったら、してやりたい。

しかしこの短時間で色々俺なりには考えてみたものの、できることなんかあるのか?という絶望的な考えしか浮かんでこない。


「うん……困ったことにね。これはうちの事情だし、ちょっと恥ずかしい部分でもあるから言いたくなかったんだけど……ここまで関わっちゃったらもう、大輝も無関係じゃないもんね」

「いや……別に俺のは俺が勝手にやってこうなったんだから、気にしなくていいけどな」

「でも、一応話しておくね。お父さんの会社、この間ちょっとまずいことになったらしくて……」


しばらく資金繰りに奔走したタコ坊主は、古い知り合いにも頼んで当てを探してもらっていたのだとか。

その結果、古い知り合いのそのまた知り合いの会社で融資してもいい、という話が出た。


その知り合いが住んでいるところが、九州の長崎。

長崎での会社の再建が条件として提示され、タコ坊主としても呑まざるを得なくなったのだそうだ。


「お父さんの言うことはもっともだと思う……私なんか何の力もない中学生なんだし……だけど私、大輝や春海と離れたくないよ……」


朋美が嗚咽を漏らし、涙に濡れた。

俺にできることと言えば、肩を抱いて泣かせてやることくらいか。

こんな時、俺は無力だということを思い知らされてしまう。


きっと自らの人生経験からこういうことも予測していたんだろうな、あのタコ。

そう考えると、何だか悔しさも倍増してくる様な気がして非常に癪だ。


結局それ以上のことが俺にできる気がしないので、俺はタコ坊主が戻ってくる前に朋美の家を出ることにした。

朋美は落ち着いた、と言ってくれたが俺としてはまだ落ち着いた気が全然しなかった。

これは我らが生き字引、春海大明神に相談しなければ。



「で、そのタコ坊主とやら、私が殺しちゃっていいの?」


うん、物騒だ。

翌日、俺の地元の公園で会うなり、顔に貼られた湿布と絆創膏を見た春海が黒いオーラと共に、チチオヤ殺ス♪、とか歌い出す。

こいつなら本当に、あのタコ坊主を血祭りにあげるくらいは何でもなさそうだから困る。

何故か、タコ焼きにしてやんよぉ!!ヒャハー!とか喚きながら包丁を振り回す春海を連想して、思わず戦慄した。


ひとまず話題を逸らして、タコ坊主がタコ焼きになるという展開だけは避けておこう。

さすがに別方面でも朋美が悲しむところなんて見たくはない。


「これさ、俺なりにも相当考えたんだけど……子どもに何とかできる問題じゃないよな」

「まぁ、子どもだけだとまずどうにもならないだろうね……そのタコ坊主を葬らない限りは。でも、解決策はあると言えばあるんだけど」

「まぁ、葬るのはなしの方向で行くとして、どんな方法か聞いて大丈夫か?」


やっぱり春海はさすがだな。

俺には考えつかないことでもちゃんと、答えを用意してくれている。


「うちで朋美を養女として引き取っちゃうとかね」

「…………」


それについては考えたことがある。

だけど朋美の性格上、上手く行くとは考えにくかった。

引け目や負い目が重なって、マイナスな結末しか見えない気がする。


俺なりに朋美が仮に引き取られた場合のシミュレーションを伝えてみた。

高校まではいいとして、そこからたとえば大学に通いたい、就職したい、となった場合に朋美は自分の願望を伝えられないんじゃないか、とか。


「確かに今まで通りって言うのはもう、難しいかもしれないね」

「そうなるよな……」


万事休すというやつだ。

俺たち子どもが口出せる様な話ではなくなってきてる、と言う事実を痛感させられる。


「あとはパパ頼りになるけど……」


春海は春喜さんの会社から融資してもらうという方法を提示したが、それこそ俺たちが口を挟める様な問題ではない。

それに上手く行っても朋美が負い目を感じるのは変わらないだろう。

そう伝えると、ふむ……と春海が考え込むのを見て、いよいよ打てる手がなくなったのだと思った。


「世の中上手く行かないもんだなぁ……」


ついぼそっと口から出てしまった。

こうなってくると、もう諦めて大人しく送り出す算段でもした方がいいのか?


「…………」


今頃朋美は悲しみの中、それでも葛藤と戦っていたりするのだろうか。

本当にこのまま、離れ離れになってしまうのか。


「大輝、傷は大丈夫?」

「ああ、まぁ……多少痛みはするけどな。こんなの舐めとけば治るだろ」

「ふむ……なら、私が舐めてあげよう」

「は!?」


そう言って春海は俺の傷を舐めようと顔を近づけてくる。

一瞬流されそうになるが、ここが公園であることを思い出して春海の接近を阻止した。


「ヘイヘイヘーイ、ストップだ春海、落ち着け。こんな人目あるとこでやることじゃない……そうだろ?」

「何言ってるの?自分じゃ舐めれないでしょ」

「春海のそういうのは、俺の中だけに留めておきたい。他の誰にも見せたくないんだ……わかってくれるか?」


キリッとか効果音が入りそうなくらい、俺の中ではカッコつけた。

昨日春海も俺はこういうの得意って言ってたしな。

いや、マジで何処情報なんだって話だけど。


「ふむ、珍しくカッコつけたね。室内ならされるがままなのに」

「まぁ、昨日もカッコつけた結果がこれなんだけどさ……」

「別に大輝がカッコよかったことなんて、私の記憶にはほぼないんだけどね。大体いつもヘタレてるし」

「そういうこと、思うのは別に自由だけど……口に出すのは勘弁してもらえませんか……」

「何を今更。だってさ、大輝がカッコよかったことなんかほとんどないし……ていうかいつもいーっつもヘタレてカッコ悪い癖に!!」

「!!」


いつもカッコ悪い……?

カッコ悪い俺……ん?待てよ?

なるほど、カッコ悪く足掻く……。


もしかして、これしかもうないんじゃないか?

とは言っても絶対成功する、というものではないが。


だがここまできたらやれることをやるしかない。

しかし何て言うか……春海はいつも、俺の前にこうして道を作ってくれるな……。

本人が必ずしも意識してるかはわからないけど、少なくとも今、俺はこうして光明を見出すことができた。


こうして春海が与えてくれたチャンスがもう、頭の中にあるのだ。


「そうか……そうだな。春海、俺……タコ坊主ともう一回戦うわ」

「……え?」

「それしか、方法ない気がしてきた。俺たちがあいつをどれだけ思っているか、見せてやるのが一番いいと思う。それには、俺自身が必死で何かをしているのを見せるのがいい」

「だけど……昨日そこまでボコボコにされたんだよ?」

「まぁそうなんだけど……でも、他のことを一生懸命やっても、朋美の心には響かないかもしれないだろ?だったら、俺が命を賭けているところを見せる方が確実だよ」

「……すごいこと、考えるんだね……」


あの春海が、意外な顔をしている。

この俺が、あの春海にこの顔をさせたってことか。

もしかしたら、初めて春海を驚かせることができたのか、俺……。


けど、これが上手く行く様であれば、朋美だって絶望の中でただ引っ越すって結果にはならないはずだ。

寧ろある程度の希望を持たせることだって、できるかもしれない。


たとえ結果として徒労に終わってしまうんだとしても、無駄にはしたくなかった。

その思いだけが、俺の心を、体を突き動かす。

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