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第198話

「こんな風に二人きりって、久しぶりな気がする」

「……確かに」


この日、明日香と桜子、あと何処にいるのかはわからないが橘さんは、用事があるからと先に帰って行った。

おかげで俺と睦月は二人きりで行動することになり……とは言ってもただの打ち合わせみたいなものではあるのだが。

降りそうだ、と思っていた雨は昼前から割とザンザンに降り出してしまい、屋上での昼食は断念せざるを得なかった。


「何処か入る?休憩できるとことか」

「……まぁそれは魅力的だけど打ち合わせどころじゃなくないか?」

「そっか、じゃあそれは後ででいいや。お茶していこうか」


後で行くのは決定なのか、そうか。

別に俺としても反対する理由はないが、用事を蔑ろにして後で慌てるのは望むところでないので、先に用事だけは済ませておきたい。

相合傘をバカにされるほど、周りも子どもではなかった様だが少しばかりの嫉妬に満ちた視線をいくつか感じたので、俺たちは早々に学校を出た。


「休憩したいなら、駅前のカフェがいいか?」

「大輝も休憩したいの?」

「……まぁ、たまには」

「そっか、えへへ」


嬉しそうだな、こいつ。

まぁ最近集団行動多かったし、こうして二人で、っていうのも新鮮でいいかもしれない。

なんて熟年夫婦かよ、と思わなくもないがこいつとの付き合いは長いからな。


マンネリになったりはしてないつもりだが、俺たちの交際の特性上二人きりというシチュエーションそのものがやや貴重であることは間違いないだろう。


「さ、大輝食べて食べて」

「待て待て待て!お前どんだけ食わせる気だよ!」

「精力つけないと、ほらほら」


なんて考えた俺は、本当に愚かだったと思う。

こいつ用事程々にして休憩を本番みたいに考えてんだろ。

カフェなのにやたらと盛りだくさんのサラダやらサンドウィッチやらがテーブルの上に並んでるのを見ると、レストランに和歌さんと一緒にきたのか?みたいな錯覚を覚えてしまう。


「……お前も食えよな。俺一人じゃさすがに食いきれんぞ」

「もっちろん。で、話なんだけど……ってわけでね」

「略すな!それが許されるのは漫画か小説の中だけだぞ!全く何が何だかわからんわ!」

「むぅ……大輝は私と二人の時間が嬉しくないの?時間は有限なんだよ?」

「ぐ……そ、そりゃ嬉しいけど……よ、用事だけは一応済ませようぜ?そしたらお前の言う通りにするから」


またしても俺は墓穴を掘ったと言っていい。

こいつの言う通りにする、なんてこの状況下で一番口にしてはいけないことを、俺は口走ったのだから。

そして案の定こいつの目は超絶輝きだし、いきなり神力を発動させて俺に記憶を流し込んできた。


「……えげつないな、お前」

「効率大事だよ。あんなクソみたいなやつの為に私と大輝の時間が割かれるなんて、我慢できない」

「…………」


よほど二人きりというシチュエーションが嬉しいのか、例の休憩所を作ろうと画策している生徒はクソ呼ばわりだ。

まぁもらった記憶を見る限り確かにクソみたいなやつであることは間違いなさそうではあるが。

しかし、教室の一角を使う、ということらしいがあの教室でそんなこと出来るのか?


仕切りは入れるみたいだが、問題になったりしないだろうか。


「あれがあのまま遂行される様だと、バレた時にクラス全体の責任になっちゃうよね。だから明日香の身も危うい。だからね、当日の作戦としては……」


すらすらとその作戦について話しだす睦月。

なるほど、それなら明日香や他の生徒は無関係でいられるかもしれない。

しかしもっと穏やかにできなかったもんなのか。


「なぁ、休憩所の計画そのものを潰すってのはダメなのか?」

「どうやって?」

「例えばベッドを運び込むまではいいとして……そういう目的のじゃなくて、本当に休憩が必要な客の為に、ってことで保健室以外の休憩施設、いや救護施設みたいにさせちゃうとかさ。そしたら明日香のクラスの株も多少上がったりするかもだし、誰も損しないんじゃないかなって」

「……なるほど、考えもしなかったなぁ。私としては泳がせといて、カメラ無効化してあいつが動き出したとこで取り押さえて先生に突き出したらいいかな、なんて思ってたんだけど」


それはそれで効果的ではあるんだろう。

俺の案も有効ではあるかもしれないけど、今後の抑止力になるのか、っていう観点ではやや弱い気がする。


「けど俺のだと、さすがにそいつがまた悪いこと考えるかもしれないからな。退学もしくは停学になる様なのが出て見せしめにしてやる方が効果的か」

「大輝にしては過激な発言だね」

「あんまり、ああいうゲスいの好きじゃないんだよ、俺。カメラとかなくて、無料で使えるってことなら百歩譲って許せるとして、そうじゃないんだとしたらもう犯罪でしかないからな」

「大輝らしい意見だね。まぁ当日ロヴンもイヴも来るっていうしね。あいと玲央も来るとなったら……あんまりゲスいのはちょっとね。イヴなんか私も使いたい、とか言い出しかねないし」

「…………」


それを仮に使う、となった場合、漏れなく俺は拉致されてしまうんだろう。

だけど学校で、ってのはちょっとなぁ。


「うん、いいんじゃないか?睦月の提案の方が今後の為になる気がする。何でも個人を尊重してやらにゃならん、ってことはないんだし」

「まぁ、それで泣き寝入りする人間が出るかもしれない、って考えるとね。じゃあ当日はそれで」

「うん、それでいいだろ。で、もう行くの?まだこんだけ食事残ってるんだけど」

「……残していくって言うのは」

「ダメに決まってんだろ。お前は作ってくれた人に申し訳ないと思わんのか。食材だってタダじゃないんだぞ!」

「だ、だよね。わかってた。だから怒らないで……ちゃんと食べるから」


珍しく申し訳なさそうな顔をしながら、睦月はどんどん目の前の食べ物を平らげて行く。

俺も手伝ってやらねば、と少しお腹いっぱいになってきているがそこは気合いと根性。

愛する彼女の為ならと頑張った。


「ねぇ」

「ん?」

「お腹いっぱいで立てない。抱っこして?」

「……本気で言ってんのか、お前」


雨のせいもあってかなりの人目があるというのに、何を言っているんだこいつは。

そんな羞恥プレイに興じてやろうとはさすがに思えなかったので、俺はふいっとそのまま伝票だけ持って立ち去ろうとした。


「……わっ!?」

「逃げられるとでも?」


しかしその腕を睦月はがっしりと掴み、自分の方へと引き寄せる。

危うくテーブルひっくり返すとこだった。

星一徹さんかよ。


「ま、待て落ち着け、ここはパブリックな場所なんだ。イチャつきたいなら、あとで場所変えて存分に……」

「逃がさない……今日は二人でまったりしっぽりずっぽし……うはははははー!!」

「お、お前思いが強すぎて悪魔みたいな声出てんぞ!す、すみませんお会計!!」


このままだと埒が明かないと考え、レジまで行くのを諦めて俺は店員を呼び、会計をしてもらう。

あんだけの量食っておいて、更に俺もこの後捕食対象になっていると言うのだから……こいつの欲の強さを身をもって思い知った気がする。

何にしてもとりあえず、こいつの願望叶えてやって……後のことはその時考えたらいいか。


立てないと言っていた睦月はその後ケロリと立ち上がり、俺の手を取り休憩できる施設へと、猛然と進んでいった。

まぁ、たまにはこんな日があってもいいかもしれない……けどこれバレたら後々他のメンバーとも同じ様なことを、ってなるのか。

こいつに黙っててくれ、なんて言っても無駄なんだろうなと考え、俺はもう開き直ることにした。

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