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第192話

『貴様ァ!私と言うものがありながら、他の女に手を出すとはどういう了見だ!!あぁ!?』


パソコンの画面から流れてくる音声に、あたしたちはまたも腹を抱えて笑う。

明日筋肉痛にでもなりそうな勢いだ。


「わ、私こんなこと言ってたか?」

「ん?ああ、セリフはちょいちょいいじらせてもらってるよ。ほら、この辺とか」


さっきは何を言ってるんだ、とか超絶慌てた様子でしかなかった高村は、心無しか表情がニヤケ気味になっている。

どう見てもセリフだけじゃないだろ、いじってるの……。


『任せてくれよ!俺の性欲は世界一ィィィ!!』

『高村さん絶倫!まさに酒池肉林!』

『韻を踏まないでくれよ、はっはっは!』

「ぶは!!ひでぇなこれは!!」

「よくこんなの考え付いたな……」


まぁ何だ、一瞬でも三人の美女(一人子持ち)に囲まれて幸せな時間を過ごせたんだし、その代償とでも思ってもらえればな。

つってもこれ、きっと奥さんに送り付けるつもりなんだろうと思うけど……どうなるんだろ。

即日離婚とかになるんかな。


「あ、ちなみに奥さんも割とゲスだから。ここ数年夫婦の仲は結構冷めてるけど、子どもの為にって夫婦で居続けてる系の」

「え、ゲスって」

「奥さんは本当に不倫してる。相手は大学生だったかな。今日ホテルから出てくるとこばっちり抑えといた」

「…………」


何て手際の良さ……。

しかしあいは一体、何でここまでするんだろうか。

普段大人しい感じなのに。


「だって……私もたまには大輝の役に立ちたいし。みんなが頑張ってるのに私だけ主婦みたいなの、嫌じゃん」

「多分誰もそんなこと思ってないと思うぞ。だから大輝もここに毎日の様に帰ってくるんだろうし。まぁ今日はお嬢たちと一緒に睦月の家だって言っていたが」

「そうだな、あたしから見ても正直あいは頑張ってると思う。人間界にきてそんなに時間経ってないのに、すっかり順応してるじゃんか。とは言っても、あいがやりたいと思ってやったんだったら別にあたしとしては反対する理由はないかな。なぁ、玲央?」


ハイハイでこっちにきた玲央を抱き上げて顔を覗き込むと、玲央はキャッキャ言いながら手を伸ばしてくる。

子どもは体温が高くて心地いい。

あたしなんか冷え性だから、この時期でもこういった温かさは大歓迎だ。


それに赤ん坊の匂いって、何かふわふわしていいよな。

悪い言い方すると乳臭いんだけどさ。

あたしにはこの匂いがたまらない。


「そういえばあの高村は、この辺に住んでるのか?遠い場所なんだとしたらさすがにちょっとだけ可哀想な気がしなくもないんだが」

「その辺は心配ないね。高村の家はここからも割と近いから。今頃黙々とご飯でも食べてるんじゃない?」

「ならいいか。組の名前とか出しちゃったけど、大丈夫だったかな」

「ああ、名刺渡すところはカットしてあるから。それに明日、この動画が高村の携帯に送られたらそれどころじゃなくなるでしょ」

「ん?」


そう言ってあいが再生したのは、見たこともない女が若い男とくんずほぐれつしている動画。

これはまさか、さっき言っていた奥さんの?

激しいな。


いくら旦那と上手く行ってないって言っても、はっちゃけすぎだろ……。


「どうやってこんなもの……」

「私やスルーズ、それに大輝だってやろうと思えばこれくらい出来るよ。まぁ大輝だけはやり方教えてもやらない気がするけど」

「そうだな、まぁ良くも悪くもあいつはいい子ちゃんだからな。変なとこで常識的だし。出来ればあのまんま成長してもらった方が、あたしとしては楽しいんだけど」

「その辺は同意ですね。大輝はあのまま大人になってもらいたい。高確率でそうなる気はしますが」


さすがに無修正で送るのはまずいだろ、ということで軽く、申し訳程度のぼかしをかけて、その動画を閉じる。

にしてもあの奥さん、テクニシャンだな。

高村と結構歳離れて見えるけど、女は化粧でいくらでも変わるからな。


その辺、大輝が女怖いとか言い出す理由の一つなんだよな。


「明日、何時ごろにその動画送り付けるんだ?大輝たちには言わなくて大丈夫か?」


冷蔵庫からビールを二本取り出して、一本を和歌に渡す。

今日のあたしたちの働きに乾杯、とか言いながら一口煽ると、その冷たさが体中に染み渡る様だった。


「まぁ、すぐにわかるとは思うから。……おお、上がってる上がってる」

「ん?ああ、お前株やってるんだっけ。凄いよな、あたしにはそういうの向いてないんだよな。つい熱くなっちまいそうで」


昔パチンコしに行って、あまりにも出なくて痛い目を見たのを思い出してしまう。

ギャンブルは向かないな、と思ってそれ以来行ってないけど、あいにはその辺の才能があるんだろうか。

今度パチンコでも連れてってみようか。


いや、大輝が怒りそうだからやめとくか。

それに万一大輝が将来そういうのにハマったらと考えると、状況的にシャレで済まないだろう。


「この国の活性化に一役買ってるだけだから。大して利益出てない会社の業績が良くなって、私の利益になったら売って、ってしてるだけだよ」

「良くなって、ってそれもしかして」

「うん、活性化するかなと思って」

「どうりで最近、やたらと無名の会社の名前をテレビとかで聞く様になったと思ったら……」


まぁあいは悪用したりする気もなさそうだし、この国が活性化するってのはおそらくあたしたちの利益になることもあるんだろう。

だったらあたしとしては別に傍観に徹してもいいかもしれない。

仕事が忙しくなるのはまぁ……仕方ないか。


しかし無名の会社が一気に有名になるって、相当な利益になってそうなイメージだけど……。

それに力のない企業だったりすると、あいが手放した後でつぶれたりしてないか心配になったりするが、まぁ余計なお世話だよな。

あたしの会社が無事ならそれでいいし。


「私の通帳?見たいの?」

「え?見せてくれるのか?」

「隠す意味ないもん。これだよ、ほら」


そう言ってネットバンキングの残高を見せてくれる。

その金額を見て、あたしも和歌も固まった。


「これ、あい個人のだよな」

「うん。何か楽しくてやってたらいつの間にかこんな金額になってた」

「あたしは少なくとも自分の通帳とかで見たことない金額だわ」

「いや、私だってないですよ……。これ、大輝は知ってるのか?」

「どうだろ。隠してはないけど、話してもないから」


だとすると多分あいつ、知らないんだろうなぁ。

こんな桁の金持ってるとか知ったらあいつ、倒れるんじゃないか?

少なくとも人の金あてにする様なやつじゃないから、知っても心配ないとは思うけど……。


でも一時も大輝を手放したくない、とかそういう願望があるならそれすら容易く叶えられるだけの金額あるな、マジで。

あたしは家でじっとしてるってあんまり性に合わないから、働き続けると思うけど。

多分大輝もそんなことを言われたからってヒモに成り下がることはないだろう。


「ていうかそれだけあれば、玲央が大人になってもまだ遊んで暮らせると思うし、適当なところでやめといた方が無難そうだな」

「何ならみんなも養ってあげられるかな?もちろんみんながそんなの望むかはわからないけど」

「まぁ、たまに飯でも奢ってくれたらそれで満足だけどな。金で苦労してるの多分桜子くらいだろ。あいつ小遣い制だし、バイトしたいとか言ってたからな」

「とは言ってもその辺だったら、私たちでもある程度賄ってやれますから」


桜子もああ見えて無欲な方だし、あれこれ買って、とか喚くことはあっても本当に買おうとするとやっぱいいや、とか言い出すから。

割と親からきちんと躾けられてるんだな、と思う。

長女だって言ってたし……まぁ、下に悪い見本は見せられないとかあいつなりに頑張っているんだろう。


おそらくあいつが本当にほしいのは……直接言うとへこむかもしれないから言わないけど、胸一択なんだろうな。

大輝も割とおっぱい星人だし、桜子が羨んでいても不思議はない。

こないだも朋美の胸見てため息ついてたしな。


「じゃ、私ご飯作るけど……何かリクエストある?」

「お?じゃああたしは肉がいい。肉なら何でも」

「私も別に、作ってくれると言うなら何でもいい。あいが食べたいものでいいぞ」


それぞれリクエストにならないリクエストを伝えると、あいは玲央をお願い、とか言って台所に消えていく。

みんなもそろそろ食事の時間か、なんて考えながら缶に残ったビールを飲み干し、まとわりついてくる玲央を相手する。

和歌も随分と玲央がお気に入りの様で、一緒に構っていると玲央が凄く喜ぶ。


これだけ元気にはしゃいでれば夜はちゃんと寝そうだな。

別で動いていたっていう大輝や睦月たちは、ちゃんと成果を挙げられたのだろうか。

今回正直、あい以上の成果って望めない気がするけど……でもそうなったら今度はどうするんだ?


あたしは深いところまで聞いていないし、そもそも何であんな恐ろしいことしてんのか、って疑問ではあるけど……全部終わってから聞けばいいか。

そんなことを考えているうち、食事が並んであたしたちは夕飯の時間になった。

波乱の前日の夜は、あくまでも静かに過ぎて行った。

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