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第19話

さて……紆余曲折あったがここまでのことをノルンに報告もしておきたいし、久しぶりに神界に帰っておくのも良いかもしれない。

みんな、元気にしているだろうか。


朋美がハーレムに加入してしばらく経ったある日のこと。

暇な時間ができた私は神界へ行くことにした。

とりあえず今日一日空いていることだし、何か連絡があったとしても、寝てたごめん☆とか謝れば何とかなるだろう。


そうと決まれば行動は早い。

ベッドに体を横たえて、意識を切り離す。

完全に眠りに落ちてしまう前に、魂を一部体に残したままで抜き取る……今だ。



久しぶりに拝む神界の、自然多めの景色。

かつてはとてつもない広さを誇っていたヴァルハラ……今ではその規模をすっかりと縮小している。


それというのも、ラグナロクが後期にはヴァルハラを訪れる者が激減してそこまでの広さが必要なくなったことと……ヴァルハラの崩壊。

それらの理由から主神の名を冠するオーディンが復興する際に、規模を縮小してしまったのだ。

イメージとしては、やや金持ちのお家。


見た目は何て言うか……かなり外装が豪華な、吹き抜けのあるセキュリティそこそこの三階建てアパート……いやマンションかな。

一度崩壊したという経験から、強度はかなり上げてあるとか言ってたっけ。

その縮小された屋敷の門番、ヘイムダルが私を迎えてくれた。


「おお、久しいなスルーズ。十年以上顔を見ていなかった気がするが……元気そうで何よりだな」


門番とは言うが、最近のこいつは門の周辺だとかあの巨大家屋であるヴァルハラの掃除くらいしかしているのを見た記憶がない。

見た目にはごつい鎧と顔を全部覆う兜に身を包んだ、強そうなおっさんなんだが……その恰好で掃除とか、やりにくそうだ。

もちろん、私はそのことについて尋ねたことがある。


「運動不足の解消には丁度いいんだ」


愛用のほうきをサッササッサやりながら、彼は事も無げに答えた。

実はこのヘイムダル、私がラグナロクの時にマジギレしてヴァルハラを半壊させてしまったことがあって、それを見たヘイムダルが珍しくブチ切れて私とバトル、という経緯がある。

そのケンカは時間にして二百時間を超え、他の女神のスクルドだとか雷神トール、あまり戦力にはなってなかったが豊穣の神であるフレイの仲裁で終結したものの、私とヘイムダルの殴り合いの凄まじさから結果としてヴァルハラは全壊した。


先ほど言った様にオーディンがちょちょいと直してはくれたのだが、私たちの上司にも当たるオーディンから私たちはきつくお叱りを受けた。

ヘイムダルは普段は超が付くほどの温厚なやつだが、ヴァルハラやオーディンに害を為すものに対してはそれはもうアツい……いやもう通り越して暑苦しい男になるのだ。

立場としては、神格の違いから本来私はヘイムダルにもオーディンにも様をつけなければならない。


だが私としては、戦闘力において誰にも負けることがあり得ないと自負しているので、敬ったりはしない。

それにこの神界の事実上のトップであるオーディンが、様とかつけなくていいと言っていることだし、ありがたく省かせてもらって、もちろんタメ口を利かせてもらっているのだ。


「ああ、久しぶりだね。そっちも元気そうだけど……相変わらず掃除ばっかしてんの?」


昔見たイメージからそう変わっている様にも見えなかったので、つい悪口っぽくなってしまう。

別に悪意があるわけじゃないが、ヘイムダルがこの程度で怒ったりしないことはわかっている。


「お前こそ相変わらずだな。最近じゃ掃除だけでなく料理にも手を広げているんだ。これがまた、なかなか楽しくてな」

「主婦かよ。ならもう、そのままオーディンと結婚しちゃえば?」


男同士とか私からしたらちょっと、って思うし、もちろん冗談のつもりで言ったのにヘイムダルはあからさまにうろたえていた。

えっと……その反応はもしかしちゃうってこと?

とりあえず気持ち悪いので適当に雑談を切り上げさせてもらって、門をくぐってヴァルハラの中へ行くことにした。


「あ!スルーズじゃん!久しぶり!!戻ってきたんだね!!」


エントランスにいたのは今回の尋ね人、運命の女神ノルン。

システムだけが、以前までも散々登場していてお馴染みかもしれないが、こいつには本当に世話になった。


「何何?戻ってきたってことはダメだったってこと?もう行く?」


そう言いたくなるのはわからなくもない。

かと言ってダメだったって決めつけられると、やや腹立たしい気持ちにもなってくる。


「あー……その前にだな。何だあのシステム。微妙で鬱陶しい選択肢ばっか出してきやがって」

「え?」


絶句。

いきなりの罵詈雑言に、ノルンはぽかんとして言葉を失っていた。

ちょっとやりすぎちゃったかな。


「とはいえ、今回はやり直しを頼みに来たんじゃないんだ」

「……ってことは?」


私は少し大仰に俯いて見せる。

それを見たノルンが、心配そうな顔をしていた。


「ね、ねぇまさか……大輝の魂を諦めるとか言うの?ねぇ、何とか言ってよスルーズ、らしくないじゃん!!」

「…………」

「何で?どうしてなの!?」


うん、慌ててる慌ててる。

このくらいにしといた方がいいかな。


「あんたの思いは、その程度だったのか!!何とか言えー!!」

「!?」


叫ぶや否やノルンが私に全力パンチ。

戦闘タイプじゃないとは言ってもこいつだって神だ。

しかも全くのノーガードだったということもあって、私は勢いよく吹っ飛ばされて壁に激突して、床に倒れた。


「…………」

「あ……え、えっと……」

「いてて……おいノルン。ちょっとこっちこい」

「ひっ!?」

「いーから来いっての。ほれ、早く!!」


ゆらりと私が立ち上がり、手招きする。

いきなりの全力パンチという暴挙に出たものの、一気に頭が冷えたノルンは、躊躇いながら私に近づいてきた。

そしてノルンが近づいてきて、その距離が一メートルくらいに詰まった瞬間、私は拳を振り上げる。


「……!!」


固く目を瞑って、歯を食いしばるノルン。

だが私が繰り出したのは攻撃ではなく、Vサインだった。


「……へ?」

「これこれ。見てわかんない?」

「え……ってことは……」

「そうだよ!!とうとう、乗り越えてやったよ、あの忌まわしき運命を!!」

「……おお!!おおおおおおおお!!!」


二人で抱き合ってこの度の成功を喜びあう。

自分のことの様に喜んでくれるノルンはやっぱり、私の親友だと思った。

――まぁ、さっきのパンチの落とし前はきっちりつけるけどな。


「やった、やったねスルーズ!!」

「ああ!やってやった!!」

「あはは!!嬉しいなぁ!!あっ!?う、うれ、じ……ぐぐ……ぐるじい、ズルー……ズ……」

「あっはっは!!嬉しいよなぁ!!……開幕全力パンチくれやがってこの野郎!!つーか恋愛経験皆無のノルンさんよ。あんた本人よりもシステムの方が人間の恋愛について詳しかったりしないか?」


抱き合いながらノルンの体を締め付けてやると、ノルンが顔色を変える。

そろそろ顔色が紫になりつつあったので、これでチャラにでもしてやるか。


「げほ……あ、相変わらずのバカ力……」

「あんなん一割も出してないっての。まぁ、あれでチャラにしてやるよ、親友」


一度離れた体を再度抱きしめ、先ほどまでとは打って変わった優しい声音で囁きかける。

うーん、百合ですねぇ。


「へぇ、君ほどの神がそこまで入れ込む魂か……ちょっと興味あるな」


少し離れたところから、男の声がする。

声のした方を見ると、柱の陰からニヤニヤと気持ち悪い笑みを湛えた男が出てきた。

この声、あのニヤケ面……あいつか。


百合見てニヤケてんじゃねーぞ、この変態野郎が。


「ロキか。あんた、まだこっちにいたんだ?」

「これはいきなりご挨拶だなぁ。僕だって、無断でここに滞在してるんじゃないんだ。ちゃんとオーディン様から許可をもらっているよ?」

「ダメなんて言ってないよ……あんた、一つのところにいるなんてこと、今までほとんどなかっただろ」


そう、こいつはかつて悪神と呼ばれた男。

見た目は人間で言えば二十歳前後の、キザな優男だ。

認めるのはちょっと業腹だが人間界に降りれば多分、相当モテるんじゃないかってルックスではある。


まぁ、見た目なんか向こうでどうにでもできるのが私以外の神なんだけど。

常に飄々としていて、ラグナロクの時には敵に回ったり味方になったりと忙しいやつだった。

当時の裏切りが目立ったことから、今も心から信用している神は少ないんじゃないだろうか。


「まぁね、ここは居心地がいいから。知ってるかい?ヘイムダルの作る食事はとっても美味しいんだ」


おどけた様な芝居がかった仕草と共にロキが、ヘイムダルへの尊敬の念を込めて言う。

あの脳筋の作る食事なんて、いいとこ肉の丸焼きと野菜丸ごと煮込んだスープくらいしか想像できないが、ロキがとっても美味しいというのは嫌味には聞こえなかった。

人間でも神でも、変われば変わるものなんだなぁ。


「そうかい、それは何よりだ」

「まぁ、それはいいとして……その魂って、どんなものなんだい?良かったら教えてくれよ。ノルンやスルーズが能力を駆使してまで入れ込むって、すごいことだと思うし」


今度は漫画とかでよく見る金持ちキャラみたいに、前髪ふぁさっとやっている。

正直うざいし、めんどくさいやつに話を聞かれたなぁ……。

かと言って、嘘ついてもこいつ絶対見破ってくるだろうし。


「はぁ、仕方ない。まぁ一言で言えば、一生懸命な子だよ。エインフェリアの資質もあると思う」


二言になっちゃったけどまたラグナロクみたいな大戦争が起きるなんて考えている神は少ないし、それ本当に必要?とか言われると微妙に困るが、大輝にはその素質がちゃんとあるって思ってる。


「へぇ、今の時代にそんな人間が……ちょっと見てみたいな」

「あー、一応言っとくけど」

「ん?」

「あの子にほんのちょっとでもちょっかいかけたら、マジで潰すから」


ただの脅迫ではないことを、私がオーラで表してやるとロキが少し顔色を変えた。

もちろん威嚇に留めるつもりではある。

まぁ、こいつなら別に多少痛めつけてもヘラヘラしてるんだろうし大丈夫だろう。


「……おっかないなぁ。大丈夫、どうしても見たくなったら、ノルンに頼むし」

「はぁ?私?高いよ?」


ノルンが心底嫌そうな顔をしている。

人の好き嫌いをほとんどしないノルンですら、こんな顔をするのか。

こいつもあんまりロキにはいいイメージ持ってないんだ、ということがよくわかる。


「脅しじゃないってことは、覚えておいてね。死なないって言っても痛みはあるんだし。向こう三百年くらいは活動もできないくらいにぶっ壊すくらいは、訳もないから」

「わかったから……大丈夫だからそんなにいきり立たないでくれよ。争いにきたわけじゃないんだよ。大体、かつて力の象徴とまで言われていた戦女神スルーズに、正面からケンカ売るのなんか……ヘイムダルかトールくらいなものだろう」


降参、という意志をロキは苦笑いしながら両手を掲げて示す。

こういう仕草も何かイラっとくる。

何処まで本音なのかわからないだけに不安は残るが、かと言ってここでこれ以上こいつともめても私に得はない。


ロキが去って行って、私は再びノルンに向き直る。

これからの計画を進めるに当たって、万一の備えはしておいて損はないだろう。


「そう言えば、ここまでは順調だからいいんだけどさ。一個頼んでいい?」

「ん?何?難しいことじゃなかったら別にいいけど」


こいつに戦闘させようなんて思わないし、それだったら私が自ら乗り出した方が早いに決まってる。


「いやさ、せっかくここまできたのに大輝との関係に、神界から邪魔とか入ったら嫌だなって」

「ああ……まぁ、わからなくはないよ。さっきのロキとかね」


そう、ロキだ。

あいつは文字通り神出鬼没で、何を考えているかわからない。

どこでイレギュラーの元になるかわからない不安要素が多すぎる。


「だけどロキ……最近大人しくしてるみたいだよ?」

「は?ロキが?」


驚天動地だ。

あの、人の嫌がる顔を見るのが趣味ですと言わんばかりのクソ野郎が?


「オーディン様がヴァルハラに置くのを決めた時も、不安だったら監視してくれていい、みたいなことを自分から申し出たみたいだし」


逆に何か企んでるんじゃないか、って勘繰りたくなるな、それは……。

だけどノルンの言うことならまず嘘ってこともないんだろうし、さっきの様子を見る限りでもノルンはロキを嫌っている。

そして私に嘘をつくメリットもないだろう。


「その監視も、バルドルがしてるみたいだからね。オーディン様から頼まれてるんだとしたらバルドルだって手抜きはしないでしょ」


あの堅物にやらせてるのか……ならまぁ……私は果てしなく苦手なやつだが、ヘイムダルから見ても真面目と言う評価のあのバルドルにやらせているなら、まず安心できるか?


「それに……仮にスルーズの邪魔をって考えるやつがいるとして、そのメリットと苦労が釣り合う様には思えないんだよね。デメリットの方が遥かに大きいし、失敗する可能性の方が高いんだから」


この私がついてるんだぜ、と言いたげなノルン。

確かにノルンは頼りになるからなぁ……というか私も自ら鉄拳制裁に乗り出すだろうし。


「ま、確かに言う通りか。とりあえず大丈夫だと思うけど、何かあったら教えてね」


ノルンに別れを告げて、私は人間界に戻る。

親友であるところのノルンと、久しぶりに会えて嬉しかったな。

ロキはちょっと警戒しとかないといけないかもしれないが。


とは言ってもせっかく大輝が死なないルートに入ることができたんだ、あんなやつのことを考えるのはもったいない。

何があろうと私は大輝を守れるし、守って見せる。

その為に私だっていくつか我儘を封印したんだから。


心配事はあるけど、これから始まる大輝とのハーレム生活を楽しむ方が私にとっては大事だ。

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