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第185話

「そう、お疲れ様大輝くん。少しは男としてマシになったのかしら」


神界から戻った俺たちを、明日香も桜子も起きて迎えてくれた。

橘さんも帰ればいいのに残っていたらしいが、寝てしまっている様だ。


「お兄ちゃんの試練って、あと一個なんだっけ?だともう残ってるのお姉ちゃんだけだよね」

「お前、何でいるんだよ。魔界はどうした」

「そんなの暇だから来たに決まってるじゃん」


明日香に桜子、寝ている玲央に橘さん。

それだけだと思っていたら、いつの間にかイヴも来ていたらしい。

桜子に飯をねだり、仕方ないから明日香と二人で簡単に作って振舞うとモリモリ食べていたとか何とか。


すっかりこっちの生活に馴染みやがって。


「私だけ確かに、試練に絡んではないけど……私が媒介になるとは限らないよ。誰かが二回とか、全く関係ない人間が、って可能性もあるんだから。今までは確かにメンバー内で進んできてた話だけど、これからもそうとは限らないから」


そう言った睦月は何となく寂しそうな顔をする。

とは言ってもこいつのことだから深刻な悩みとかじゃなくて、私だけ仲間外れ、みたいなこと考えてるんだろうなと思う。


「でも睦月が媒介になるんだとしたら、あとは強欲?だけよね。睦月ってそんなに欲深かった?」

「……どーだろ、食欲とかそこそこある方だけど。まぁ、大輝に関してだけ言えば、確かにあの回数のやり直しをしたのは執念……異常な欲の賜物かもしれないとは思う」

「朋美みたいにわかりやすかったらいいんだけどな。まぁ、他の人間が、って場合だと現状打つ手なしなんだけどさ」

「何よ大輝、わかりやすいって。私を嫉妬の権化みたいに言うのやめてよね」

「い、いやそういう意味で言ったわけじゃないぞ……」


以前の様に噛みつきそうな感じではないが、軽く睨まれるのもやっぱり少しおっかないのは変わらない。

だけど俺はこれでいいとか言っちゃったからな……もう少し物腰柔らかにできませんか、とか言ったら良かった。


「そこで寝てる橘さん?とかが媒介になるってことはないのかな」

「……まぁ、ゼロではないよな。慎ましげに見えて割と図々しいとこあるし」

「あの子の場合は素直なだけってことも考えられるけどね。ただ、あの子は……」

「ん?」

「いや、何でもない。まぁイヴも対象になりえるし、警戒はしてていいと思うよ。とは言ってもイヴはそんなに頻繁にこっちにいないけど」


となると知り合いの中では後三人、少なくとも可能性がある。

そして他のみんなでもう一回あるかも、ってなると選択肢は増えまくるわけで……今から考えても仕方ない気がする。


「それよりご飯まだなんでしょ?食べちゃいなさいよ。朋美はこっちに泊まって行くの?」

「お前は俺の母さんか。でもありがたく頂くことにしようか。朋美、泊まってけよ。おっさんにも言ってあるんだし」


明日香が顔を赤くしながら用意してくれた夕飯を食べ、今回の話をある程度して眠りにつく。

こうして嫉妬の試練は本格的に終わりを迎えたと言えるだろう。



「……で、いつになったら私は宇堂くんの性欲処理の道具として使っていただけるんですか?」

「…………」


なんて甘いことを考えた時期が、俺にもありました。

こいつの問題が残っていたということを、忘れていたわけではなかったはずなのに何で……。

昼休みになるや否や橘さんは俺の教室を訪れ、爆弾を落としていく。


ちなみに朋美は今頃あいと玲央と仲良く遊んでいる頃ではないだろうか。

初めてさぼっちゃった、なんて言って笑ってたけど罪悪感とか微塵も感じられなかったな。


「橘さん、ちょっとこっち」

「え、椎名さん、何ですか?」


睦月が見かねたのか、橘さんを教室の入り口辺りまで呼び出す。

そうだ、それでいい。

たまにはガツンと言ってやれ、決して言えない俺の代わりに。


「面白いからもっとやって。だけど、あんまり具体的なワードはNGね。ゴールデンタイムにはまだ早いから」

「椎名さんがそう仰るんでしたら、私も攻め甲斐があるってものですね!了解しました!」

「おいお前ら聞こえてんぞ……」


ガツンと言うどころか焚きつけやがってあのアマ……。

そして睦月のお許しが出た橘さんはこれでもかと、ギリギリアウトの様なセリフを連発して周囲を引かせていた。


「一応今食事中っていうか……飯食ってる人間多いからさ。さすがにそういうのは……」

「じゃあ屋上行きましょう。何かあったら屋上、これ鉄則ですよね!」

「…………」


食いかけの弁当を抱え、俺は橘さんに手を引かれて屋上に連行される。

もちろん面白そうだから、と睦月はついてくるし、それを見た桜子と明日香も一緒に屋上へ移動したわけだが。


「私、そんなに魅力ないですか?」

「は?」


そして屋上につくなりマジな顔。

一体何なんだこいつ。


「逆に聞くけど、お前何であんな攻め方なの?もっと状に訴えるとか色々あるだろうに」

「んー……あんまり猫かぶっても仕方ないかなって。本性とかすぐ露呈するものじゃないですか」


そういうものなのか。

……あー、和歌さんだけは何となく、一瞬取り繕ってたっけ。

本当に一瞬だったけど。


とは言え知り合って間もない人間に下ネタ乱舞して、彼女にしてください、って斬新だけどちょっとな……。


「別に橘さんが可愛くないとか好みじゃないとか、そういうんじゃないんだけどな。ただ一つ言っておくと……既成事実が出来ちゃったら、お前絶対教室でまた喚くだろ。そして俺はそれに対して反抗する術を持たない。だから今は徹底して守りに徹しているわけだな」

「……うわぁ、いい笑顔で最低なこと言ってますね、この人」

「まぁ、大輝っていい子っぽいけど案外身勝手なとこあるから……。それに小心者でもあるから、そうなった時に橘さんを傷つけたりするのが怖いんじゃないかな」

「っぐ……」


何で敢えて言わずにいたことをさらっと言っちゃうのかな、こいつ。

俺に恨みでもあんのか、本当。


「それって、大事にされてるってことでいいんですかね?」

「前向きなことで結構だけど、まぁ全否定はしないよ。ただ、もちろんさっき言ったことだって本心だけどな」

「大輝くんはね、こう見えて色々経験してきてるから……橘さんがちゃんと女の子としてやっていけるか心配なんだよ」

「おい、桜子……余計なこと言うなよ」

「事実でしょ。桜子は何も間違っていないわ。橘さんを保留にしている理由は何となくわかるけど、本人がそれで納得していないから、ああいう行動に出ているんだと思うし。なら大輝くんには橘さんを納得させる義務があると思うわ」

「…………」


ぐうの音も出ないほどに正論で参っちゃうな。

まぁ明日香と口喧嘩して勝てるなんて考えたこともないけど、ここまでびしっと言われるとさすがにどうにかしないといけない、という気持ちにはなってくる。

ただ義務とかそういう重たい話になると、俺みたいなちゃらんぽらんな人間にはちょっと荷が重いっていうのは無きにしも非ずというところか。


「朋美から今連絡来たけど、今日はあいに送ってもらって帰るって。いい機会だから橘さんとデートしてきたら?」

「いや、俺今日バイトが……」


勝手なことを、と思う。

しかしその勝手なことを言った本人は任せろ、と俺の肩を叩く。

またこいつ、俺の妻とか名乗って行くつもりかよ。


散々冷やかされたこともあって、正直こいつに任せるのは気が引ける。

だったらまだあいにでも任せた方が……いやダメだ。

子連れで接客とかあいつなら平気でやりかねない。


「はぁ、わかった。わかりました。睦月さん、今日もお願いします」

「代金は体で払ってもらうから、任せて」

「…………」


代金の方が断然高くつきそうな気がしなくもないが、こうなってしまったら仕方ない。

明日香や桜子の冷ややかな視線にも耐えかねていたことではあるし、いっちょ汚名返上してやろうじゃないか。


「つっても放課後だからな、そこまで時間は取れないけど、大丈夫か?」

「何言ってるんですか宇堂くん。ホテルにシケ込んで休憩で入っても、きっと何回戦かできますって」

「…………」


何でそんなことまで下調べしてんのこの子。

もちろん今日のデートコースにそんなところへ行くというプランは含まれていない。

あんまりいい予感がしないが、後顧の憂いはないわけだし橘さんの件に決着を。


予鈴が鳴るのと共に俺たちは教室へと戻って行った。

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