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第183話

「くく……お前、死なないのか……いいな、楽しめそうだ」


作戦を決行してから早くも一時間弱。

ヘイムダルさんの盾は最初の十分程度で魔力によって砕かれ、睦月から下がる様に言われて引き下がった。

出オチ感が半端ないな。


そして朋美の意識はすっかりと魔力に飲まれたのか、その声、口調までもがもはや別人の様に思えた。

厄介なことになったな、と改めて思う。

思いつく限りの足止め、急所狙い等々いずれも空ぶった上に、唯一上手く行きそうだった心臓への一撃は、あの豊満な胸に阻まれてあと一歩届かなかった。


再会した時はすげぇ胸だ、なんて心躍ったものだったが、ここまでくると邪魔としか思えない。

あれさえなければ……そう、桜子や橘さんが相手だったらとっくに決まっていたはずなのに。

つくづく本人がここにいなくて良かったと思う。


いたら恨めしい目をして見てしまっていたかもしれないから。

そしてそんなことを考えている間にも、朋美の魔力による攻撃は続いている。

睦月も牽制の為にある程度手を出してくるが、それでも隙を作るには至らない。


言葉で訴えかけてもきっと届かないんだろう。

本人の意識が飲まれてしまっている以上、俺や睦月が何を言おうと意味はない。


「どうした、もう終わりか?私を封印するなどと言う暴挙に出たあの男はここにおらん様だが」

「……?」

「あの男って……朋美のお父さんのこと?」

「そうか、あれは父を名乗っているのか。これは愉快だな」

「愉快って、何だよ。自分の血を分けた子どもなんだから、紛れもなく父親だろうが」


挑発の類かもしれない、そう思っても俺の口は勝手に言葉を紡いでしまう。

あの親子は、俺からしたら反発していても立派に親子をしていたはずだ。

朋美だって心から憎いとか、そんなことはなかった。


そしておっさんだって、朋美を誰よりも大事に育ててきた。

だからあの時、俺と衝突することを選んだんだから。


「禁忌を犯してまで作った子どもなのにか?片腹痛いわ。そのおかげで今こんなにもこの娘が苦しんでいるのが、お前には見えないのか」

「お前が出て行けばそれで済む話だろ。朋美を苦しめたくないなら、とっととその体から出てけ!!」


叫ぶなり飛び出し、朋美の足元を爆発させる。

土煙が上がり、視界が遮られた瞬間を狙って背後に回り込む。

こうなったら後ろから心臓を狙うしかない。


前からじゃまたあのでかい胸に阻まれて無駄に終わってしまうだろうから。

……しかし。


「私が乗っ取っているのが誰の意識だと思っているんだ?お前の考えることなどお見通しだ」

「!?」


背後に回り込んだはずの朋美は俺の方を向いて、カウンター気味に魔力を放出する。

当然のことながらガードなど間に合わず、俺はまともにくらって肩を貫かれた。


「っく……」

「運がいいな、お前は。咄嗟に身をよじったのか」


そうしなかったら、ちょっと危なかったかもしれない。

ロキやあいがさすがに見かねたのか、手を出そうとするのを睦月が懸命に止めている。


「でも、このままじゃ大輝が……」

「ダメだよ、大した相手じゃないからこそ私たちが全力で相手するわけにいかないんだって」

「けど、このままじゃジリ貧だよ?どうするんだい?」

「…………」

「そうだな睦月、お前の言う通りだ。お前たちが全力でくれば、私を制圧することなどわけもないだろう。しかし同時にこの娘も死ぬことになるだろうがな。死した人間をも生き返らせる力など、お前たち神と言えども持ち合わせてはいまい。この娘を殺したければ、本気で来るがいいぞ」


これまた安い挑発だ、なんて思う。

そんなことになるくらいなら、俺が死んだ方がいくらかマシだと俺は思っている。

俺はそう思ったんだけど、睦月は違っている様だ。


「……ロキ、あい。少し痛いの我慢できる?」

「まぁ、君にボコボコにされたことを考えれば比べるまでもないだろうからね。別に少しくらいはかまわないよ」

「私も同意見かな。まぁ、後半は大輝が痛い思いしてたけど」


一体何の話をしてるんだ?

まさか二人にも手を借りようと考えているのだろうか。

二人は睦月の意志を汲んだのか、朋美から見て両脇に走った。


「ちょーっと痛いかもしれないけど、我慢してね」


三人のうち、誰を狙おうか一瞬迷った朋美の隙を突いて、睦月が正面から飛び込んでいく。

朋美は睦月に狙いを定めた様で、魔力を集中させた。

そして、魔力が放たれるかと思われた瞬間、睦月は後ろに飛び下がった。


「な……」

「いけ、二人とも!!」


睦月の声を合図に、ロキとあいが朋美の両脇から朋美を抑えにかかる。

咄嗟のことに対応しかねた朋美が、三人のいずれを狙うか逡巡した瞬間、あいは右腕を、ロキは左腕をとり動きを封じた。


「はああああああああ!!」


動きを封じられた一瞬を狙い、睦月は正面から突撃をかける。

俺も立ち上がり、背後からの攻撃を仕掛けるべく集中した。


「っだあああああああ!!」


しかしその刹那、あいとロキが吹き飛ばされるのを見て俺も睦月も動きを止める。

全力で魔力を放出して、二人が全力でなかった隙を突いたということか。


「……悪くない作戦だった。いや、正直危なかったよ」

「…………」


睦月が歯噛みして、忌々し気に朋美を見つめる。

二人が本気でなかったからって、あんなにも簡単に戒めを解かれるなんて、誰が想像できただろうか。


「そんなにもこの娘が愛しいか、宇堂大輝」

「……当たり前だ」


愛しい、とか言われると非情に気恥ずかしい思いはあるものの、事実ではあるので否定は出来ない。

というか万一朋美の意識が残っていて、んなわけねーだろ!とか言おうものなら……あとでどんな目に遭わされるか。


「お前、朋美の体を使って何をするつもりなんだ?」

「私を封じたあの忌々しい男に報復をすることか。その後のことはそれから考えるさ」

「その体で、神界から出られるとでも思ってるのか?朋美だって、俺たちの力を借りなきゃここまで来られなかったのに」

「そんなものは私の力でどうにでもなるさ。あの男が使った力と私が用いる力は同じなのだから」


ってことはやっぱり、ここでこいつは止める必要がある、ということだ。

じゃなかったらあのおっさんはもちろん、他の人間だって危うい。

俺たちを圧倒するには至らないとは言え、世界を滅ぼすくらいの力はあると見ていいかもしれない。


「俺たちを倒さなければ、他の神々だって駆けつけると思うぞ。そうなればお前だって、ここから無事に逃げおおせるなんてことは出来ないはずだ」

「逆に私を圧倒出来るほどの力を持っているはずのお前たちは私に危害を加えることが出来ない。ならば手段などいくらでもあるさ」


なかなか痛いところを突いてくる。

これが朋美でなかったら……いや、他の人間でも俺は同様に手を出すことを躊躇っていたかもしれない。

結局は誰が相手でも結果は変わらなかったということになるのか。


「お前たちを多少動けない程度に追い詰める程度なら、私の力でも出来るだろう。甘いことを考えて、世界が消えていく様を指でも咥えて見ているんだな」

「……させてたまるかよ」


さっきも考えたことだが、朋美の意識が欠片でも残っていた場合、朋美はその様子をどんな気持ちで見ることになるのか。

考えただけでもはらわたが煮えくり返りそうになる。

だからと言って、今ここでこいつを何とか出来る手段も思い浮かばないわけだが。


母の持っていた知識や経験は、相手を完膚なきまでに打ちのめす方法ばかりでここでは役に立ちそうにない。

まさしく八方塞がりだった。


「大輝、私が盾になる。その間にお前は彼女を何とかするんだ」

「でも、ヘイムダルさん……」

「どうせ我々は死ぬことがない。ならば多少の犠牲は仕方ないと考えろ。この状況で、何の犠牲も払わずにことを成し遂げられるなんて考えてはいけない」


そう言ってヘイムダルさんが俺の前に立ちふさがる。

協力までしてもらったのに、ここで犠牲になれなんて……他に方法はないのかよ。


「その必要はありませんよ」

「な……貴様……」


最近聞く頻度が増えた声。

そしてその声が聞こえた瞬間、朋美の体は指一本動かせなくなっていた。


「母さん……」

「全身丸ごと封じてしまえば、この通りです。私の力を打ち破るほどの力はもちあわせていないのですから。今ですよ、大輝」


母が圧倒的な力を以て、朋美を丸ごと封じて見せた。


「私の可愛い息子にあんな風に痛手を……本来なら死を以て償ってもらうところですが、生憎その体は息子のものです。出て行ってもらいましょうか」


そう言って母は憎しみを込めて、更に力を強める。

憎々しげに俺を見つめる朋美に、俺はゆっくりと近づいていった。

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