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第173話

「あらあら、ようこそ……いつも葵から話は聞いています」

「え?あ、いえ、お構いなく……」


俺としては家まで送って、適当に説明をして帰ろう、って思って橘さんの家の前まででバイバイの予定だった。

というかいつもって何?

話すのだって今日が初めてなんだよ、俺たち。


なのに親御さんにはいきなり上がれと言われ、非常に断りづらい雰囲気が出来上がる。

そして仕方なく上がった先では当然、親父さんと思われる男性と妹さんと思われる女の子が待ち構えていた。


「あ、お姉ちゃんの彼氏さんですか?初めまして、妹の茜です」

「妹はまだ中三なので、宇堂くん手を出さないでくださいね?」

「…………」

「初めまして宇堂くん、葵が世話になっているみたいで。葵の父です」

「あ、いえこちらこそ……?」


父ちゃんちっさいな。

俺と同じくらいか?

そして母ちゃんでけぇ。


一八〇センチくらいありそう。

妹さんはおそらく母ちゃんの血が濃いんだろう。

となるとやっぱり橘さんは父ちゃん似か。


にしてもそれなり整った顔した姉妹だな。

どう見ても妹ちゃんの方がお姉さんに見えるんだけどな。

田舎娘っぽい感じのツインの三つ編みの姉に対して、妹はちょっとギャル入ってる感じで彼氏の一人くらいいてもおかしくない感じに見える。


妹も俺よりでかいし、姉である橘さんはさぞ妹をやっかんだのではないだろうか。


「娘が危ないことをする様な子ではない、というのはわかっているつもりだけどね。それでもやはり普段の言動が言動なのでな、少し遅くなるだけでも心配になる。わかってくれるかね?」

「え、ええそうでしょうね」


普段の言動って、まさか親相手に下ネタ全開なのかこの子。

さすがに俺の理解を超えてきてるぞ。


「欲求不満の人妻みたいなことばっか言ってるもんね、お姉ちゃん」

「こら茜。……いや、概ねその通りではあるんだが、本当にお恥ずかしい」


そうだろうよ。

俺の娘がこんな風に育っちゃったら、なんて考えると俺も同じ様に感じるだろうからな。


「でも葵、いつも宇堂くんのこと話していたのよ?今日も女の子連れてた、とか。今日は見たことない女の子連れてた、とか」

「…………」


ストーカー?

というかそれを聞いて親は何とも思わなかったの?

そして何でそれを容認してるの?


「まぁそんなところに立っていても仕方ない。良かったらこちらにきて座りなさい。葵は着替えてくるんだぞ」

「わかってるって。あ、宇堂くん私の汗の染み込んだシャツの匂いとか嗅ぎたいですか?今なら脱ぎたてをお貸ししますよ?」

「……親御さんの前でそんな変態じみたこと言うのやめれ。ていうか俺まで、何で来て数分で変態キャラみたいな位置付けにされてるの?」


はよいけ、と手でしっしっとやると橘さんは心底残念そうな顔で居間から出て行った。

マーキングでもしたいのかよ。

ぶっちゃけ匂いフェチの気がある俺としては、興味がゼロなわけではないけど、さすがに親御さんの前でもあることだし……いや、いなかったとしても多分断ってただろうけどな。

そんなことを考えながら俺は促された通り、椅子に腰かけた。


「すまないね、何だか……あの通りの変態娘で」

「いえ……」


親からも変態扱いされるって、相当だろ。

そして俺も強く否定は出来ない。

何しろあの変態的言動を、今日一日で散々目の当たりにしてきたのだから。


「しかし何だ……宇堂くんはあんな変態娘でいいのか?」

「……はい?」

「葵は君のハーレムに入れてもらうんだ、とか意気揚々と今朝手紙を持って出て行ってね」

「…………」


おいおいマジかよ。

あの子やっぱ頭のネジ何本かダメになってないか?


「二回くらい鼻血噴いてたよね。今日大人になってきちゃったらどうしよう、とか言って」

「…………」


それはさすがに先走りすぎだろ、どう考えても。


「さすがに手紙でまで変態言動をされては、と私たち家族全員で添削をしたんだが……」

「そ、そうでしたか」


橘家も苦労が絶えない様子なのを見ると、何だか居た堪れなくなってくるな。

妹はそこまででもないみたいだが、両親の気苦労は絶えないことだろう。


「あの、こんな言い方はどうかと思いますけど、まだ付き合うかどうかも決めかねていると言いますか……」

「な、何だって……!?」


いや、驚く様なところかよ。

仮に自分たちが言うその変態と、自分たちが付き合うなんてことになったら、即答でお願いしますとか言えるのか?

よっぽどの好き物じゃなかったらまずありえない話だと何故わからんのか。


「お待たせしました、ってどうしたんです?」

「葵お前、振られたのか?」

「はい?宇堂くんがそう言ったんですか?」

「いや、俺はまだ決めかねているって言っただけで……」

「迷う要素があるということだよな?もちろんこんな変態相手じゃ致し方ない、と思う気持ちはあるが」


あるならそんな絶望する必要なくない?

自分たちでちゃんとわかってんじゃん。

しかしまぁ……この両親の様子を見るに、橘さんの子育てにはかなりの苦労を強いられてきたんだなと言う感想しか出てこない。


「こういう問題に親が口を出すのはどうかと思うんだが……」


何だろう、嫌な予感がする。

この口を開かせてしまっていいのか、と思うがたった今会ったばっかりの他人相手に口をふさぐ、とかそんな真似していいのかという迷いが同時に生じた。


「宇堂くんに見捨てられたらきっと、この娘は一生日陰を歩く様などうしようもないクズにしかならないと思うんだ。産業廃棄物以下だよ、もはや」

「…………」


実の娘の目の前で、本人のことをよくもそこまで言えるものだな、と一瞬感心した。

しかも本人は特に顔色が変わった様子もないし、慣れてしまってるんだろうか。

それはそれでまずい気がするんだけど。


「いやでもほら……勉強できそうですし、いい大学いっていい会社に行けるんじゃないかな、とか」

「今どき勉強だけ出来たって、何の足しにもならないんだよ。仮に君の言う通り、いい会社に入れたってコミュ力が欠如していては、社会からつま弾きにされるのが関の山だ。そうは思わないか?」

「…………」


考えたこともなかったな。

この子ってもしかして、俺以外の人間とそこまで会話しない子だったの?

中学の頃は友達いたとか言ってたけど、まさかのエア友達なんてことはないよな?


「まぁ、このクソ親父の言う通りと認めるのは非常に業腹ですけど、概ねその通りなのでそこは認めておきます。確かに宇堂くんに見捨てられたら私はきっと、周りからは目も当てられない様な寂しい人生を送ることになるでしょう。だけどそれは確かに全部、宇堂くんの選択によるものですが……宇堂くんのせいではありません」

「…………」


クソ親父って……。

ていうかこいつ、人の弱い部分突く術に長けてんな。

俺の人柄をよく見抜いた発言だ。


こんな風に言われたら断りにくいどころの騒ぎじゃない。

既に外堀まで埋められて、これで断れるやつってもう、心のない人間だと思う。


「うちの娘は、自分で言うのも何だが顔は悪くないだろう?身長は私に似たのかちんちくりんだし、出るところも出てないから凹凸なんか欠片もないが……」

「何だと?」

「だが一応女としての機能自体はちゃんとしてるはずなんだ。だからそういう用途で使うことは出来ると思うぞ」

「え、ちょっと待ってください。親として、娘がそんな扱いでいいんですか?実の娘さんですよね?拾ってきたとかならともかく……」


いや、拾ってきたんだとしてもあんまりな扱いだと思う。

それだけ将来に不安があるのかもしれないが……男のはけ口として使え、みたいなのは人としておかしいだろう、さすがに。

と、思っているのは俺だけなのか母親も妹もいつものことだから、という顔で見ている。


「葵に関しては……正直甘やかしすぎたと後悔してるんだ。宇堂くん、どうにか娘を頼めないか?殺す以外なら何してもらっても構わないから」

「いやいやいや、ちょっと話が飛躍しすぎてて……」

「頼む、この通り娘を鍛え直してやってほしい。一人の人間として真っ当な思考が出来る様になってくれたら、あとは何でもいいんだ」


そう言って橘父は椅子から降りて床に頭を擦り付ける。

それを見て母親と妹は目を合わせ、一瞬にやりとした様に見えた。

そして……。


「私たちからも、お願いします!」

「お姉ちゃんがこのまま不幸になるなんて、私耐えられない!!」

「ええぇ……」


橘家が全員で俺に向かって土下座という異常な事態が起こる。

揃いも揃っていい性格してやがるよ本当……。

ある意味家族で暴力団な感じだよ、これ。

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