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第172話

「宇堂くん、ここ宇堂くんの奢りなんですか?」

「……ああ、それでいいよ。何か食べたいのか?」

「え、いいんですか?嬉しいなぁ……じゃあ……」


何でこんなことになったんだろう。

もっと何て言うか手っ取り早くこの子をあしらって、今頃はみんなでまったり、なんて考えていたはずなのにもう夕飯の時間という。

しかも帰りたいオーラを出したら橘さんはまだ帰りたくないとか言い出すし、どうしろって話だ。


もう遅いし、また今度に、と言ったら俯いて迷惑ならこれからも陰キャとして日陰歩いて生きていきますから、はっきり言ってください、なんて言われて……正直俺はそんなの正面から断る勇気とか持ち合わせていない。

とりあえず今すぐどうこうっていうのはちょっと、ということでお互いをもっとよく知ってからにしようじゃないか、ということになった。


ほとほと俺の甘さに涙が出そうだ。


「ちょっとお腹空きましたよね?宇堂くんも食べて行きます?」

「……あー、そうだな、じゃあ軽く」

「これとかいいと思いません?」


そう言って橘さんが指さしたメニューは、ホットドッグ。

いやな予感しかしない。

いや、勘繰り過ぎだろって思わなくもないんだよ?


だけどほら、ホットドッグって……ね?


「ほ、他のにしないか?嫌な予感がする」

「ええ?私ウィンナーとか大好物で……」

「やっぱりか。でも今日は俺の奢りだから俺の方針に従ってもらおうか」

「ええ、横暴ですよ……でも、そういう強引なのもちょっと、憧れます」

「…………」


こいつ、もはや何言っても無駄なんじゃないかって気がしてくる。

言うことの大半を下ネタで返されると、こっちとしてはそれをつなぐだけの下ネタ知識がない。

いや、繋がなくてもいいだろ、って俺個人は思うんだけどさ。


「じゃあ、どれならいいと思います?ここん家、あんまり食べ物って選べる感じしないんですけど」

「うむ……」


確かに見る限りサンドウィッチかホットドッグの二択、もしくはもうケーキとかそういうデザートしかない。

ならもう仕方ない。


「……サンドウィッチ一択だろ。すみませーん」


というわけでサンドウィッチを二人分注文する。

待っている間で俺は橘さんの基本情報をある程度探っておくことにした。


「私の基本情報ですか?性癖とかそういうのです?」

「いきなりえぐいな。それがお前の基本か……いや、そうじゃなくて名前……はもう知ってるから、誕生日とか血液型とか好きな物とか」

「そんなの知って、どうするんです?」

「だって橘さんは、俺たちの中に入りたいんだよな?だったらそういうの、お祝いしたりとかって用途で必要になる情報ではあるんだけど」

「そうですか、じゃあ……」


不思議そうな顔をしながら教えてくれた情報によれば、誕生日は七月の十八日。

もう過ぎてしまっているので、縁があればまた来年ってことになる。

血液型はAB型。


意外にも俺と同じだった。

そして好きなものは……。


「え、宇堂くんに決まってるじゃないですか」

「…………」

「あ、物扱いしてるわけじゃないですからね?今日だって別に財布扱いしてたりなんて……少しはある様に見えるかもしれませんけど」

「それ以上言わんでいい。それ以外で頼む」

「じゃあ、エロ雑誌」

「…………」


お前の頭の中はそれだけかこの野郎!!

もう少し何かあるだろ、本当!

華の女子高生だぞ!?


もっとこう、心躍る様なさ……いや、エロ雑誌で既に心躍ってるのかもわからんけど。


「あ、そうそうこれとか最近いいなって思ってますよ」

「あん?」

「何でそんな怖い返事するんですか……」


しょぼんとしながら橘さんがカバンから取り出したのは……。


「ほら、これです。多分さっきの皆さんの中でも持ってる人いるんじゃないですかね?こう、スイッチ入れて当てると……」

「お、お前何でそんなもん持ち歩いて……え?普段から持ち歩いてるの?ていうか外で、え?」

「外でも別にムラっとくることなんてあるじゃないですか。使用済みですよ?触ってみます?」

「ば、バカしまえ!誰かに見られたらどうするんだよ」

「それはそれで興奮するんですけどねぇ……」


うん、何となく予想してた回答。

満点の回答だった。

ていうかあいつらの誰かも持ってる可能性が……?


今度聞いてみようかな。


「あ、聞いてみようとか考えない方がいいと思います。多分宇堂くん酷い目に遭わされますよ」

「…………」


俺たちのこと、大変よくわかってらっしゃる。

そんなことを考えた時、サンドウィッチが運ばれてきた。

礼儀正しく頂きます、とか言って早速サンドウィッチを頬張っているが……何だかリスみたいだ。


そんなに腹減ってたのか……。


「ま、まぁ別に持ち歩いてもいいけど外で出すのやめなさいね。さすがに見た人がびっくりするから」

「え、いいんですか?」

「俺には君を止められる気がしないから。ただ、公共の場で絶対出さないって約束してくれ」

「まぁ……宇堂くんがそう言うのであれば。私としては、宇堂くんに振られたらよく行く本屋とかで万引きで掴まって、持ち物検査された時にお嬢ちゃんいつもこんなもの持ち歩いてるのかい?いけない子だねげへへへ、みたいな……」

「お前マジで黙って食え。じゃないとそこの窓から放り投げる」

「宇堂くんって意外とワイルドなんですね。ベッドでもそんな感じですか?」

「…………」


ぶっちゃけあいつらが帰ってくれてて良かった、と思わなくもない。

そのワイルドか否かについては、あいつらが良く知っているのだから。


「あ、それで私のことがわかったと思うんですけど、お返事は?」

「え、もうそれ聞くの?まだ俺食べ終わってないんだけど」

「ダメならダメでいいんです。学校でもところかまわずアプローチかけていくだけなんで」

「……マジかよ。さっきの手紙を出してた慎ましい橘さんは何処行ったの」

「だって、こんなにも好きになったの、初めてなんです」


うわぁ、いい笑顔……。

睦月とかがこの笑顔すると、良くないことの前触れとかでしかないんだけど……。

こうしてると普通にいい子そうなのになぁ。


「さっき桜井さんも言ってたじゃないですか、はっきりしなさいって」

「そうだけど、朋美のあれはきっと……」


断れ、ってことなんじゃないかと思ってるんだけど、どうだろ。

俺が煮え切らないことに対して怒ってる、というのは感じられたけど、単に女がまた現れたから怒ってる、というのとは違うっぽかったんだよなぁ。

女ってのは本当、何考えてるのかわからないわ。


「でも、宇堂くん迷ってますよね。断るつもりならそうできるはずなのに」

「…………」


俺ってばそんなにわかりやすいの?

ついさっき知り合ったばっかの子にまでこんな風に看破されて、ちょっと恥ずかしいんだけど。


「まぁ、正直なこと言うと、そんな安直に返事していいのか、とは思ってるよ」

「なら一つずつ問題を解消していきませんか?それで残った答えが拒否する、っていうことなら私も考えを改めなければならないでしょうし」


この子には怖いものがないのだろうか。

少なくとも断られる、つまりこの子の言った通り拒否されるって俺からしたら、怖いと思える事象なんだよな。

なのに何でこんな落ち着いた笑顔を見せられるのか。


「あ、でも結構いい時間ですね。さすがにそろそろ帰らないとお母さんに怒られるかも」

「お、おうそうだな。じゃあ帰ろうか。さすがにこの時間に女の子一人で帰すわけいかないし、送ってくけど」


そう言って伝票を持って立ち上がり、忘れ物がないか見回す。

そして手元の伝票を見て血の気が引くのを感じた。

……あいつら、結構飲み食いしてたな。


「紳士ですね、宇堂くん。じゃあお願いしてもいいですか?あと、出来ればでいいので、もう一個頼まれてくれるとありがたいんですが」

「もう一個?まぁ、俺に出来ることなら……」

「一応、私が危ないことしてたわけじゃないっていうのを、親に説明してほしいので。家までついてきてください」

「…………」


何で知り合ったその日に親に挨拶までせにゃならんのか。

しかし特に悪意がある様にも見えない橘さんを見ていると、無碍にするのも可哀想だ、なんてまた甘いことを考える。

しかしここまできたらもうなる様にしかならないだろう。


そう考えて俺はひとまず橘さんを家まで送ることを決意した。

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