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第171話

橘さんの家庭はごく一般的な家庭で、妹が一人と両親が健在。

西乃森さんの家の様に、娘の前であんなことをしてたりはしないみたいだ。

それなのに何でこうなったのか。


それは二年くらい前に遡るんだそうで、きっかけは一冊の本だった。

本屋で普段買っている漫画雑誌を手に取ろうとした橘さんは、その時友達と来ていて、その手に取ろうとした瞬間に友達から声をかけられ、そちらを向いた。

もちろん普通ならその程度で手元が狂ったりはしないはずなのだが、どういうわけかその時ばかりは手元が狂った、としか表現しようがない事態に陥り、隣にあったちょっと濃厚な描写のあるエロ漫画雑誌を手にしてしまって、しかもそれに気づかないままでレジまでそれを持って行ってしまった。


普通なら橘さんみたいな純正ロリがそんなものをレジに持っていけば、一発でダメ出しされるはずなのだが、そこでも誤算があったと言っていい。

急遽混み出した店内。

そしてレジに並ぶ人、人、人。


所謂ピークが訪れてしまったがために、人ひとりを注意している余裕など店員にはなく、レジをひたすら捌く作業に移行してしまったのだ。

結果、普段買っている雑誌よりも安いな、なんて呑気なことを考えながら中身がエロ漫画雑誌であることなど知らない橘さんは、それをそのまま家に持ち帰り、月に一度の楽しみ、とか言いながらその雑誌を取り出す。

そこで初めて、普段買っているものと違う、ということに気付いたのだそうだ。


「何て言うかもう……別世界の扉が開いた気分でした」

「…………」

「…………」


ある程度の性知識は元々学校の保険体育の授業なんかで仕入れてはいたし、友達もある程度の下ネタを口にすることがあった。

しかし、そこに描かれていたのはそんなレベルで済まされるものではなく、え、こんな格好で!?みたいな凄まじいもの、こんな顔になる人いるんだ、とかもう何か色々な感想が頭をめぐり、気づけば彼女はその雑誌を五周くらい読んだらしい。

そして彼女はその雑誌のリピーターになり、コンビニで他のエロ雑誌を立ち読みして何度も怒られた。


「いや、だって……お小遣い足りなくなっちゃうんですよ、全部買ってると」

「いや、問題はそこじゃないから。現役の女子高生が堂々とエロ本立ち読みしてるとか、その状況自体が異常なわけだからな」

「宇堂くん、知らないわけじゃないでしょう?女の子ってエッチなんですよ?」

「…………」


昔こんなことを言ったやつを、俺は知っている。

というか目の前にいるんだけどな。

そしてそれを言った張本人はニヤニヤしながら橘さんの話を聞いている。


「しかし何だ……そんなこと言ってくるってことは、経験あるのか?」

「はい?あったらこんなこと頼むわけないじゃないですか!」

「ええ……」


さも当たり前じゃないですか、みたいな言い方でそんなこと言うなよ。

ていうか何?処女の癖に耳年間ってやつか。

絶対現実とのギャップで苦しむことになると思うんだけど。


「あ、普段ちゃんと自家発電してるんで、その辺の具合はばっちりですから」

「聞いてねぇよ、そんなこと。ていうか何でそんなあけっぴろげなの?恥じらいとかそういう感情はないわけ?」

「そんなもので腹が膨れますか?ムラムラが収まりますか?私はね、気づいちゃったんですよ。私に懸命に下ネタを振ってきた友達は、きっと私にこの素晴らしい世界を理解してほしかったんじゃないかって!」

「…………」

「まぁ、私の下ネタレベルがその子を超えちゃって、いつの間にか私の元から去ってしまったんですけどね、その子」


そりゃそうだろうよ。

俺だって正直普段からこんな感じに下ネタを女の子から聞かされるのは、ちょっと勘弁してもらいたい。

愛美さんは愛美さんで生々しいんだけど……何て言うかやらしくないんだよな。


その点まだ橘さんは経験値の違いからなのか、やらしさ満点な感じで聞いてて何か変な気分になってくる気がする。

言い方とか表現の違いもあるのかもわからないが、ある意味で愛美さんとこの子は仲良くなれそうだとは思う。

他の男が絡んだりしてない分、西乃森さんと違ってやりやすいとも思う。


だけどこのどぎつい下ネタ。

これだけは何とかならないものだろうか。

所構わず言ってくる様だと、メンバーから敬遠されるおそれは十分にあるし、それが元で溝が深まって、なんてのは正直ごめんだ。


「あのさ……その下ネタ封印しろって言ったら出来るか?」

「…………」


え、何その顔。

絶望してるの?何で?

そこまで悲壮な顔しなくてよくない?


何か俺が悪いこと言ったみたいじゃん。

俺そんなおかしいこと言ってないよね?

大体これから大人になろうって言うのに、いつでも何処でも下ネタ三昧とか……この子の将来が心配にならない方がどうかしてないか?


「大輝くん、一応の目的を伝えてあげた方がよくない?」


桜子が橘さんの顔を見かねてか、俺にこっそりと耳打ちしてくる。

確かにそう言われればその通りな気がする。

俺の言い分じゃちょっと一方的すぎるもんな。


「え、えっとな。その……橘さん、悪い子じゃなさそうだし、そんな風に所構わず下ネタ言ってたら自らの地位も危うくなると思うんだよ。周りの目とかさ。くだらないって思うかもしれないけど、これから先のこと考えるんだったら絶対気にしておいて損はない部分だし」

「……宇堂くんは、私に死ねって言いたいんですか?」

「はぁ?何でそうなるんだよ?」

「私から下ネタ取ったら、何も残らないじゃないですか」

「…………」


何を言ってるんだ、この子は。

正直理解できないんだけど、下ネタがないと死ぬってこと?

え、人生を支えるのが下ネタなの?


どんだけ下ネタ万能なんだよ。


「あ、じゃ、じゃあ……その下ネタ何とかしたら、俺も橘さんのこと真剣に考えてみてもいっかなーって……」

「…………」


そう言った瞬間、俺は朋美と目が合った。

その目から迸る、殺気とも怒気ともつかない、俺からしたら恐ろしいの一言に尽きる感情。

そして明日香も桜子も、朋美の感情の動きに気づいている様だ。


更に、橘さんは苦悩の表情を浮かべている。

そんなに葛藤するほどなの?

俺、もしかして下ネタと同列扱い?


「その言葉に、二言はないですか?」

「え?あ、ああ、えっと……」

「はっきりしなさいよ、大輝」

「え?」

「私帰る。睦月、ごめんだけど送ってって」

「あ、おい朋美!?」


俺が止める間もなく、朋美は睦月と一緒に姿を消す。

もしかして、あの発言が元で怒っちゃったんでしょうか。

そして明日香と桜子の蔑む様な視線。


どっちかって言うと桜子のは、やっちまったねぇ、と言いたげな感じだが明日香のは呆れ半分と言った感じだ。

うん、これは確かにやらかした感が半端ない。

朋美が怒ったのはきっと、俺の煮え切らない態度とまたかよ、っていうのとでダブル……もしかしたら他にもあってトリプルだったり……。


いずれにしても後でちょっとご機嫌取りにいかないといけないかもしれない。


「お待たせ。話はまとまった?」

「いや、五分も経ってないだろ。その……怒ってた?」


睦月がひらりと現れるが、それを見ても橘さんは顔色一つ変えないで先ほどからの葛藤を続けている。

そんなに必死にならないといかん様な話なのか……人それぞれなのかもしれないけど、俺にはちょっと理解できない。

そして睦月は俺の質問に薄く笑って応えるのみだった。


「そういえば聞きたかったんですけど」

「うん?」

「宇堂くんはどうしてそんなに沢山女の子を囲ってるんですか?」


ああ、その質問やっぱ来るよね。

とは言っても正直に言うべきなのか、これ。

西乃森さんは何とか納得してくれたけど、この子はどうだろう。


……一発で納得しそうな脳みそしてる様に見えるけど、どうだろう。

適当に誤魔化す方が無難な気はするんだけどな。


「えっと……まぁあれだ、俺女沢山いないと死ぬ病気なんだよ」

「…………」

「…………」


何だその適当な設定は、と言いたげなみんなの視線。

全くの嘘ではないし、肝心な部分をぼやかそうとするとどうしてもこんな感じになると思うんだよ。

しかも橘さんはほえー、とか言って半分信じてるし。


これはこれで心配になるけどな。

本気で信じてるんだとしたら、ちょっと頭の中身をお医者様にでも見せた方がいいかもしれない。


「そんな病気、あるんですね……知らなかった」


何とガチで信じていらっしゃるご様子。

そんなしょうもない嘘ついて、と明日香が呟くのが聞こえた気がする。


「お、おうそうなんだよ。だからこい……こちらにおわす方々は大変崇高な存在でだな」

「あら、そんなに尊敬してくれてるの、知らなかったわ。だったらここの払いは大輝くんがしてくれる、ってことよね。行きましょ桜子、睦月」

「は?え、ちょっと待て!俺今月早くも割と出費が……っておい、聞いてる?ねぇ!!」


呆れられたのか、明日香と桜子、睦月は揃って席を立ち、店を出て行く。

最悪ここの払いはいいとして……せめてこの子と二人で残していくのとか、やめてもらいたかった。

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