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第169話

「……まぁとにかくこれで試練は終わりなのか?ならもういいよな、帰ろうぜ」

「終わった様に見えるんだ?確かにちょっと大変だったかもしれないけど。どう見ても終わってないよね」

「…………」

「大輝、大丈夫だから。私たちはちゃんと傍にいるからね?」

「…………」

「涙拭いてよ。ああいう結果になったけど、西乃森さんはこれできっと幸せになれるはずなんだから」

「……お前らな、何がおかしいんだよ。んな笑いながら慰めたって、こっちゃちっともいい気分になんかならんわ!!」


先ほどのことがあって、俺の試練は漸く終わったんだ、そう思ってほっとしたのも束の間、こいつらは俺がおかしくてたまらないらしく、イラっとくるニヤケ顔のままで俺を励まそうとする。

確かに滑稽だっただろうし、仮にあれが良平とかだったら多分俺も腹を抱えて笑っていただろう自信がある。

だけど……あんまりじゃないか。


「忘れてるみたいだから一応言っておくけど、試練もあと二つだから終盤ってことになるよね。ロキが言ってたこと、覚えてない?」

「……終盤に行くにつれて、きつくなるよ的な」

「よくできました。今回の試練はあと二つか三つ、最低でもあると考えた方がいいと思う」

「……マジかよ」

「不満そうね、大輝。私なんかの為にそこまで尽力したくない、と」

「ば、違うわ!さ、さっきのだけでも割ときついと思ったのに、ってそれだけだから……別に朋美がどうとかじゃなくて」


いや、正直朋美の起伏の激しさを考えると一秒でも早く終わっていただきたい、というのが俺の中の理想ではあるんだけど。

じゃないと俺の精神がもたない気がしてならない。

さっき咄嗟に言ったことも本音ではあるけど、あんなきついのがこれからも続くなんて、正直いい予感しないだろ。


それに離れて暮らしてるのに、何かあったらすぐに対処できるのか、って言われれば少しばかり怪しい雲行きにもなりそうな予感はするわけで。


「まぁ今日の分はこれで終わりなんだろうから、ひとまず帰ろうか。みんなも待ってるだろうし」

「……ああ、そうね」

「あ、それから今日イヴ来てるから」

「は?……やっぱりか。あの朋美の指輪の暴走、イヴの仕業だろ」

「さすがにわかっちゃうよね。今日いっぱい可愛がってもらうんだってウキウキだったよ」

「…………」


全員集合してんのに、一人だけを、なんてことは出来る気がしない。

第一朋美の試練がまだ終わってないってのに、そんなイヴだけを可愛がって、なんてことがまかり通るとも思えないんだけどな。



「お兄ちゃんやっぱモテるんだ?そうなんじゃないかと思ってたんだ」

「……ま、まぁな」

「み、見てたくせにイヴ……それはさすがに性格悪いよ」

「何笑ってんだ、睦月お前……」


性格悪いのはきっと姉譲りだよ。

離れて暮らしてたくせに変なとこ似やがって。

俺が涙に濡れていた時に、こいつらは睦月のマンションで涼しく茶なんか飲んでやがったくせに。


「まーでも人間の恋愛って面白いよね。駆け引きとか心変わりとかさ」

「…………」

「大丈夫だってお兄ちゃん、私たちも一緒にいるんだから」

「…………」


ニヤニヤしながら言うとことか、本当そっくり。

ムカつくくらい似てて、女じゃなかったらぶん殴ってる自信あるわ……。


「それはともかく……こんなのがまだあと何度か続くんだったか。だとすると……朋美は嫉妬に狂って死んだりしないか?」

「な……し、失礼ですね、和歌さん。私だってさすがにそんなになる前に思考の切り替えくらいできますよ!」

「そうかぁ?朋美は直情型だし……今度は相手殺しそうだけどな」

「ま、愛美さんまで!?私を一体なんだと思ってるんですか、もう!!」

「嫉妬の権化?」

「…………」

「朋美、冗談なんだからそれくらい受け流せないと……」


冗談通じない代表の明日香にまでそんなこと言われちゃう朋美は可愛いよ、うん。

でもそれだけみんなからちゃんと認識されてるってことでもあるからな。


「次の作戦……って言っても何が起こるのかわからないもんね。正直手の打ちようがないっていうか……」


桜子も楽観はできないのか、少し不安そうな顔をする。

確かに他のメンバーのことならまだしも相手は朋美だ。

何が起こるかわからない上に、どこまでとばっちりが及ぶかわからない。


そう考えるとあの顔も納得できるというものだ。


「まぁまぁ、今日はせっかく私がきたんだから、みんなで遊ぼうよ。もてなしてくれるんでしょ?」

「お前は本当に、気持ちがいいくらいに遠慮がないな」

「お兄ちゃん気持ちいいことしたいの?別に今からでもいいけど……」

「んなこと一言も言ってねぇから。それに、今日の相手は決まってる」

「それって朋美?幻で不完全燃焼だったから?」

「…………」


割と的確に痛いとこ突いてくるあたりも姉に似たのかな。

概ね言う通りだけど、あのまま放置してお前はまた今度な、とか言ったら俺、撲殺されちゃうかもしれないから。



そして週明け。

学校へ行くと見事にカップルとなった西乃森さんと矢口から、改めてお礼を言われた。

ちなみにイヴは暇らしく、先日言っていた通信機器を俺に渡して今日は睦月の家でお留守番をしているらしい。


あいつがおとなしく一人で留守番とか、全くイメージにないが……別に俺の家じゃないから何しててもらっても構わないんだけどな。


「帰ろう、大輝」

「おう、準備はえーな。明日香たちは?」

「すぐ追いつくから先にって」

「ほーん」


そんなわけで睦月と二人、玄関へと向かう。

誰かがさっと玄関から校舎内の方へと走っていくのが見えた気がするが、誰なのかまでは見えなかった。

あれか、女子っぽかったし玄関にラブレターとかそういう。


青春してるなぁ、みんな。

俺には縁のなさそうな話だから、ちょっと羨ましくはあるけどほしいとは思わない。


「……ん?」

「どうしたの、大輝」

「茶封筒……?」


宇堂大輝様、と墨で書かれた宛名が書かれた茶封筒が、俺の靴箱に入っていた。

何かの請求書とか?

いや、それなら施設とかに届くだろう。


一体何なのか、と思って恐る恐る開けてみることにする。

カッターの刃とか入ってたら怖いし。

いや、それならまだいい。


虫の死骸とか入れられてたら、俺はまた睦月の世話になることになる。


「ねぇ、それって……」

「ああ、多分さっき走り去った女子生徒だな」


何これ、ここへきて俺、モテ期?

正直な感想としては、全然嬉しくない。

悪い言い方をすれば、面倒でしかない。


既に何人もの女を囲っている立場としては、断る労力というのが煩わしいと言っていいかもしれない。


「ふむふむ、入学した時から気になっていました……だってさ、大輝」

「音読するなよ。本人が聞いてたらどうするんだ」

「人の気配とかほとんどしないし、その差出人ならすぐわかると思うから、今は大丈夫だと思う」

「なるほどね。入学した時から、って言われてもさ。これ、差出人の情報一切書いてないんだよな」


筆跡からして女子なんだろうな、とは思うが最近は男子でも女子みたいな文字を書く気持ち悪いのがいたりするから、油断は出来ない。

体格が女の子っぽい男子なんてのも流行りつつあるみたいだし。


「大輝だってそれに関しては人のこと言えなくない?」

「お前な……否定は出来ないけど」


あの母の顔そのままコピーしたみたいな顔してるから、それは否定できない。

男女問わず、大体の感想は可愛い。

これが俺には昔から気に入らない。


「いずれダンディなおじさんになって、お前らを驚かせてやるから覚悟しとけよ」

「……ぶっ」

「何がおかしい!!」

「何を玄関で騒いでるの?先に帰ったかと思ったのに」

「ああ、明日香」


俺たちがいつもの様にじゃれていると、後ろから声がかかって明日香と桜子がその姿を現す。

……なんて言うと闇の眷属とかみたいでカッコいいだろ?


「ほら見てよこれ、大輝がもらったラブレター」

「あっこらお前!!」


俺の手から茶封筒ごとラブレターをもぎ取り、睦月が明日香と桜子にそれを渡してしまう。

別にそんなことせんでも、あとで見せてやるのに。


「……ふぅん。モテ期到来ね、大輝くん。おめでとう」

「朋美に報告だぜひゃっほーい!」

「や、やめろおおおお!!」

「ちょっと、もう下校時刻なのよ?何を騒いでいるの」


今度は通りがかったやや若めの女性教師に見とがめられ、先ほど明日香が吐いた様なセリフで窘められる。


「私の大輝が他のメス猫からラブレターもらって誘惑されてたんです」

「こら、お前……変な誤解受ける様な言い方すんな」

「不純異性交遊……とかまぁ古いし、私は別に構わないけど。誰からもらったの?」

「ほら、これこれ」

「おい、お前は差出人が誰かわからないからって、晒し者にしようとするなよ」


勝手に睦月が教師にラブレターを渡してしまい、仕方ない子ね、とか言いながら教師も受け取ってそれに目を通す。

確かこの人は現国の教師だったと記憶している。


「……この字、一年の橘さんじゃないかしら」

「橘?誰か知ってる?」

「桜子のクラスの子じゃなかったっけ」

「あ、いたかもしれない。何だろう、ちょっとくら……大人しい子で」

「お前今暗いって言おうとしなかった?」

「こらこら野口さん、ダメよ?人のこと暗い、とか」

「えへっ」


そんな風に可愛く言ってもダメですよ。

先生が言わないから俺が代わりに言っちゃう、心の中で。

まぁきっと桜子のことだから、うるせーよ行き遅れ!とか思ったりはしないと思うんだけどな。


橘葵たちばなあおいさんね。野口さんの言う通り、大人しい子だけど……」

「そこにいる子だよね」

「は?」


睦月が指さした先にいたのは、階段から俺たちの姿を伺う一人のちっこい女子の姿。

桜子より小さくね?と瞬間的に思うが、そんなことを考えている間に睦月が階段へダッシュして、その女の子を捕まえてきてしまう。

離して、とか喚いている女の子は、俺には全く見覚えのないものだった。

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