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第167話

「じゃあ……西乃森さん、少し試させてもらってもいいかな」

「試す?」

「おい宇堂くん、一体何を……大体どの立場からそんな、試すなんて……」

「落ち着けよ。矢口は知ってるかわからんけど、ここにいる朋美も睦月も、俺の彼女なんだ。というか……厳密にはここにいないだけで、あと何人かいるんだけど」


何人か、なんてレベルじゃないことは自覚しているが、何て言うか控えめに言った方が心証がいいかなって。

そんな下らないことを考えた俺を、睦月も朋美もジトっとした目で見つめてくる。

他の連中が聞いてないことが救いか、なんて考えて、あいがいるから聞かれてても不思議はないんだ、と思い直した。


「何人かって……君は自分が何を言っているのか、わかってるのか!?その中に西乃森さんを、加えようなんて……」

「いや、そうは言ってないんだけど……というか、今矢口が言った様に俺と付き合っていくって言うのは、こいつらを始めとした女の中に混ざるってことなんだけど。それで西乃森さんが耐えられるのか、ということを試したい。もちろん無理なら無理って言ってくれていいし、寧ろ言ってもらわないと困る」

「…………」

「…………」


矢口と西乃森さんの、若干の蔑みが混ざった視線がとても痛い。

こいつら絶対付き合ったら上手く行くだろ。

俺のことなんか今すぐ忘れてもらって、矢口とよろしくやってもらいたい。


「で、だ。矢口はそのテストに必要ないっちゃないんだけど、席を外してもらうわけにはいかないか?」

「ここまできて……って、大体ここは何処なんだ?一瞬で場所を移動させられた様に感じたけど」


今更な疑問ではあるが、漸くその質問が出てきてこちらとしても説明をする理由が出来た。

なので簡潔に説明して、俺は普通の人間でない、という様なことをぼかしぼかしで明かす。

よくわかっていない感じの矢口は、漫画とかアニメとか見ないんだろうか。


何となく真面目そうではあるけど、あの明日香でさえ最近じゃ俺と会話が成立する程度のアニメ知識とか仕入れてきてるんだけどな。


「まぁ、そんなわけだからお望みとあらば地元にすぐ戻してやるよ。ただ、悪いけど西乃森さんは残ってもらうことになるんだけど」

「……それによって、宇堂くんの答えが出る、ということでいいのか?」

「まぁ、そうなるだろうな。というかその為のテストだし」


俺がそう言うと、邪魔になりそうだから、と矢口は一旦諦めて地元に戻る決意をしたので、送ってやろうかと思い力を使おうとした刹那、矢口の姿が目の前から消えた。


「おい、睦月……」

「西乃森さんが待ち焦がれてるよ。ここまでで結構時間使っちゃってるし、やることとっととやっちゃおう?」


しれっとした顔で先に立って歩き、場所変えるよ、なんて言っている。

もちろん他人事だなんて考えてはいないんだろうが、その言い方からは重さとかそういうものを感じなかった。


「ま、ここならそんなに人来ないだろうし……丁度いいかな」


そう言って睦月が足を止めたのは、近くにある公園だった。

親子連れとかいてもおかしくない時間なんだが、人の姿というものが見えない。


「じゃ、まず……私たちが普段どんなことをして過ごしているのか。そこから詳しく知ってもらおうかな」

「普段って……普段?」

「お盛んなんだね、とか言ってただろ。ここで本番ってわけにはいかないけど、その一端をだな」

「え、ちょっと、本気……?」


俺たちが普段どんなことをしているのかを目の当たりにして正常でいられるか、そしてその中に混ざる勇気があるのか、等々の資質を見ようというわけだが……俺の中では正直確率としては半々程度なのではないかと思っている。

何故なら恋愛そのものの経験がなく、聞いた限り男性経験もない西乃森さんだが、親があんな調子だったわけだから、ある程度の耐性が出来ていると考えられる。

しかしそれは家族だったから平気だったのではないか、というのが俺の考え。


他人の、そしてそれなり近しい人間が相手の場合にどうなるか、というのは未知数だと思っている。

彼女は親の愛情をほとんど知らないままここまで育ってきてしまったというのもあって、普遍的な価値観を持っていない……と思う。

だから独占欲が俺よりも強かったりっていうことも考えられるので、ここで耐えられないということなら俺の中では断る理由になる。


そしてこんな昼間っから何するの?って話になると思うんだが、その点は心配ない。

というのも、私に任せて、なんて睦月が言っていたからだ。

だから実は、これから何をするのか、というのを具体的には知らない、ということになる。


「んじゃ、大輝……いいよ」

「いいよって……んむっ!?」


いいよ、って受け身の時に使う言葉だと思うんだけど、俺は睦月に抱き寄せられて思い切り唇を吸われる。

その瞬間に、はっと息を飲む様な声が聞こえた。

もちろん西乃森さんのものだろう。


「……ふぅ。ほら、朋美も」

「う、うん」


朋美も半ば躊躇いながらではあるが、俺にまとわりついてくる。

予想していたことではあるが、やっぱりちょっと恥ずかしいのだろう。

だって、俺もめっちゃくちゃ恥ずかしいし。


そして俺が朋美のスカートに手を差し込むと、西乃森さんがえ、マジで?なんて呟いているのが聞こえた。

もちろん振りだけで済ませるつもりではあるのだが、矢口に帰ってもらっていて良かった、なんてちょっと思ってしまう。

だって彼女たちのこんな姿、他の男に見せるなんて死んでもごめんだし。


そんなことを考えながら西乃森さんを見てみると、見事に目が合う。

何とも形容し難い顔をした西乃森さんは、口をパクパクさせて心無しか息が荒い様に見える。


「続き、見たい……?」


睦月がやや蕩けた顔で西乃森さんに問いかける。

いきなり声をかけられたからか、ビクッとなって西乃森さんがうろたえ始めた。


「さすがに続き見る勇気あるなら、場所変えないと、かな?」


妖艶な雰囲気を湛えて睦月は楽しげに笑う。

若干西乃森さんが引き気味なのが何となくわかる気がした。

もう少しだろうか。


「私も、続き見たいんだったら反対はしないよ……?」


朋美も普段こんなこと言うやつじゃないんだけどな、なんて思うものの西乃森さんを挑発しにかかる。


「何だったら、混ざりたくなっちゃった?」


睦月はこんなことを言ってるが、俺としては今日西乃森さんに指一本触れずに帰りたい。

だって、それでやっぱりダメです、とか言うことになったら、後腐れありまくるじゃん。

出来れば生娘のままで矢口に引き渡して、なんて考えてる辺り俺も割と最低の思考してるな、と思う。


「い、いや……」

「ん?」


わなわなと西乃森さんが震えだすのが見える。

一瞬睦月も朋美も手を止めて彼女の方を見て、当惑した表情を浮かべた。


「いや、いやよ……」

「えっと、何が……?」

「ふ、不潔よ、不潔だわ……」

「は……?」


頭を抱えて蹲る西乃森さん。

不潔って……まぁ、言いたいことがわからない、ということもないが。


「でも、西乃森さん自身だって、この不潔な行為の結果、両親から生まれてきたんだよ?」

「……やめて」

「人間なんて不潔の塊で、不潔をぶつけ合って気持ちよくなるんじゃない」

「やだ!やめてってば!!」

「たとえ大輝と付き合ったって、矢口くんと付き合ったって、そこは変わらない。誰々だから綺麗、汚い、なんてそんなのは妄想の産物だよ」

「やだ、やめて……」


これはもう一押しか?

それともここでやめてやるべきか?

俺が逡巡している間に睦月はどんどん言葉を紡いでいく。


「食べるという行為だって、排泄に直結している。飲むのだってね。人間の不潔さを享受していかない限り、西乃森さんは誰とも付き合うことなんかできない」

「…………」


焦点の合わない目で唇をわなわなとふるわせて、西乃森さんは何処か一点を見つめている様だ。

このままだと精神崩壊とかになったりしないだろうか。


「私たちはそれを当然のごとく受け入れているから、こうしていられる。それが出来ない西乃森さんに、私たちの仲間入りなんて……一生無理だよね」

「い……いやああああああああああぁぁぁぁ!!」


睦月の言葉を受けた西乃森さんが、頭を抱えながら絶叫する。

そして、彼女の意識はそこで途切れた様だ。


「さて、これでひと段落ってところかな」


そう言って睦月はいつもの様にパチンと指を鳴らす。

先ほどまで誰もいないと思われていた公園には、親子連れやお年寄りといった人々がそこそこにいる様だ。

そして西乃森さんはと言えば……ベンチでよだれを垂らしながら気を失っている。


「幻だったのね」

「そういうことになるかな。さすがに現実であんなこと、こんな時間からやってたら大騒ぎになっちゃうでしょ」


確かに言う通りではあるが、そうなったらどうせまた神力使ってなかったことにしちゃうくらいは平気でやるだろ、こいつ。


「じゃあ、とりあえず何でこんな方法を取ったか、って説明から行こうか」


先ほどまでと打って変わって、いつもの飄々とした睦月に戻る。

濡れタオルを西乃森さんの頭にのせて、睦月は淡々と語りだすのだった。

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