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第165話

「もうすぐよね、矢口くんっていう子が現れるの」

「ああ、俺も良く知らないんだけどな。明日香曰くあんまりぱっとしない感じの男、らしいけど」


俺たちは少し離れた場所で西乃森さんを見守っている。

ちなみにあいは睦月たちのところに行く、と言って俺たちとは別行動だ。

実は昨夜、西乃森さんを家まで送った帰り道で睦月からの連絡を受け、今日のことを聞いた。


呑気なことに、他人事とでも思っているのかあいつらは俺と朋美以外のメンツで、俺とは違った視点から西乃森さんのことを見守ろうと言う話になった様だ。

そして、そのことは朋美には一切言うな、というお達しまできている。


どうせまたロクなことじゃないんだろうな、とは思うもののバラせば俺は酷い目に遭わされることが確定すると思われた為、帰ってから朋美にはやや怪しまれたものの何とか隠し通すことに成功した。


「にしても……こういうの、睦月たち好きそうなのに来ないなんて珍しいよね」

「……まぁ、そう言う日もあるだろ」


いきなり鋭いところを突いてくるあたり、やはり朋美は油断ならない。

うっかり話してしまえば俺の人生は終わるかもしれないのだ。


「大輝、すごい汗……大丈夫?」

「え?ああ、まだ残暑がなぁ……うん、何か飲み物でも買わないと厳しいかもしれない」

「そこのカフェからなら見えるんじゃない?……ていうか、別に私たち屋外で見守る必要ない気がするんだけど」

「そこに気づいてしまったか……まぁ、その通りなんだけどな。何なら壁とかで姿が見えなくても、携帯やらで彼女たちの姿を受信して見守ることは可能だぞ。だからコーヒーでも飲もう」

「…………」


最初からそうしなさいよ、と言いたげな朋美の視線をかいくぐり、俺たちは昨日のカフェへやってきた。

店員さんも昨日いた様な、という見覚えのある人がいて、俺たちを見て一瞬足を止めたがすぐに席へと案内してくれる。

どうせ奢らされるんだろうと思うが、俺も朋美も普段通りの飲み物を注文する。


「腹は減ってないか?」

「さっき食べてきたばっかりじゃない……和歌さんじゃないのよ、私」


その言い方だと和歌さんが年中食べてるみたいにしか聞こえないが……いやあの人年中食べてるわ。

そんなわけで俺たちは飲み物を飲みながら携帯の画面を点灯させる。


「……まだきてないみたいね」

「ああ……ていうか近いんだけど」

「いいじゃない、別に。私とじゃ嫌とか言うつもり?」

「いや、そういうことはないけど」


主に周りの視線が痛いんだよ。

週末の午前なのに割と人がいたりするし、こういう時に限ってカップルは俺たちだけって言うね。

おかげでイチャついてんじゃねーよガキども、と言わんばかりの視線を一身に受けるわけだが朋美は意にも介していない様子だった。


「……それ、お前一人で見てていいぞ」

「は?どうしてよ」

「俺は自分の力で見れるからな。あんま外でくっついてると視線が痛いんだって」

「あっ……最初からそう言いなさいよバカ!」


理不尽じゃないか?

大体普段なら気づく順番だって俺の方が後のはずだろうに。

とは言え朋美としてはきっと、こうして二人でいられる状況というのは大変好ましいのだろう、機嫌が悪いということはない。


何なら朝なんかウキウキで服選びに付き合わされたりしたものだ。

デートするのは俺たちじゃなくて西乃森さんなんだけどな。


「あ、来た……かな、多分」

「みたいだな。仲良さそうだし、こいつが矢口で間違いないと思う。学校で何度か見た気がするし」


西乃森さんに近づき、愛想よく振舞う……確かに明日香が言った通り、特徴らしい特徴が見当たらない男。

顔が悪いわけでも背が低いわけでも太っているわけでもない。

平凡を絵に描いた様な男。


そして西乃森さんの張り付けた様な笑顔。

昨日の話を聞いたからか、尚更そんな印象が強まるのを感じた。

確かに俺を見る目と彼を見る目とは大分違いがある様に見える。


「あれ……何か様子が変じゃない?」

「…………」


これか、昨日睦月が言ってたハプニングって。

ハプニングって言うか、もはや事故だぞこれは……。

強面の男が二人、矢口と西乃森さんの方へと歩いていき、気さくに話しかける。


しかし女連れでもあるからなのか矢口は煮え切らない対応をしている様だ。

実際にはまだ何も被害がないわけだし、あれが明日香の組の和歌さんの手下……舎弟?であることを俺は知っている。

だから安心して見ていられるわけだが……少しは慌てたふりをするべきだろうか。


そんなことを考えている間に、朋美が正義感からか店から飛び出していく。

おいおいおい、と俺も慌てて会計をして後を追った。

そういえば朋美は明日香の家の組員とは面識ないんだっけか。


「そこまでよ!!」


ありがちなセリフだなぁ……とは思うが朋美らしいと言えば朋美らしい。

面食らった組員たちは、俺の姿に気づいてはっとする。

目が合って、一瞬のアイコンタクト。


朋美に気づかれない様に頷き合って、恐らくは向こうにも俺の意志は伝わったことだろう。

ちなみに向こうの意志とか全くわからん。


「おいおい何だガキども……よく見りゃいい乳してんじゃねーか姉ちゃん」

「ほんっと男ってゲスね。そういうとこしか目に入らないのかしら」


そうは言っても男なんて大体そんなもんだぞ。

そんだけ立派な乳してれば、大抵の男なら見るし、すげぇって思っても不思議はない。

それを口に出すかどうかは別にしてもな。


「じゃあ何だ、このお嬢ちゃんの代わりに姉ちゃんが俺たちの相手してくれんのかぁ?あん?」

「怪我したくないなら帰りなさい。あんまりおイタが過ぎると、怪我じゃすまなくなるわよ」


そう言って朋美が指輪を取り出して装着する。

……これはいささかまずくないだろうか。


「何だぁ?メリケンサックか?」

「俺たちとガチンコでやろうってかぁ?」


そう言ってゲラゲラと笑う。

うわぁ……マジでまずいことになりそうな予感しかしない。

周りも段々ざわつき始めているし……。


西乃森さんと矢口も、不安そうな顔で俺たちを見つめる。


「そうやって笑っていられるのも今の内よ。数秒後にぶっ倒されてまで笑っていられるといいわね」


朋美が力を込めて、組員に殴りかかろうとする。

組員はおそらく明日香からイヴ作の指輪の存在など知らされてはいないのだろう。

完全に舐め切った様子で朋美の一撃を受けようとしている様だ。


「ほら、がつーんときてみろよ、がつーん、とヴぉ!?」

「ヒロシ!?」


そこには日常生活においてまず見ることのない光景が広がる。

ヒロシと呼ばれた組員のあごが外れたのか、朋美の拳を受けて思い切り顔を歪め、そして五メートル以上吹っ飛んだ。

更に周りがざわつく。


まだ無事な方の組員の顔が恐怖に歪み、俺に助けを求める様な目を向けてきた。


「お、おい朋美それはさすがにやりすぎ……」

「はあああああ!!」


言い切る前に朋美は次の攻撃でも仕掛けようとしたのか、更に指輪に力を込めた。

すかさず俺も力を開放して、その力を抑えにかかる。


「逃げてくれ!そいつ連れて!!」

「あ、あわわわ!!」

「ちょっと大輝!!何で止めるのよ!!」

「殺す気かアホ!……何だこれ、なかなか収まらない……ってか強くなってねぇか!?」


俺が抑えにかかる一方でその指輪の力が反発する様に増幅されていくのを感じる。

このままじゃ……そう思い仕方なく、不本意ではあるが全力で押さえつけることにした。

組員の二人が逃げたのを確認して、俺は力を開放する。


「う、お、おおおおおお!!」

「ちょ、大輝!?」


こんなとこで変身とかしたくなかったが、このままじゃどれだけの被害が出るかわからない。

羽が出なければ、そう考えて制御したつもりだったが、俺の意に反して背中からはピンクの羽がばっさああ!と姿を現してしまった。


「な、何あれ!」

「何だ!?特撮か!?」


ざわざわと更に周りが騒がしくなり、朋美も自身の指輪から発せられている光に目を丸くし始めていた。


「ぐ、ぐぬぬぬ……」

「ちょっと、どうするのよ!」

「黙ってろ……もう少し……!!」


徐々に指輪の力が弱まり始めるのを感じて、俺も漸く一息つける、そう思ったが……この状況でどうやって?

そう考えて俺は朋美と西乃森さん、そして矢口を連れて俺の地元へとワープした。


「ったくお前……気が短すぎるだろ」

「何言ってんのよ!あんなのぶっ飛ばして今みたいに姿消せば……」


こいついつからこんな好戦的になったんだよ……。

言うことがいちいち物騒だぞ。


「あ、あの宇堂くん……」

「あ、ああ奇遇だな。何か取り込み中みたいだし、俺たちはこれで」


西乃森さんに話しかけられて、これ以上はまずいと判断した俺は朋美を連れて颯爽と立ち去ろうとした。

しかし、矢口に呼び止められてしまい、足を止めざるを得なくなってしまったという。


「君は西乃森さんのクラスの宇堂くんだよね。初めまして、ではないんだけど……」

「……俺を、知ってるのか?」

「西乃森さんがずっと目で追ってたからね。嫌でもわかってしまって……」

「…………」

「それよりさっきのは何だったんだ?」


ほら見ろ。

早速怪しまれてんじゃねぇか、この瞬間湯沸かし器が……。


「ああ、あ、あれは手品だよ、イリュージョンっての?すげぇだろ」

「そ、そうなんだ……」

「ま、まぁ何だ……邪魔しても悪いし……行こうか、朋美」


瞬間移動までしておいてイリュージョンもクソもない気がするが、無理やり話題を打ち切って再度立ち去ろうとする。

しかし矢口がそれを許さなかった。


「待ってくれよ。西乃森さんから聞いてるんだろ、俺のこと」

「…………」

「宇堂くんは、西乃森さんのことをどう考えてるんだ?」

「……俺の気持ちって、それ今必要か?」

「どういう意味だ?」


俺の言葉に矢口が怪訝そうな顔をする。

正直なことを言ってしまえば、昨日の話で重要なのは西乃森さんの気持ちで、それに基づいて西乃森さん自身が解決するべきである、という結論に至ったはずだ。

だから俺は俺の気持ちとか、そういうのはそこまで重要ではない、と言った。


しかしそれに納得できないのか、矢口は親の仇でも見るかの様に俺を見てくる。

面倒ごとが一つ、増えてしまいそうなそんな予感がした。

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