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第160話

「神?何?新しい宗教か何か?」

「…………」


予想していた答えではあるが、面と向かって言われると何か傷つくな。

朋美のせいで説明することを余儀なくされた俺は、仕方なくあいの家へと朋美と西乃森さんを連れて移動した。

もちろん、カフェの代金を払って店を出て、人気のないところへ行ってからワープという手段を使って。


と、そこまでやってある程度の説明をしても尚、西乃森さんは俺たちの言うことを信じなかった。

さすがに神界に連れて行くのはやりすぎかな、と考えて何かいい手段は……と思うが俺には何も思いつかない。

睦月ならきっと、めんどくさいからとか言いながらガンガン神の力を使いそうな気がするが、何となくそこまでするのは気が引ける。


「でも、今一瞬でここまできたでしょ。私もこれで毎回長崎から来てるし」

「じゃあ、今日はどうやって?」

「それは睦月が……あっ」

「……いや、ここまで話したんだったら、別に隠しても仕方ないだろ」

「椎名さんも、その神ってやつなの?」

「まぁな。あいつの方が断然先輩だけど。あとあいもそうだよ」


半信半疑、という様子になった西乃森さんは俺の顔をじっと見つめる。

その見つめている西乃森さんを、朋美が睨む様に見つめる。


「じゃあ宇堂くんに子どもがいるのは何で?あいさんとは夏休みに出会ったんでしょ?なのにもう子どもがいるとか、おかしいじゃん」

「おかしいことをおかしくなく出来るから神なんだけど……」

「本当は中学校くらいから知り合いだったとかじゃなくて?」

「俺を鬼畜みたいに言うのはやめろぉ!……んなわけねーだろ、その頃はまだあいつと朋美だけだったよ」


そこまで言って、失言だったことに気づく。

何しろ桜子や井原に二股を知られた時のあの視線……。

御多分に漏れず西乃森さんも白い目を向けてきた。


「え、中学から二股かけてたの?宇堂くんって思ったよりクズだね」

「……それはさっき理由を説明した通りで、そうしないと俺は死んでたんだってさ。もちろん俺にその自覚なんかないから言い訳に聞こえても仕方ないとは思うけどさ」

「へぇ。ふーん?」

「…………」


納得いかない。

何で俺、こんな詰められないといけないんだよ。


「何にしても、大輝と仮に付き合うんだとしたら、そういう不思議現象にも慣れてもらう必要があると思うし……何より私は認めない」

「お前、やっぱ今日変じゃないか?事情はさっき聞いたけど、それ差し引いてもやっぱそこまでムキになるっておかしいだろ」

「……私にもわからない。だけど、西乃森さんじゃなくても私は多分反対してた」


まるで再会した時に見せた様な、嫉妬心むき出しの表情。

朋美のこんな顔、最近久しく見てなかった気がする。


「私、歓迎されてないの?」

「えっと、そういうことじゃないんだけど……でも仮に西乃森さんを受け入れるとなっても、西乃森さんだけのものに、ってのは無理だ。事情は何度も言った通り」

「…………」


むぅ、と唸って考え込む西乃森さん。

正直なこと言うと、俺としてもちょっとこの子は危なっかしい気がする。

人間の力で出来ることなんかたかが知れているが、それでも周りが何て言うかわからない上に、この子が秘密を守れるのかとか、そういう部分で正直信用しきれない。


だって、付き合い短いというか……昨日今日まともに話し始めた様な相手をいきなり信用とか、出来ないでしょ。


「大体西乃森さんが大輝を本気で好きなのかもわからないし、私からしたら薄っぺらく見える」

「桜井さんのおっぱい大きいもんね。私は確かに比べたら薄っぺらいかもしれないけど……」

「もちろんそういう部分で、って話じゃないだろ?」


女同士の争いというのは、見ていて冷や冷やする。

特に朋美はキレると何しでかすかわからないし、ここで殴り合いの喧嘩とかされたら今後の学校生活に不安しかない。


「別に俺は西乃森さんが薄っぺらいとは思わないけど……」

「大輝は女なら何でもいいんだもんね。だから黙ってて」

「い、異議ありだぞそれは……肯定してるわけじゃなくて、西乃森さんって人間を俺はまだよく知らないから。まぁ、今日一緒に歩いてある程度はこういう人なのかな、程度のことは考えたけどさ」


まぁ……何だ、よくいる我儘JKって言えばわかりやすいというか。

彼氏いたことないって言ってたし、多分恋愛に夢見てるタイプなんだろうとは思う。

んで唐突に現実見せられて幻滅していいのか、それともこういうものなのかって言う葛藤が頭を支配していた、ってなところだろうけど……実際に現実を知った女子がどう考えるのかなんて、俺にはわからない。


だけど男だって女だってそれぞれ万能なわけがないし、だからこそお互い補い合って行くもんなんだと考える俺からすると、ちょっと西乃森さんの考え方は俺と合わない様な気がする。

もちろん決めつけは早計だとわかってはいるんだけど。


「私、確かに我儘言ったかもしれないけど……それは宇堂くんにある程度期待していたからって言うのがあって……」

「まぁ、それは純粋に嬉しいけどさ。だけど、男なんだから、みたいなのは俺は賛同できない。力仕事しろよ、みたいなのとは違うんだから。あと、矢口ってやつを引き合いに出して、みたいなやり方も少し気に入らないかな」


俺、割と頑張ってズバッと言った気がする。

何しろ西乃森さんが物凄い絶望に満ちた顔してるし。


「ああ、睦月も言ってたわね。作戦の一つかもしれないけど、大輝を意識の外にやっておいてある程度のところで再度意識させよう、みたいな作戦かもしれない。そういう小細工する人はちょっと、って」

「それももちろんだけど、矢口ってのは実際仲いい友達なんじゃないのか?その、好きだったとかってのは嘘だったにしてもさ。その矢口ってやつに申し訳ないと思わないか?俺と仮に付き合うことになったら、そんなに会うこともなくなるとか思ってるの?クラス替えあって一緒になったら気まずくないか?」

「…………」


西乃森さんは完全に俯いてしまった。

これ以上言うと泣かせてしまうかもしれない。

そう思って朋美を見ると、親の仇でも見るかの様な目で西乃森さんを睨んでいる。


殺意なんかは感じないが、許し難い、と言った意志が伝わってくる気がする。


「……なぁ、まだ何か隠してることがあるんじゃないのか?言いにくいことがあったりとかさ」

「大輝、甘いよ。そんな卑怯な感じで大輝を誘惑しようとしたんだよ?」

「まぁまぁ……一応訳アリかもしれないし、話くらいは聞こうぜ。それで俺に出来ることがあるなら、力貸すくらいは、な?」


さっきまで俺に噛みつきそうだった朋美は、今度は西乃森さんに噛みつかんばかりだ。

この猛獣を俺に一人で何とかしろって言うのはさすがに酷だと思うんだよ。

睦月たちは一体どこで何してんだ……?


「本当は……」

「ん?」


うなだれたままで西乃森さんが呟く。

聞くことないよ、とか朋美は言っているが、さすがにこの状態で放り出すとかありえないと考えた俺は、西乃森さんの話を聞くことにした。

週末はお前の時間にしてやるから、とちょっと卑怯なやり方ではあるが、エサを与えれば少しは朋美も大人しくなるだろうと考えて。


「まぁいいわ。大輝がそこまで言うのであれば、仕方ないじゃない。私にとやかく言う権利はないもの」

「悪いな、朋美。約束はちゃんと守るから」


不承不承ではあるが朋美も納得した様だし、これで落ち着いて事情を聴くことができる。

人間の事情であれば、俺に出来ないことなんかほとんどないわけだし……身近なことなら解決してやった方が、今後の学校生活においても色々円満になるかもしれないからな。


「あれ、来てたんだ大輝」

「お、おう……おかえり」


さてこれから話を聞こう、ってなった時に限ってあいと玲央が帰宅。

そしてうなだれた西乃森さんを見て、泣かしたの?とか濡れ衣を着せられるという。

全くもって間違っている、というわけでもないから否定はしにくかったが、これこれこういう事情で、と話すと案外すんなりあいは納得した。


こいつは扱いやすくて助かる。

まぁ、こんなことを考えているといつかうっかり足元をすくわれたり、なんて結果になりそうで怖いんだが。

というか、ここまで朋美が怒るってことは……実は既に事情を全部把握してる、なんてことはないだろうか。


睦月辺りが色々やって、既に俺以外が事情を知っているからこの反応、ということは?

……十分あり得る。

その上で敢えて俺には本人から聞けと。


それで、俺の意志で判断しろって言うそういうことなんだろう。

となると睦月たちは今頃マンションで女子会か?

それに本当に今気づいたけど……これって黒渦?


ということは、朋美ではなく西乃森さんが今回の触媒になった、ってことなんだろうか。

だとしたら、俺自身が解決するよりほかないわけだが……。

これにも睦月は気づいていたのかもしれない。


「全部、話すよ。ごめん」


顔を上げて、何かを決心した様な表情の西乃森さん。

そして西乃森さんの口から語られた真実は、俺の想像を遥かに超えて……ってほどでもなかったが想像していなかった様な内容だった。

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