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第158話

「さっきの店員さん、宇堂くんの知り合い?」

「はい?」


一体どういうことだ?

まさかとは思うがあいつら、俺以外からは他の人間に見える様にして侵入したってこと?

マジもんのスパイかよ。


本格的過ぎてちょっと引いたぞ。

まぁバレる様なヘマはしないだろうと思ってはいたが、まさか神力使ってまでとは考えてなかったわ。

桜子なんかめっちゃノリノリで接客してやがったし、案外向いてるんじゃないだろうか。


ていうか睦月め、俺にだけ元の姿がわかる様にとか、本当に性格悪いな。


「あ、ああいや……何て言うか、知り合いに似てたって言うか、ちょっと動転しちゃって、あはは」

「ふぅん?エッチなことのしすぎじゃないの?色々出しすぎて細胞死んでるんだね、きっと」

「…………」


辛辣すぎませんかね……しかも食事中にそんな話題とか……。

まぁ否定はしないけどな、最近ちょっと頑張りすぎてる感じはしなくもないからさ。


「きょ、今日はそこまでしないからね!?」

「アホか……俺だってそんな気全くないわ」

「…………」


何故だ……本音をちゃんと告げただけのはずなのに物凄い目で睨まれた挙句に、頭をポカポカと……いやもうポカポカって勢いじゃない。

結構痛い。


「な、何なんだよ。俺にその気があった方がいいってのか?それだと困るだろ、明日本番なんだから、西乃森さん」

「……知らない」


ええ……何?何なの?

女の子ってこんな複雑な生き物だっけ?


「そ、それよりこれからどうするんだ?何か案とか」

「はぁ?何も考えてないの?練習とは言ってもデートなんだよ?男の子の方が考えてくれててもいいと思うんだけど」

「えっと……」


男女平等と言われている世の中でそれはさすがに理不尽が過ぎる。

なんてことは当然言えたりしないわけだが、俺はそういう考え方はあんまり好きじゃない。

だって、そんなことを言ってる女の子だって考えることくらいはあるわけで、希望だってあるはずだろ?


だから男側の提案をそれは微妙~、とか言って否定したりするんだから。

だったら最初から自分の意見言ってくれよ、とか思ってしまうのはいけないことなんだろうか。


「はぁ……何か今面白い映画やってたっけ?」

「映画……?うーん、こないだ見に行ったばっかりで……ま、待て、映画な!大丈夫、面白い映画は何回見ても面白いはずだから!その振り上げた手、下ろそう」

「全く、椎名さんたちの言う通り過ぎて本当にびっくりだよ」


そう思うなら、俺なんか練習相手に選ぶなよ……。

俺のハーレムはちょっと特殊な連中の集まりなんだから。


「女の子といるときに他の女の子とのデート引き合いに出すとか、マジで信じらんない」

「…………」


そんなこと言ったって、その女の子たちとのデートをモデルにするのが手っ取り早いんですもの。

一体この子は俺に何を望んでいるのか、ますますわからなくなってくる。


「トレーおさげしますね~」

「…………」


最近のファーストフード店ってこんなにサービスいいの?

そう思いたくなるくらい、素早くトレーを下げて俺たちがまだ座っているテーブルを拭きまくる睦月。

さっきの会話、聞かれてたよな絶対。


見てるだけじゃなくて助けてもらえませんかね、この子は俺にはちょっと手に余りそうなんですけど。



「で……どの映画にするの?」

「…………」


何でもいいけど、何で俺に決めさせようとするの、この子。

俺の好み百パーセントで行ったら多分、この子は退屈して寝ちゃったりするんじゃないかって思う。


「西乃森さんは、好きなジャンルとかないの?」

「んー、恋愛ものは嫌いじゃないんだけどね。でも、何か最近のって出来すぎてるって言うか……」

「あー、何となく言いたいことはわかるわ。大体同じ意見ではあるからな」


とは言っても高校入ってすぐに、春海とよくある悲恋の映画みたいなことになった俺としては、大々的に否定するのは何となく気が引ける。

何より睦月も明日香も桜子も当事者な上にその辺にいるんだろうからな。

聞かれて酷い目に遭わされるのはちょっと……。


「そういや聞いたことなかったけど、西乃森さんって趣味とかあるのか?」

「む、何よ無趣味みたいに言わないでくれる?私にだって楽しいと感じることなんかいくらだってあるんだから。今だって……」

「今だって?」

「何でもない。これにしましょ」


言いかけてやめるとか、気持ち悪い真似しないでもらいたい。

いや、西乃森さんが気持ち悪いとか、そういうことじゃなくてね。

まぁ、間違っても今だって楽しくて仕方ないんだから、なんてことは言わなかったと思うが。


楽しんでる子がこんな仏頂面で映画館に来たりなんかしないだろ、多分。



「……宇堂くん、途中から寝てなかった?」

「いや、面目ない……。昨夜ちょっと寝不足で」

「…………」


あ、またしくったと思った。

昨夜とか言ったらあいつらを連想するのなんか当たり前だわ。

俺もうっかりが過ぎるな、今日は。


時刻は十五時過ぎ。

帰るには少し早いか、という時間だ。

かと言って何しようって……おやつの時間?


「あ、そ、そうだ。お茶でもしようか。甘いの好き?」

「……好きだけど。宇堂くんって思ってたよりデリカシーないよね」

「…………」


それよく言われるけど、世の男子全員がそんなデリカシーに配慮出来る様だと、すんごいつまらない世の中になっちゃわないか?

出来るやつと出来ないやつがいるから、出来るやつは際立つんじゃないか。

そう、つまり俺はそういうデリカシー男子の引き立て役として生きているんだ。


よって俺は悪くない。

……なんてのは詭弁だよな。


「悪かったって。お詫びにお茶奢るから機嫌直さない?」

「別にそんなのいいけど……何で宇堂くんを選んだのか、とか考えたことある?」

「えっと……」


いや、考えましたけどね。

もちろん考えた結果わからないから、とりあえず参考程度にでもなれば、って感じで俺としては今日を迎えたわけだけど。


「あれ、大輝じゃないか。何してるんだ?」

「げ、和歌さん……」

「お前、げって何だげって。ん?その子が昨日言ってた?」

「ちょ、和歌さん!しっ!!」

「…………」


何とも間の悪い……。

そもそも何でこんな時間に出歩いてんの、この人。

仕事はどうしたのよ。


「ああ、挨拶が遅れて申し訳ない。大輝の彼女をやっている、望月和歌と言うんだが……あと、宮本明日香嬢の世話係でもある。大輝が世話になっている様だな」


空気を読んで黙って立ち去るとか、そういう思考にはならないらしいな、この人。

もっともこの律儀と礼儀の塊みたいな和歌さんに、それを求めるのは間違っているのかもしれないが。


「い、いえ……昨日?ご紹介に与りました、西乃森美悠です……」


目の前に現れた美人を相手に委縮してしまったのか、西乃森さんのキレが悪い様に見える。

それともあれか、トイレに行きたいとか。

だったらさりげなくトイレに行かせてやらなければ。


「そうか、そういえばデートだと言っていたが、まさかここでなぁ」

「いや、和歌さんこそ今仕事の時間なんじゃ?」

「ああ、実はおやっさんの用事で付き添いをしていたんだが……思ったよりも早く終わって、今日は自由にしてていいと言われたもんでな」

「そ、そうですか」


雷蔵さん……だからって和歌さんを一人で放流するとかやめてくださいよ。

しかも何だよその手に持ってる山の様な食料……。


「まぁ何だ、邪魔しても申し訳ないからな。あとは若い二人に任せて……」

「…………」

「…………」


お見合いの親族みたいなこと言うのやめてもらっていいですか。

昨日言ったじゃないですか、俺は予行演習の、ただの練習相手なんだって。

そんな俺の思惑には気づかぬまま、和歌さんは立ち去って行った。


「……すごい美人さんだね」

「え?あ、ああそうだな。まぁ、あれでオシャレとか全然興味ないから、女っ気とかほとんどないんだけど……」

「私なんかじゃ、全然太刀打ちできない」

「は?何言ってんだよ。っていうか、あの人と比べるのはさすがに違うと思うぞ」

「何でよ……」


何でよ、はこっちのセリフなんだが。

涙目になっている理由もよくわからないし、そもそも和歌さんと比べる意味が分からない。

というか睦月たちとも比べるのは違う気がするが。


「だって私は……本当は……」

「ん?」


西乃森さんが何か言いかけたところで、非常にまずい相手が近くにいるのを感じる。

これはさすがに洒落にならない。

そう考えた俺は、西乃森さんの手を引いて建物の陰に隠れた。


「え、ちょっと!?何よいきなり!!」

「しっ……声を出さないで。あと気配も消すんだ」

「そんなこと出来るわけ……むぐぐ」


気配を消せ、なんて言われてそこらの女子高生がそんなこと出来る様だと、日本は世界でも有数のスパイ大国にでもなりそうだったので、俺は咄嗟に西乃森さんの口を手でふさぐ。

しかし。


「あれ?大輝だよね。その子が昨日言ってた?」

「…………」

「ほら玲央、パパのデートの相手だよ~」

「…………」

「…………」


うん、終わった。

何もかもが。

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