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第157話

部屋にピコンピコンと着信の音が鳴り響く。

今日お友達になった西乃森さんは、歳相応の女子高生らしくこう言ったメッセージのやりとりはお手の物という感じで、俺が返すと間髪入れずに返信が来る。

そして俺に返ってくるメッセージの着信音を聞くたび、明日香たちが訝しげな視線を俺に向けてくる。


別に浮気しようとかそういうことじゃないはずなんだが、何となくの罪悪感。


「楽しそうね、大輝くん」

「は?別に楽しくは……ないこともないけどさ。他人の恋愛って楽しいもんだろ?テレビのニュースとかゴシップなんかも大体芸能人の恋愛を取り上げたりしているし」

「そうね、でも最近だと殺人とか政治家を叩く様なニュースも多いみたいだけど。大輝くんも叩かれない様に気を付けないとね?」

「…………」


要するに、構ってほしい、ということなのかもしれない。

はっきりそう言われたわけではないが、明日香の目に浮かぶ不満。

これは他の女よりも私たちに目を向けろ、と言っている気がした。


これもあれか、俺の成長の証か?


「明日香、悪かったよほったらかして。イイコト、しようぜ」


そっと肩を抱いて囁きかけると、明日香はふふっと笑って俺を見る。

うん、少し機嫌がよくなってきた様に見える。

何だかんだ言っても明日香だって女の子だからな。


ある程度優しくしてやりゃ、こんなもんだろ。


「ええ、大輝くん……明日香ちゃんだけ?」

「私は?私は引き続き放置?」

「…………」


まぁ、こうなるであろうことは想像していた。

あいが玲央と一緒にお昼寝をしているのは幸いと言えるだろうか。

もっとも一人増えたくらいで何が変わるのか、という話にはなるんだが。


「よし、みんなでイイコトしよう。台所行くぞ」

「……懐かしいね、大輝。だけど、そんなことで私たちを誤魔化せるとでも?」


昔の出来事を思い出すからか、睦月は懐かしげに笑った後で俺を睨む。

くそ、ごまかし切れなかった様だ。

そこまでお子様な連中の集いではないってわかってはいたけど……生憎俺は忙しい。


しかしここで忙しいから、と突き放せば俺は地獄を見せられるに違いない。


「わ、わかってるから。大丈夫だから、冗談だから。だけどあの、ひと段落するまでお待ちいただくってわけには……」

「行くわけないでしょ?大輝くんが言い出したんだから。イイコトしよう、って」


三匹の獣の目が怪しく光り、エサである俺は観念して捕食されるのを待つのみだった。



「まだやってるの?」

「……もうすぐ終わる……気がする」


色々あって、その後もメッセージはガンガン来る。

やれ不安だの何処行けばいいかわからないだの、俺に聞くなよそんなこと、って言う様なことを次々と。

もうすぐ終わる、と言ったがいい加減俺としてもついさっき激しい運動をさせられたばかりということもあって、終わらせよう、という気持ちになりつつあった。


大体メールのやり取りのしすぎで、スマホの充電切れそうになってるし。


『予行演習したいんだけど、明日の学校の後付き合ってくれない?』


このメッセージが来た時に思わずぎょっとしてしまい、その様子が目ざとい彼女たちに伝わってしまった。

どうしよう、いきなり死亡フラグが立った気がする。


「へぇ、おモテになりますねぇ、大輝くん」

「…………」

「へぇ、予行演習……ね。つまり、デートがしたい、と」

「待て、俺が誘ったんじゃないんだ」

「薄々こうなるんじゃないかって予感はしてたけど……行くんだよね、大輝」

「……お、お前らそろそろ服着たら?風邪ひいちゃうかもしれないぞ?」


この話題は危険だと判断して、俺は早々に話をすり替えようとする。

んふふー、と三人が声をそろえて笑うとか、ちょっとしたホラーを見ている気分だ。


「話逸らそうとしたって無駄なんだけど?それって明日デートに行く代わりに続きしよう、って意味かしら」

「は?いや俺は服着ろって……」

「さっきの程度で終わるわけないじゃん。しかも明日他の女とデートしようって言ってるのに」

「いや、待てって。言い訳をさせて……」

「はい、問答無用。覚悟は良いかな?」


西乃森さんと矢口がもしかしたら将来するかもしれないことの予行演習をしている俺たち。

まぁ明日西乃森さんとそうなるってわけじゃないんだから、今のうちに堪能しておけばいいか、ということで俺も開き直ってスマホを枕元に置いた。



「……何で昨日途中でやめたの?」

「あー……充電切れて……」

「違うよ?お楽しみだったんだよね、大輝」

「うおおおい!お、お前は!!」


翌朝学校に行くなり詰められる俺。

相手はもちろん西乃森さんだった。

だって色々で疲れちゃったし、あんまり他の女に構ってると既存の女たちが怖いんだもん。


そして更に言うのであれば、あの後和歌さんと愛美さんも来てそれどころじゃなかったって言うか。

もちろん色々あってな、色々。

けどそんなことをドストレートに言ったら下品だし角が立つ、なんて思って濁そうとしたら、睦月が真相を話してしまったでござる。


おのれこいつ、余計なことを……。


「へ、へぇ……お盛んだね」

「…………」


見ろ、早速西乃森さんの俺を見る目が変わっちゃったじゃないか。

こんな風に汚物を見る様な目で見られて喜ぶ趣味を、俺は持ち合わせていないんだぞ……。


「それより今日だけど……」

「お、おう」


それよりって、まぁ気にしないでもらえるんだったらそれでいい……こともない。

出来ればクラスの人間に触れ回るとか、そういうのも勘弁していただきたいわけで。


「ほら、ホームルームの時間だぞ。席につけよガキども」


どう言い訳をしようかと考えていたところで、担任が現れる。

思ったよりも時間が経っていた様だったのでひとまずはまたあとで、という話になった。

俺で練習って……一体どういうことだってばよ。


ていうか昔こんな話があった様な気がしなくもない様な……。

あ、そうか中学校の時のことだっけ。

朋美のやつが……。


「おいこら宇堂。明日からは授業始まるんだぞ?何を変顔大会してるんだ?」

「へ?あ、いや」


朋美のことを思い出してあの時は……なんて考えていたらいきなりクラスの晒し者にされてしまい、クラス内に笑いが起きる。

それにしても明日から授業か。

となると西乃森さんと矢口とやらは、明日放課後デートになるわけだ。


学生の醍醐味だよね。


「今日、どうするの?私たちも後つけていい?」


こっそりと睦月が話しかけてきて、俺の思考は中断される。

後つけるとか趣味悪いぞ、お前……。


「西乃森さんに確認してからな。さすがに黙ってなんて……」

「本人に言ってどうするの?尾行なんだから黙ってやるに決まってるじゃん。それともついてこられたら困る様なことでもあるの?」

「いや、そんなのねぇけど……」


何をこんなムキになってんだこいつ……。

ていうか私たち、ってことはあいつらもついてくるのか。

どんだけ暇なんだよ。


どうしたものか……このままこいつらに尾行とか、万一バレたら西乃森さん何て言うかな。

先んじて俺が言ってしまう、というのはどうだろう……そう思って睦月を見ると、睦月が何とも言えない顔で俺を見ている。

うん、俺の思考は完全に読まれている。


ていうか俺、本当隠し事とか苦手なんだけどどうすりゃいいんだ。

このまま予行演習とか、不審者感満載でどうにも上手く行く予感とかしねぇんだけど。



「じゃ、行こうか宇堂くん」

「あ、ああ」


結局何も妙案とか出ないままで午前授業のこの日も学校は終わる。

そもそも俺、昨日の段階で予行演習了解、とか言った覚えがない。

にも拘わらず何で、こんな風にノコノコと昨日仲良くなったばっかの子と街を歩いてるんだろう。


しかも尾行すると言っていたあいつらはきっと、認識阻害のチートとか使って絶対見つからない様にしてんだろうし、さっきまで感じていたあいつらの気配とか全く感じなくなっちゃったから、探そうにも探しようがないんだよな。

何て言うか、デートとか尾行されるのって……もう慣れたな。

和歌さんの時とかも普通につけられてたらしいし、もうどうにでもなったらいい気がしてきた。


「お腹空いたよね。どうしよっか、何食べる?」

「あー、そうだな。好き嫌いあるのか?」


一応男として、連れの意志はある程度尊重してやらねば。

こういうところは昔から変わってない気がする。

学生デートなんだから、という昔睦月が春海だった時に言っていたことを思い出す。


「まぁ、俺たち学生なんだしさ、無理せず適当にファーストフードでよくね?」


そう言った時、背後でガサガサと何だか一瞬騒がしい気配を感じた。

何が起きたのかわからないが、西乃森さんもそれで特に文句がある様には見えなかったので、適当な店を見繕って、俺たちは昼食を取ることにする。


「付き合ってもらってるんだし、私ご馳走するよ」

「ん?いいよそんなの。それに明日本番なんだろ?金はとっとけ。こんなとこで無駄遣いしたらいかんよ」


とまぁ、俺なりに気を遣ったつもりだったんだけど、これが西乃森さんには気に入らなかったのか、ふぐみたいにふくれて奢らせてよ!とか喚かれたので折半にしよう、ということで落ち着いた。

そして。


「……お前ら、こんなとこで何してんの?」

「いらっしゃいませー!ご注文お伺いします!」


ファーストフード店のユニフォームを着た睦月、桜子、明日香の三人が俺たちを出迎える。

まさかこんな堂々とする尾行があるなんて、そんな発想がなかっただけに度肝を抜かれた。

不思議そうな顔をしている西乃森さんと共にカウンターについて、冷や汗とともに注文を済ませ、俺たちは二階の客席へと上がっていった。

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